仮面ライダージオウ【ANOTHER AKASHIC RECORDS】 作:レティス
ジオウに便乗してまた手を出しました。
では、どうぞ。
OP[Blow out]
この世には“魔術”という概念が存在する。“マナ”と呼ばれる魔術の源を使って起動する技術。その力が存在する世界。だが、“イレギュラー”も存在する。
「はああああっ!」
「でやあああっ!」
それは、“ベルト”を着けた戦士…“仮面ライダー”と呼ばれる存在だ。二人は同じデジタル時計を模したベルトを着けており、その左側には懐中時計が取り付けられている。仮面ライダーは正義の存在だ。世界を征服しようと企む悪の組織から平和を守るために戦う“ヒーロー”だ。
カキンッ! カキンッ!
バキュン!
だが、“二人のライダー”は違う。思想の違い故に互いにぶつかり、殺し合う。その戦いに絶対的な正義は存在しない。絶対的な悪も存在しない。お互いが相対的な敵でしかないのだ。
肉弾戦になると思えば、武器を扱った戦闘を繰り広げる二人のライダー。
「お前を殺せば……忌々しい未来を変えられる…!」
赤きライダーは言う。彼は未来を変えるために戦う。
「何言われようとも…俺は未来に向かって進む!」
黒きライダーは言う。彼は未来を生きるために戦う。
「「はあああああああああああ!!」」
二人のライダーは高く跳ぶと、互いに飛び蹴りを放った。二人のキックがぶつかり合い、エネルギーがほとばしる。やがて起こったエネルギー爆発が、二人を包み込んだ……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピピピピッ! ピピピピッ!
「う……うん……?」
俺は目覚まし時計のアラームで目を覚ました。体を起こし、右腕でタンスの上に置かれた目覚まし時計を止める。
「…また“あの夢”か…。」
俺の寝起きは毎朝悪い。原因は毎回見せられる“あの夢”だ。鎧を纏った二人の戦士が殺う夢…実に縁起が悪い。ただの悪夢ならそれで終わりだ。だけど、それじゃ終わらない。
「…二人共、やっぱりこの“時計”を着けてたな…。」
そう、よりによって俺が所持している時計が、夢に出てきた二人の戦士も身に付けていたからだ。この時計、俺達の世界には存在しないタイプだ。本来の時計は短い針と長い針で時間を指し示すものがほとんどだ。だけどこれは、発光する数字で時間を表す。しかも壁に立て掛ける必要がなく、タンスの上とかに置いておくだけでOKなコンパクトな造りだ。その割には時差は一切生じないし、大気中のマナを吸収してるか知らないけど壊れる事もないなど、いろんな意味でチートスペックだ。そしてもう一つ、その時計の両側には二人の戦士も取り付けていたのと同じ形状の懐中時計がある。左側には黒い戦士も取り付けていた白と黒、右側には赤と青のカラーリングの懐中時計がある。これはかなりコンパクトだし、鞄に入れて持ち運べる。おまけに充電みたいなのも大きい方の時計でできるから、俺にとっては便利だ。こんなレアな代物なんだ、聖遺物か何かだろう…それにしてはメカメカしいが。
「さて、そろそろ準備するか。」
俺はベッドから出ると、学院へ行く準備をする。寝起きは悪いが朝は早い方だ……ってか、遅刻したら同じクラスのアイツが喧しいからな…。
洗顔し、青を基調とした制服に着替え、教科書を詰めた鞄を持つ。今日の懐中時計は……白黒のやつにするか。
「よし、行くか。」
俺は支度を終えると、寮から出る。朝食は近くのカフェで取るか。
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カフェ『カイロスの庭』。俺の行きつけの店で、朝食をとる時や休みの日は大体ここに寄っている。学院に登校する道と重なってるし、メニューの価格もそんなに値は張らない。
俺は店の扉を開けて、店内に入る。
「いらっしゃい…あら、トーマ君じゃない。」
「おはよう、サクヤさん。」
この店の店主、サクヤさんが笑顔で挨拶してきた。翡翠色の長い髪が特徴な美人さんで、その温厚な人柄は街の人からも人気を集めている。俺もサクヤさんとは小さい頃からお世話になっている。サクヤさんといっても、断じて某神殺しやカ○ーミソではないからな?………おっと、俺の名前を紹介するの忘れてたな。俺の名前は“トーマ=ホロロギウム”だ。
