浸透するまで続けます。というわけでなまけ癖と度重なる改稿のために5000時のために1週間使った新作です。
今回は少しばかり連載形式にしてみようと思います。
というか連載形式じゃないと書けません。がんばれ。
というわけで、今作は幼女戦記と銘打ったおっさん戦記です。おまえ戦争の描写できてねーぞ!という声をお待ちしております。学ばせていただきたい。
とまれ、まずは本編をどうぞ。
帝国、我らがライヒ。その強大な軍事力をもって、内線戦略で周辺の仮想敵国に対峙する軍事国家である。
そして、ライヒの鉄壁の盾にして必殺の剣である帝国軍。敵国の侵攻には各方面軍による遅滞戦闘、維持した戦線を即座に即応集団による増援により打開、敵野戦軍を各個に撃滅することを基本とする戦闘マシーンである。
国内に張り巡らせた鉄道網により、中央即応集団は縦横無尽に駆け巡り、方面軍と共同して戦闘に当たる。
まさに戦争芸術といえるこの方針が、今、泥沼の世界大戦を生み出していた。
そんな戦争の最中。今まさに、帝国陸軍機密試験コマンド大隊〝イカロス〟が、敵国の塹壕戦線へと強襲を仕掛けていた。
側面を襲われないために、国境線もかくやと伸ばされた双方の塹壕、その敵側の塹壕にイカロスの部隊が浸透する。
人数は少ない。中隊編成で十二名。それが三つ。うっすらと雪の降る夜に紛れて、それは堂々と侵入した。
敵、連邦の兵士も、夜間の、それも冷え切った空気の中の任務である。途切れそうになる集中力を繋いだ連邦兵の一人が、塹壕から頭を出して帝国の塹壕線を覗いた瞬間である。
いつの間にか、目の前に人影がいる。その人影、イカロスの大隊長にして第一中隊指揮官、アドルフ・ブラウンは手に持ったシャベルを振りかざし、今にも叫びだそうとした連邦兵にこう言った。
「やあイワン、遊びに来たぜ」
「敵」までは発した。しかし襲の言葉を言う前にその哀れな第一発見者の首は宙を舞う。
鮮血を浴びながら侵入したアドルフの率いる小隊は即座に戦闘になった。
連邦軍は大所帯で有名だ。それも夜間に響く敵の声に、即座に周辺で警戒に当たっていた他の兵士も音の発生源に意識を向ける。そして、首狩りが始まった。
「なんだこいつら! いつの間に!」
「機銃だ、機銃を使え!」
「間に合わない! 白兵戦――」
口々に言葉を発する連邦兵を、一撃で屍に変えていくアドルフとその仲間たち。
狭い塹壕の中、連邦兵は集まりはすれど敵の姿が味方に隠れて攻撃ができない。しかしアドルフたちは、前方の敵にシャベルを叩き込むだけでいい。襲撃開始から数十秒で周辺は鉄の匂いに包まれた。
そんな中、声が響く。
神経質そうなその声は、アドルフたちに向けられたものではなく、連邦兵たちに対しての叱責だった。
「何をやっている! 敵は少数だ! 味方もろとも敵を撃て!」
ひときわ目立つ服装。威張り散らした態度に、味方ごと撃てとのたまう。腰には磨かれた拳銃、そして襟にきらめく連邦共産党の徽章。政治将校だ。
その将校は他の兵士に担がせてきたのであろう機関銃を、あろうことか塹壕内に据え置いた。そして「撃て!」とその将校が発した瞬間に、機関銃が火を噴く。
闇夜の中、銃口から飛び出した発砲炎が、巻き込まれて撃たれた連邦兵の血煙を明るく照らす。
発砲炎が煌くたびに、あざ笑う政治将校の顔と、思考を停止して引き金を引く兵士の顔もよく見えた。
今度は機関銃の掃射が数十秒続く。銃身が赤熱し、用をなさなくなったところで引き金から指が離された。
先ほどまで銃弾と踊っていた連邦兵は永遠の休みに就き、立っているものはいない。いや、連邦兵で、立っている者はいないというべきだ。
