ファイナルファンタジーⅩ[SS]   作:水無 亘里

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Chapter08[アーロンの旅路]

 ザナルカンドを、シンが襲った。

 それはアーロンにとっても想定外のことだった。

 このままジェクトの忘れ形見を見守っていれば、それで良いと思っていた。

 それこそが自分の役割だと、そう考えていた。

 残された時間はそう使うべきなのだと、そう思っていた。

 

 幼いユウナはロンゾ族の青年に託してきた。

 キマリは信頼できる人物だ。短い付き合いだが、そう確信していた。

 だからこそ、アーロンはティーダを探した。

 シンに乗ってザナルカンドへ向かうというのも、生身の身体では不可能だっただろう。

 

 思えば、遠くへ来たものだ。アーロンは自嘲気味に思う。

 ジェクトとブラスカとアーロン、三人で旅をしたことは偶然だった。

 アルベド族を嫁に貰った召喚師。

 ザナルカンドから来たと自称する謎の旅人。

 出世の道を経たれた僧兵。

 奇妙な組み合わせの旅路には、きっと何らかの意味があった。

 ジェクトが究極召喚になったことも、ブラスカが究極召喚を使って死んだことも、無意味であったとは思いたくない。

 

 だが、そんな取り合わせだったからこそ、今の奇妙な偶然は起こっている。

 この三人でなかったなら、最期の戦いを挑むことはなかった。

 その最期の戦いがなければ、キマリと出会うこともなかった。

 キマリに会わなければユウナを託すこともなかった。

 死人にならなければ、ザナルカンドへ向かうことなどできなかった。

 そこでティーダに出会うこともなかっただろう。

 

 この状況は数奇な運命に導かれて、形作られている。

 もしそうであるならば……。

 アーロンは黙考せざるを得ない。

 自分に与えられた役割は何か。

 その答えは明白なほど分かりきっている。

 それは、過酷な道だろう。

 過酷な選択を強いることになる。

 かつての自分たちと同じように。

 もう一度、世界をそのものと対峙することになる。

 

 彼らはその重さを抱えきれるのだろうか。

 また、自分たちと同じ選択をすることになるのではなかろうか。

 不安は消えない。

 だが、それでも。

 答えは彼らが出さなければならない。

 何故ならアーロンは既に、生ある存在ではないのだから。

 

 この仮初めの命に意味があるとするならば、それは導き手としての役割だろう。

 彼らを終末まで導き、選択を委ねる。

 それこそが自分のやるべきことだ。

 

 アーロンは、懐かしきスピラの水平線を見据えて目を細める。

 生存は絶望的な状況ではあるが、あのジェクトの息子だ。

 悪運の強さは折り紙付きと言えよう。

 それにあのジェクトだ。

 シンになろうとも、破壊の権化に成り下がろうとも、無為に息子を死なせたりはすまい。

 ティーダは生きている。

 生きてスピラに辿り着いているはずだ。

 

 きっと口を開けば不満や文句を挙げるだろうが、あいつもそこまで馬鹿ではない。

 すぐに気づくはずだ。

 この世界の闇の存在に。

 そして……。

 

 アーロンは顔を上げる。

 巨大な広告スフィアに映し出される映像は、ブリッツボールの大会のものだ。

 

「これだけの餌があれば、簡単に釣れるだろう。なにせ、お前の息子だからな」

 

 アーロンは襟の内側で笑みを浮かべた。

 今は亡き友が肩を竦めるような姿が目蓋の裏に思い浮かんだ。

 そして、ティーダとの再会はその僅か三日後のことだった。




そろそろ更新が苦しくなってきました。

追記:配信のほうも止まってしまってますが、FF10の小説が思ってた以上に書きにくかったので、今後の更新(FF10SS)はないものと思ってください。
もし奇跡的にネタが思いついたら書きますので、その際はお付き合いいただければ幸いです。

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