俺は適当なところのカウンター席につくと、メニューを開く…といっても注文するのは大体決まってるけどな。
「いつものモーニングセットで。」
俺はサクヤさんにモーニングセットを頼む。このセットの内容はその日よって変わるけど、大体はトーストとハーブティー、それから日替わりのサラダがついてくる。
「はい、トーマ君。ご注文のモーニングセットよ。」
「どうも。」
数分待つと、サクヤさんがモーニングセットをテーブルに置いてくれた。今日のサラダはポテトサラダのようだ。
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「聞いて下さいよサクヤさん、今日ようやく非常勤講師の人が来てくれるらしいんですよ。」
「あら、そうなの?もしかして今まで自習続きだったの?」
「そうなんですよ。あのヒューイ先生が突然辞めて、俺達のクラスだけ授業についていけてないんですよ…こりゃテストが辛い。」
「仕方ないわ。魔術師を目指す者なら、四苦八苦は避けて通れないわよ。」
俺はサクヤさんと非常勤講師の話題を話す。二年生にあったある日、前任だったヒューイ先生が突然辞めてしまい、それからずっと自習が続いた。それ故に俺達のクラスは授業が間に合っていない。筆記なら何とかなるけど、実技は火の車待ったなしだ。
「そういえばトーマ君、学院はどうかしら?」
「うーん、俺はあんまり魔術は得意じゃないんですよね…使えない訳じゃないけど、略式詠唱というかなんというか…。」
「つまり“魔術のセンス”がないって事?」
「っ…それ言われるとキツい。」
俺は魔術はあんまり得意じゃない。使えない訳ではないけど、初等魔術の【ショック・ボルト】でさえ三節詠唱じゃないと使えない程だ。まあ、“ある系統”の魔術だけはその限りじゃないけど…。
「クラスの子達とはどうかしら?」
「編入当初から思ってたけど、真面目が多いですね。それでも上手くやり取りしてますよ。ただ…」
「ただ…?」
「一人だけハードル高いというか…厳し過ぎる子がいるかな?例の“ミスリルまみれのドSさん”が…。」
「へぇ~、誰が“ミスリルまみれのドSさん”ですって?」
「…え?」
突然背後から声が聞こえた。俺は恐る恐る後ろへ振り返る…
げ ん こ つ
「あ“あ“あ“あ“……!」
…や否や、辞書で思いきり頭部を叩かれた……ってか、これ絶対拳骨じゃねぇだろ!?完全に殺傷力MAXの辞書チョップだろこれ!?
「いきなり何すんだよ“システィーナ”!?」
「うるさいわね!大体アンタが変な事を口走るからいけないのよ!」
「お前はユーモアも効かないのかよ!?」
「“ミスリル”の時点で悪口にしか聞こえないわよ!」
朝っぱらから何故かいたシスティーナと口論した。銀髪ロングにけもみみもどきがある見た目は可憐な美少女。だが中身はというと、生真面目故にルールに厳しく、生徒達や講師達の間から、【真銀の妖精】、【講師泣かせのシスティーナ】なんて二つ名で呼ばれているガリ勉だ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。」
「あ、はい…。」
その口論をサクヤさんが止めてくれた。こんなみっともないことやって申し訳ないばかりだよ…客がいなかっただけ運が良かったよ。
俺は懐中時計で時間を確認する…7時52分か…まだ早いけど、余裕もっていくか。
「とりあえず、ご勘定。」
俺はそう言って代金をカウンターに置いた。
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「それにしても、なんでストレートに学院に向かわなかったんだ?今頃の時間なら、もう到着しても可笑しくないのに。」
「ちょっと忘れ物をしちゃってね…。ルミアには先に行かせて、私は屋敷に戻ってたのよ。」
「それで屋敷を往復のついでに俺を見掛けたって訳か…。」
道中、そんな下らない会話を交わしながら通学する俺とシスティーナ。システィーナが忘れ物なんて、珍しい事もあるんだな……ん?
