俺たち魔導師地上組 ~幼女戦記外伝~   作:浅学
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第四話 敵地浸透

「……なんだかなあ」

 

 アドルフは軽い調子で声をあげる。

 時刻は深夜の一時手前。本来なら空虚な静寂があるはずの時間帯であったが、遠くない位置で盛大な爆発音が響き渡っている。

 現在、アドルフの率いるイカロス大隊の第一中隊は、ヨセフグラードの大通りを見まわしていた。第一中隊の総員十三名での敵中行軍である。周囲を立派な建築の家屋に囲まれた通りでおそらくはここがヨセフグラードの住居街なのであろう。マルコとヨハンの率いる中隊は既に街の右翼、左翼に分かれて前進を開始している。

 帝国のそれとは異なる建築様式ではあるが、さすが連邦の最高権力者の名前を戴いているだけあって、煉瓦造りで頑丈そうで、見栄を張れる街……元も子もない言い方をすれば金がかかっていそうな街だと感じる。しかし、最前線であるこの街には今、一般人の気配はない。

 街の路肩には自動車はおろか馬車すら止まっておらず、深夜だというのにカーテンさえ引かれていない。そして、ちらりと部屋の中を覗いてみればひっくり返したおもちゃ箱のごとく、タンスやら台所やら、ことごとく全てがひっくり返され、中身だけがなくなっている。用をなしていない収納が寂しい姿をさらしていた。きっと、家人は慌てて持っていけるものを集めて、どこか連邦の奥地へと引っ込んで行ったに違いない。

 アドルフがその景色を眺めていてふと感じたのは、連邦の哀れさではなく帝国の精強さであった。四方を敵国に囲まれ、あまつさえ連合王国の影までちらつく世界規模の戦争。その戦争の中で、アドルフはつい数日前に軍務のためとはいえ首都のベルンに舞い戻り、そこで前線の戦闘糧食とは比べ物にならないくらいの旨い食事をとった。住人と話をし、威厳のある参謀本部へと顔を出し、そこで聞いたエレーナ少尉の件でやけ酒までして一晩ぐっすりだった。

 ベルンは未だ戦時を色濃く匂わせるほどの悲惨な姿をさらしていない。人が住み、文化的な生活を営み、家に帰って眠ることができる。

 ヨセフグラードは、建物の様子からも、名前からも予想される通り発展する都市であろう。しかし、それは今やもぬけの殻となり、両軍が死体を作り合う屍肉工場もかくやとう様相だ。

 お互いに戦争をしている。この事実は変わらないというのに、ここまで都市のありように差が見える。それも、本来このルーシー連邦という国はライヒに対する侵略者であった。唐突な宣戦布告からの砲撃。当初は帝国の情報部も慌てていたことだろう、なにせ開戦に至る理由がわからないのだから。そんな不透明ななにがしかの理由で、警戒していたとはいえ攻撃された我が帝国軍は最初こそ混乱した。しかし時は過ぎ去り、今こうして先端部とはいえ、連邦の領土に食い込んで戦争をしている。

 帝国は、確かに度し難い状況にいる。四方を敵に囲まれ、そしてそのことごとくが列強諸国だ。そんな連中のために生贄になるまいと、帝国は必死に力を蓄えた。その結果が世界を敵に回した戦争。海を隔てた権謀の国さえ敵対しているであろうという状況だが、しかし我々は戦争をリードするに至っている。やはり、帝国という国家は強大で、ある意味では恵まれた国である。アドルフは改めてその事実を噛み締めた。

 

「強い軍で、勝てる戦争ができるならいいもんだ」

 

 その精強な帝国軍の、もっとも突出した位置でイカロスは戦っている。自国の領土ではなく、敵国の領土で戦争ができている。きっと我々は恵まれている国の、恵まれた兵士なのだろう。連邦の主要都市を見て、そう思わざるを得ない。

 

「少佐」

 

 そんな風に一人で帝国軍に所属できていることに安堵していると、副官であるエレーナが話しかけてきた。その声はひそめられてはいるものの、張り詰めた気配までは纏っていない。

 

「どうした」

「いえ、少々気になることが」

「ほう? それはこの街に関することか」

「はい。ここから一本隣の通りにですね、前線へ向かったと思われる大量の足跡があったんです」

「ふぅむ、大量の足跡ね」

 

