仮面ライダージオウ【ANOTHER AKASHIC RECORDS】   作:レティス

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かなり遅くなってしまい、申し訳ありません!学校とか何やらで多忙でしたので…。
それではどうぞ!

OP[Blow out]


BE THE ONE

~トーマ視点~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は一旦医務室に着くと、そこでグレン先生の治癒を行う。システィーナが【ライフ・アップ】をかけている間に、俺はグレン先生の体に包帯を巻く。グレン先生を保健室に運ぶ時や治療を行っている時の影響で、俺の体中はあちこち血で汚れている。もちろん、俺の場合もリドリーとレイクとの戦いで、体中に傷を負っている。グレン先生の治療を行った後、俺はシスティーナから【ライフ・アップ】による治療を受けた。

 

「ねぇトーマ、さっき使ったあの“時計”は一体何なの?」

「分からない。少なくとも、グレン先生が持ってるタロットと同じく魔導器だと思う。あれは小さい頃から持ってたけど。」

「小さい頃から…?けどそんな魔導器見たことないわよ。」

 

俺はシスティーナにジクウドライバーやライドウォッチについて尋ねられた。あの時、皆を守る力だと豪語したが、ジオウが魔術とは異なる力であることは俺も分かっていた。深くは理解してないとはいえ、無言を貫き通す訳にはいかない。生真面目なシスティーナ相手なら、尚更だ。

 

「俺だってさっぱり分からない…普段は“時計”として使ってたのに、まさかこんな力があったなんて…。」

「じゃあ、どうやって使い方を覚えたのよ?」

 

俺はシスティーナにドライバーの使用方法を問い詰められながら、椅子の上に置いてあるジクウドライバーとライドウォッチに目を向ける。

 

「毎回夢で見るんだ…あれを身に付けて戦う人達の夢…そして一方的に蹂躙を行う人の夢を……“あの悪夢”から俺は使い方を知ったんだ。」

 

俺は悪夢の内容を思い出しながら呟いた。ジオウが“赤いライダー”と戦う悪夢、そしてジオウに酷似した“黄金の魔王”が一方的に蹂躙する悪夢…。悪夢の内容が現実に出てきたなんて誰が予知したか…。

 

「言ってる意味がよく分からないわよ…。悪夢から使い方を知るなんて…。」

「俺もまだ詳しくは理解出来てない。けど一つだけ確信するなら、あれが無かったら俺は今頃生きてはいないと思う。」

「…。」

 

ドライバーとウォッチはお守りだった…今の俺はそう確信できた。システィーナはまだ納得してはいないだろうが、俺が回答できるのはこれが限界だ。

俺は立ち上がると、椅子にドライバーとウォッチを手にする。

 

「俺はここを見張ってる。システィーナはグレン先生に【ライフ・アップ】を。」

「…分かったわ。」

 

俺はシスティーナにグレン先生の治療をお願いすると、保健室の外に出る。俺もまだ完全に癒えきってはいないが、俺よりもグレン先生の方がダメージが大きい。二人が動けない間にテロリストが襲ってきたらまずい。グレン先生の傷が癒えるまでは警備をしてた方がいい。

俺はジクウドライバーを装着し、何時でも変身できるようにしておく。辺りを見張っている間、保健室から二人の話声が聞こえてきた。テロリストが来る気配がないとはいえ、油断はできなかったため、会話の内容は頭に入らなかった…けど、これだけは聞こえた…“正義の魔法使いになりたかった”というグレン先生の呟きだけは。俺は魔術はあまり得意じゃないし、“魔法”はそもそも大昔の概念だ……だけど、皆を守る正義のヒーローになることはできる…だから、正義のヒーローになってみせる…皆と、そう約束したから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから数時間経過したが、一向にテロリストが襲ってくる気配はなかったため、俺は一旦保健室に戻ってきた。グレン先生はもちろん、システィーナも寝ている。【ライフ・アップ】を使い続けたためか、システィーナにも疲労が溜まっていたようだ。

それにしても、ルミアは一体何処に拘束されているんだ…?【スクウェア・ソナー】を使っても、ルミアの姿は見当たらなかった…もしかしたら、校舎ではなく別の施設に囚われている可能性がある……何処だ?改変された結界の影響で外には出られないはず…テロリスト達は例外かもしれないけど…。

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ!