「ん?…あれって、ルミアか?」
「え?」
通学の途中でルミアの姿を見つけた。金髪が特徴の美少女で、システィーナとは家族同然の付き合い…というか、実際に同居している。ルミアのその天使のような優しい性格は学院内の男子達から大好評だ。ちなみにこれは学院内の女子生徒全般に言える事だが、外界マナに対する親和性は女性の方が高いと言われているがために、女子生徒の制服はかなり際どい。とくにルミアの場合……おっと、これ以上はやめておこう。また辞書チョップなんてのはご勘弁だからな…。
さて、あの様子を見る限り、どうやら怪我したお爺さんを【ライフ・アップ】で癒したらしい。しかも燃えてるバケツを見ると、【ファイア・トーチ】まで使ったようだ。校則では、学院外での魔術の使用は原則禁止になっている。だからもし使ったら罰せられる…といっても、俺も急ぐ時は路地裏ルートでこっそり【グラビティ・コントロール】を使うから人の事は言えない。
「ルミアー!」
ルミアの姿を見かけたシスティーナは、手を振りながらルミアに声を掛けた。ルミアはお爺さんに一礼すると、俺達のもとへやってきた。
「あれ、トーマ君もいるんだ。おはよう。」
「おはよう、ルミア。」
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俺は基本的に一人で登校する事が多い。だけど今日という日は珍しく、システィーナとルミアの二人と一緒に登校する事になった。
「もう、ルミアったら律儀なんだから…先に行っててって言ったのに…。」
「そんな…お嬢様を置いて行ったら、しがない居候に過ぎない私は、旦那様と奥様に叱られてしまいますわ…。」
「冗談でも止めてよね?私達は家族なんだから。」
「あはは…ごめんね、システィ。」
仲良しで何よりである。実際にルミアはフィーベル家に引き取られた居候とは聞いているが、その経緯はわからない。
「それにしても珍しいね、システィが忘れ物だなんて…。」
「そのせいで屋敷を往復する羽目になったわ…。」
「ん?そういや、その“忘れ物”って?」
「これよ。」
そう言ってシスティーナが取り出したのが、“さっきの辞書”だ………ってそれお前、さっきチョップした際に使ってたよな!?忘れ物を凶器に使うんじゃねぇよ!?
「…。」
「…トーマ君…?」
「いや、何でもないさ。」
「う…うん……。」
青ざめた俺に苦笑いするしかないルミア。朝っぱらからグロい話をするのはよろしくない。
「まぁ、システィーナに隙が生じたのは、少なからず“アレ”が響いてるかもな…唐突な事だったし…。」
「もしかして、“ヒューイ先生”の事?」
「…かもね。」
俺達は未だに前任だったヒューイ先生の事を惜しんでいた。ヒューイ先生が行う授業は分かりやすく、魔術が苦手な俺にも親切に解説してくれたりと、とても素晴らしい講師だった。
「やっぱり残念でさ…ヒューイ先生、なんで講師を辞めちゃったんだろう?」
「仕方ないよ、ヒューイ先生にだって色々と都合があるんだし。」
「研究熱心な人だからな…どこかで魔術の研究に励んでいるだろうな。」
「そういえば、今日は代わりの人が非常勤講師としてやって来るみたいだね。」
「ああ、補習にならないぐらいの授業をしてれれば、俺はそれで満足だけどな…。」
「ヒューイ先生の半分でもいい授業をしてくれる事を期待するわ。」
「お前は相変わらずの過小評価だな…。」
ヒューイ先生から非常勤講師の話題へとシフトしながら学院までの道のりを歩く俺達………と、その時だった。
「やべぇぇぇぇぇ!遅刻だぁあああああああああああ!!」
突然、悲鳴にも似た声を叫びながら男性がダッシュしてきた。ボサボサの黒髪に白いカッターシャツ、白い手袋に黒ズボンというシンプルな容姿の青年が、仕事に遅れそうと血迷いながら職場へ急いでいる……ってこっち向かってきてねぇか!?
「そこをどけぇぇぇぇぇぇ!!ガキ共ぉぉぉぉぉぉ!」
「ええええっ!?」
「「きゃあっ!?」」
走り出したら急には止まれない。俺達も驚きのあまり硬直してしまう。
「お、『大いなる風よ』!」
咄嗟に動いたのはシスティーナ。一節詠唱で【ゲイル・ブロウ】を発動し、その吹き荒れる強風で青年を打ち上げた……って、高過ぎない?
「「「あっ…。」」」
「おっ、俺空飛んでるぅぅぅぅぅぅぅ!?」
いや、吹っ飛ばされてるだけですよ(汗)。
唐突な【ゲイル・ブロウ】で吹っ飛ばされた青年はそのまま近くの噴水に落下した。その際に飛び散った水飛沫が太陽に照らされ、虹を形成した…………って、高所から落ちて大丈夫なのか…?噴水とはいえ水位は浅いからな…。
「お前、魔術を放つのはやばいだろ…。」
「そうだよ、やり過ぎじゃないかな…?」
「そ、そうね……どうしよう…。」
撃った本人もどうしようか困っているご様子。システィーナよ、これでお前もワルだな。
そんな事はともかく、俺は噴水に落ちた青年を助けようとしたが、青年は自ら立ち上がって噴水から出た。い、意外と体が頑丈だったのか…?
