バカとテストと優等生Another   作:鳳小鳥

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第2話

「それでは、これで授業を終了します。各自しっかりと予習復習を怠らないようにしてください」

 

授業が終わりお昼休みになった。

普段は静かなAクラスだけど、この時間だけは少し賑わいを見せる。

そんな雰囲気の中、アタシは少しだけ気落ちしていた。

結局、アタシは秀吉の格好をした自分の写真に関する処遇をまったく決められなかった。

返すべきか、捨てるべきか…、

 

「はぁ〜、なんでこんなことで悩んでるんだろ。アタシ……」

 

いつものアタシなら迷わず捨ててたと思う。

秀吉の姿をしてるとはいえ、本人の許可なく勝手に撮影され挙句、それを男子が懐に忍ばせてるなんて気持ち悪いだけじゃない。と一言で切って捨てる。

なのに、不思議と今回はそんな気持ちにならなかった。一体どうして?

 

「優子。ご飯食べようよ」

 

うんうん悩んでると愛子が声をかけてきた。

 

「うん。すぐ行くね」

「……なんか悩んでたみたいだけど、何かあったの?」

 

こういう時、愛子の感は一々鋭い。

かといって、正直に話してもなんだかからかわれてしまいそうだし今は黙っておきましょう。

 

「ううん。ちょっとさっきの授業で分からない箇所があっただけ。大した事じゃないわ。すぐ行くから代表の所で待ってて」

「そっか。……優子がそういうなら、先に行ってるね〜」

 

そのまま愛子は踵を返し代表の元へ歩いていく。

それを横目で見ながらアタシは小さく嘆息した。

 

もう割り切ってしまおう。これは秀吉の写真なんだ。アタシとは一切合財関係ないんだから

だから吉井君にだって後ろめたい気持ちなんかない。あるわけない。あっていい訳がない。

そうだ。

これは秀吉の写真…これは秀吉の写真…これは秀吉の写真…これは秀吉の写真…これは秀吉の写真…これは秀吉の写真…秀吉コロス。

 

よしっ!

尊い犠牲のおかげで少し気が楽になったアタシは惣菜パンをもって代表にいるテーブルに向かった。

 

が、

 

「……あれ? 代表も愛子もいない。ここで合ってる筈なんだけど」

 

いつもの場所にいるはずの2人の姿がなかった。

その代わり、テーブルの上に畳んで置いてある便箋があった。置手紙かしら?

この模様は代表が使ってるヤツだ。手にとって裏を捲ると『優子へ』とご丁寧に名指しまでしてある。

アタシはその場で封を切って中身を見た。

 

『優子へ。ごめんなさい。至急雄二を粛清しなければいけなくなったのでお昼ご飯は食べられそうにありません。愛子もいるので用事があったらFクラスまで来て下さい』

 

……坂本君に一体何があったの?

 

「でも、Fクラスならある意味好都合ね」

 

ちょうどアタシもFクラスに用事がある。

一人で食べるのも味気ないしアタシもFクラスに行こう。

あくまで愛子と代表と一緒にご飯を食べる為にね。

 

秀吉(中身はアタシ)の写真を落とし主に届けるのはそのついでなんだから!

 

 

     ☆

 

 

ムッツリーニ曰く、僕が落としてしまった写真に写っていたのは秀吉ではないらしい。

屋上でお弁当を食べながらその言葉を聞いた僕は、驚きのあまり思わずお箸を落としてしまいそうになった。

 

「秀吉じゃないってどういうことムッツリーニ? 僕ずっとあれ見て歩いてたけどどうみても秀吉にしか見えなかったよ?」

「…………あの写真を撮影してる途中、微かに背中からブラ線が見えた」

「そりゃ当然だよ。秀吉は女の子なんだから」

「待て!? どこら辺が当然なのかワシにはさっぱり分からんのじゃが」

 

今ここにいるのは僕とムッツリーニと秀吉の三人だ。

雄二はついて来なかった。清涼祭の時と同じでアイツは興味の無いことにはとことん無頓着だ。

美波と姫路さんもいない。

きっと今頃三人、中むつまじくFクラスでお弁当を食べているだろう。

 

…………、ピッピッピ

 

「明久よ。何をしておるのじゃ?」

「霧島さんにメール。今Fクラスで雄二が女子二人と仲良くお弁当食べてるよって」

「悪魔かお主は…」

 

さっき僕を貶めた仕返しだ。

 

「…………話を戻す。きっとあれは秀吉に変装した木下優子だ」

「えぇっ!?」

 

秀吉とお姉さんが入れ替わってたなんて話、僕初耳だよ!?