 なんの気無しに周辺の調査を命じたのだが、どうやら一発目からあたりを引いたようだ。前線へ伸びる大量の足跡の元など、それこそこの時期には一つしかない。

「連邦軍の後方拠点、か」

「その可能性が高いです」

「どうせアホみたいに規模のでかい連中だ、ただの集積地なり兵士の受け入れ拠点の可能性も否めないが……まあ、探る価値は大いにありだな」

 帝国軍は機動性を主体にしているために、司令拠点も移動しがちだ。しかし、現在は双方ともに陣取り合戦の前線で苛烈な撃ち合いをしている。帝国軍はもとより、連邦軍もそうそう司令部を移動してはいないだろう。

 何より、今回の作戦はアドルフたちが潜入しての作戦。他中隊がなにがしかの痕跡を探っているであろう今、アドルフたちは素直にこの連邦軍の残したヒントを頼りに探し物を行うのも悪くない。

「諸君、朗報だ。少尉がイワンの巣への足がかりを掴んだ可能性がある。第一中隊はこれよりその手がかりを頼って連邦軍後方への偵察を敢行する」

 散らばっていた連中から応答があり、アドルフの元へと集う。滞りなく集まったところでアドルフたちは前進を開始した。

 警戒しつつ、街中を進む。敵兵士の姿が見えない今は宝珠を起動せずに進んでいるが、いつどこで敵に出くわすかもしれないという状況は通常精神を大きく摩耗させる。しかし、イカロスの部隊員は各々が塹壕上がりの古参兵たちである。これしきのことで疲弊を表に出すようなものはいなかった。唯一懸念のあるエレーナも、アドルフが見ている限りは問題なく付いてきているようにみえる。案外、歳の割に肝が座っているのかもしれない。

 しばらく街を歩いて進んでいると、街並みにも変化が訪れていた。煉瓦造りは変わらないが、人が住む場所という気配が薄れていく。部屋ごとにも設けられていた窓は大きなものとなり、建物も集合住宅のようなソレから大きな空間を中に持っているだろうと予想できる形へと変わっていく。

 

「この建物は……工場か」

「そういえば、連邦は大規模な工業化のモデル都市をいくつか持っているようでしたね。この街も、恐らくは大規模な工業化のために整備された街なのでしょうか」

 

 アドルフのつぶやきにエレーナが反応する。

 エレーナの言った通り、工業化のモデル都市の一つとしてヨセフグラードは整備されていた。もっと言うならば、この街こそが最先端の街でもある。民需、軍需工場双方が建てられ、戦火に飲まれるまではこの街で多くの装備品も作られていた。しかし、ソレも今では後方の安全な都市群に疎開しており、アドルフたちがのぞいている工場跡の中にはただ埃が積もっているばかりであった。帝国の進撃能力が、この街をもぬけの殻にしたといっても過言ではない。

 

「まあいい、何もないなら後で改めて調べればいい。今は連中の住処を見つけるのが先だ」

 

 そんな連邦の都合はしかし今は関係なく、ガラ空きになった廃屋には興味もないとばかりにアドルフは再び歩き始めた。何もないのならば関係がない。今は敵がいる場所を叩くのが先決である。

 静かに敵地を歩くのは、普段の任務とは毛色が違う。普段は戦争をするための場所にもぐりこみ、戦争をして帰ってくる。侵入すれば一〇〇式宝珠の性能試験のために即座に戦闘に入り、防弾性能や対人戦闘時の出力を記録するために、常に火薬の炸裂音や怒号に包まれて戦っている。それに対して、今回は以前に比べ物にならない程の大規模な作戦に参加しているというのに、イカロスは未だ一発も発砲せず、返り血を一滴も浴びずに敵地を奥へ奥へと進んでいる。

 観光気分で無いのは確かだが、少しばかり高揚しているのは否めない。本格的な作戦への参加は歩兵として塹壕にこもっている時でもしてこなかった。それが今や空挺兵の真似事をするに至っている。散々上官に苦言を呈してきたとはいえ、やはり歴史に名を残すかもしれない戦闘に選抜兵として参加するのは男として嬉しいものがある。

 アドルフは常々犬死はごめんだと考えてきた。しかし、魔導兵の衣を纏い、歩兵のそれとは一線を画す火力を

得たイカロスであれば、無茶な任務であっても武功を上げることができる。ともすれば、やはり軍に身を置き国を守る一兵士としては心躍ることは仕方のない事であった。

 