「ふっ…君達、怪我はないかい?」
「いや、貴方の方が大丈夫ですか?」
青年は無駄にかっこいいポーズを決めながら言ってきた……けどすみません、ずぶ濡れが原因か知らないですけど悲しいくらい決まってないです。はい。
「あはは、道を急に飛び出したら危ないよ?」
「いや…急に飛び出してきたのは貴方だったような…。」
「だ、駄目だよシスティ!この人ばっかり責められないよ!システィだって、いきなり魔術を撃つなんて…一歩間違ったら大変な事になってたんだよ?」
「うっ………ごめんなさい。」
確かに飛び出してきたのは青年の方だが、今回ばかりはシスティーナに非がある。まず魔術を撃つなんて無礼以前に違反だし、噴水以外の所に落下したら最悪死だって有り得た。
「あの…本当にお怪我は無いんですか?」
「これでも、鍛えてますから。」シュッ
俺は恐る恐るもう一度怪我はないか確認したが、青年は清々しい表情を崩さず答えた………それも決まってないです。本当にすみません………けど、怪我が無くてホッとしたよ…。
「ほら、システィ。ちゃんとこの人に謝って。」
「うん。あの…本当にすみませんでした。どうかご無礼をお許し下さい。」
システィーナはルミアに促され、青年に謝罪した。すると青年は
「はんっ!全く親の顔が見てみたいね!一体お前はどういう教育を受けてんだ?あぁ?」
態度を大きくさせてシスティーナをまくし立てた。なんだこの掌返し…。
「…なんなのあれ…こっちが下手に出れば、途端にこの態度…。」
「システィ、抑えて抑えて。」
「ムカつくのは同情するけど、ぶっ飛ばしたこちらにも非がある…。」
「ううっ…。」
「本当に申し訳ありませんでした。私からも謝りますから、許してくださいませんか?」
「あの、もしよろしければこれをお使い下さい。」
青年の態度に若干引き気味だったルミアも謝罪し、俺はタオルを鞄から取り出し、それをお詫びとして渡した。
「ったく、仕方ないなぁ!俺はちっとも悪くてな、お前らが一方的に悪かったのは明確だけど、そこまで言うなら超特別に許してやらんでも………ん?」
青年は俺からタオルを乱暴に奪い取ると、体を拭きながら愚痴を溢し続けたが、ルミアを見た瞬間に愚痴を止め、おもむろにルミアに近付く。
「あの…私の顔に何かついてますか?」
「お前…どこかで…。」
青年は何かを思い出したかのように、ルミアに触り……
「アンタ、何やっとるかああああああああああああ!?」
「アバーーーーーッ!」
そしてシスティーナに蹴飛ばされた。こりゃ因果応報とか言いようがない。セクハラとか、そりゃ蹴飛ばされますって…。
「不用意にぶつかってくるのはまだいいとして、女の子の身体に無遠慮に触るなんて最っ低よ!」
「いやいやいや!俺はただ、学者の端くれとして、純粋な好奇心と探究心で「問答無用っ!!」あべしっ!」
更にシスティーナの拳が容赦なく青年の脇腹に突き刺さる!効果は抜群だ!
「ルミア、トーマ、この変態を警備官に突き出すわよ!」
「そ、それだけはマジでご勘弁下さい!」
さっきの態度はとうに消えたか、俺達のもとで土下座という情けない無様を晒した青年。
「まぁ落ち着けってシスティーナ、今回は大目に見てやったら?痛み分けって言うのも何だけど。」
「反省はしてるみたいだし、許してあげようよ。」
「本気なの?…はぁ、ルミアもトーマも、本当に甘いんだから。」
「ありがとうございます!この恩、一生忘れません!」
この話を聞いて、青年は感謝の言葉を述べた。本当にこの人切り替え早いな…。
「それより、見た感じ魔術学院の生徒だろう?今何時だと思ってる?急がないと遅刻するぞ?」
すると青年は俺達の服装を見て、急がないと遅刻するぞと言ってきた。
「遅刻…ですか?」
「授業開始は8時40分からだから、まだ余裕で間に合う時間帯じゃない。」
「そんな訳ねぇだろ!?もう8時半過ぎてるぞ!?」
「ちょっと時計いいですか?」
「あぁ…。」
俺は青年から時計を拝借すると、白黒の懐中時計を取り出して時間を比較してみる。青年の時計は8時半過ぎを指しているのに対し、俺の時計は針と光る数字が同じように8時丁度を示していた。あー、やっぱりか。
「これ、30分以上進んでますね。」
俺は青年の時計に時差が生じている事を伝えた。まだ時間に余裕があると理解した青年は…
「テッシュートになりますっ!!」
「「逃げたーっ!?」」
スー○ーヒ○シ君を没収されるのかは知らないけど、青年は素早く俺から懐中時計を奪い返すと、そのまま一目散に逃げ出した。その際「あの女、時計の針ずらしやがったなぁぁぁぁ!?」と聞こえたのは気のせいだ、多分。