機銃の的であったはずのアドルフは、口の端をゆがめて、立っている。そして、驚きを隠せないというような顔で後ずさりする政治将校の方へと歩みを進めた。
「おいおい、随分手厚いおもてなしだな」
そう言いながら、ゆったりと進むアドルフ。先ほどまでの鬼気迫る殺戮とは打って変わって、懐からタバコを取り出し、進んだ先の機銃の、焼けた銃身に押し当てる。
赤熱した銃身の熱で火をつけて、それを口にくわえてひと吹き。
「タバコの火までくれるとは、イワンも随分人付き合いがうまくなった」
「黙れ! この化け物が!」
そういいながら腰の拳銃を引き抜き、アドルフに向けて引き金を引く。
しかし、その銃弾は目標の手前で見えない壁に阻まれたかのように弾かれていく。
一本マガジンがなくなってから、将校は呟いた。
「貴様、魔導師、か……!」
魔導士。古の魔法を、現代科学の粋を凝らした魔道宝珠でもって蘇らせ、使役する兵科。
連邦がまだツァーリによって統治されていった頃は、存在していた。しかし、今の共産党が革命によって王政を打倒したとき、連邦魔導師はツァーリに味方したため、軒並みラーゲリ送りになったのだ。
この戦争に際して、その魔導師も復権しつつあるが、それでもまだ充足とは言えなかった。
そして、アドルフの胸元に目をやると、そこには懐中時計。
否、それこそが、現代に魔導師を蘇らせた、演算宝珠。宝珠と王笏の現代の姿。
「俺たちは、そんな高尚なもんじゃない。劣化品、レプリカさ」
そうつぶやいたアドルフは、一歩踏み出したと思った瞬間には、政治将校の前にいた。
早業というにはあまりにもなスピード。そして相手が反応する前にアドルフは胸元にシャベルを突き立てた。ゾブリと肉を貫く感触。そして、一息に引き抜く。貫通していたシャベルの頭が人体の生命維持に必要な器官を引きずり出す。
そして、それきり動かなくなった。
「こちら第一中隊、塹壕内占拠。状況知らせ」
『第二中隊掃討完了』
『第三中隊は戦利品を回収中』
「よし、今晩も迅速かつ的確なハラスメント攻撃だった。合流地点まで各中隊撤退せよ」
我々も撤退する。アドルフの命令に無言でうなずき、速やかに闇に飲まれていくイカロスの隊員たち。
アドルフは、先ほど亡骸に変えた政治将校の胸元から勲章をむしり取ってから、部下の後に続いた。
そして、また迅速に戦域を離脱し、集合地点へと戻ると、すでにそこには他の中隊が着いたようだった。各々が警戒をしていたり、戦利品を仕分けたりしている。
そこにたどり着いたアドルフに、二人の兵士が声を掛けてきた。
「「隊長殿、任務ご苦労様であります」」
一人はマルコ・ブレンダン。第二中隊長、ひょうきん者。言われたことはこなすタイプだがさぼりがち。
「いい加減この地味な任務も飽きてきましたね」
もう一人はヨハン・セバスティア。すぐに拾い物をするせいで一度死にかけたことがある。
中隊長らの様子から見て、戦果は上々。
そして中隊各員もこちらに気付いて各々自由に挨拶を返してくる。
時間にして一時間、進軍撤退を差し引けば三十分程度の簡易な任務。実践的な訓練といっても過言ではない。陽気な連中の声を聴いて、アドルフは言葉を返す。
「こんなことで苦労したといえば、《白銀》のお嬢ちゃんは今頃三回は過労死さ」
「違いない」
「さて、俺たちは一体いつまでこんなお遊びをさせられるので?」
そして、隊がそろっての帰還。
素晴らしいことだ。お遊びの任務で給料も払われる。
少し強くなった雪を受け、冷える装備に手をやる。軽い戦闘でも魔力を使えば身体は暑くなる。今はこの冷たさが心地よい。誰もがそう思った。
「地獄に遠征に行けと言われるよりマシさ」
