ファイナルファンタジーⅩ[SS]   作:水無 亘里

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Chapter07[スフィア盤]

「溜め込んだ経験を持ち主の力に返るもの、……それがスフィア盤だ」

 

 ザナルカンドにいた頃、アーロンはティーダ宅に来ていた。

 差し出したのは、スフィア。

 スフィアは様々な機能を込められるアイテムだ。

 何やら高尚なアイテムらしくて、ティーダにはその原理など欠片も理解できてはいないのだが……。

 アーロンはティーダにスフィア盤を渡しながら、そんなふうに説明をした。

 経験? 溜め込む?

 

 ――正直、何がどうやらって感じだった。

 

 ブリッツにどれだけ打ち込んでも、スフィア盤には経験が溜め込まれたようには見えない。

 

 ――そういえば、強化にはスフィアを填め込むとか言ってたっけ?

 

 填め込むと言われても、とティーダは首を傾げた。

 スフィア盤というのは手のひらに乗るような小さなスフィアだ。

 握り込んで起動させると盤面のような映像が中空に映し出される。

 数値は……いまだゼロ。

 始点から微動だにしていない。

 填め込む、というのはこの空白に填め込むのだろうか。

 とはいえ、どうやって?

 疑問は尽きなかった。

 アーロンに再度訊くと、魔物との戦いが経験として刻まれるらしい。

 そんな機会、いつ来るんだよ。ティーダは呆れながらぼやいた。

 

 ――来るわけないだろ、そんな日。

 

 しかし、それから一月も経過しないうちに、そんな日は訪れてしまうのだった。

 

――

 

 アルベド族のサルベージ船で、リュックは感心した声を上げる。

 

「へぇ~。君ってスフィア盤持ってるんだ。なんか意外かも!」

「えぇ?! そうなのか……? いや、俺も良く分からないんだけどさ。なんか変なやつに渡されたんだ」

 

 リュックはけらけらと笑っていた。

 どうにもスフィア盤というのは希少なものらしく、普通はそうそう人に渡したりはしないものらしい。

 

 ――そんなものを軽々と渡すなんて、アーロンのやつ何考えてるんだ?

 

 常日頃沸き上がるあの怪しげな男への何度目かも分からない不信感が首をもたげていた。

 とはいえ、それでも結局は信じてしまう辺り、ティーダは純真だったのかもしれない。

 あるいは、アーロンのティーダやジェクトへの真摯な態度が、そうさせたのかもしれないが……。

 

「でも、そのおかしな人に感謝だね。普通は魔物一匹でも手強いんだからさ!」

 

 確かにそうかもしれない。

 ここに来るまで何度も戦いの機会があった。

 剣がなければ、スフィア盤がなければ、ここまで生き延びることはできなかったかもしれない。

 ……感謝すべきなのかもしれない。

 

 ――……けど、なんか素直にありがたいって思えないんだよなぁ……。

 

 ティーダはどことなく居心地が悪くなって、頭をガシガシと掻いた。

 

――

 

 ――ビサイドでワッカと会ったときも、剣を褒めて貰えたっけ……?

 

「ほぉ~、あのスピードについてこれるか!」

 

 ワッカもティーダやリュックと同じく、スフィア盤を持っていた。

 この頃になると経験が溜まって、スフィアを填め込む回数も増えてきた。

 スフィア盤にスフィアを填め込む度に、ほんの少しだけ攻撃の威力が上がり、身体が軽くなったように感じられる。

 成長を実感できるというのは凄いのだが、同時に違和感も拭いきれない。

 

「なぁ、ワッカ。これってどういう仕組みで強くなれるんだ?」

「それはなぁ……」

 

 ワッカは難しい顔で空を仰いだ。

 

「昔な、えら~い学者さんが研究したそうだ。スフィア盤がどういう働きを持っていて、人体にどういう効果をもたらすかってな」

 

 神妙な顔つきで、ワッカは顎をさする。

 

「結論を言えば、俺たち自身が強くなってるわけじゃないんだと。スフィア盤そのものに支えられて俺たちは強くなってる。だから、スフィア盤との接続が切れれば俺たちは素人に戻っちまうそうなんだ」

 

 考えてみれば、その通りかも知れない。こんなふうに戦えるのは、やはり特別なことなんだ。

 スフィア盤がなくなれば、ティーダたちにはなんの特別な力もない。

 ただ、少しブリッツが上手いだけの少年でしかないのだろう。

 しかし、ワッカは俯いて声を落とした。

 

「けどな、不思議な話なんだけどよ。このスフィア盤、一度装備するとな。二度と接続が切れないらしいんだよ」

「は?」

 

 ティーダは思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「いやな、スフィア盤を手元から放したとしても、俺たちは弱くならないんだよ。身体能力は何も変わらない。勿論強化はできないがな。ついにはそのえら~い学者さんも接続の切り方が分からなかったらしい」

「……なんか、ちょっとしたホラーッスね」

「そッスね」

 

 そんなことを話して、ティーダたちは道を急ぐことにしたのだった。

 

――

 

 キーリカへと向かう階段の途中。

 ティーダはスフィア盤に関するそんな記憶を思い返していた。

 ユウナのガードになる。

 そうなれば、こうしてスフィア盤を使いこなして先へ進むことになるのだろう。

 元の世界へ帰る。その思いとは異なる道となる。

 回り道と言っても良い。

 けど、ルカへ行ったところで、きっと知り合いなどいないだろう。そんなことは自分が一番良く分かっている。

 だったら、それまで……。いや、それから……。

 ルカに一人取り残されたら……。そう考えると、少し怖くなった。

 だったら、ガードになるのも悪くない……かも。

 少しだけ、そんなふうに思うティーダだった。




ゲーム要素を小説にしてみる試みは嫌いじゃないです。
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