「…何なの、あの人?」
「さぁ…?」
「でも、面白い人だったよね。」
「あれ面白いのか…?」
「面白いを通り越してダメでしょ…出来ればあの男には二度と会いたくないわね…。」
先程の青年に悪評を付けるシスティーナ。
「まぁ、“一期一会”だし、気にする事はないと思うぜ。」
「そうね。いつまでも気にしても仕方ないもんね。」
俺達は気分を入れ替えて、再び学院までの道のりを歩き出す。あの青年とは一期一会……この時の俺達は、そう思っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…遅いっ!」
システィーナの怒りの声が教室内に響いた。俺達は学院に着き、教室に入って席についた。そして“アルフォネア教授”のホームルームで『優秀な非常勤講師が今日このクラスに来る。』という話を聞いた。ここまではいいとして、何故こんなにシスティーナが怒り心頭なのか。その理由は簡単。
「もう授業開始時間とっくに過ぎてるじゃない!どういう事なのよ!?」
「確かにちょっと変だよね…何かあったのかな?」
そう、例の非常勤講師が未だに来ていないのが原因だ。ホームルームから早一時間経過して尚、非常勤講師が来る様子もない。他のクラスはとっくに授業中だというのに…。
「あのアルフォネア教授が推す人だから少しでも期待してみれば…これはダメそうね。」
「そう決めつけるのはまだ早いんじゃないかな?何か理由があって遅れているだけもしれないし…。」
「甘いわよ、ルミア。どんな理由があれ、優秀な人物が遅刻するなんて絶対に有り得ないんだから。」
システィーナはそう言った。ここ、アルザーノ魔術学院に集まる生徒は概ね真面目さんが多い。遅刻欠席などもっての他だ。
さて、非常勤講師を待つ中、俺はこの暇な時間何してるのかというと…
「よし…ここは、これでいいか。」
「?…トーマ君は何してるの?」
「ん?“時計修理”。」
俺は壊れた時計を修理しながらルミアの質問に答えた。俺はある日、時計屋のおやっさんから懐中時計の修理を依頼され、その際に「暇な時間があれば直せ。」と言われた。だから非常勤講師が来ない合間に時計を直している。
「この前、バイトで時計屋行ったら「時間見つけて懐中時計直せ」って言われてね。」
「それって、今やる事なのかな?」
「おやっさんなら無茶苦茶言いかねないよ…「それか修理し終えた時計を“コップ一杯の水を一滴も溢さず配達するか”のどちらかにしろ。」とも言うくらいだからな。」
「それ、“時計”屋なの…?」
「俺でもあの発言は“豆腐”屋の間違いだと思った。」
おやっさんの無茶話を愚痴りながら俺は時計を修理する。何処の誰が馬車で荷重移動なんて出来るんだよ…。
それは置いといて、俺は懐中時計の内部を直してカバーを閉じた後、俺の白黒の懐中時計と見比べて針が動いているかどうか、示している時間が一緒かどうか確認する…………よし、正常に動いてるし、時間もぴったしだ。
「よし、一つ目終りょ「ちょっとトーマ!」…はいっ!?」
「アンタ何やってるのよ!?」
「み、見て分かるだろ?時計修理だよ。」
「ここへ来て今やる事なのかしら?」
「仕方ないだろ?まだ臨時の講師が来てないし、バイト先からも無茶言われてこれだし…まぁ居眠りよりは断然マシじゃないか?」
「同じよ!」
時計修理をシスティーナに見られて説教される俺。流石“説教女神”と呼ばれるだけある…俺はただ時間を有効活用しただけなのに……なんでさ。
「システィ、その辺にしておこうよ。トーマ君だって色々と忙しいんだから。」
「いいえ、こういうのはきっちり言っておかないと。トーマにはアルザーノ帝国魔術学院の生徒としての自覚が足りないんだから。」
「学業と時計修理を兼ねなきゃならないこっちの身にもなってくれよ…。」
俺は基本的に小さい頃から独り暮らしをしている。もちろん、全て自給自足という訳ではなく、俺に援助を申し出てくれたダイキさんが定期的に援助をしてくれる…けど最近連絡が一切来ない。だから現在もおやっさんのもとで時計修理のバイトを続けて生活費と授業料を稼いでいる。俺だって色々忙しいのに生徒としての自覚がないとか失敬だなオイ。俺がシスティーナから説教を受けていると、廊下の方から誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「おっ、やっと来たぞ。」
「え?」
俺はようやく非常勤講師が到着したと悟ると、工具と時計を仕舞って教科書を出す。足音は大きくなり、そして教室の扉が開かれた………って、あれ?
