ファイナルファンタジーⅩ[SS]   作:水無 亘里

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Chapter05[ルールーとぬいぐるみ]

 黒魔法の才能があると聞かされたのはいつのことだっただろうか。

 私の物心ついたときの記憶は、朧気で移ろいやすい幻のような光景だった。

 両親にもらったぬいぐるみを魔法で操り、すごいねと褒めてもらったことを覚えている。

 私にとっては遊びの延長でしかなかった。

 手を使うよりももっと自由にぬいぐるみを動かしたい。たったそれだけの思いで編み出した魔法だった。

 

 そんな平和な日常も、シンの脅威が渦巻くこのスピラでは長く続くものではなかった。

 家族も友達も全てをなくした私には、ぬいぐるみしか残されていなかった。

 5才だった私には、ぬいぐるみと魔法以外、何も残されていなかった。

 

 スピラの時間は、弱い者にも容赦なく流れ続ける。

 無邪気に笑う生き方を忘れてしまった少女が、ただひとり必死に生きるのは簡単なことではなく、いろいろな人に助けて貰ったりしながら過ごしていれば、あっという間に7年の月日が経っていた。

 

 12才になったとき、小さなビサイド村にちょっとしたニュースが流れ込んできた。

 新たな移住者が現れたのだ。

 自分より小さな少女とロンゾ族の少年。

 それは、この寂れた村では事件とも言える出来事だった。

 最初に目についたのは、やはりロンゾ族の少年、キマリだろう。

 ビサイド村ではほとんど見かけることのなかった種族である。

 その姿は他の種族と比べて大きく異なる。

 青い肌、獣のような雄々しい顔に大きな手。

 ロンゾ族の中では小柄な方だそうだが、私から見れば充分に大柄だった。

 額に生えた角は折れてはいるが、やはりその存在感も大きい。

 口数も少なく、護衛のように少女の隣に佇む姿は、やはり何処か異質だと思った。

 

 少女の名はユウナといった。

 彼女はキマリと比べると活発で子供らしい。

 子供たちの輪を見つけると必ず飛んできて話に入りたがる。

 けれど、上手いもので邪険に扱われるようなことはなかった。

 それは彼女の柔和な表情が成した技なのか。それとも、彼女の外見が取り立てて可愛かったからか。

 そんな様子を大人たちが遠回しに見つめているのに気づいた。

 彼らは口々に言う。ブラスカ様の娘だ、大召喚師様の娘だ、と。

 

 それは子供たちだって知らない者はいない名前だった。

 シンを倒し、四度目のナギ節をもたらした英雄の名前。……知らないわけがなかった。

 大人たちはユウナを特別視した。大人物の娘なのだから、ある意味仕方がなかっただろう。

 だが、子供たちは違った。同年代の子供たちだけは、彼女を大召喚師の娘ではなく、ひとりの女の子として扱った。

 いつしか彼女もそれを区別するようになっていった。

 大人たちに対しては召喚師の娘として礼儀正しい対応を。

 子供たちに対しては年頃の娘としての姿を見せるようになった。

 村人であった私や同じく同郷で育ったワッカやチャップとも親しくなった。

 そんな生活を過ごすうち、時折ユウナは思い詰めたような表情をしていた。

 

『召喚師になりたい』

 

 そんな言葉を口にしたのはほんの2年前のこと。

 けれど、ユウナのことだ。その決意はもっと前に固められていたのだろう。

 ワッカが情で訴えた。

 私も理屈で止めようとした。

 でも、あの子は頑固だった。何度説得を試みても、彼女は一歩も引かなかった。

 ワッカはわりとすぐに折れた。

 周囲の大人もあまり説得はしていなかった。

 いや、大人はみんな口では心配だと言いつつも心の何処かでは期待していたに違いない。

 大召喚師ブラスカの娘なのだ。期待しないわけがない。

 ならば、彼女は村のみんなのために召喚師を目指したのか。

 ……それもあるだろう。だが、彼女の本心はそうじゃない。

 少なくとも、それだけが理由ではない。

 あの子はそこまでバカではない。その程度のことはもう分かっていた。

 それくらいの時間を既に共有していた。

 

 ユウナと長い時間話をした。

 あの子の気持ちは分かった。

 あの子はそう。いつだって誰かのために頑張ろうとする。

 その結果がどんな結末なのかも分かった上で、その旅がどれほど過酷なのかも分かった上で。

 それでも止まらない。

 一度決めたらテコでも動かない。あの子は昔からそうだった。

 

 キマリもそれを止めない。キマリは全てをユウナの意思に優先させている。

 だから止めない。彼はそういう人物だ。

 ならばどうする? 自分には何が出来る?

 

 ユウナを死なせないために、私には何が出来る?

 

 成長につれ、黒魔術の技量はそれなりに上がっている。

 村の近辺の魔物なら手こずることはないし、下手な討伐隊の戦士よりも戦える自信はある。

 それならば、手はある。

 ひとつだけ、ある。

 

 ユウナが旅に出るよりも先に、ナギ節が来れば良い。

 私がガードになって、召喚師の旅を完遂する。

 それでユウナは助けられる。

 召喚師にならなくても良くなる。

 私の腕の中で、モーグリ人形が頷く。

 それが自分の魔力が動かしたものだとしても、私はこの魔力に勇気づけられる。

 ユウナを召喚師にはさせない。

 そのためなら、私は何にだってなれる。




ルールーの過去話はいろいろと想像の余地があるため、それなりにお話が書けそうです。
今回はアルティマニアを参考にしながら書きました。
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