 

 

 

 

 

 

 

突然、グレン先生の懐から着信音が聞こえた。俺はグレン先生の懐から一個の宝石を取り出す。この宝石から着信音が鳴っている事から、これが通信用の魔導器なのだろう。俺はそれに魔力を流す。

 

『グレン、聞こえるか!?』

 

どうやら通信相手はアルフォネア教授のようだ。グレン先生を呼んでいるが、グレン先生は寝ている。無理に起こすのは身体に障るし、ここは俺が出よう。

 

「アルフォネア教授ですか?」

『…誰だ?』

「二年のトーマ=ホロロギウムです。」

『トーマか……グレンはどうした?』

「今、保健室で治療を受けてます。テロリストとの戦いで怪我を負ったので…。」

『…そうか…。』

 

負傷しているグレン先生の代わりに、俺がアルフォネア教授と通話する。テロリスト襲撃の報告を受けたために、慌てた様子だ。

 

『グレンが目覚めたら伝えてほしい。奴に頼まれた件だが、点呼を取ってみたものの不自然に姿を消したような者は一人もいなかった。』

「つまり、職員の中に裏切り者はいないと…………けどそうとは限らないですよね?」

『ああ、結界の術式の情報を流して、後は実行犯に任せるって手もある。全員がまだ白って確信できた訳じゃない。』

 

アルフォネア教授が言うには、魔術学会の最中に姿を眩ました者はいないらしい。とはいえ、こうも学院の結界が突破・改変された以上、何者かが情報をテロリストに流出した可能性も否定できない。

 

『それと、時間はかかるだろうが、軍の奴らがようやく腰を上げてくれたよ。今、宮廷魔導師団のそちらの支部が対テロ用部隊を編成してそちらに向かわせている。』

「そうですか…。」

『私もそっちに行ければよかったのだが…案の定、学院の法陣は潰されてたよ。あれ相当の金と時間と素材が必要なんだぞ、全く…。』

 

対テロ部隊もようやく動き出したようだが、やはりというか、転送用の法陣は潰されたらしい。アルフォネア教授がここに来れば全て解決できるのだが、テロリストも馬鹿ではない。アルフォネア教授は法陣を潰された事に愚痴を溢した……なんか、その辺は何処となくグレン先生と雰囲気が似てるな…。

 

『それから、帝都のモノリス型魔導演算器から魔力回線を通してそっちの結界を調べてみたんだが、妙な事が分かったんだ。』

「妙な事…?」

『外からは特別な術式を刻むか、呪文を唱えれば入れるが、内部からは一切出られないようになっている。』

 

内部からは一切出られない…?つまりそれはテロリストも同じくだよな…学院の結界を改変できる空間系統に優れた者がどうしてこんな欠陥を残したか分からない。テロリスト側は何かしら脱出手段を用意してると思ったけど、結界の改変が確かならその手段は皆無か…でも目的は何だ…?ルミアを連れ去ったとはいえ、自分達も出られないような結界の中で何するつもりだ?俺達がテロリストを無力化した以上、今更奴らが対テロ部隊と殺り合うなんて考えられない………まさか…

 

「考えられるとしたら…“自爆”…?」

『確かに考えられなくもないが、それなら人質を取る意味がない。』

 

テロリストの狙いが結界内…学院の自爆だと推測したが、自爆が目的ならルミアを連れ去った意味がない。おまけに未だルミアも見つかっていない。校舎にはいない、結界から出られないとすれば、後は地下…もしくはあの“白亜の塔”………ん、待てよ?そういえば白亜の塔には“転送法陣”があったよな…そして学院の結界を弄れる者は、それこそ学院関係者。“講師だった人”も含むとしたら………!

 

「…アルフォネア教授、聞きたい事があるんです。」

『何だ?』

「あの人は…“ヒューイ先生”は本当に講師を辞めただけなんですか?」

『!?…お前、まさか奴の事を疑っているのか?』

「ヒューイ先生が空間系魔術に優れているのは知ってます。以前、個別で魔術を教わった事がありますから…。」

『確かに奴は空間系魔術の専門家だが…。』

「それを前提に聞きます。ヒューイ先生は、“本当に”講師を辞めただけなんですか?」

『…それは表向きの理由だ。生徒達を心配させないためのな。本当は“理由不明の失踪”だ。』

 

俺はアルフォネア教授からヒューイ先生が講師を辞めた本当の事実を聞き出した。空間系魔術に優れるヒューイ先生、理由不明の失踪、連れ去られたルミア、内側からは絶対出られない結界、そして転送塔……………………

 

「繋がった…!」

 

俺はある結論に至ると、宝石を置いてすぐに転送塔で向かおうとする。宝石からはアルフォネア教授が俺を呼び止めようとしているが、構っていられない。

 

「待て、トーマ…。」

 

すると、今度はグレン先生が俺を呼び止めた。どうやら話し声を聞いて再び目が覚めたようだ。何かメモをしたのか、近くの机に紙とペンが置かれていた。

 

『グレン、目が覚めたのか!今すぐトーマを止め…』

「どうせ止めても行くんだろ?……これを持ってけ。お前がこれを使えるか知らねぇけど…。」

 

そう言ってグレン先生は俺にメモを渡してきた。それには何かの呪文の詠唱が書かれていた。

 

 

 

『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし』

 

 

 

「これは…【イレイズ】…?」

「少なくとも、役に立つはずだ…。」

 

それは魔術を解呪する際に行う黒魔儀【イレイズ】の呪文だった。恐らく解呪作業が必要な事を暗示しているのだろう…。

 

「…行ってこい。」

「…はい!」

 