「悪ぃ悪ぃ、遅れたわ。」
教材を持って現れた非常勤講師、だがその格好は、ずぶ濡れで所々擦りきれてる酷い有り様。非常勤講師の正体、それは俺とシスティーナ、ルミアが先程会った“あの青年”だったのだ。
「あ、ああーーっ!貴方は!」
「人違いです。この世にはそっくりさんが二、三人いるんです。」
「貴方みたいなそっくりさんがいますか!」
システィーナの怒涛のツッコミ。教材を持っているのを見る限り、あの人が講師で間違いないようだ。
「えー、グレン=レーダスです。本日から一ヶ月間、生徒諸君の手助けをさせて頂くつもりです。短い間ですが、これから一生懸命頑張っていきま…」
「挨拶はいいですから、早く授業を始めてくれませんか?」
「そうだったな…かったるいけど始めるか…仕事だしな…。」
非常勤講師の名はグレンというらしい。自己紹介をするが、それを遮ってシスティーナが授業を始めるよう催促した。もう開始時間から一時間以上経とうとしてる中、グレン先生は素丸出しで呟いた。
「じゃあ早速始めるぞ。一限目は魔術基礎理論IIだったな…。」
グレン先生は欠伸をかみ殺すと、チョークを手にスラスラと黒板に書き始める。『優秀』という前評判が経っていたグレン先生。その授業の腕前はいかほどのものか……。
“自 習”
「……え?」
誰が声を漏らしたかは知らないが、黒板に大きく書かれた文字、それは『自習』に二文字だけだった。
「えー、本日の一限目の授業は自習にしま~す…眠いから。」
「「「「「「…」」」」」」
突然の自習宣言、赴任早々授業をボイコットするというまさかの行動に、俺達は絶句する……
「って、ちょっと待てぇえええええええええええええええええ!!!」
その沈黙を我らが怒りの代弁者、システィーナが破り、辞書を片手にグレン先生に突撃していった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
グレン先生のダメっぷりは最初からクライマックスの一言だった。システィーナに辞書チョップを喰らって授業を再開と思ったら、説明はいい加減で、質問にもまともに答えないという有り様だ。ちなみに二限目は本来、錬金術の授業があったはずなのだが、“何故か”中止になった。
そして昼休み、俺は食堂に向かい、食べたい物を一通り注文する。ここの食堂、メニューが豊富で美味しい物が勢揃いだが、稀に一癖も二癖もあるメニューが出てくる場合がある。去年の夏に出てきた“冷製トロピカル・ラ・メーン”や冬の“オゾウニカレー”がそれだ。あれを考えた奴は頭がヤベーイ!
数秒待ち、木製のトレイに料理が置かれた。俺は給士の方に代金を払うと、料理の置かれたトレイを持って空いている席を探す。さーて、どこに座るか…。
俺が空いている席を探していると、システィーナとルミアの二人が食事しているのを見つけた。あのテーブルにはあと二人程座れるスペースがある。俺はいつもならカッシュ達のいるテーブルに座るところだが、生憎今日はそこは定員オーバー。こんな大人数だと他に空きが無さそうだ…よし、行くか。
「ここ座っていいかな?他に探したけど空きが無くて…。」
「ええ、いいわよ。」
「いいよ、一緒に食べよう。」
二人に許可をもらい、俺はルミアの隣に座る。視線(特に男子勢)が痛いが、気にせず食を進める。分かってるさ……この二人と食事する事が色んな意味で高嶺の花なのは分かってるさ…。
「それにしても、グレン先生の授業はロクなもんじゃないよな…ただでさえ魔術が苦手な俺にとっては、後のテストが心配でならないよ。」
「本当そうよ。さっきの時間だって、男として最悪な行為をしてたからね。」
「あれはビックリしたよね…。」
「えっと…何があった?」
システィーナとルミアの言葉に俺は思わず首をかしげる。
「あいつ、何の躊躇いもなく“女子更衣室に入ってきた”のよ。」
「え…。」
「グレン先生は昔と場所が入れ替わってたって言ってたけどね。」
「いやちょっと待て、まさか二限目の錬金術が中止になった原因って…。」
「まさしく“それ”よ。」
「いやアホ過ぎるだろ。」
ラッキースケベで授業中止ってそんな事あるの…?錬金術は薬品使うから制服から実習服に着替える必要あるけど、その際に更衣室を間違えるって…。
俺は二人から聞いた事実に苦笑いするしかなかった。すると
「おっ、噂をすれば。」
「失礼。」
「あ…貴方は…!」
「いや、人違いです。」
俺達がグレン先生の噂をしていると、その本人がやってきて、システィーナの隣に座った。グレン先生の顔にはあちこちに絆創膏が貼られており、先程の話が真実だった事を知った。ちなみにトレイには大量の料理が置かれており、どれも大盛り……食べきれるのかこれ?俺だってそんな量は食べれないぞ……これを完食できるのは沢山入る“ブラックホール”を備えている胃袋を持つ者だけだ。
