親父のことが嫌いだった。
親が有名な所為で、比較されて嫉妬された。
ジュニアクラブで上級生を差し置いてFW(フォワード)に選ばれた時は、露骨に無視されたり嫌がらせを受けたりもした。
ヤツらが言うには親の名前で選ばれたとか何とか。
メチャクチャ腹が立ったのを覚えてる。
だって、これは練習試合の結果から、コーチが選んだ人選じゃないか。
文句があるならコーチに言えば良いのに。
親父なんて関係ない。俺が実力で勝ち取ったんだ。
……そう思ってたんだ。
だけど。
俺は試合の合間に飲み物を取りに行こうと休憩室へ向かう途中。
廊下で話すコーチの声が聞こえたんだ。
「ああ、ティーダのことか。確かに分かるよ。あいつはまだ荒削りだ。経験も足りてるとは言えない」
「……なら、どうして?!」
「あいつには素質がある。未来のエースになれる素質が。あのジェクトから受け継いだ天性の才能が……。早めにポテンシャルを引き出しておくのに越したことはない」
「そんな……ッ?! 俺には今年しかないのに! 来年からは俺はユースクラブになるから、もう二度とメンバーになれないかもしれないのに……!」
コーチに涙目になって訴えているのは同じFWポジションの上級生らしい。
公式試合の実績がないと人数が増えるユースクラブでは一軍にはなれないなんて話もあるくらいだ。
だからこそ、みんな必死で練習に打ち込むんだろう。
それは分かる。分かるんだけど……。
「絶対俺のほうがあいつより上手いのに! 得点だって稼いでみせるのに! あいつよりもっと活躍して! 有名選手にだってなってやるのに!」
その上級生は泣いていた。なりふり構わず不満をぶつけていた。
間違いを糺(ただ)すみたいに。正論を持ち上げるみたいに。
俺はそれを聞いて思わず走り出した。
うわーーーーー!! って叫んで何処までも飛んでいきたかった。
メチャクチャに悔しかったんだ。
俺より得点できるとか、活躍できるとか、有名になれるだとか……。
ふざけるなって思ったんだ。
その上級生にはできない活躍を、俺ならできるんだって、大声で言いたかった。
負けるもんかって、啖呵切ってやりたかった。
その日から俺は猛特訓をしたんだ。
誰にも文句を言わせないくらい上手くなって、僻みとか妬みとか、全部吹っ飛ばせるくらい強くなりたい。
心の底から、そう思ったんだ。
スフィアシュート。
そう呼ばれる技がある。
頭上にあるボールに背を向けて立って、宙返りをする。
そのままの勢いでボールを蹴り出し、シュートする。
難易度の高い技だ。
この技のメリットは何よりも高いシュート力にある。
足下のボールを蹴るのと比べて、遠心力が掛かる分乗せられる威力が大きくなり、より強い力で得点力の高いシュートを決められる。
これがこの技の一番のメリットだ。
上手く決められれば、ここ一番の切り札として活用できるし、相手の戦意を挫くのにだって有効だ。
ブロックされても球威が死にづらいし、キーパーも受け損ない易い。
勿論でメリットだってある。
まずは隙がデカイということ。
DF(ディフェンス)に囲まれている状態ではカットされてしまう。
それに一度ボールを視界から外すことになるから、よほどボールのコントロールに自信がなければボールを蹴ること自体できない。
ましてやアクシデントの起きやすい試合中に決めるのは至難の業だ。
普通に考えればできっこない技である。
だから俺はその日から練習時間を更に増やした。
勉強なんてできなくても良い。
ブリッツさけあればそれで良い。
食事と睡眠は動ける分が取れれば良い。
それ以外の時間を全て練習に費やした。
ブリッツ以外の全てを俺は捨てたんだ。
そうして迎えた公式試合。
2-3。
俺が二点決めたけど、DFが抜かれて三失点。
俺がボールを奪ったところで、敵DFはゴール前に陣取っていた。
このままヤケクソ気味にシュートを打ったところで弾かれて終わりだ。
俺はボールを持って敵陣に突っ込む。
固まっていたDF二人とMF一人のうち、MFが前へ出てきた。
一人で防げると思ってやがるのかよ!
俺は悔しくて歯を食い縛った。
近づいてくる敵MF。その寸前、敵が動き出す瞬間を読みきって俺はフェイントを入れた。
予想通り飛び出してきたMFの脇を擦り抜けて、俺は敵陣を前進する。
――まずは一人!
続いてDFが二人、纏まってブロッキングしてくる。
さすがに攻めきれない。
俺はパスしようと後ろを振り返り、敵FWが前線で味方をブロックしているのを目撃した。
――なんて予想通りだけどな!
俺はボールを真上へと投げた。
見当違いの方向だ。
敵は失笑するみたいに、俺を残念なやつを見るみたいな視線を送ってくる。
ボールは水中から空中へ。
そして、重力に負けてボールは下方向へそのベクトルを変える。
その瞬間、俺も水中から空中へ飛び出した!
諦めムードの味方。
嘲笑気味の敵チーム。
俺は、目を瞑ったままボールを感じてた。
目蓋に影が映る。
想定通りの場所にボールが来てる。
まるでボールが自分の身体の一部みたいに感じられて、嬉しさに思わず笑みがこぼれる。
敵チームが慌てる声が聞こえた。
けど、もう遅いよ。
俺は水の抵抗のない強烈な勢いで回転しながらシュートを繰り出す。
足の芯でボールを捉えたのが、感触で分かった。
水面に触れても勢いはまるで変わらない。
DFが指を掠らせたようだが、球威は死なない。
まっすぐ弾丸のような速度でボールが突き進む。
キーパーは唖然とした顔で棒立ちになっていた。
無力なキーパーなど無視して、シュートがネットを貫いた。
カウント、3-3。
あと一点で勝負が決まる。
俺は全力でチームを鼓舞した。
敵チームも慌ててたように立て直しを図っていたが、俺が決めたスフィアシュートの衝撃から立ち直れてはいないようだった。
その日、試合は俺のチームの勝ちだった。
俺はその日からチームのエースと呼ばれるようになった。
上空へ打ち出したボールからのスフィアシュート。
それが、俺の代名詞とも言える技の、初めて披露された試合だった。
ブリッツの風景はわりと想像です。オープニングのあのスフィアシュートはきっとティーダの得意技なんじゃないかって思います。