「――――敵兵発見、歩哨と思われます」

 

 浮かれているアドルフの耳に飛び込んできたその報告が、彼の精神状況を瞬時に切り替える。

 火照っていた思考が瞬時に冷え、逆に跳ね上がった心拍は寒空の下で冷えていた体の末端までを一気に熱していく。

 

「人数と方向、距離は?」

「歩兵が二名、我々から見て三時方向、距離およそ二〇〇」

「見られてないのか」

「建物二階の窓から確認したのですが、あいつら前方しか見てません。こちらのことは察知すらしていないでしょう」

「よろしい、そいつらに挨拶をして奥へ向かおう。近接戦闘準備」

 

 いよいよだ。敵地に降下して一時間程度。警戒しながらの牛歩であったが、それでも三キロ程度は歩いているだろう。敵は大分前線付近に居を構えているらしい。歩哨がいるのであれば、そろそろ敵の陣地が張ってあるはず。とうとう目的地にやってきたというわけだ。

 

「これより小隊ごとに分かれて移動する。第一小隊と少尉は俺と来い。第二小隊、第三小隊は裏道から警戒に当たれ。第一小隊で始末する。表から堂々とな」

「そんな堂々と行かれるのですか?」

 

 エレーナがまさかと言わんばかりに声を上げる。まあ、隠密で行動しろと言った本人が、正面から殴り込みを開けると言っているのだ。無理からぬ話だろう。しかし、アドルフは続ける。

 

「確かに、俺は他の連中には見つけたら、報告して待機していろと言った。しかしいまだに報告はない。多分だが、他の中隊もあてどなくこの街をさまよっていることだろう。であれば、真っ先に見つけたかもしれない拠点で騒ぎを起こせば、他に拠点があればざわつくだろう。それだけ連邦の拠点発見率が上がる。見つからなかったとしたら、連中は一箇所に全てをまとめていると言うことだ。ここを叩けばこの街を落とせる」

「それはそうですけど、やはり危険では。我々は分散しているのですよ」

「案ずるな、どうせ歩哨なんて拠点とは離れた位置に配置されてるもんだ。大騒ぎするにしても、しばらくはかかる。連中をどついてもしばらくは猶予があるんだ、だからもし藪蛇を突いたと分かったら逃げればいいのさ。連邦にとって、俺たちが防衛線の後ろに忍び込んでいると言う事実が圧力になる。どちらに転んでも、俺たちは仕事が果たせるってことだ」

「どうにも行き当たりばったり感が否めませんが……」

 

 エレーナはなおも不安そうな顔をしている。しかし上官が心配するなと言っている以上、何か口を挟むことはしない。上意下達の世界であることを、若くともエレーナはわきまえている。

 それに、アドルフの言うこともあながち間違ってはいない。本来は歩哨など歩き回り、拠点より遠くの方を巡回して敵襲を警戒するもの。前線拠点であることを踏まえれば、歩哨の巡回経路から少なくとも一キロ程度は距離をとっているとしてもおかしくはない。であれば、彼らが帰ってこない、もしくは何かしらのアクションを起こすことが異変が起こっていることを伝える。逆説的に、何かをされる前に制圧してしまえば、異変を気取られるまでの時間稼ぎができる。そのまま的拠点まで偵察ができるとアドルフは考えたのだ。

 

「さてと、では諸君。しばしのお別れだ、ほんの五分程度だがね。敵への挨拶は部隊長の特権だ、邪魔してくれるなよ」

「了解しました、大隊長殿」

「さて、では行こう」

 

 そう言って、アドルフらは静かに動き出す。アドルフの大規模作戦での初戦闘は、思いのほか静かなスタートを切ったのである。

 

 

 

 一方、間近に敵を控えた連邦兵の二人組は緊張していた。今この瞬間にも、前線へ迎えと将校に命じられるかもしれない。行かなければ抗命罪で死が待っている。行けば、帝国軍の嵐のような砲撃だ。そこで翻って逃げようとすれば、政治将校殿の機関銃が逃亡兵に襲いかかる。戦争が始まった時点で、連邦兵には死というのは睡眠と同じような感覚で迫ってくるのである。

