アインズ魔導王の外戚 シース結晶公爵 作:すべすべ
ガイウス・ユリウス・カエサル
身体は闘争を求める。
それはユグドラシルだろうがこの異世界だろうがフロム患者にとって違いはない。
それは本来なら前線に出ることを忌避すべき魔法詠唱者であるシースにとっても例外はない。
求める物がKojimaであろうと暗い魂であろうと、穢れた血であろうとそんな事は微々たる違いなのだ。
人はなぜ争うのか。
それは本能、価値がある為に争うのではない。
屍山血河を築きあげた闘争の果てに得た物こそ価値があるのだ。
古竜に成り果ててなお、人はその人間性を捨てる事はできなかったのだ…
『元々、エ・ランテル近郊はゴウン魔導王の土地であり
更にボウロロープ伯の土地は魔導王の外戚、シース白竜公爵の領土でありこれについても正当な持ち主に返還されねばならない」
この宣言に対し、王国の王侯貴族の反応は馬鹿馬鹿しいと言うものが殆どだった。
「アインズ・ウール・ゴウンという名前はどこかで聞き覚えがありますなぁ、戦士長どの」
「しかしシース白竜公爵とは…また大仰な名前ですなぁ」
「なぁに、どうせ成り上がり貴族が金で買った爵位でしょう。
帝国を名乗っていても所詮は田舎者。
歴史も威厳もないなら、名前だけでも勇ましくしようという魂胆が見え見えですなぁ。
はっはっはっ!」
ドラゴンを紋章として使う事は帝国・王国の王侯貴族にとっては珍しくもなく
騎士団の名前にドラゴンがつくこともよくある。
なので称号にあっても不思議ではないが、まさか文字通りドラゴンが公爵だとは思わない。
もっともシース公爵にとっては人間とは実験動物以上でも以下でもないので領地なぞ全く欲しがってはいない。
例えていうなら、アフリカのおっきな蟻塚のある土地の権利書あげるよ!と言われるようなものである。どうしろと?
人間を材料にするにしても、実験材料に使うのに動物に許可を取る科学者がいるか?
だがただ一人、戦士長はこの流れに不安を覚えていた。
「恐れながら申し上げます。今回の戦争、例年の小競り合いで終わると考えてはなりません」
「その理由は?」
「はい、かの大魔法詠唱者。アインズ・ウール・ゴウンの存在です。
王よ、エ・ランテル近郊と彼らの求める領土をかのマジックキャスターと白竜公爵に差し出す事はできませんか?」
すると列席の中から怒りの声が上がる。
「馬鹿げた事だ!我が国の領土を差し出せだと?剣も交えずに領土を差し出すなど国家の指導者としてあってはならぬ事ですぞ!
ここに座す方々も同意見でしょう、このような図々しい帝国の要請など戦場で一刀両断にしてくれますぞ!」
例年なら自領安堵を優先して積極的に動かないボウロロープ伯が今や積極的に主戦論者になっていた。
ボウロロープ伯の娘はバルブロ王子の婚約者であり、このままいけば次期国王の外戚という関係になる。
そうなれば貴族派の中で存在感が飛び抜けた存在になる。
それを見越した貴族の取り巻きで今や貴族派閥の中心である。
とはいえ、そんなくだらない事はシースにとってみれば道端の犬の糞にも劣る事だが。
当然だろう、王の直轄領であるエ・ランテルならともかく自分の領土が取られてはもはや貴族ではいられない。
ジルクニフにしてみれば王国にはどうあっても一致団結・挙国一致とまでは行かなくとも主戦力を持ってこれる大貴族には全員で来てもらわねければならないのだ。
魔導王、そして白竜公爵。
どちらも人智を遥かに超えた圧倒的な力を持った化物。
勝てないにしても連中の力を少しでも削いでもらおう、そのようなジルクニフの計略に王国は乗せられていた。
だからこそのボウロロープ伯に対する侮蔑じみた領土要求であり、更には部屋住まいの外戚を外に出すことによって確執を生み出すための布石でもある。
人間と違ってドラゴンが領土や臣民に固執するかどうかは皇帝も知らないが、この世界のドラゴンには縄張りの概念があるので別に自分が損するわけではないのでと言う理由だろう。
アインズには『いや、公爵殿というからには彼にも治める領地があって然りという考えからだよ。ドラゴンについては無知なもので、何か至らぬ点があれば遠慮せずに言ってくれたまえ』
もちろん、全てを見通すモモンガ様はわかりきったように
『ふむ、特に無いな。君の策で良いだろう』(何もわかってない)
結局のところ、この王国の会議では返答をなるべく遅らせ戦端が開かれるのは二ヶ月後という決定のみである。
一方でシース公爵は配下のデミウルゴスから王国が二ヶ月後に戦端を開くという計画を聞き、ここにモモンガと戦術について話し合っていた。
「それでですね、ジルが言うには詳しい事は任せるって言うんですよ」
『さて?任せるならわざわざ二ヶ月も待つ必要はなかろう?
さて今から行って首都を直撃すれば良いだけの話…
領地など…我にとっては不要の長物…』
「えっ、やっぱシースさんもそう思います?
いやぁ、私もそう思って
『ああ、そんなに待つ必要はないぞ?