 

「そうなの秀吉! いつのまにお姉さんと入れ替わってたの!?」

「あ、あー…、いろいろあってのう。一時的に姉上と容姿を入れ替えたことがあったのじゃが、そうか、その時の写真じゃったか……」

「…………(コクン)木下優子の写真はあれ一枚のみ、そのほか九枚はすべて本物の秀吉だ」

「───」

「どうしたのじゃ明久。そんなに全身汗まみれになりおって」

 

やばい、やばいよ僕……。じゃあ僕はお姉さんがいる前でお姉さんの写真を眺めてニヤニヤしてた変態ってことじゃないか。

そんなことがもしお姉さんにばれたら……、まずは美波と姫路さんに知れ渡ってしまい僕は美波に全身の関節を外されて姫路さんの手料理を口に押し込まれる!

そして何故か姉さんにまで知られてしまい罰として姉弟の甘い口付けの近親END……。

駄目だ! 本当にそんなことになってしまったら僕は肉体的にも精神的にも社会的にも死んでしまう。

くっ…!? 確かに前の試召戦争では秀吉がお姉さんに変装したことがあったけど、まさかその逆パターンがあろうとは……、

 

「じゃあ、例の『秀吉の胸が成長している』噂の正体ってひょっとしてお姉さんだったのか……」

「…………恐らく」

「できれば早く忘れてほしいのじゃ…」

 

秀吉が分かりやすく落ち込んでいた。

大丈夫だよ。胸なんか無くたって僕にとっては秀吉が美少女であることに変わりはないからね。

 

──あっ!?

 

「僕、ムッツリーニと取引した後、教室に戻る途中でお姉さんとぶつかっちゃったんだけど、もしかしたらその時に落としたのかも……」

「なるほどのう」

「…………だがそうなると、あの写真は現在、木下優子が所有していることになる…」

「姉上の目ならワシと入れ替わった姿でも自分を間違えたりせんじゃろうし。回収は絶望的やもしれぬぞ」

「回収も大事だけどなにより僕の命が危ないよ!」

 

こうなったらお姉さんが拾っていないか、万が一、写真を自分と気付いていない2択に掛けるしかない。

Aクラスに行ってみよう。たとえ写っているのが秀吉のお姉さんであろうと、あの写真は取り戻したい! そして生きたい!

お願い神様! 今日ぐらいは僕の味方でいてください!

 

 

 

………、

 

 

 

「木下さんならいないよ。さっき出て行ったから、確かFクラスがなんとか言ってから多分今はFクラスにいるんじゃないかな?」

 

この世に神なんていないんだぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!!

もう駄目だ! お姉さんは完全に僕の(たま)()りにきてる!

 

「終わったー!? もう僕の人生完璧に終わっちゃったよーっ!? ごめんおじいちゃん。今そっちに行くからね…」

「待て待て! 窓枠に手を掛けるでない明久! まだ希望は残っとるぞ!」

「…………明久目当てとは限らない」

「…はっ! そうか! もしかしたら妹の秀吉に用があったのかもしれないよね!」

「その場合ワシの命が危険なのじゃが…。後ワシは男じゃと言うとるのに」

 

今のFクラスには霧島さんもいると思うし、場合によっては僕はその場で雄二と共に阿鼻叫喚の地獄絵図が……っ!

いや、それでも僕は、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ!