 運良く哨戒の任にありつけたこのペアも、そう言った現実を噛み締めながら歩んでいた。

 

「なあ、後どれくらいだ」

「……何が?」

「巡回だよ。どれくらいで終わる」

「あと十分もすれば、戻らなきゃいけない時間だ」

 

 この二人は、巡回ルートをちゃんと辿ってはいたが、極めてゆっくりと巡回していた。死地に向かう仲間たちの悲壮な顔を見ないために。そして、自分らがその顔を浮かべないために。逃げるというてもあるが、どのみちこの戦争中に逃亡したとあってはまた前線へ叩き返される。

 そして、もちろんのことであるが職務怠慢がバレれば何が起こるか分かったものではない。良くて収容所送りであろうか。酷いと抗命罪と言われ、略式裁判でその場で銃殺されるかもしれない。

 しかし、それでも一時の間陰鬱とした空気から遠ざかりたい。その思いで、何とか延ばし延ばし巡回を続けていた。

 

「……そうだ、いいものがあるぞ」

 

 そう言って、少しばかり軍務に慣れていそうな、歳を食った方が懐から何かを取り出す。それはスキットルであった。極寒の土地でスキットルと言えば、中身は酒と相場が決まっている。それもアルコール濃度の高い、飛び切り旨いウォッカなのが常だ。

 

「少しばかりあったまろうや」

「良くそんなものを」

「何、政治将校殿はいいものを持っていらっしゃる」

「くすねてきたのか、バレたらマズイぞ」

「はっ! 連中は威張ることに夢中で、酒瓶の中身にまでは気が回っちゃいないさ。なにせ酒を飲むよりも権力を振りかざす方が面白いんだからな」

 

 そう言って、スキットルの中身を一口煽る。凍ってしまいそうだと感じる土地で作られた酒だ、高いアルコール度数で無理やり体温を上げてくれる。

 

「今のうちにやっとけ、次はねえかもしれねえぞ」

「……ありがとう」

 

 一言礼を言って、酒を煽る。ろくなものを食べていなかったのもあるが、故郷の味はやはり安心する。続けてもう一口、冷えているはずの酒だが、喉を通る時は焼けるような感触を与えてくれる。胃に落ちたそれは、体を芯から徐々にあたためてくれることだろう。

 

「美味かった。またこいつをやりながら、うまいボルシチが食べたいもんだ」

 

 スキットルを返しながら呟く。寒さで口から出る白い吐息を見つめながら、これからのことに思いを馳せた。急に戦争が始まった。帝国はそもそも戦争をしていたのは知っている。しかし、連邦が突然参戦したのがわからない。この戦争に、一体そういう意味があるのだろう。

 

「なあ、俺たちって何で戦って……」

 

 横を見ると、見知らぬ男が立っていた。手には先ほどのスキットルを持っており、それを一口煽って満足げな表情でそれを拭った。思考が一気にフリーズし、何が起こっているのかを理解するために周囲を見回す。

 足元を見た時、先ほどまで会話していたはずの仲間が倒れているのを知った。うつぶせに倒れているので、どういう顔をしているかはわからない。しかし、喉に当てられているであろう手の隙間から血を流している。時折空気が漏れるような音と、うめき声じみた異音が耳に届くが、意味を知るまでは届かない。そのことからも、今時分は敵と相対していることを遅まきながらに理解する。

 そして、肩に下げた銃を手に取ろうと動いた瞬間、喉に熱いものが侵入してきた。

 

「は……、へ……?」

 

 彼が自らも、仲間と同様喉を裂かれたと気がつくことは無かった。喉元を襲う激痛と、それに伴う熱い感覚のみを記憶に焼き付けて、その若者はのたうち回り、死んだ。

 

「クリア、特に障害なし」

「少佐殿、手際がいいですね……」

「塹壕でモグラ叩きしてりゃ、誰でもできるようになるさ。それよりもうまい酒、良い拾いもんだ」

 

 そう言いながら、アドルフとエレーナは今殺した人間の服を漁る。なにか持っていないかという淡い期待を込めて。

 しかし、やはりなにも持ってはいない。相手は下士官ですらないだろうから、別にそこまで期待度が高かったわけではないが。

 

「まあ、これでここいらはしばらくは安全だ。行こう」

 