グレン先生に背中を押された俺はメモを懐に仕舞うと、保健室から出てすぐに転送塔へ駆け出す。俺は全力疾走の中でジオウウォッチを取り出す。

 

『ジオウ!』

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

俺はジオウに変身すると、校舎から出てすぐにライドストライカーを起動し、アクセル全開で転送塔へ向かう。

 

 

 

 

 

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塔へ続く最後の並木道には、防衛用のガーディアン・ゴーレムが集結していた。

 

「やっぱりここか。」

 

俺はライドストライカーから降りると、ウォッチ状態に戻して左腕に取り付ける。

このゴーレム達は普段はバラバラになって同化しているが、異常事態になると巨人を模した姿になって排除にかかる。やはりセキュリティが掌握されたがために、ゴーレム達は塔を守るように立ち塞がっていた。ゴーレム達は俺の姿を捉えると、横一列になってゆっくりと近づいてきた。これは俺が動いた瞬間全力でとびかかってくるだろうな…。

 

「早速これを使ってみるか。」

 

俺はそう呟くと、レイクとの戦いで手に入れたエグゼイドウォッチを取り外し、カバーを回してボタンを押す。

 

『エグゼイド!』

 

俺はエグゼイドウォッチをドライバーの左側にセットすると、ドライバーのロックを解除して回転させた。

 

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

俺の目の前に仮面ライダーエグゼイドを模したアーマーが召喚された。ドライバーには流れるように【EX-AID】の文字が表示される。

すると、俺が動いたためにゴーレムが一斉に排除しにとびかかってきた。

 

『アーマータイム!』

「とりゃあ!!」

 

俺は迫ってきたゴーレム達に目がけてエグゼイドアーマーを蹴飛ばした。バラバラになったアーマーはゴーレム達を弾き飛ばした後、俺のもとへ浮遊してきた。

倒れたゴーレム達を跳び越えていく俺にアーマーが装着されていく。

 

『レベルアップ! エグゼイド!』

 

俺の体にエグゼイドアーマーが装着された。こちらはピンク主体で、両型にはライダーガシャット、両腕に装着されたA、Bボタンのついたハンマーを模したナックル、胸部に表示されたゲージ類、顔には『エグゼイド』というカタカナ、そしてドライバーには【2016】と表示されている。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

俺は両腕のナックルを構えながら塔へ向かう。当然、目の前にはまだゴーレム達の群れがおり、一斉に迎撃してきた。

 

「はあっ! おりゃあ!」

 

俺は迎撃してくるゴーレムにナックルを叩きつける。インパクトの瞬間、『HIT!』のエフェクトが入ると、ゴーレムのその巨体のバランスを崩した。ハンマーがモチーフなだけあって、硬い敵には有効打らしい。

俺は次々と迫り来るゴーレムを殴り倒していくが、ゴーレム自体は石で構成されたもののため、倒しても再生する。おまけにルミアが連れ去られるのと学院が吹き飛ぶのも時間の問題。

 

「お前らに構ってる暇はないんだよ!」

 

今は一刻も要する。ゴーレム達と戯れている暇などない。まとめて一掃するまでだ。

俺は一体のゴーレムを踏み台に高くジャンプすると、二つのウォッチのボタンを押す。

 

『フィニッシュタイム!』『エグゼイド!』

 

俺はドライバーのロックを解除し、再び回した。

 

『クリティカルタイムブレーク!』

「おりゃああああああああ!!」

 

俺は両腕にエネルギーを溜め、それを着地と同時に地面に叩きつける。その瞬間、衝撃波が俺の周りに発生した。衝撃波を受けたゴーレム達に『HIT!』『GREAT!』というエフェクトが発生し、やがて『PERFECT!』というエフェクトも出てくると、ゴーレムの群れは石つぶてになって砕け散った。

 

 

 

 

 

 

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俺はすぐに塔の中に入る。どんな罠があるかは知らないが、今はとにかく突っ走るだけだ。

俺は長い階段をひたすら駆け上がる………だが、ゴーレムやトラップが出てくる様子はない。召喚魔術に優れたレイクを倒したとはいえ、先程のボーン・ゴーレムが出てきてもおかしくないはずだが…。

そんな事を思っている内に、転送法陣のある最上階に着いた。俺は正面の扉をこじ開けて中に入る。

 

「っ…誰…?」

 

ビンゴだ。そこには法陣の中央に拘束されたルミアの姿があった。だが、俺がジオウに変身しているからか、誰なのか警戒してしまった。

 

「助けに来たぞ、ルミア。」

 

俺はそう言いながらドライバーのウォッチを外し、変身を解除した。

 

「トーマ君…!?」

「遅くなってごめん。でもすぐに助け……!」

 

俺はルミアのもとへ近寄ろうとしたが、何者かの気配を察してすぐに足を止めた。暗い視界の中、その人物は姿を現した。

 

