ザナルカンドを、シンが襲った。
それはアーロンにとっても想定外のことだった。
このままジェクトの忘れ形見を見守っていれば、それで良いと思っていた。
それこそが自分の役割だと、そう考えていた。
残された時間はそう使うべきなのだと、そう思っていた。
幼いユウナはロンゾ族の青年に託してきた。
キマリは信頼できる人物だ。短い付き合いだが、そう確信していた。
だからこそ、アーロンはティーダを探した。
シンに乗ってザナルカンドへ向かうというのも、生身の身体では不可能だっただろう。
思えば、遠くへ来たものだ。アーロンは自嘲気味に思う。
ジェクトとブラスカとアーロン、三人で旅をしたことは偶然だった。
アルベド族を嫁に貰った召喚師。
ザナルカンドから来たと自称する謎の旅人。
出世の道を経たれた僧兵。
奇妙な組み合わせの旅路には、きっと何らかの意味があった。
ジェクトが究極召喚になったことも、ブラスカが究極召喚を使って死んだことも、無意味であったとは思いたくない。
だが、そんな取り合わせだったからこそ、今の奇妙な偶然は起こっている。
この三人でなかったなら、最期の戦いを挑むことはなかった。
その最期の戦いがなければ、キマリと出会うこともなかった。
キマリに会わなければユウナを託すこともなかった。
死人にならなければ、ザナルカンドへ向かうことなどできなかった。
そこでティーダに出会うこともなかっただろう。
この状況は数奇な運命に導かれて、形作られている。
もしそうであるならば……。
アーロンは黙考せざるを得ない。
自分に与えられた役割は何か。
その答えは明白なほど分かりきっている。
それは、過酷な道だろう。
過酷な選択を強いることになる。
かつての自分たちと同じように。
もう一度、世界をそのものと対峙することになる。
彼らはその重さを抱えきれるのだろうか。
また、自分たちと同じ選択をすることになるのではなかろうか。
不安は消えない。
だが、それでも。
答えは彼らが出さなければならない。
何故ならアーロンは既に、生ある存在ではないのだから。
この仮初めの命に意味があるとするならば、それは導き手としての役割だろう。
彼らを終末まで導き、選択を委ねる。
それこそが自分のやるべきことだ。
アーロンは、懐かしきスピラの水平線を見据えて目を細める。
生存は絶望的な状況ではあるが、あのジェクトの息子だ。
悪運の強さは折り紙付きと言えよう。
それにあのジェクトだ。
シンになろうとも、破壊の権化に成り下がろうとも、無為に息子を死なせたりはすまい。
ティーダは生きている。
生きてスピラに辿り着いているはずだ。
きっと口を開けば不満や文句を挙げるだろうが、あいつもそこまで馬鹿ではない。
すぐに気づくはずだ。
この世界の闇の存在に。
そして……。
アーロンは顔を上げる。
巨大な広告スフィアに映し出される映像は、ブリッツボールの大会のものだ。
「これだけの餌があれば、簡単に釣れるだろう。なにせ、お前の息子だからな」
アーロンは襟の内側で笑みを浮かべた。
今は亡き友が肩を竦めるような姿が目蓋の裏に思い浮かんだ。
そして、ティーダとの再会はその僅か三日後のことだった。
そろそろ更新が苦しくなってきました。
追記:配信のほうも止まってしまってますが、FF10の小説が思ってた以上に書きにくかったので、今後の更新(FF10SS)はないものと思ってください。
もし奇跡的にネタが思いついたら書きますので、その際はお付き合いいただければ幸いです。