 アドルフの判断は早い。なにもないなら奥へ。奥へ奥へ、そして、ものを見つけて暴れる。

 

「相手は何だ? 物資か、歩兵か。できれば物資だと、腹ごしらえもできていいんだがね」

「大隊長殿、それは高望みしすぎでは?」

「それもそうだな。イワンの兵士で遊んで、帝国で飯を食えばいいか」

 

 くだらないやりとり。だが、それはあくまで部隊を気遣ってのこと。今でこそ笑いながら死体の処理をしている仲間であるが、いつ骸になるかわからない。そういう場所に今はきているのだ。

 血を払い、上から適当にそこら辺の残骸をかぶせて隠蔽。死体も目の前にある店らしき場所に入れておいた。これで彼らは、発見されるまでは行方不明だ。

 手際よく処理を終え、アドルフらは歩き始めた。敵拠点をその肌に感じながら。

 

 

 

 歩き始めて三十分ほどだろうか。アドルフたちがヨセフグラードに降下して、二時間近くが経とうとしている。砲撃は日が昇るまでは続くだろう。それまでに司令部を叩きたい。

 そう思っていた時、通信が入った。

 

『こちら第二中隊、第二中隊! 不意遭遇戦に突入、敵は歩兵のみ!』

 

 それが聞こえた瞬間、遠くで銃声がなりだした。散発的なものではなく、幾重にも重なった連射音。

 

「こちらアドルフ! マルコ、状況を伝えろ。なにが起こっている!」

『第二中隊は現在、連邦兵歩兵群の中心で近接格闘中! 心配は無用、敵は少数、小隊規模と推定。こんな入れ食いじゃシャベルが曲がっちまいますよ!』

「わかった、そっちは任せる。大隊長より大隊に通達、第二中隊は戦闘に突入した。宝珠の使用制限を解除、暴れてやれ。第三中隊は念のために第二中隊と合流せよ。我々は引き続き奥へ向かう。司令部を叩いたら、返す手で連邦軍前線を叩く、弾は残しておけよ」

「いいんですか少佐!? 私たちも駆けつけた方が」

「あいつが心配むよと言った時は大丈夫だ。今までマルコが心配無用と言った時、何事もなく帰ってきた。砲弾にさらされていた時も。ヨハンも向かわせたし、我々は敵の探られたくない腹を殴りつけてやるのが、あいつらにとって援護にもなる」

 

 反応は火を見るよりも明らかだ。どこからともなく怒号が聞こえてくる。陣地の中で敵を見つけたのだ、初の巣をつついたような騒ぎになるのは当たり前。あとは、その大元を特定して、殲滅する。 

 

「第一小隊も宝珠の使用を許可! これよりエレーナ少尉を飛ばして、一気に敵の司令部を叩くぞ!」

「分かりました、上空より敵陣地を索敵、隊を誘導します!」

 

 言うが早いか、エレーナは即座に舞い上がる。周囲の雪を巻き上げて、連邦の都市を見回すために本物の魔道士が飛び立ったのだ。その影は見る見る小さくなっていく。恐らく高度限界まで駆け上がっていったのだろう。

 

「はあ、俺も飛べればよかたんだがな」

『はっ、何か?』

「何でもない、それより敵はどこから沸いてる?」

『各所に分散しているようですが、一箇所大きく灯りがついてる場所があります、二時方向へまっすぐ向かってください』

「聞いたか小隊、身体強化術式を展開。そこの建物の屋上から屋根伝いに誘導地点まで走るぞ!!」

 

 アドルフは言いながら宝珠に魔力を流す。懐中時計のようなソレは流されたアドルフの魔力を即座の術式に変換し、魔術としてアドルフへと還元する。

 身体強化術式が肉体の動きを超人のモノへと変え、身体保護術式はアドルフの体を様々な衝撃から守るプレートとして機能する。そこにさらに様々な脳内物質の供給術式を展開し、いつでも敵の群れの中へと飛び込めるように準備をする。飛行をしないアドルフたちの一〇〇式宝珠はさらに術式を展開するキャパシティがあるが、状況に応じて他の術式を展開できるように余裕を持たせておく。

 戦闘の準備を整え走り出すアドルフの背中を他の小隊員が追う。各々展開した術式によって一流のアスリート以上の身体能力を得た第一小隊は、背の高い建物を外壁から登っていく。レンガの凹凸、窓枠、配管を伝って路面を走るように外壁を駆け上がり、到達した屋上から誘導を受けた方向へ跳ぶ。