 

その後、Aクラスを出た僕らは考えをまとめていた。

 

「お姉さんはFクラスか……、入れ違いになっちゃったのかな?」

「……かもしれぬ。 霧島がFクラスにおるのならその付き添いという線も捨てきれぬが」

「…………行ってみればわかる」

「そうじゃの。どの道もうお昼休みも終わりに近いし、ちょうどよかったのかもしれぬぞ」

「…………いざ、Fクラスへ」

 

 

 

    ☆

 

 

 

Fクラスに着き教室の扉を空けた途端、そこにはアタシの常識とはかけ離れた光景があった。

 

「……雄二。もう二度と浮気ができないようにしてあげる」

「待て翔子!? お前はあの馬鹿に騙されてるぞ! 俺は誰とも浮気なんてしていない!、いやそもそもお前とも付き合ってるわけじゃあばばばばばばばばば─っ!?」

「……(ビリビリ)」

 

教室の中心で何故か全身亀甲縛り。黒い布で目隠しをされ天井に吊り下げられている坂本君と、その傍でスタンガンを持って佇む代表がいた。

坂本くんは全身に力をなくしたように宙ぶらりんの体勢のまま微動だにしていないけど、あれはまだ生きてるのかしら?

 

「あれ。……木下さんですか?」

 

呆然としていると、横から突然声を掛けられた。

そっちに顔を向けると、声の主はFクラスに咲く一輪の花。姫路瑞希さんだった。

 

「姫路さん。ええ。代表と愛子を追いかけて来たんだけど、……一体どういう状況なのこれ」

「えっと、ちょっと前に突然翔子ちゃんがすごい形相で教室に入ってきて、坂本君を一瞬で気絶させた後、携帯のアドレス張をチェックして鞄の中身と衣服のポケットをすべて点検した後に目を覚ました坂本君をスタンガン片手に尋問していたんです」

 

一体坂本君はどんな重罪を犯したんだろう。

二人は付き合ってるって話だけど、彼は代表にきちんと人間扱いされているのだろうか。

……干物になった坂本君と彼を抱きしめている代表は一先ず置いておいて、アタシは姫路さん達がお弁当を食べている卓袱台の元に向かった。

 

「あっ! 優子。優子も来たんだね」

「木下さん? へぇ、Fクラスに来るなんて珍しいわね」

「あんな置手紙されちゃ気になって当然じゃない。こんにちは島田さん。相席させてもらってもいい?」

「勿論よ。どうぞ座って」

 

島田さんから綿が半分くらいしか入ってなさそうな座布団をもらってアタシはようやく腰を下ろした。

そしてさり気なく教室を見回すと、あれ? 吉井君いないじゃない……。普段よくつるんでる秀吉と土屋君の姿も見えない。

どこ行っちゃったんだろう……?

 

「吉井君達はいないの……?」

「明久君なら、前の休み時間の最中に大事な写真を一枚落としてしまったみたいで、授業が終わった途端に土屋君と木下君を連れて何処かに飛んでいってしまいました」

「えっ!」

 

そ、それってまさか……、

 

「まったく、アキもアキよねー。なんでそんなに木下の写真が大事なんだか、もう百枚以上もってるんじゃないの?」

「そりゃあ、木下君は可愛いからねー」

 

やっぱりぃーーーっ!?

吉井君はこの写真を探してるんだ! でも幸いまだ中身がアタシだとはバレてない様ね……。

どうやらアタシ達は入れ違いになってしまったらしい。はぁ、今日はとことんツイてない……。どうしてこうなるんだか、

なんだかこのもやもやした思いを金属バットに乗せて吉井君に叩きつけたくなってきたわ。

 

──考えてみればなんでアタシってば、自分が写ってる写真なのにそれを吉井君に返したがってるかな……。

捨てることだって考えたけど、どうしても実行に移すことはできなかった。

吉井君なんて別になんとも思ってないはずなのに、でも何故か心の奥ではそれは違うと否定してしまう。

吉井君がこの写真を秀吉だと勘違いしてるなら、その間にアタシだとバレないようさっさと渡してしまおうと思ったのに、Fクラスに来た途端、そんな考えなんてもう頭の隅っこにすらなかった。

PVを撮影した日以来、アタシの中で、吉井君の存在が少しだけ大きくなっている気がする。

 

と、そこまで考えて、吉井君のことで思考に没頭していた自分にハッとした。

嘘……、嘘嘘嘘!? まさか……、まさかアタシは吉井君ことがっ!?