「やっぱり、黒幕はあんただったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ヒューイ先生”。」

「臨時講師の方が来ると思ってましたが、まさか君がここに辿り着くとはね。」

 

そこにいたのは、俺達の前任の講師であるヒューイ先生だった。

 

「お久しぶりですね、トーマ君。」

「…お久しぶり…と素直に言える雰囲気じゃないですけどね…。」

 

ヒューイ先生は久々の再開を口にしたが、今更こんな言葉を掛けられても喜びなんて湧かなかった。ヒューイ先生が一ヶ月前に姿を眩ましたのは、全部この計画のための準備だった。俺達はてっきり別の仕事に就いたと思っていたが、始めからテロリストの仲間だった事に、俺とルミアはショックを隠せない。結界の細工、転送法陣の転送先の変更…これを始めから計画していたのか…。

 

「どうしてこんな事をするんですか、ヒューイ先生!貴方は立派は先生でした!そんな事をするような人じゃないのに…!」

「残念ですがルミアさん。僕は始めからこういう人間だったんです。」

 

悲痛な叫びを上げるルミアに、ヒューイ先生は申し訳なさそうに言った。ルミアの周りにある法陣には、0を目指してカウントダウンが進んでいる。それは、ヒューイ先生の足下にある法陣も同じだ。そしてルミアの転送法陣とヒューイ先生の法陣は魔力路で直結されていた。

白魔儀【サクリファイス】…換魂の儀式とも言われ、自らの魂を莫大な魔力に変換、その魔力を以て範囲内を粉々に吹き飛ばす…まさに“人間爆弾”。

 

「…いつからなんですか?」

「十年以上も前からです。僕は王族、政府要人の身内がこの学院に入学された時、その人物を自爆テロで殺害するための人間爆弾なんです。」

 

そんなに前から潜伏してたって訳か…!?だとしたら、結界の改変や転送先の変更も、皆が気づかないところで着々と準備を進めてたのか…?入学するかも分からないのに…待てよ?

 

「それじゃあ、何のために転送法陣まで…?自爆が目的なら、転送法陣の転送先の変更はいらなかったはず…。」

「本来ならそのつもりでした。しかしルミアさんという方の立場や特性は少々特殊なんです。組織の上層部はルミアさんに大層興味を持たれています。だから直前に計画が変更されたんです」

 

ルミアを拐ったのは、計画のために必要だからって訳か…ルミアにどんな事情があるかは俺には分からないけど、天の智慧研究会が目をつける程だ…何か重要な訳があるのに違いない。

 

「“自爆してまで送り届ける”…なんて馬鹿げた話だ…。」

「全くです。ルミアさんがいなければ、僕は今でもこの学院でのんびり講師を続けていられたんですが…。」

「何だよそれ…それじゃあんたは、全部ルミアが悪いって言いたいのか!?」

「トーマ君!私は…」

「もちろん、ルミアさん自体に罪はありません。ですが、組織がルミアさんに目をつけてしまったからには、僕にはこうするしか方法がありません。」

 

ルミアが何か言おうとしたが、それを遮ってヒューイ先生が答えた。

 

「もし臨時講師の方もここに連れて来れば、転送法陣の解呪は出来たでしょう。ですが、君に制限時間内に解呪できる程の力があるとは思えません。」

 

そうやり取りしてる内に、残り時間は14分を切った。やはりあらかじめ計画していたとなれば、殆どは起動するだけで後は時間を待つだけと、精密に準備を進めていた事が窺える。

 

「本当なら君の選択肢は学院の地下へ逃げる事、ただ一つ…でしたが、君にだけ特別に“もう一つの選択肢”を与えます。」

「もう一つ…?」

「トーマ君、“天の智慧研究会に来ませんか”?」

「……は…?」

 

唐突に提案されたもう一つの選択肢…それは、組織への勧誘だった。

 

「…どういう事だよ…?」

「組織の上層部から提案を受けましてね、トーマ君を勧誘して欲しいとの事なんです。」

「勧誘…どうして…?」

「君もルミアさん同様、特殊な立場でいる事を聞いたんです。この話に便乗するつもりはありませんか?」

「便乗だって…?そんな馬鹿げた話があるか!現にレイクやリドリー、エリックは俺を殺そうとしたんだぞ!?」

「彼らは君を危険視した上で殺害しようと行動していました。一方、上層部の方は“君の力”に目をつけたんです。」

「俺の…“力”…?」

「“仮面ライダージオウ”…それは、時空を操る“魔王”の如き存在。その力を得れば世界はもちろん、過去も未来も望むがままに出来るもの…それこそ、君が持つ力です。」

「っ!?」

 

ヒューイ先生の言葉を聞いて、俺はあの“黄金の魔王”を連想し、激しい目眩と吐き気に見舞われた。

過去も未来も望むがまま……それじゃあ、一種の魔導兵器じゃないか…!それこそが魔王の証って事なのか…………?ジオウが…俺が……魔王と同じ存在…………?