 本職の魔導師とは違う、跳躍による高速移動。アドルフが望むモノとは違う力であったが、しかし魔導兵力のいない連邦市街を駆け巡るには十分であった。雪の降るヨセフグラードの空を十二人の兵士が(はし)る。ひらひらと舞う雪片を荒らしまわり、獲物へと駆ける猟犬のようにまっすぐ、群れとなって走っていく。肌を切り裂くような冷気、人のいない街の静寂、作戦成功の可否を背負うという不安、諸々の要素を引き裂きながら宙を舞うイカロスの姿は、もし地上から見れば本当に空を飛んでいるようにも見えたことだろう。

 

『そのまま真っ直ぐに、もう三つ屋根を超えたところに広場に大規模な集積拠点があります!』

「少尉、貴官は一発爆裂術式をぶち込んでやれ! そこに俺たちが強襲をかける」

『了解、撃ちます!』

 

 エレーナの言った屋根の一つ目へ足をかけた瞬間、空から彼女の魔導反応を感じた。

 二つ目の屋根を超えた瞬間、空高くから一発の銃声が鳴り響く。

 そして三つ目の屋根の上へと降り立った瞬間、地上から大きな爆発音が響き渡る。見下ろさずとも分かる、盛大な爆発、連邦兵はさぞ驚いていることだろう。アドルフたちはソレを見て立ち止まることはしない。術式で強化された陸戦魔導師たちは、その爆心地へと何のためらいもなく飛び降りて行った。

 地上四階程度、高さにして十五メートル程を落ちていく最中、彼らが見たのは混乱する連邦軍の姿。突然の爆発によって多くの将兵が混乱の最中に陥っており、慌てふためく姿が見て取れた。爆発地点の付近にいた兵士たちは血を流し叫ぶか、無言を貫く肉塊と化している。エレーナの放った術式の成果を流し見ながら、飛び降りた建物の傍に大きな音を立ててアドルフたちが降り立つ。術式によって強化された人間の強引な着地は、人間が出してはいけないような、一種爆発のような音を立てる。

 その豪音が今の爆発とリンクしてか、連邦軍兵士が一斉にアドルフたちの方へと視線を投げる。

 彼らが最初に頭に思い浮かべたのは「誰だこいつらは?」という至極単純なモノ。今の今までいなかったはずの場所に、なぜか帝国の軍服を纏った連中が居る。想定もしていない出来事の連続に、現場の人間の思考は一気に混乱の最高潮へと押し遣られる。

 しかし、事態はすでに連邦にとって悪い方へと傾き切っていた。敵が市街地へと浸透しているという情報を得た彼らが警戒体制に移行しようとした矢先の襲撃は、完全な奇襲となった。

 放心する者、事態を理解した者、逃げ出そうとあがく者、様々な反応を見ながらアドルフたちは吊り下げていた銃を取り出し構える。そして、宝珠へと魔力を流し、銃に込められた鉛の玉に術式を与えてやる。

 

「貫通術式三連、撃てェ!」

 

 固まる連邦軍へ向けられた十二の銃口。そこから放たれた魔弾は、連邦軍の兵士たちへと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 




はいおはこんばんちわ、浅学です。
お待たせしました、諸君! ということで、二週間と数日ぶりの初投稿です。
……投稿遅れてすいませんでした! ちょっとさぼってしまいました!
オリジナルの設定寝るのにかまけて気が付いたら二週間がたっていたんです……アドルフおじさんに銃剣でぶったたかれて気が付きました。刺されなくてよかったです。なので遅まきながら投稿させていただきます、はい。
最近執筆活動が疎かになりがちでしたが、ようやっと小説楽しい!モードに戻ることができました。これもBluetoothキーボードの力です。科学は偉大です。
さて、本編はようやく本格的な戦闘に入っていきます。毎度毎度戦闘しろや! な場面で終わって申し訳ないです。戦闘描写から逃げる癖がうごごごご。
というわけで、次回はアドルフさんたちがアカい人たちと戯れます。これからいろいろ勉強しながら書いて行こうと思いますが、どうなるんでしょうね……私にもわかりません。
というわけで、また次回でお会いしましょう。それでは!





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