 

「…………」

 

(優子が顔真っ赤にしてパン持ったままプルプル震えてるよ)

(……なんか木下さんの様子変じゃない? 心ここにあらずというか)

(でも今の木下さんはすごく可愛いです。勿論いつも可愛いんですけど、今はなんだか恋する乙女の顔みたいで)

(恋かぁ……、優子って学校では妙に堅物でプライド高いからそういう話はあんまりなかったんだよねー。……そういえば優子ってここに何しに来たんだろう)

(二人を追いかけてきたんじゃないの?)

(でもさっき明久君はいないのとか……)

(((……まさか)))

 

「……何をヒソヒソ話してるの?」

「「「うひゃあっ!?」」」

「えっ!?」

 

代表と3人の大声でアタシは思考を強制的にシャットアウトした。

危なかった…、これ以上考えてたらアタシの中の吉井君像が物凄いことになっていたかもしれない。

 

「……翔子ちゃん! 坂本君はどうしたんですか!?」

「? ……雄二ならあそこ」

 

代表が指を指した先には、卓袱台の上にだらんと両手を投げ出し顔を突っ伏した坂本君がいた。

彼の顔はアタシ達の方とは反対方向に向いていて、ここからだとたてがみのように逆上がった髪しか見えない、見ようによっては寝てるようにもとれるけど違う意味で意識はないんじゃないかな。

 

「そういえばそろそろお昼休みが終わりだね。ボク達もAクラスに戻ろっか」

「……もうそんな時間」

 

携帯を開いて時間を見るともう次の授業が始まるまで10分もない。えー、まだアタシまだパン食べてないのに……、

しょうがない。残念だけど時間切れね。結局昼休みは吉井君には会えなかった。

もしかしたら今日はもう吉井君には会えないかもしれないわね……。

 

アタシたちはFクラスを後にし、Aクラスに戻った。

……廊下でも会わなかったけど、ホントに吉井君どこいったの?

 

 

    ☆

 

 

ふと、一つの考えが僕の脳裏をよぎった。

どうしてFクラスに向かっていたはずの僕たちが今補習室にいるんだろう──と、

 

そうだ。僕たちはFクラスへ向かう途中で鉄人に会ったんだ。

その時、鉄人は大きな段ボール箱を持っていた。

話しを聞くと、どうやら僕たちから没収した品がロッカーに入りきらなくなって保管場所を移動させているらしい。

忙しそうに僕らを通り抜けようとする鉄人を見て、僕はある考えが浮かんだ。

 

 

今鉄人をぶちのめせば没収された品を取り戻せるんじゃないか?と、

 

 

幸い鉄人はダンボール箱で両手が塞がっている。奇襲にはもってこいの状況だ。

ムッツリーニと秀吉にアイコンタクトをする。すると2人は小さく頷いた。どうやら考えは同じのようだ。

僕たちは慎重に襲うタイミングを窺った、そして鉄人が僕らに背を向け歩き出した瞬間っ!?

 

「お前達は少しぐらい学習するという考えはないのか?」

 

見事、返り討ちにあったんだ。

 

「俺がなんの警戒もなしにお前達から預かった物を持ち歩くわけが無いだろう」

「いくらなんでもエロ本やゲームが大量に入ったダンボール箱で直接ぶん殴ってくるなんて思いませんよっ!」

「…………計算外」

「あれにはワシも度肝を抜かれてしもうた」

 

あんなの並の鈍器より数倍殺傷能力があるぞ!

 

「この卑怯者めっ!」

「まだ減らず口が叩く元気があるようだな。いいだろう、もう1つ問題集を追加してやる。授業の出席は布施先生に俺から連絡しているから安心しろ。今日は放課後まで思う存分相手になってやるからな!」

「「うぎぃぃぃぃ!」」

「明久!! お主また余計なことをっ!」

「吉井っ! お前は放課後に雑用も頼むつもりだから覚悟しておけっ!」

「そんなぁーーーっ!?」

 

僕はただ写真を取り戻したいだけなのにどうしてこうなっちゃうのーーっ!?

その後、僕らは放課後までみっちり絞られた…。

 

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