「うめぇ~…なんつーか、この大雑把さが実に帝国式だよなぁ…。」
「あの、先生って食べるの好きなんですか?」
「ああ、食事は俺の中で数少ない娯楽の一つだからな…。」
「…ってか、この量を昼休みまでに食べれますか?」
「ああ、こう見えて健啖家だからな……えっと、お前は…。」
「トーマ=ホロロギウムです。」
「へぇ…変わった名前だな…特に苗字は。」
「俺に援助してくれた人が、“時計”にちなんで付けてくれたんですよ。」
俺の苗字はダイキさんが付けてくれたものだ。ホロロギウムっていう苗字は、ダイキさん曰く「“時計の星座”」から取ったものらしい。まぁ、俺も時計修理ができるからベストマッチしてるとは思っている。
「その炒め物、凄く美味しそうですね。」
「おっ、分かるか?この時期学院にキルアの新豆が入るんだ。香りがいいから、食べるなら今が旬だぜ。」
ルミアの質問にグレン先生が答えた。ただの質より量派の大食いかと思ったら、意外とグルメな一面があるようだ。グレン先生はルミアに、キルア豆の炒め物を食べてみろと勧め、ルミアはそれをスプーン一杯分すくって口に含んだ。
「キルア豆って、何かと料理に応用しやすいですよね。シンプルに炒め物にしたり、他の野菜と一緒に煮込んでスープにしたりとか。」
「トーマって言ったか、その話を聞く限り、お前は料理出来るのか?」
「一人暮らしが長いと、自然と料理スキルが身に付いてくるものなんですよ。」
「そうなんだ。実は私も料理は練習してるけど、あんまり上手く出来なくて…。」
「まぁ、積み重ねは大事だよ。俺なんて最初の頃は魚を炭にしちゃった事があったし。」
そんな感じで話が弾んでいく中、俺はふとシスティーナの方を向くが、当の本人はグレン先生が来てからずっと重苦しい空気を放ちながら沈黙を決め込んでいるようだ。
「お前、それだけで足りるのか?もっと食わねぇと大きくなれねぇぞ?」
「余計なお世話です。私は午後の授業が眠くなるから、昼はそんなに食べないだけです。まぁ、先生には無関係な事ですけど。」
システィーナはグレン先生に対し、若干挑発的な態度を取って言った。眠くなるからっていっても、流石にジャムを薄く塗ったスコーン二つだけじゃ確かに足りないだろ…。
「回りくどいな…言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」
「…分かりました。この際はっきりと言わせてもらいます。私は……」
「あぁ分かった分かった。降参だ。まさかここまで思い詰めていたとは予想外だ…俺の負けだ。」
グレン先生はシスティーナの言葉を待たず、両手を挙げて降参した。そしてグレン先生はキルア豆をスプーンで一粒すくい、それをシスティーナの皿に乗せた。
「お前も食いたいんだろ?“そんなに沢山あるんだから少しくらい分けろ”、だろ?まぁ、俺だって栄養失調で倒れられたら気分悪いからな、これは奢りだ。」
「ち、違いますっ!私が言いたいのはそんなんじゃなくて…!」
グレン先生の勘違いに屈辱感を募らせたシスティーナが論破しようとするが…
「代わりにそっちも少し寄越せ。」
そう言ってグレン先生はシスティーナの皿に乗っているスコーンの内一つをフォークで刺し、そのまま平らげてしまった。
「ああーーっ!?何、勝手に取ってるのよ!?」
「まぁ、“等価交換”ってやつ?」
「何処が“等価”なのよ!?もう許さないんだから!ちょっとそこに直りなさい!!」
「ちょっ!?暴力反対!暴力反対!」
ついに怒りが有頂天になったシスティーナが、グレン先生とフォークでチャンバラするという事態になってしまった。はぁ…グレン先生、これはフォロー出来ないからな。明らかに矛盾した発言だし、勘違いがなぁ…。
「あはは……これ、どうしよう?」
「はぁ…もう好きにやらせちゃえばいいんじゃない?“アレ”はひとまず置いといて食事を楽しもうぜ。」
「そ、そうだね…。」
チャンバラの光景を見て苦笑いのルミア、呆れた表情になる俺。カトラリーでチャンバラするのはいいけど、周りの視線は考えてくれよ…。
俺はライ麦パンを皿に置くと、次は地鶏の香草焼きを食べようとフォークに手を伸ばそうとするが
「…あれ?俺のフォークがない。」
「もしかして、地面に落としたの?」
「いや、ずっとここに置いてあったはずだけど…。」
俺のフォークがトレイから消えていた。ルミアの言葉を聞いて一旦足下も確認したが、やっぱりない。あれおかしいな……確かにサラダを食べてた時はあったのに……………………ん?
