夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 作:KP 八神
「さて、仕事の話の前に、まずは「自己紹介しよう!」……新人二人は顔と名前をしっかり覚えておけよ。」
いざ始めようと口を開いた瞬間にリリィに言葉を重ねられてしまった。言おうとしていた内容だったので別に構わないが、一歩目を潰されるとやはり気分は良くない。
「はい!一番リリィ行きます!16歳で教会所属のエクソシストだよ、情報関連を主に担当してるよ!洗礼が必要な時はいつでも言ってね!今日からよろしくね!」
いわゆる横ピースを目元でキメながら、二人の新人へと挨拶をかましたリリィ。
高テンションに押されながらも、二人は会釈を返した。
「おいおい、一番槍は俺だろう?」
「へっへーん、遅い方が悪いのさ。」
不満そうにそうつっこむレイレイに対し、リリィはドヤ顔で答える。
「全く、仕方ないから二番手いくぜ!紅麗麗22歳、担当は荒事と運転手だぜ。大抵はここかジェイルハウスに居るから分からないことがあったらなんでも聞いてきな。」
「じゃあ、次は私が。
ヴィクトーリア・ペンテジレーア・アレクサンドラ・アルブレヒト・ジャンヌ・ド・ロレーヌ=ドートリッシュ、19歳よ。
名前が長いからヴィクトーリアやヴィッキーと呼んで頂戴、ただ仕事中はペンテジレーアと呼んでくださると嬉しいわ。
金銭の管理を主に担当しているけれど、戦闘もそれなりにできるつもりよ。必要なものがある時は私かリーダーに言ってちょうだい。これからよろしくね。」
「んで、俺がリーダーの八神修だ。担当は……まあ、色々やってる。」
少しそっけない挨拶になってしまったが一度してるしこんなものだろう。
「では次は私が、新田飛鳥19歳です。えっと、主に薬の調合と言語関係のお仕事ができると思います。戦闘はあんまり得意じゃないかもです。今日からよろしくお願いします!」
「……カレン……10歳…だと思う………調べ物は苦手………機械ならなんでも…動かせるはず………話すのが………難しい………でも……お話は……好き……よろしく…お願いします……」
二人の自己紹介が終わると三人からの拍手が送られる。その拍手が止むのを待たずに二人に何も彫られていない認識票を二枚ずつ渡す。
「その認識票は此処の電子鍵にもなっているから失くすなよ、片方は足にでも巻いておけ。」
新田は自分でつけたようだが、カレンの方は手が首の後ろまで届かなかったようでレイレイにつけて貰っていた。
「さて、これで正式に二人は幽霊船への加入が完了したわけだが、先達として二つほど、お節介だ。
自分の心の拠り所を決めておきな、物でも人でも場所でも構わねぇ、このクソッタレた世界で生きてくにはそれが必要だ。」
「あとは自分の目を信じてやることだ、この街には嘘も真もつけれやしねぇものばかりが溢れてる。だが、自分の目で見たものだけは疑いようのない真実だ、それは覚えておけよ。」
「目の無い亜侠に命は無いって標語もあるくらいだしね。」
「なんだそりゃ、聞いたことないぞ。」
「今作ったからね!」
「はい、覚えておきます。」「………覚えた。」
話しておくことも今のところはないだろう、そろそろ話を戻さんとな。
「うし、ちと話を戻して仕事の話を始めるぞ。」
「「了解」」
この一言で空気が締め上がる。
「婆さんからの依頼は下手人の情報の確保だが、仕事の内容上間違いなくそれだけじゃ済まんだろう。先手を取る為にもレイレイとリリィは情報収集、ルートは任せる。残りは俺とお買い物だ。今の時刻は…」
「十時三十分です。」
