夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 作:KP 八神
目的の工房の前に着いた俺は1人ゴライアスから降り、玄関へと歩く。
「ヴィッキー、そっち頼むわ、時間と場所はさっきの通りでよろしく。」
「使いっ走りだなんて、レディに対する礼儀を学び直した方がいいのではなくて?」
「悪いが少し気分が乗り始めちまってる、冷めたらまた優しい紳士に戻ってやるから我慢してくれや。」
「悪い癖ね。」
「お前が言うかよ。」
流石にこの顔は二人に見せるにゃ早すぎるからな、もう少し慣れてからじゃねぇと。ああ、クソ、ダメだな、かなり落ち着いたつもりだったがなぁ。
こんなんじゃ師匠に笑われちまう、あんな本読むんじゃあなかったぜ。
離れて行くゴライアスへ後ろ手に手を振り、工房の玄関へと歩く。
いつも通りの、手入れが行き届いた庭園を抜け、馬鹿でかい外れてしまっている門を超え、やっとの事で玄関の戸を叩く。
「おーい、大和の爺ぃ、八神だ、来たぞぉ。」
2、3度叩くと中から一人の女中が顔を出した。また新顔かよ、あの爺いい加減枯れねぇかな。
「大変お待たせいたしました八神様、旦那様は工房にてお待ちでございますので御案内させていただきます。」
「ああ、頼むわ。」
女中の案内に従い屋敷の中へ入る。
<<目星:60-->20 成功!>>
女中の後ろに着いて歩いていると首筋に巻かれた包帯が目に入った。
「おいあんた、その首大丈夫なのか?場所はわかるから俺一人で行くが?」
「いえ、お気遣いなく。」
「そうかい。」
よくよく見てみると首だけでなく、肩の方まで包帯が巻かれているのが見えた。まさかあの歳でハードプレイに目覚めやがったか。
2分ほど歩くと、あらゆるものを拒絶するようなクソ分厚い鉄の扉の前に着く。
すると、女中がピッタリ45度に頭を下げ言う。
「私はここに入る事は許されておりません故、大変申し訳ございませんがここからはお一人でお願いいたします。」
「おう、ここまでありがとな。」
そう答え、去る女中の足音を聞きながら重たい扉を開ける。
扉を開けた瞬間に感じたのは、サウナかと勘違いしそうな程の熱風であった。中は酷く暑く、壁にかかった温度計を見てみると50度を超えようとしているところだった。
出来るだけ扉に近い場所で、最近耳が遠くなり始めた爺のために出来るだけ声を張り呼ぶ。
「おーい!爺!八神だ!来たぞ!」
呼びかけてから数秒ほど待ったものの返事はなく、干からびさせに来ているとしか思えない熱気が漏れ出すだけだった。
冗談だろ?この地獄の中に入らないといけないのか?くそッこんな事なら後回しにすれば良かった。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。シャツのボタンを緩めながら覚悟を決め、地獄へと足を踏み入れる。
馬鹿みたいな暑さに辟易しながら、爺を探し工房内を歩き回る。たった数秒でシャツが肌にピッタリと張り付く程の汗をかき始める。あまりの不快感に、上がり始めていた気分がジェットコースターの如く一瞬で急降下する。
しかし、ここはいつ見ても魔女の釜の底のように物が溢れているな。鉄塊やハンマーから、何に使うのかわからないような揺り籠まで置いてある。他の工房員のアジトも大抵滅茶苦茶に散らかっているが、爺の工房は特別に酷い。ここを掃除しなきゃいけない女中達に思わず同情してしまう程には酷い、悪臭がしないだけまだマシだが。
<<聞き耳:75-->35 成功!>>
迸る熱気に顔をしかめながら五分ほど歩いた頃だった。この部屋のどこからか俺の名前を呼ぶ、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。その声の出どころを探すと、大量の革で出来た山の下敷きになった手を見つけた。
「八神、儂はここだあ。」
「なんだ?自分で墓を作ったか?そりゃあいい、女中供の手間も省けるってもんだ。」
軽口を叩きながら爺を山から掘り起こす。
掘り出してやると爺は、服をパンパンと叩き埃を払い、笑いながら礼を言う。
「いやあ、助かったわい、急に上から革がふってきてな!死ぬかと思ったぞい。」
「どうせ酒飲みながら作業してたんだろ?」
「それはいつものことじゃろう。いやな、今作っとるモンが常温のとこに置いとくとぶっ壊れちまうもんじゃから部屋の気温を上げとったんじゃが、どうも熱中症になっちまったみたいでなクラッときてそのままぶっ倒れたんじゃよ。いやぁ酒じゃ水分補給にゃならんかったわ。」
「阿呆め、そんなわかりきった事すんじゃねぇよ。」
今この爺に死なれるのは大変困る、オオサカ一の偏屈で変態だが腕は超一級品なのだ。俺が引退するまでは頑張ってもらわねぇと。
「まあ、爺が阿呆だって事は今更どうでもいい、依頼のはどこにあんだ?」
「おお、そうじゃったな、ほれ付いて来い。」
爺に連れられ、さらに工房の奥へと進む。奥へ奥へと進むに連れ少しずつ気温が下がってきた。やっと人が過ごせる空間へと来れた。
「しっかしあれじゃな、八神、お前かなり汗臭いぞ。そろそろ加齢臭の出始める頃じゃろ?もっと気を配った方が良いぞ?」
その一言に俺の額には青筋が走り、口角が引き攣る。この爺、今すぐぶち殺してやろうか。
ホルスターから二本とも抜き、爺のこめかみにピッタリとくっつけてやる。
「死にたいらしいな。」
「冗談じゃよ、そうカッカするな。それより、ほれ着いたぞ。」
爺が指す方へと視線を向けると、漆黒の"ソレ"が、机の上に陰陽の形で飾られるように置いてあった。
「お前の依頼通りに仕上げたが、本当にこんなじゃじゃ馬でええのか?」
爺の声を背に"ソレ"の片方を右手に持つ。見た目通りのズッシリとした重量、ツヤが消された、ふと覗けば飲み込まれそうな真っ黒なボディ、あまりの美しさに下品にもよだれが滴りそうになる。
もう片方も左に持ち正面に構える、ああ、やはり手に馴染む。体の一部のよう、なんてものではない、パズルの最後のピースがピッタリとハマったような、言葉にできない快感を感じる。
「ああコイツはこれで、いやこれが良い。」
師匠のお下がりでも十分以上にやれるが、やはり"コレ"じゃないと落ち着かない。もはや自身の片割れとも言える"コレ"がない間は、まるで想い人を待つウブな童女のような気分だった。
「最高だ!完璧だ!やはり俺はコイツじゃないと!」
「まったく、お前の依頼だからこそ槌を握ったが"ソレ"の相手は二度とごめんじゃ。」
爺はそう言うとふと、思い出したように尋ねてきた。
「そういえば今更じゃが、その二丁の名前は決まっとるのか?」
「お?教えてなかったか、コイツらはな。」
名前を口に出そうとした瞬間、先程案内してくれた女中が工房に飛び込んできた。
<<目星:60-->48 成功!>>
酷く息が乱れており、先程まで立派で瀟洒な雰囲気を醸し出していた女中服も所々煤けてしまっている。
「おい、どうしたんじゃ。」
爺の問いかけに息も整えず、吐き出すように声を絞り出す。
「敵襲でございます!」