 

「まだ力は弱いですが、天の智慧研究会に入れば、君の力はより強大になります。私自身が君を強くする事は出来ませんが、それでも君は私が認めた一人の生徒です。君は組織の中で力を増し、やがて“魔王”に至る事ができるでしょう。」

 

ヒューイ先生らしくない発言だ……そんなの絶対に嘘だ…解体されて標本にされるのに違いない…天の智慧研究会自体が魔術を究めるためにどんな犠牲をも止さない外道集団だ……だけど……………。

今までお世話になったヒューイ先生の言葉に、俺は惑わされそうになる。あの組織はやばいと分かってる…なのに……お世話になった恩を仇で返すような感覚に苛まれてしまう。俺は………何の為にここまできた…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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自身を見失い、絶望に打ちのめされようとしていた俺の心に映ったのは、二ヶ月前の光景だった。そう、ヒューイ先生が失踪する数日前の出来事だ。

 

「はぁ…はぁ…どうして上手くいかないんだ…?」

 

あの頃の俺は、いくらやっても魔術が上手く出来ず、皆と比べて遥かに劣っているという劣等感に苛まれ、魔術師の道を挫折しようとしていた。

バイトが休みの日の放課後、いつも学院の庭で一人で魔術の練習をしていた。だけどグレン先生と同じく【ショック・ボルト】程度すら三節で唱える事が出来ない程の無能だ。俺の数少ない取り柄としては、それこそ時間と空間の魔術だけだった。

 

「まだ帰ってなかったんですか、トーマ君。」

「あ、ヒューイ先生。」

 

そんなある日、たまたま近くを通りかかったヒューイ先生が声を掛けてきた。

 

「また魔術の自主練習ですか。なかなかに勤勉ですね。」

「ははは…全然上手くいかないんですけどね…。」

「上手くいかないというと、やはり成果が出ていないという事ですか?」

「そうですね…俺自身、魔術学院の生徒なのに魔術が苦手でして…皆は初等呪文の【ショック・ボルト】位なら一節で唱えられるのに、俺だけは三節じゃないと唱えられない。どうにか頑張って、皆に追い付こうと必死なんですけど……やっぱり思ったようにいかなくて…。」

 

俺は自らの才能の無さをヒューイ先生に語った。皆に追い付こうと必死で、それが空回りして焦っていた。

 

「焦っていても、上手くはいきませんよ。魔術というのは、魂の在り方によって得意不得意が変わっていくものなんですよ。闇雲に鍛練しようとしても、結局は水の泡。君は君のまま、自分の得意な分野を中心に進んでいけばいいんです。」

「!」

 

ヒューイ先生の言葉が、諦めかけていた俺の心に炎を灯してくれた。あの時は嬉しかった。皆と同じでなくとも、“俺は俺のまま”、魔術の道を進めばいい。その言葉が今の俺を築く切っ掛けになった。

 

「ところで、君には何か得意な分野はあるかな?」

「…時間と空間の系統なら、俺も上手く出来ます。」

「なるほど、僕は空間系魔術を専門にしています。もしかしたら、君の成長を手助け出来るかもしれません。」

「本当ですか!?」

「はい。そのための時間を設ける事は難しいですが、個別指導で長所を伸ばす事はとても良いことです。不定期ではありますが、君の個別指導を行いましょう。」

「…ありがとうございます!」

 

ヒューイ先生からの個別指導を受けれると聞いた俺は、喜びに満ち溢れていた。確かに不定期ではあったけど、その個別指導は俺の長所を伸ばすのに最高な時間だった。ヒューイ先生が失踪するまでのわずかな期間だったけど、その時間は…決意は…間違ってはいなかった。

 

 

 

 

 

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「…!」

 

そうだ。ジオウが…魔王の如き存在であるなんて限らない…俺が魔王になる必要なんてない…!俺は…俺のまま進めばいい!………だったら、やるべき事は一つ…ルミアを……学院の皆を救う事だ!

 

「…決めたよ。」

「そうですか、では「断る。」…え?」

「俺の…ジオウの力が魔王の如き存在だったとしても、それに流される必要はない。仮面ライダーは決して魔導兵器なんかじゃない。天の智慧研究会の力なんか借りない。“俺は…俺のまま強くなる”!」

 

俺はヒューイ先生の勧誘を拒否すると同時に自身の決意を語った。

 

「これは、他でもないあんたが教えてくれた言葉だ。周りに流されず、己を見失わずに長所を伸ばしていく…今の俺を創ってくれたのはあんただ。闇に染まって爆ぜるというのなら、俺が闇から引きずり出す!」

「そうですか…残念です。」

 

勧誘を断られた事を残念に思うヒューイ先生。外道な…しかも俺の命を狙おうとした組織の仲間に加わる程、俺の心は腐ってはいない。今はそんな事よりも転送法陣を解呪するのが先決だ。

残り時間は11分、話で大分時間を無駄にしてしまった。普通に解こうとすれば時間切れで全てが水の泡。

 

「では、君はすぐに地下へ退避しなさい。」

「いいや、逃げる気なんてない!」

 

俺はそう言い返しながらジオウウォッチとビルドウォッチを取り出す。セントさん、力を貸して下さい…!