「なら五時に此処に再集合、一時間ごとの定時連絡は無しでいい。んじゃ一時解散」
「期待しててくれよ、リーダー。」
「しっかり良い情報持ってくるからね〜」
二人はそう言い、会議室を後にした。
二人を見送るとヴィッキーに金の用意を頼み、新人二人を連れハンガーに向かう。
チョッパーの店なら新人でも撃てるのを用意してくれるだろう、それにゾンビや化け物を相手にするにはレイレイやヴィッキーはともかくあまりに火力が貧弱すぎる。
「リーダー……買い物って………?」
「職業柄、戦闘が苦手でも避けることはできん。もちろんできるだけ避けるつもりだが、一度の依頼で必ず一回はドンパチ楽しくねぇパーティは開催されちまう、なら威嚇程度でも武器はあった方が良いからな。」
「銃ならリーダーに貸してもらったものや、カレンちゃんがもともと持ってたのはダメなんですか?」
「駄目だな、どっちも二人の体に適切なもんじゃねぇ、でも俺たちはあまりその辺の知識は無ぇからな。だからその道のプロのとこへ行くぞ。」
ハンガーに着くとヴィッキーがトランクを二つゴライアスに積み込んでいるところだった。
「いくら用意した?」
「今回の依頼は嫌な予感がするから千ほど用意したわ、足りるかしら。」
「ちと多い気もするが。」
「備えあればってやつよ。」
「千って…一千万…ですか?」
ヴィッキーと話していると新田が顔を青くしながらそう尋ねてきた。
「ええ、そうよ。本来ならもう少し出したいのだけれど、今は少し控えめにしたわ。」
「リーダー……一千万って……多いの?」
「まあ、二人の武器を揃えるだけなら過剰すぎるくらいだろうが、今回の依頼を鑑みるとちと多いくらいだな。」
「ヒェッ」
「飛鳥……鳥みたいな…声…」
「名前通りだな。」
「ね。」
カレンと笑っていると怪獣の唸り声のような爆音がハンガーに響く。突然の音に驚いたのかカレンは眠そうに半目だった目を見開き、新田は腰が抜けてしまったようでぺたりとへたり込んでいた。
「リーダー、いつでも出れるわよ?」
「おう、んじゃ行くか。ほら、新田ちゃん、とっとと立ちな。」
「リーダー、立てませぇん。助けてくださぁい。」
まったく仕方のないやつだ。手を貸し立たせてやるように見せ、新田が手を出した瞬間、その手を引っ張り無理やり俵のように担ぐ。
「ちょっと!?リーダー!?こんな体勢嫌です!下ろしてくださぁい!」
抗議の声を無視して後部座席に叩き込む、カエルの潰れたような声が聞こえてきたが無視だ無視。両手を万歳のように上げたカレンを抱き上げ乗せてやり、自分も助手席に乗り込む。
俺が乗り込んだのを確認するとヴィッキーはアクセルを踏み込み、ハンガーから公道へと出た。
「リーダー!もう少し優しくしてくれてもバチは当たらないと思いますよ!」
「しるかよ、それに悪いが俺は神も仏も嫌いなんだ。」
「リーダー…神様…嫌い?」
「リーダーは神に嫌な過去しかないもの、あんなことがあればどんな敬虔な信者でも嫌いになるわ、私は絶対にごめんね。」
ああ、思い出すだけでも憂鬱になりそうだ。
あの蛸、落とし子だがなんだか知らんが次に会ったら絶対にぶっ殺してやる。
「って言っても一応信じてる神もいるんだがな。」
「え!?いるんですか!?」
「おう、スパモン教だぜ。」
「ジョークじゃないですか!」
ラーメン、ってな。
三十分ほどだろうかそうこう話していると、とある店の前に着く。
その店は、大きな豚が血まみれのエプロンを纏いサムズアップを決めている豚の看板を掲げた肉屋だった。
「着いたわ、降りて頂戴。」
「肉屋チョッパー……?」
「おう、とりあえず中入るぞ。」
