友達をいつのまにか好きになっていた吸血鬼さんif   作:佐藤とう

1 / 1
ソフィーが灯にキスした時の話

 君にキスをするまで、その日ずっと同じことを考えていた。

 君を傷つけたくはない。君を、私のものにしたい。

 

「お風呂、沸かさなきゃ」

 

 そう言って君が部屋を出た時、すぐに後悔した。

 

 君に、友達に、そんなことをしてしまうだなんて。

 

 

 

 人形のようだと、最初に君は言ったけれど。

 

 私が人間に戻ったら、今はどう思うだろう?

 

 誰かと居ると寂しくないと、最初に私は思ったけれど。

 

 誰かが近くに居ても、今は君がいなければ、きっと……。

 

 気をつけろ、と、ある日君の血を舐めた。今日(きょう)君の血を、私は吸わない。君が大切だから。

 

 死んじゃうかと思った、と、ある時君は涙を流した。もう一度君の涙を、私は見たい。私は君が欲しいから。

 

 

 

 私は吸血鬼。暗い館に籠る360歳の屍者。

 君と出会った私は、友達が増えたけれど。

 

 君の表情が、白雪が、黒絹が、そして首筋だけが私の目を捉えて離さない。

 

 君が好き。

 君を独り占めしたい。

 君の血が飲みたい。

 君を私と同じにしたい。

 

 君の胸を見た時。

 

 君の髪のように冷たい、私の心臓が、脈打つ。

 火照ったその真ん中に嚙みつきたいと思う。

 

 化け物と呼ばれてもいい、構うことはない。

 吸血鬼の私が、そう囁く。

 

 血が喉を通り、この身とひとつになることを考える。

 私の芯が君で満たされることを。

 儚い魂が身体の中で共に生き、そして消える。

 君は永遠に私のなかにいる。

 

 血の通った少女の姿。やがて滅びるはずの姿が。

 

 一度なら、と心が揺らぐ。

 

 そんな気持ちを知らないふりをする。

 

 生きる君が愛おしい。それ以上に、いずれ死ぬ君が愛おしいから。

 

 だから、今まで涼しい顔をして堪えてきた。

 

 けれど私は見るだけでは満足できなかった。

 

 血の通った肌に、頰に、瞳に、指で触れて。

 紅い花びらに、唇で触れた。

 

 次は私は何を求めるだろう。

 恋しくて、君の首に噛みつくかも知れない。

 

 君に触れるのが怖い。傷つけたくない。

 

 

 

 君が戻ってきたら、謝ることにしよう。「今のはなかったことにしてくれ」と言おう。

 

 

 

-----

 

 

 

 ソフィーちゃんに、キスされた。

 

 これって、どういうことだろう?

 

 まだ、頭が回らない。

 

 そのまま部屋を出てきたけど。

 

 ずっと夢に描いてたことが、急に起こるだなんて。

 

 私のわがままを、いつも許してくれた。

 一緒に寝ようと言えば、その通りにしてくれた。

 いつも私の前で、可愛い女の子でいてくれた。

 

 感謝してもしきれないのに。

 

 水のように冷たい、唇。

 そしてその奥の、熱。

 

 私を子供扱いしていると思ったけど。

 今の私を、ちゃんと見つめてくれていた。

 

 この口づけはそういうことだと思って、いいんだよね?

 

 

 

 ドアのすぐ外に、一人のうら若い乙女が立っている。

 部屋から漏れる光。

 

 つい、思い上がる。

 

 もっと、と胸がうずく。

 

 もっと、ソフィーちゃんに気に入られたい。

 この気持ちを、認めてほしい。

 

 ずっと一緒にいたい、この感情を。

 

 花はすぐ枯れるから嫌い、って、いつかソフィーちゃんは言ったよね。

 

 そのうち枯れる私を、ソフィーちゃんは完全に好きにならないかもしれない。

 

 もしソフィーちゃんが「なかったことにしよう」と言ってきたら。

 

 私はその花の、押し花になりたいと思うだろう。

 あなたの認める姿のまま、あなたと永遠を生きたい。あなたに好きだと言われるためなら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。