俺はセントさんにそう願いながらカバーを回し、ボタンを押す。

 

『ジオウ!』『ビルド!』

 

俺はそのまま二つのウォッチをドライバーにセットし、ドライバーのロックを解除する。

 

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

『アーマータイム! ベストマッチ!ビルド!』

 

俺はジオウに変身すると、ビルドアーマーを装着する。

 

「トーマ君、逃げて…!」

「何言ってんだよ、ここまで来てそんな事出来るかよ!学院にはまだグレン先生やシスティーナ、皆がまだ取り残されてるんだぞ!?」

「もう間に合わないよ…!皆ここで死んじゃうのなら、せめて…貴方一人だけでも逃げて…!」

「…。」

「たとえ逃げたって、貴方を責める人なんて誰もいないよ…。」

 

ルミアは間に合わないと言って、俺に地下に逃げる事を薦めた………責める人は誰もいない…か………確かに誰もいないな…だけど、それじゃ犠牲になった人の想いはどうなるんだ?踏みにじってしまうような気がしてならない。

 

「…俺さ、小さい頃は“空っぽ“だったんだよ。家族も記憶も目指す道も無くて、孤児院に引き取られて…けど、時間が経つ内に愛着が湧いて、次第に馴染んでいったんだよ……それなのに、テロリストに全てを奪われて…居場所を無くして…。」

 

俺は自分の過去を自虐気味に語る。得たものを全てかっさらわれていった波瀾万丈な人生…それが俺だ。

 

「この学院に入学してやっと生きていく実感を得たというのに、またこうして奪われていくだなんて…そんな屈辱、もうごめんだ!」

 

俺はドリルを左手に持ち替えると、ドリルの刃で右掌を傷付ける。すると掌部分のスーツが破れ、そこから血が滴り出てくる。俺はレイクの手動剣を握った際の傷口を再び開いた……折角システィーナに治してもらったけど、今は一刻も争う。

 

「『原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ』!」

 

【ブラッド・キャタライズ】…自らの血液を魔力処理、簡易的な魔術触媒に変える呪文。俺には魔力でルーン文字を書き込むのは無理だ。ならば己の血を以て解呪する他ない。ビルドアーマーを装着してる間は解析能力や演算処理が飛躍的に高まる。それを活かして解呪ルートを素早く構築すれば…行ける…大丈夫、俺なら出来る!

俺はドリルを外すと、素早く解呪術式を法陣の上に書き込んでいく。

 

「『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし』!」

 

解呪術式を書き終えたところで、すぐに【イレイズ】を唱える。第一層の法陣が粒子になって消滅した。

まずは一層…この転送法陣は五層で構成されている。所要時間は約一分…この調子なら、ギリギリ間に合う…!

 

「何してるのトーマ君!?私に構わず早く逃げて!」

「っ…!」

 

ルミアに逃げる事を促されながらも、俺は第二層の解呪術式の書き込みに移る……っ、さっきよりも法陣の構造が複雑になってる…!恐らく進む度に術式の書き込みに時間を要する仕組みだ…!

 

「早い…まさか、ここまで上達していたとは思っていませんでした。」

 

ヒューイ先生はジオウに変身した俺の解呪の手際を見て心服していた。実技は苦手だが、その分は筆記で補っている。ルーン文字の書き取りは比較的素早く行うよう努力してきたが、それが今回の解呪作業で実った。

 

「トーマ君、このままじゃ貴方まで死んじゃうんだよ!?」

「そんな事分かってるよ!だからこうやって、今を生きるために必死に解呪をしてるんじゃないか!」

 

今頃逃げたって、どうせ地下には辿りつけない…いや、始めから逃げる気はない!

涙を流しながら叫ぶルミアに、俺は解呪術式を書きながらそう答えた。術式を書き終えたらすぐに【イレイズ】を唱える……これで二層…次は三層だ……っ…!

 

「くっ…!」

 

俺の意識は魔力と血液の消費で一瞬朦朧とする。そしてさらに複雑化する法陣。間に合うのか…?いや、絶対に間に合わせる!

 

「どうしてここまで…?ここで逃げても、貴方を責める人は誰も…」

「ああ…責める人なんて誰もいないだろうな…!だけど…俺を残して死んでいった孤児院の皆と……セントさんと約束したんだ……“皆を守るヒーローになる”…って…!」

「皆を守る…ヒーロー…?」

「始めから何もなかった俺が…“初めて抱いた夢”……いや、“生まれた時から決めていた気がする夢”だ…ここで諦めて逃げたら…あの世で…皆に会わせる顔がない…!だから…皆の想いを背負って…夢を果たす!」

 

死んでいった孤児院の皆のためにも…そして、俺を助けてくれたセントさんのためにも…夢を夢で終わらせる訳にはいかない…!