店の中に入るとオオサカじゃ珍しく合成肉やホトケ肉だけでなく、上質な純正国産肉や信頼のある外国産の肉が並んでいた。
俺たちに気づいた大柄な店長、肉屋チョッパーの兄弟店主の弟であり表の顔を担当する、主にチョッパーと呼ばれる方、ジェイソン・チョッパーが笑顔で出迎えてくれた。
相変わらず爽やかな笑顔をしてやがる。
「よーう!キャップ!久しぶりだな、今日は何をお求めだい?」
「チョッパー、いつものは入ってるか?」
誰にでもわかるような簡単な合言葉をチョッパーに言う。
常々思うのだが、こんな簡単な合言葉でいいのだろうか。
「おう、いい豚肉が入ってるぜ、奥へ来な。バイトぉ!ちと任せるぞぉ!」
チョッパーに案内されいつもの店の奥へと進んでいく。
「キャップ、その二人が例の新人か?」
「そうだが、随分耳が早いじゃないか。」
「そりゃぁそうさ、なんたって幽霊船に新人だぜ?色めき立たねぇ奴はいねぇよ。」
「なら、来た理由はわかるな?」
「任せな、さっきも言ったが今日は良いのが入ってるんだ。兄貴も大興奮で昨日からずっと部屋に篭ってらぁ。」
「それは期待できそうだ。」
奥の部屋に続く扉を開けると肉屋とは思えない光景が広がる。
四方には木製の長方形の箱が山のように積まれ、壁にはありとあらゆる国のありとあらゆる銃がかかっている。
「兄貴!客だ!」
その声に反応し、部屋の奥から身なりの整った背の低い男が出てきた。
「おや、これはキャプテンにヴィクトーリア様。ようこそおいで下さいました、御新規の御二方もご一緒のようで。私肉屋チョッパーの店主、マリオ・チョッパーと申します。」
「んで、俺がその弟ジェイソン・チョッパーだ、ご贔屓によろしくな!」
「どうも……カレン……よろしく」
「新田飛鳥です、よろしくお願いします。」
「してキャプテン、本日はこのお二人のを見繕えば?」
「ああ、よろしく頼む。ヴィッキー、付いていてやってくれ。」
「ええ、私も少し見たいものがありますから構いませんわ。」
「ではお三方、こちらへどうぞ。」
三人がマリオに別の部屋へと案内され、部屋に残ったのは俺とジェイソンだけになった。
「んで、キャップは何をお求めで?」
「化け物狩りに適した物を見せてくれ。」
「あいよ、じゃあまずはアメリカ製のピクニックハムだ。」
そう言い、木箱を一つ机の上におく。
「中々の上モノだ、"豚嫌い"が特に好む。」
開かれた木箱に入っていたのはカスタマイズされたバレットM82だった。
「こいつはアメリカで直接俺が買い付けたから真贋については心配いらねぇ、もちろんしっかりカスタムしてあるぜ。口径は12.7のままだが銃身長は736.7から800.0へと伸ばしてある、その分重さも増したが安定感と精度は元の三倍以上だ。弾は12.7ミリチョッパーリロード弾、勿論炸裂弾もあるぜ、弾倉も拡大して15発入る。並の装甲車なら一マグで4、5台は余裕でぶっ壊せらぁ。」
「あとで試射させてもらおう。」
手に取ると、ズッシリとした重量と新品特有の謎の冷たさが伝わってくる。
それに、相変わらず良い仕事をしたようで自然と手に馴染む。
これは買いだろうな。
「じゃあ次はスペアリブだ、こいつは食らえば頬が落ちること間違いなしだぜ。」
次に取り出されたのはMG4だった、ドイツ製か。
「こいつはまた随分良いブランドじゃねぇか。」
「おう、こいつを仕入れるには苦労したぜぇ?こいつもしっかり見てあるから安心しな。」
「それで?どういう下味がつけられてんだ?」