「なははははは!どうだ、これで二刀流だぁ!」
「なっ!?貴方卑怯よ!」
「卑怯なぞ知った事かぁぁぁぁあっはっはっはっ!」
俺は二人に視線を向けると、グレン先生の左手に俺のフォークが握られていた……
ブチッ☆
この光景を見て、俺の中で“キレ”てはいけないものが“キレ”た。俺は一旦席から立つと、向かい側に座っているグレン先生のもとへ近寄る。
「グレン先生…。」
「ん?どうし…」
「喧嘩しようが勝手だけどよぉ…食事の邪魔をすんなぁぁぁぁ!!」
グサッ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!
俺はグレン先生に怒号を浴びせながら親指をグレン先生の“首の右側”に突き指した。その際、変な笑い声みたいな雑音が響いた。
「ぶっはっはっはっはっ!w…おま、トーマw…何をしたんだっはっはっはっ…!」
ツボを押されたグレン先生は突如として大爆笑。左手のフォークを手放した。俺はフォークをキャッチすると、自分が座ってた場所に戻る。
「えっ…どうなってるの?」
「ちょっとトーマ、今何したの?」
「ああ、ちょっと“ツボ”を押しただけ。」
「“ツボ” を押しただけで笑わせるって…。どこでそんな技を身に付けたのよ…?」
「俺が最初にやったバイトがマッサージのバイトでさ、その時に偶然首の横側を揉みほぐしたら、突然マッサージ受けた人が爆笑しちゃったエピソードがあるんだ。俺はこれを【笑いのツボ】って呼んでる。」
「「わ、【笑いのツボ】…。」」
「っはっはっはっはっ…!それ、ある意味“
未だ笑い続けるグレン先生が【笑いのツボ】を“
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授業という名の自習が一通り終わり、俺は学院から下校してある場所に向かっている。しばらく歩くと、馬小屋が隣に立てられた一軒屋の店が見えてきた。
時計屋『アキレス時計店』。俺のバイト先で、時計の売買や修理、そして馬車による配達を行っている時計屋だ。一般市民から貴族まで、あらゆる階層の人達が利用しているため、隠れた有名所だ。
現在俺は時計を修理、おやっさんこと“ベルモンド・アキレス”さんは貴族から依頼された時計の製作を行っている。
「ところで、お前のクラスようやく非常勤の講師来たんだって?」
「ああ…けど、はっきり行って酷いぞ。遅刻上等に授業を逆ボイコット。おまけにラッキースケベときた。」
「それはとてつもないナマケモノだな…。」
「これじゃ、後のテストは赤字かな…。」
俺はグレン先生の挙行を愚痴りながらおやっさんと会話する。
「その講師、なんて名前だ?」
「確か…グレンって名前だった。」
「“グレン”……懐かしいな。」
「え?」
「あいつとは昔、“仕事”をした事がある。昔は暗い奴だったのに、随分と陽気になったもんだ…。」
おやっさんは昔の話を語った。グレン先生と“仕事”したことがある……?そういや、グレン先生って昔は何してたんだろうか…?
ED[GHOST]
作者「ついに始まりました、ジオウとロクアカのコラボ!」
トーマ「唐突なスタートだよね…。」
グレン「前作だったら予告を流してたのにな。」
システィーナ「て言うか、このトークルーム、アニメ版の予告とほぼ一緒じゃない。」
作者「まぁ過去作みたく固苦しく次回予告するのも何ですし……一応シリアス回は普通に予告だけどね。」
トーマ「それ以外ではろくに予告せずこんなトークルームか。」
ルミア「でもいいんじゃないかな?こうしてトークすると気分もすっきりするし。」
トーマ「そう上手く作者が書いてくれるかどうか…どう思う?」
グレン「つまらないに一票。」
システィーナ「真面目にやってに一票。」
ルミア「期待してるけど期待してないに一票かな?」
トーマ「という訳で、満場一致で作者には何の期待もしてないから、これからも頑張れ。」(棒)
作者「いじられは俺の宿命か(涙)…あ、次回、[TOP GEARが掛かり始める]。」
NEXT→ [TOP GEARが掛かり始める]
全員「「「「「お楽しみに!」」」」」