バカとテストと優等生Another   作:鳳小鳥

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第10話

そんなこんなでやってきた学園長室。

 

──コンコン

 

『入ってきな』

 

「「失礼します」」

 

礼儀正しく挨拶した後、きびきびとした動作で入室する霧島さんと木下さん。

そしてその後ろから付いていく僕達。

中にいた学園長は僕達を見回した後、仰々しく口を開いた。 

 

「よく来たねお前達」

「来たくなかったけどな」

「相変わらず口の減らないガキだねお前は──少しはAクラスの二人の礼儀正しさを見習ったらどうだい」

「そうか。……じゃあ──失礼しますババァ」

「誰もババァなんて言ってないさね!」

 

まったく、と机に頬杖を付いて嘆息を吐く学園長。

上に立つ人間は何かと苦労が多いみたいだ。

その学園長の眉根にしわの寄った目が、今度は僕の方を捉えた。

 

「……で?」

「なんですか?」

「アンタのその面はなんだい? ついに自分のバカさ加減を自覚して素顔を晒すのが恥ずかしくなったのかい?」

 

なんてことを、生徒を罵倒するなんてそれが学園の長の言葉か。

実は今僕は教室を出る前に秀吉に手渡されたお面を被っているんだけど、無論こんなことで正体を晒すほど僕も甘くない。

 

「な、なに言ってるのかわかりませんな。ぼ──私は吉井明久の代役として来た者です──いや、来たものだ」

「ほお、じゃあ吉井はどこに行ったんだい?」

「よ、吉井君は急用とかで早退しました」

「そうかい。それで? 代理で来たっていうアンタは一体どこの誰なんだい?」

「ぼ──私は「面倒くせえな。さっさと取れバカ」って何するんだ雄二!」

 

いきなり上からお面を引っとられる。

この野郎、せっかく秀吉が顔隠しにくれたのにこれじゃ正体が隠せないじゃないか。

 

「お前がうじうじしてるのが気持ち悪いんだよ。言いたいことがあるならさっさと言っちまえよ」

「簡単に言わないでよ。そんなこと言ったって……」

 

恐る恐る横目で木下さんの方を見やる。

すると、向こうもこっちを見ていたようでばったり目が合い。

 

「……ふんっ」

 

そっぽを向かれた。

ああ、駄目だ。これは完全に嫌われてる。

もはや顔も合わせてもらえないなんて。

なんだろう。何故かわからないけどすごくショックな気分だ。

 

「……?」

 

何か気になることでもあったのか、霧島さんは首を振った木下さん方へ回りこんでいった。

 

「な、何代表……」

「……優子。顔が真っ赤」

「!? べ、別に何でもないわよ!」

 

木下さんはぐいぐいと霧島さんの背中を押して元の位置へ戻そうとする。

顔が真っ赤って……、つまりそれだけ怒ってるって事?

 

「……そろそろ話を始めていいかい?」

「あ、すいません。どうぞ」

「ったく、私情は他所でやっとくれ。アタシらも暇じゃないんだ」

「……それで、私達を呼んだ理由はなんですか?」

「この学園でアンタ達だけが如月ハイランドの模擬召喚獣大会にエントリーしているからだよ」

「え?」

 

予期しない方向からの話題が出て思わず驚きの声が漏れた。

どうしてここでその話が出るんだろう。

 

「一度登録したアンタ達なら分かるだろう。何故か一部の人間がエントリー出来ないことを」

「っ、それは!」

「ちょっと待てババァ! 俺は参加した覚えはねえぞ!」

 

僕の言葉を上書きするように、雄二が声を張り上げた。

 

「明久と翔子の話じゃ俺はエラーになって登録できないはずだろ」

「そうさね。それはこっちでも確認したさ」

「じゃあどういうことだ。何で俺までここに来る必要がある」

「百分は一見にしかず。これを見てみな」

 

学園長は何やらノートパソコンを操作し初め、それを僕達の方へ向けた。

どうやら参加者の一覧をまとめた資料らしい。

そして、その中に記載されている参加者の中に雄二の名前があった。……雄二の名前だけは。

 

メンバー1:霧島翔子

メンバー2:霧島雄二

 

「うおおおお!? なんじゃこりゃぁっ!」

 

……いつのまに雄二は籍を入れたんだろう。

 

「……坂本じゃできなかったら、私の苗字を使ってみたの。そうしたらうまくいった」

「使ってみたじゃねえよ! なんてことしてくれんだ!」

「……雄二。一緒に頑張ろう」

「抗議してんのに無視か! 人の話聞けよおい!」

「ああなるほど、だから雄二と霧島さんが呼ばれたのか」

「まあそういうことだね。正直名前を詐称するのはあまり褒められた行為じゃないんだが、状況が状況だ。使えるものは使わせてもらうさね」

「ふざけんなバカ! 大体偽名って明らかに問題あるだろ」

 

全力で抗議する雄二。よほど霧島さんと一緒と出たくないらしい。

変なヤツだ。霧島さんみたいな綺麗な人が一緒に参加してくれるのに嫌がるなんて。

僕なら何が何でも参加するのに。仕方ないな。

 

「雄二」

「明久も言ってくれ! 偽名は駄目だってな」

 

うるさい声を上げる雄二の肩をポンと叩く。

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」

「黙れクズ野郎」

 

ふん、いい気味だ。

 

「あの」

 

手を上げてそう言ったのは今まで口を開かなかった木下さんだった。

 

「模擬召喚獣とか如月ハイランドとか話がさっぱりわからないんですけど」

「? 何を言ってるんだい。アンタも吉井と一緒に参加してるじゃないか」

「え……?」

 