「基本的な部分はあまり弄っちゃいないが、チョッパーカスタムって事でレートを上げたな。毎分7〜850発から毎分950以上になってるから、こいつが二丁あればビルだって一瞬で穴あきチーズさ。口径は特に変わってないが弾は勿論チョッパーリロードの徹甲弾、有効射程が1200まで伸びたぞ!」
「重さは?」
「こいつだけなら9kgジャストだな。」
「悪くない。」
他の肉の説明も聞き試射も終わらせ、一時間程経った頃、三人がマリオと共に戻ってきた。
新田の手にはワルサーだろうか?小さめの銃が一丁、対してカレンは自身の身長の倍ほどもありそうな鉄塊を両手で満足そうに抱えていた。
「まぁた随分なモノを勧めたもんだなぁ兄貴は。」
「私だって、ヴィクトーリア様以外にこれを撃てる方がいらっしゃるとは予想外でしたよ。」
苦笑いとも取れるような表情を浮かべるマリオとは対照的に、カレンの顔は少し嬉しそうな表情をしている。気がする。
「あれは?」
「ああ、キャップにも見せたバレットあったろう。あれを俺たち兄弟が酒の勢いでフルカスタムしちまったのさ。」
それにしてもデカすぎだろう、3メーターはあるぞ。銃自体の厚さも俺が見たものの二倍ほどはある。ヴィッキーはあれ撃てるのか、たまげたものだ。
「なんだ?ドラゴンでも相手にするつもりで作ったのか?」
「いやぁ、俺たちもまさかあそこまで興が乗るとは思わなくてよぉ〜、気がついたらあの姿だ。思わず笑っちまったよ。」
「リーダー…私…これに決めた…」
「私もこの子にします!」
二人は笑顔でそう宣言する。片方は笑顔かわからんが、多分そうだ。
「キャプテンには私から説明しましょう、新田様がお選びになったのはワルサーP.38、言わずと知れた名銃にございます。カスタムはマガジンのみでしっかりと素の味が楽しめるようになっております。
カレン様がお選びになったのはバレットM82チョッパーカスタム、ジェイソンから聞かれた通り我々兄弟が全力で組み上げた芸術品でございます。全長3000ミリ、口径は.905、約23ミリの特製のライフル弾を使用します。
本来なら特注の専用ライフルで撃ち出す物ですがそこはチョッパー兄弟の腕の見せ所、既製品のバレットM82をカスタマイズすることによって射撃を可能に致しました。」
「とんでもない化け物だな。」
「私も試射したけれど、肩が外れそうになったわ。少なくとも人が撃つものじゃないわよ、アレ。」
肩が外れそうになるだけのヴィッキーも大概だと思うが言うとややこしくなるだけだ。
「よくそんなの撃てたなカレン。」
「よゆー……」
「私もまさかこれを立射するとは思わなかったわ。」
「「立射ぁっ!?」」
ため息をつきながらぼやくヴィッキーの言葉に、思わずジェイソンと声が重なる。
この体のどこにそんなパワーが詰まってるのやら、ドールってのは無茶苦茶だな。
「リーダー…これ良い…」
「まあ、本人がいいって言うなら何も言わねぇけどよ。ジェイソン!ピクニックハムを一つスペアリブを二つ頼む、それと二人の合わせていくらだ?」
「毎度ぉ!ピクニックハム一つにスペアリブ二つ、ドイツソーセージにワイルドステーキ肉だから……下味諸々含めて600ってとこだな。兄貴、包装頼むぜ。」
ヴィッキーからトランクを受け取り、ピッタリ600を机の上に積む。
ジェイソンはそれを確認すると木箱を三つ差し出してくる。
二人は包まんようだ。
商談を終え、再び表の肉屋へと戻りチョッパー兄弟に見送られる。
「また必要なもんがあればいつでも来な!なんでも揃えてやるぜ!」
「またのお越しをお待ちしております。」
見送られた俺たちはゴライアスに乗り込み、つぎの目的地を目指す。
「リーダー、次は何処に行くんですか?」
その問いに満面の笑みを浮かべて答える。
「工房だ。」