俺はそう叫びながら術式を書き終え、また【イレイズ】を唱える……次は……四層…!

 

「それに、お前の帰りを待ってるんだよ…グレン先生も…システィーナも…皆も…そして俺も…また楽しく学院生活を送りたいんだ…ルミアだってそうだろ…?」

 

俺は術式を書きながらルミアに問いかける。これからも皆で、何気ない学院生活を送りたい…それはルミアも同じはずだ…。

 

「私には…そんな資格は…」

「逃げるな!!」

「っ!?」

「昔のお前に何があったか…知らないけど…それを生きる事からの逃げ道にしていいはずがない…!お前を助けるためにグレン先生も、システィーナも、俺も傷つきながらも必死に頑張ってるんだ…!その想いを蔑ろにしていいはずがない!」

 

自らの命はどうでもいいと考えるルミア。そんなルミアに俺は檄を飛ばしながら術式を書き込む………段々と、意識の混濁が…魔力と血液の消費で……次第に頭が回らなくなっていく………。

 

「もう一度聞くぞ……お前は、どうしたいんだ…?」

「…生き…たい…。」

「聞こえないぞ!」

「生きたい!システィと色んな事を見たい…!もっとグレン先生の授業を聞きたい…!また皆と…一緒に過ごしていたいよ!」

 

涙を流しながら、張り裂けそうなくらいに溜め込んでいた願いを叫んだルミア。その願いを聞いた俺の表情は仮面の中で“くしゃっと”なっていた。

 

「…なら、答えは一つだよな…!」

 

ルミアを助けて、皆のもとに帰る…!

俺はそう言いながら術式を書き終え、すぐに【イレイズ】を唱える…………残り時間は…あと2分……そしてあと一層……!

 

「もう…すぐだ…!」

 

これを解呪すれば、転送法陣も【サクリファイス】も無効になる……最後の踏ん張りどころだ…!

俺が残り一層の解呪術式の書き込みに入ろうとした……その時だった。

 

「…っ…あ…!」

 

マナ欠乏症と貧血による影響で俺の体は力を無くし、地面に伏した。その証拠にドライバーからは警告音のようなものが鳴り響く。俺は確認してみると、ドライバー上部の緑色のランプが赤く点滅しており、液晶にも流れるように【WAINING】と危険状態を知らせている………くそ…こんな…ところで……!

 

「トーマ君っ!!」

「…ぁぁ……。」

「どうやら、先に君の方が持たなかったようですね。確かに君の実力には驚かされましたが、魔力と血液を大量に消費しては、まともに動く事は出来ませんからね。」

「黙……れ……!」

 

マナ欠乏症と貧血の両方を発症し、まともに動く事が出来なかった俺にヒューイ先生が呟いた…………ああ……視界が、段々ぼやけていく……ここで………終わり…なのか…?

揺らいでいく視界の中、ルミアは倒れた俺に手を差し伸べようとしていた。転送法陣が結界の役割を兼ねているために、一瞬阻まれる…だが、ルミアは力を振り絞って…自らの右手を結界の外へ突き出した。

 

「っ…!」

 

俺も満身創痍の身に鞭を打って身体を起こす。少しずつ近づいてくるルミアの手に向かって、俺は左手を差し伸ばす。お互いの手が触れ合った…その時

 

「…!」

 

突然、ルミアの身体が発光すると同時に、俺の身体に魔力が満ち溢れてきた。ルミアは既に【スペル・シール】を掛けられているはず…にも関わらず、一切の詠唱無しで俺の魔力を回復させる力を持つ…もしや…!

 

「“感応増幅”…ルミア…もしかしてお前…!?」

「うん…私は“異能者”なの…受け取って、トーマ君!」

「…ああ!」

 

異能者…それはごく稀の確率で魔術に依らない奇跡の力を体現できる特殊能力者の事だ。ルミアのような感応増幅者は、触れた相手の魔力、魔術を自らの意思で何十倍も増幅させられる。

だが異能者は悪魔の生まれ変わりとも言われ、迫害対象になっている…ルミアが悪魔の生まれ変わりだって…?いや、俺には“天使”に見える…。

ルミアの感応増幅によって俺の魔力が増幅されていく。だが残り時間は15秒。これでは解呪術式を書き込んでも間に合わない…どうすれば……?

俺が最後の一層を解呪する方法を模索していた時、俺の頭の中に沢山の数式が流れてくると共にイメージが浮かび上がる……数式を解呪術式に変換して…それを収束させて……法陣に……っ!これだ!

 

「ルミア、下がってろ!」

「うん…!」

 

安全のため、俺はルミアに下がるよう指示すると、右手にドリルを装着する。続けてドライバーの二つのウォッチのボタンを押す。

 

『フィニッシュタイム!』『ビルド!』

 

俺の周りにあらかじめイメージしておいた数式が出現。それらが俺の周りを旋回しながら解呪術式へ変換されていく………そうか、セントさんも力を貸してくれているのか…皆を守るために…!