なんなら今すぐにでも行って終わらせてもいいぞ?(どやっ』
ってカッコつけて言っちゃったんですけどね。
まぁ多分向こうにもスケジュール調整とか他にやらなきゃいけない仕事の都合とかあると思うんであんまり急かせるのもどうかと思いましてね。
領地に関してはデミウルゴスやエルダーリッチに運営を任せとけば多分大丈夫ですよ」
『左様か。まぁ我に関してもそれならば二ヶ月後に試作品の実戦試験ができるのならば文句はない。
さて…軍団同士の激突ならば、貴公も軍の指揮というものを習う良い機会ではないかな?』
「えっ?いや別に超位魔法ぶっ放して後は特に考えてないんですけど」
『だが部下のコキュートスに軍団の指揮を学べと言うておいて
自らが兵の動かし方を知らぬでは示しがつくまい。
おそらくだが、ジルクニフもそこを考えて時間を作ったのではないかな?』
「ええー?二ヶ月後の試験に備えてテスト勉強ってことですか?」
『まぁ良い、その点はおいおい考えておけばいいだろう。
そんなことより新しい試作品ができた、見ていくが良い
貴公の感想も聞きたいのでな』
王国との戦争をそんなこと
そう言うと、公爵は前に捕らえたワーカーチームを素体にした様々な試作品をコロッセウムに展示すると行って出て行った。
ここにナザリック人間芸術展覧会が開催される運びとなり、階層守護者・メイド・各種の下僕すら招かれてシース公爵の試作芸術品の
『これは蠍人だ、この前の生きが良かった雄を改良してみた。
自我はほとんど消えているが、戦力としてはLv30程度相当にまで引き上がっているぞ』
「イミーナ…どこなんだ…そばに…俺は…イミーナ…イミーナ…
俺は何だ?イミーナ…?誰?なんなんだ?」
檻の中で虚ろな目でブツブツとかつて愛した女の名前を呟き続ける男。
だが記憶があるわけではない。
実験で壊れた時に残った自我のかけらを繰り返すだけの壊れたテープレコーダーのようなものでしかない。
そして何故かツルッパゲに禿げていた。
「ほう、これが先のナザリックに侵入してきた盗賊どもの成れの果てか。
ふむ?何故…その…スキンヘッドなんだ?」
『…実験時に剃った、何か?」
「あ、はい」
アインズは何か凄まじい物を感じて、これ以上の追求はいけないと直感した。
他にも冒涜的狂気的な様々な試作品が展示され、会場に訪れたナザリックの下僕達の目を大いに楽しませた。
特に悪魔族であるデミウルゴスとその配下達の公爵の作品に対する賛辞は一際図抜けていた。
「おお!なんという感性!流石は至高の御方!
モモンガ様、私は今はただ自分の浅はかさと知恵足らずを恥じる身…
ですがこれからも御方のご期待に応えて両脚羊などによる実験を閣下の足元にも及ばぬ浅才ながらアインズ様の為にお役立てる所存でございます」
「う…うむ、そうか。精進するが良いぞデミウルゴス
(実験?そういえばキメラを作ってたとか言ってたな)」
実験(冒涜的殺戮
精進(狂気山脈級
その結果アルベリオンにおけるデミウルゴスの実験も更に捗ることになる。
これまでの人間種を使っての実験があまりにも手緩かったと猛省した彼は更に大量の人間を切ったり貼ったりすることになる。
その他にも赤子を孕んだハーフエルフ妊婦は結晶を全身に継ぎ接ぎされ子宮以外の内臓がほぼ結晶と交換されていたり。
結晶を御神体、神の奇跡として崇め自らの肉体を抉って埋め込む事を至上の喜びとする信仰の神官。
その他のワーカーチームを再利用した各種クリスタルゴーレムや通常型のゴーレムなどが次々と展示されてくる。
「ほう、これは木製庭師ゴーレムか。
なるほど、農作業や鉱山仕事はともかくこういう細かい作業にはアンデッドよりこちらの方が向いているのか」
ゴーレムに関しては殺した人間の肉体を利用して製造している。
それではアンデッドでは?
様々な作品を観ては公爵閣下の芸術を賛辞し、このような作品に生まれ変われた人間への評価も上がっていた。
「人間なんぞ、ペット以外は何の役にも立たないゴミと考えておりんしたが。
流石は公爵閣下でありんす、どのような物にも芸術性を見出し昇華させる。
まっことお美事としか形容の仕方がございせん」
ナザリックの殆どの者は人間をこのように再評価した。
そんな風に公爵の作品を賛辞するなか、司会役の幼く元気の良いダークエルフの少女の声が響く。
「皆様、それではこれよりご覧に出ますのは公爵閣下の最新の作品!
ナザリックに侵入してきた愚か者ではありましたが、この度公爵閣下の芸術作品になるという望外な幸運に恵まれました!
それではご覧ください!アルシェ・スキュラです!」
そして現れたのは下半身がシースのような白い軟体の触手と化し、そこからは犬の頭が生えた
下半身怪物、上半身はサークレットで塞がれたアルシェの姿だった。
美しい。
下僕達が感じたのは並外れた美しさ。
そして同時に感じたのは嫉妬。
神の手により美しさを与えられた少女に彼らが感じたのは嫉妬でもあった。
いやこれは見当違いだろう、大理石に嫉妬する者などいないだろうに。
(ここ…どこ…私…私?誰?何も見えない、ウレイリカ…クーデリカ…?
妹?ああ、そうだ。私…もう人間じゃないんだ…
フォーサイト…皆んな…ごめんなさん、私のせいで
ウレイリカ…クーデリカ…ごめんね、駄目なお姉ちゃんでごめんね)
口からはひたすらごめんねごめんねと呟き続け啜り哭くスキュラの少女をナザリックの面々は愉快そうな顔をして鑑賞するのだった。
「あ、展示物にはお手を触れないでお願いしますね!」
地下の作り物の空の下での作品鑑賞会は和やかな雰囲気の元、シモベ達にも軽食や軽い飲み物などが立食形式で供され大いに楽しんだ。