そして、戦場の夜にまた屍の山を築いて帰るイカロスの面々であった。
イカロス大隊の行動は空からではない。陸路を匍匐なり、徒歩なり、隠蔽して保管してあるジープなりで行動する。
理由は単純、飛べないのだ。
帝国陸軍機密試験コマンド大隊。秘匿コード名はイカロス。空を目指して、堕ちた神の名を冠する部隊。彼らはただの魔導師ではない。
そもそも、魔導師にすらなれるかもわからなかった兵士たち、だ。
帝国の参謀本部は悩んでいた。かかる情勢の混沌に加え、連邦の参戦。日々消費される人的資源。
数字として消費される人命。それを数字として処理するがゆえに、彼らは着々と自分たちがすりつぶされていると理解させられる。足りないのだ、兵士が。
いつまでも終わらない戦争。長引けば長引くほど、消耗は加速する。しかし、補給は一定、いやそれ以下だ。
今や徴兵適用年齢を引き下げ、正規の労働人口や、本来なら学生として勉学に励んでいなければならない、帝国の未来の種まで、戦場に蒔いている始末。帝国は急激にその力を衰えさせている。
このままではいけない。しかし、急激に兵士の生存率を引き上げる方法なんてそうは存在しない。
そして考え付いたのが「一般の兵士が死にやすいのなら、魔導兵の割合を増やそう」というモノだった。魔導士の適性が基準値に達していない兵士たちは、そのまま魔道兵科以外の兵科についていた。
なので、適性の低い人間を無理やり魔道兵にできないものかといったのだ。
普通は不可能。しかし、帝国には天才がいた。エレニウム工廠主任技師アーデルハイト・フォン・シューゲル。彼は白銀の使用する宝珠核の四発同調を成し遂げた稀代の天才技師、参謀本部は即座にこの計画を採用した。
そして、出来上がったのが《エレニウム工廠製一〇〇式演算宝珠》。
今までの宝珠よりも出力を落とし、魔力量の少ない人間でも扱える、いや吸い上げてでも起動する一種呪具のような代物。
シューゲル技師はこれをほんのひと月程度で仕上げると、即座に他の研究に戻っていった。
参謀本部は、一〇〇式演算宝珠の試験制作モデルを魔導大隊分先行量産し、機密指定のもと一つの試験部隊を作り上げた。これがイカロス大隊の誕生の経緯である。
イカロス大隊が塹壕を超え、前線基地へと帰還した。
といっても、彼らは試験運用の部隊かつ、なにかの拍子に情報が洩れてはならないので、前線基地にはデブリーフィングのために帰還し、彼らは本部直轄の施設へ帰営することになる。
大隊が帰還し、各員が各々散った後に、アドルフは一人基地指令室の戸を叩いた。
すぐに反応があり、「入りたまえ」という声に言葉を返すでもなく入室する。
中にいるのは、東部方面の管区指令官。参謀本部からのお目付け役であり、このイカロスの監督権を持つ人間であった。
「やあアドルフ。上々かね」
「フロイト、俺たちはいつまでおままごとをしてりゃいい?」
早々にしかめっ面でタバコに火をつけつつ、ヤジを飛ばすアドルフに、フロイトと呼ばれた大佐の階級章をぶら下げた男は答えるでもなく次の質問に移る。
「飛べないなりに、よくやっているようだな」
飛べない。いつもこの言葉が胸によぎる。所詮、まがい物。普段は声を張って、雄々しく敵の懐に飛び込むアドルフに有って、無いもの。
魔導士官とは、近年発展してきたばかりの兵科であった。しかし、時に敵の機甲師団を吹き飛ばし、時に観測主となり、時には潜水艇に爆雷を撒く。便利使いの良い彼らは、各国で積極的に研究がなされている。
しかし、それは敵対者に対して上を取れる、という要素が多分に絡んでいる。
上空からの攻撃は、なんとも恐ろしい。衝撃力をもって敵を撃つのだ。しかし、それがアドルフたちにはない。