俺はドライバーのロックを解除して360度回した。

 

『ボルテックタイムブレーク!』

「はあああああああああああああ!!」

 

俺はドリルに数式になった解呪術式を収束させ、それを転送法陣に叩き付けた。螺旋状に収束された解呪術式が音を立てながら残り一層の転送法陣を削っていく。残り5秒………!勝利の法則は、決まった!!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

法陣を削る勢いは増していき、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィィィィン……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一層が消滅した。それと同時に転送法陣は強制停止し、【サクリファイス】発動も阻止する事が出来た……間に合った…。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

一気にのしかかる疲労に見舞われる中、俺は変身を解除する。

 

「まさか…解呪を成し遂げてしまうとは…成長しましたね、トーマ君。」

 

法陣の解呪を成し遂げた俺に、ヒューイ先生は褒めた。レイクに言われた時はばっさり切り捨てたが、ヒューイ先生の場合は複雑な気分になる…当然だろう、今まで先生と慕っていた存在が、今はテロリストとなって俺達と対立していたのだから…。

あの僅かな残り時間では、たとえルミアの感応増幅で魔力が回復しても解呪術式の書き込みは間に合わなかった。だからさっきの方法を行使した…不確定故に一か八かの賭けだったけど…。

 

「僕の負けです…不思議ですね。計画が失敗したというのに、何処かほっとした自分がいる。」

「やっぱり、未練が溜まってたじゃないですか…。」

「それもありますが、生徒達が“無事”でよかったです…。」

 

敗北を宣言したヒューイ先生。その心には、やはり講師だった頃への未練が溜まっていた……生徒達が“無事”……なはずがない。本当はエリックが皆を拷問した。皆心身共に傷付いた……けど、今の俺にそんな事は言えなかった…。

俺は立ち上がると、ヒューイ先生のもとへ近寄る。

 

「一つ、尋ねたい事があるんです。」

「何ですか?」

「僕は…どうすればよかったのでしょうか?組織に従って死ぬべきか、もしくは逆らって死ぬべきだったのか…自分でもよく分からないんです。」

「…自分で選択しなかったあんたが悪い。他に方法はいくらでもあったはずです。なのにあんたはそれを全部無駄にした。」

 

俺はそう吐き捨てると、ヒューイ先生の腹部に全力の拳を叩きつけた。全力を出し切った後のため、力は弱かったが、それでも気絶させるには十分だった。

 

「…それから、もう一つ…。」

「…?」

「…“リベレイター”には、くれぐれも気を付けて下さい…。」

 

ヒューイ先生が俺の耳元で小声で囁いた……“リベレイター”…?何の事だ…?もしかして、リドリーやレイクが呟いていた“例の連中”って訳か…。

 

「…今まで、ありがとうございました。」

「…ふっ…なかなかに……手荒い別れ…です…ね…。」

 

ヒューイ先生はその言葉を最後に完全に気を失い、力なく崩れ落ちた………はぁ…俺も…疲れてきたな…。

疲労が溜まり、俺の身体もふらついてきた。やがてそのまま身体は無意識に傾斜し始めた。だが、俺の身体は地面に叩きつけられる事はなく、何者かが受け止めてくれた。

ルミアだ。拘束から解放されて自由の身になった彼女が、満身創痍の俺を倒れ込む直前で受け止めたのだ。ルミアは俺の身体をゆっくりと横に倒した。

 

「…ありがとう、トーマ君。」

 

瞳に涙を溜めたルミアだが、俺の意識が途切れる前、確かにその顔には笑顔で一杯だった…。

 

 

 

 

 

 

セントさん……………今の俺の顔、嬉しくて……“くしゃっと”なってるんですよ…………誰かの力になれたから……。

 

 

 

 

 




ED[GHOST]
挿入歌[Be The One]




戦兎「てぇんさい物理学者の桐生戦兎は…。」
セラ「あれ?おかしいなぁ…本来だったらここの話はグレン君が活躍するはずなのに。」
戦兎「まあ、この作品にはオリ主タグあるし、何よりトーマが主役だからしょうがない。」
セラ「そういえば、トーマ君の“トーマ”って、この世界では“7月”を意味してたような…。」
戦兎「そこは後々分かるはずさ。それよりもセラさん、早い段階で貴女が出て大丈夫なの?」
セラ「大丈夫。アニメ版(三話)の回想でも姿だけ出演してたから。それに、大人の事情に突っ込んだら馬に蹴られてゴートゥヘルってどこぞの倒錯一角獣も言ってたから。」
戦兎「それ俺の台詞…いや若干違う…ってか、流石にあの一角獣はそんな事言わないから。」
セラ「でも、筋肉の人なら言いそうだよね。」
戦兎「ああ、確かにあいつなら言いそうだ。」
セラ「誰が上述の台詞を言うと思う?」
戦兎「“万丈”だ。」

NEXT→[事件後とこれからと…]

万丈「解せぬ。」

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