今度こそ木下さんは目を丸くして驚いていた。

や、やばい。それは僕とムッツリーニが間違って登録してしまったやつだ。

バレなきゃいいと思って安心してたのにまさかこんなところに落とし穴があるとはっ。

じわりと背筋に冷や汗が滴る。

これ以上勝手なことをして木下さんの機嫌を損ねるのは僕の寿命的によくない……っ。

 

「学園長! それは違うんです!」

「あん? 何がだい」

「実は──」

 

~~事情説明中~~

 

 

「なるほどね。要は弟の方と参加しようと思ったら間違えて姉の方でエントリーしてしまったというわけかい」

「……はい」

「はぁ、どうしてアンタ達はいちいち面倒くさいことをするかね」

「すいません……」

 

さすがに悪いことをしたと思ってるので素直に謝る。

 

「じゃあ姉じゃなくて弟の方の木下に来てもらわないといけないわけさね」

「木下さんもごめんね。迷惑かけて。いや、ホントごめんなさい!」

 

頭を下げて真剣に謝る。

ここでの誠意の伝わり方がそのまま僕のこれから人生の縮尺に直結する。

だというのに、返ってくるのは無言の空気だけだった。

 

「…………」

「あれ、木下さん……?」

「──えっ、何?」

 

考え事でもしてたのか、ハッとしたように顔を上げて口を開いた。

なんだろう。何を思案してたのか非常に気になる。主に僕の生命的に。

 

「いや、だから……」

「アンタを呼んだのは吉井のミスによる勘違いだったってことさ」

「えっ? じゃあアタシは……?」

「どうやら無関係のようだし下がっていいよ。わざわざ呼び出してすまなかったね」

 

僕の代わりに学園長が口火を切っていた。

どうやら木下さんは無関係だと理解してくれたらしい。

死に底ないの老婆とはいえ、まだぎりぎり意思疎通は可能なようだ。

 

「今アンタから失礼なことを言われた気がするんだが」

「あはは、何言ってるんですが。別に妖怪みたいなババァでも言葉を理解できるんだなぁとか思ってないですよ」

「アンタには一度思い知らせておかないといかないかねぇ」

「そうだぞ明久。それじゃこの怪異学園ババァに失礼だろうが」

「アンタのほうがよっぽど失礼さね!」

 

さっきから学園長は怒ってばかりだな。カルシウムが足りてないのだろうか。

 

「バカ二人がいると話がさっぱり進まないよ。これでもアタシは急いでるんだ。手間をかけさせないでほしいね」

「あー、如月ハイランドのイベントの件ですね」

「待て待て、俺は参加するなんていった覚えはあがぁっ!?」

 

糸の切れた人形みたいにかくんと雄二の体が床に倒れる。

その隣では、霧島さんがトランシーバーに似たリモコンみたいな機械を持っていた。恐らくスタンガンだろう。

そして喋れなくなった雄二の代わりに霧島さんが口を開いた。

 

「……参加します」

「そ、そうかい」

 

あの学園長もちょっと引き気味で答えていた。恐るべし霧島さん……っ。

 

「じゃあ取りあえず弟の方の木下を呼ばないとね」

「あ、じゃあ僕が呼びます」

 

携帯を取り出し秀吉の番号を呼び出す。

が、そこで意外な声がかかった。

 

「待ってください」

 

ついさきほど蚊帳の外を言い渡された木下さんだ。どうしたんだろう。

 

「なんだい木下」

「その大会って、秀吉じゃないと出場しちゃいけないんですか?」

「いんや、そんなことはないよ。寧ろアタシとしてはアンタに出てもらうほうが安心なんだがね。アンタは前回に学園の紹介ムービーを成功させた実績もあるからね」

「は、はい……。ありがとうございます……」

 

褒められたというのに木下さんの表情はどこか居心地が悪そうだった。

あ、そっか。確かのあの時の木下さんって……。

暗い気分を払拭する為か、木下さんは一つ咳払いをした。

 

「お願いがあるんですけど──アタシをその大会に出させてもらえませんか?」

「えっ!?」

 

驚きの声が僕の口から飛び出た。

な、何故無関係な木下さんが出場したいなんて言うんだ……っ。

別に優勝しても木下さんにメリットはないはずなのにっ!?

 

「それは良いが、どうして出たいんだい?」

 

僕を疑問を学園長が代弁して問いかけた。

 

「…………」

 

木下さんの目が一瞬だけ僕を見据える。

え? どういうこと?

僕が口を出す前に、木下さんは学園長と向き合って切り出していた。

 

「学園長の雰囲気からただ事ではないと思います。それをあんなバカな弟に任せておけません」

「……ふむ」

「お願いします」

 

頭を下げて懇願する木下さん。

 

「──いいだろう。元々その予定だったんだしねぇ。じゃあ参加するのは木下、吉井と霧島夫婦で決定だね」

「ありがとうございます」

「ま、まて……っ! 俺はまだ参加するとは……!」

「……雄二。しつこい(ビリビリ)」

「おい待てこれもうただの脅迫だぁーーーーーーっ!?(ガクガク)」

 

霧島さんが意を唱える雄二を強制的に黙らせていた。

ちょっと不憫と思わないでもないけど、僕をここまで強制連行してきたんだから同情には値しない。

それよりも僕の方が問題だ。

まさか相方が秀吉から木下さんにチェンジするなんて、これじゃ優勝する意味がないじゃないか。

一体どういう目的で木下さんは出たいなんて言い出したんだ。

怪訝な顔を浮かべる僕を余所に、木下さんは学園長に先を促していた。

 

「それで、何があったんですか?」

「うむ、その前に事情をまったく知らない木下の為にまずはことの起こりから説明しないといけないね」

 

そうして、学園長の口から如月ハイランドの模擬召喚獣大会の概要が綴られた。

 

 

 

 


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