戦場で彼らが航空魔導師を見た時、隠れることによってやり過ごす。空の連中には、空でしか戦えない。
「ええ、地を這いずり回って、ハラスメントを繰り返してますよ。非常にやりがいがある。兵士冥利に尽きる!」
だからか、アドルフはいつしか航空魔導師に愛憎交じった感情を抱いていた。数年前まで、塹壕の中で空を見上げた時、魔導師が飛んでいくのを見るのは何とも心地よかった。
彼らが空へあがるとき、その眼は地上を見渡して、ライヒの砲兵たちが女神の鉄槌を打ち下ろす。
前線は、砲兵の支援と共に敵に進撃する。その砲兵の目となる魔導師に、少なからず尊敬と畏怖を、感じていた。
しかし、いざその魔導師、それも飛べない、早さもない、仰々しい術式も使えない、精々が防殻のおかげで硬い程度の陸戦隊もどきになれば、空を飛び回る彼らが妬ましくなってしまった。
「フロイト、そろそろ……」
「アドルフ・ブラウン大尉、君に指令がある」
突然のことに反応しかねた。普段、こんなに煽られることもなかったのに、いきなり指令? 果たしていったいどういった風に吹きまわしだろうか。精々が塹壕線へのハラスメント。そして、一〇〇式のデータ取り。
それが、変わるというのか。
アドルフが、ねめつけるようにこちらを見据える基地司令に気付き、姿勢を正す。
「明後日より、イカロス大隊は一〇〇式演算宝珠の試験運用任務を終了、ヨセフグラード方面への配置替えとなる。おままごとじゃない、実戦任務だ、良かったな」
指令の内容は、かねてより攻略の望まれていた工業都市方面への配置換え。
すなわち、今までの様なハラスメント攻撃ではなく、名を上げうる機会のある場所での任務であった。
思わず顔がにやけるのを抑えなければなるまい。これはフォーマルなやり取りなのだとアドルフは自らに言い聞かせる。
「謹んで、拝命します!」
その後は、言うが早いか席を立ち、大股で指令室から飛び出した。
とうとう、飛べない自分たちが名を上げる機会がやってきた。軍人として、これほどうれしいことがあろうか。試験運用のためと、意味のない攻撃ばかりをやらされてきたイカロスが、飛び立つ日が来たのだ。
「大隊長より各員へ通達、ヨセフグラードで暴れてこいとのご命令だ。明後日には当地での任を解かれる。明日中に準備を整え、列車の切符を受け取りに来い!」
この命令を受けた兵士たちは、意気揚々と支度をはじめ、翌日の昼には酒盛りを始める程度には、歓喜していたのであった。
――――――――
―――――
――
指令室では、嵐の様に去っていった男の背中に手を伸ばすフロイト司令官の姿。
声を掛けることもかなわず、もう一つの指令があったのだが、めんどくさいとばかりにイスに深く腰掛け、葉巻に火を灯す。
「まあいい。駅のホームに向かうよう伝えておくか」
そして、手元の書類に目を落とす。一人の少女が、緊張した面持ちで映っているのがわかる。
名前の欄には、エレーナ・エスタークとある。
所属部隊の欄には、イカロスの文字。
「子守りができる男だと、いいのだがな」
そうして、嵐の前の静かな夜は、過ぎていくのであった。
はい、ここまで読んでいただきありがとうございます。
こんな感じで、ゆるーく書いていきたいと思っています。
ちまちま上げていきますので、どうか読んでください。時代背景が一次と二次の混成なのでなかなか難しいですが、ねつ造しながら書いていきたいと思います。
決意表明として、週一から隔週の投稿を目指していこうと思うので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。