バカとテストと優等生Another   作:鳳小鳥

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長い間が開いてしまい申し訳ありません。
いい訳はしません。はい。サボってました。
………………ごめんなさい!!


第6話

そんなわけで僕達は詳しい事情は伏せたまま他の人の意見を聞いていた。

ここでは取り合えず個々のほしいものについて質問してみた。

 

 

case1:島田美波

 

 

「え? ほしいものはあるかですって? ……んー、そうね。もう秋になるし新しい服とかかしらね」

 

 

case2:姫路瑞希

 

 

「ほしいもの……、ですか? 特には……明久君がくれるなら何でも嬉しいです」

 

 

case3:工藤愛子

 

 

「そうダネ~。くれるのならボクは何でも受け取るよ。勿論いろんなところに穴の開いたスク水でもOKダヨ~?」

 

 

case4:霧島翔子

 

 

「……雄二の愛」

 

 

case5:清水美晴

 

 

「お姉さまからの愛に決まっていますわ!」

 

 

case6:玉野美紀

 

 

「アキちゃん! というわけで今ここに偶然フリフリのゴスロリがあるんだけどせっかくだから着てみましょう!」

 

 

 

    ☆

 

 

 

「…………以上」

 

これは予想外の結果だ。

 

「驚くぐらい参考になるものがないねえ」

「なんとも偏った意見ばかり集まったのう」

「その半分が愛っていうのがある意味すごいよね。一部できれば聞かなかった事にしたいものあるけど」

「統括すると、やはり想い人からのプレゼントが一番ということじゃな」

「それってもう完全に詰んでるって事だよね」

 

木下さんに好きな人がいるかはわからないけど、仮にいたとしても僕じゃないことは確実だ。

ノートパソコンを操作していたムッツリーニが振り返って言う。

 

「…………木下優子の想い人を調べるのか?」

「調べるのは構わんが、仮に姉上に好きな人がいたらどうするのじゃ?」

「そりゃあ勿論、ねえムッツリーニ」

「…………(こくん)」

「抹殺だよね」

「…………当然」

「だと思ったのじゃ」

 

Aクラスで成績優秀、容姿も文句なしの木下さんから想われる男子なんて判決も余地なく死刑だ。

票を取ったらきっと全校男子が大手を振って賛成してくれるだろう。

 

「学園内で殺人事件が起こってはさすがに拙いので姉上の想い人探しは却下じゃ。というか前提としてあの姉上に好きな相手がいるとは思えぬがの」

「家でそういう話とかしないの?」

「ないのう。学校でもそうじゃがワシと姉上はそもそもあまり会話をしないのじゃ。姉上も家にいる時は大抵自分の部屋に篭っておるしな」

「…………兄弟姉妹とは得てしてそういうもの。俺達の年代では仲良しのほうが珍しい」

「そういえばムッツリーニも兄弟持ちじゃったな」

「…………(こくん)」

 

秀吉の台詞に同意できる部分があるのかムッツリーニは深く頷いた。

 

「へぇ、じゃあ僕みたいに毎朝キスしてくる姉は珍しいんだね」

「……珍しいというか、世界中探しても玲殿一人しかおらんじゃろう」

「…………ある意味レア」

 

おかしいな。レアという響きがあるのに全然嬉しくない。

 

「なんだかどんどん話が脱線しておるぞ。今議論すべきは姉上へのプレゼントじゃ」

「まあそうなんだけど、何かいい案浮かんだ二人とも?」

「「…………」」

 

沈黙する秀吉とムッツリーニ。

なんだかいろいろ盛り上がったけど肝心な部分で結局僕達は一歩も前進できていなかった。

こうなればあまり気は進まないけど木下さんに直接伺う手段も考慮せざる負えない。

 

「…………あまり女子と縁のない俺達が女子へのプレゼントを考えるのがそもそも無謀」

「それは前に言ったぞ。しかし数少ない女子の友人達の意見は対して役に立たぬと来てるしの。やはりここは姉上本人に直接聞いてみるのが妥当なのかの」

「逆転の発想だけど、女子と仲の良い男子って学園にいないのかな?」

「…………そんな異端者は新学期初日のうちにとっくに淘汰されている」

「だよね」

「ワシとしてはその淘汰された人間の安否の方が気になるのじゃが」

「きっと桃源郷で幸せに暮らしてるよ」

「なんじゃそれは……」

 

世の中知らないほうが幸せの事もあるよね。

秀吉はポケットから携帯電話を取り出した。

 

「まあよい、いや良くはないがとりあえずこの件は保留としよう。とりあえず姉上にかけてみるかの」

「お願い秀吉、くれぐれも僕たちのことは内密にね」

「うむ、任せるのじゃ」

 

片手でいくつかのボタンを押して、秀吉は携帯を耳に当てた。

しばらくたつと相手の応答を待つコール音が僅かだけど僕たちにも聞こえてくる。

途端に僕は心臓がドキンと高鳴った。

不思議な緊張感が全身を支配し始める。いつのまにか無意識に手を握り締めていた。

 

『もしもし』

 

携帯も向こうからはっきりと声が聞こえてきた。

どうやら秀吉が通話モードをハンズフリーに切り替えているらしい。

秀吉は僕たちに無言で頷いた後、携帯に向かって声を掛け始めた。

 

「もしもし、姉上か?」

『そうだけど何? 何か用事?』

「用事というほどでもないのじゃが、姉上、今どこにおるのじゃ?」

『ん、図書室だけど』

「…………」

 

ムッツリーニは無言でノートパソコンを仕舞い僕は窓と教室の扉を全快に開く。

勿論、何か感づいたお姉さんが僕達を追いかけてきた時にすぐに逃げ出すためだ。

Fクラスの危険察知能力は伊達ではない。

 

「そうかそうか」

『?? 何なの?』

「いやいや、何でもないのじゃ。それより姉上、唐突な質問なのじゃが今何かすごくほしいものとかはあるかの?」

『は?』

 

怪訝な声が携帯から聞こえてきた。

 

『何よいきなり』

「実はワシの所属している演劇部の一人がもうすぐ誕生日での。部員のみんなでプレンゼントを送ろうと考えておるのじゃ。しかし男のワシらでは女子は何を送れば喜んでくれるのかイマイチ分からなくてな。同じ女子である姉上の意見を聞いて見たくなったのじゃ」

 

すらすらと秀吉の口から嘘の事情が出てくる。

ぶっつけでも台詞を一切噛まずに違和感なく言い切る辺り、秀吉の役者魂が垣間見えてくるようだ。

 

『へぇ、でも演劇部なら他の女子もいるんじゃないの?』

 

さすがに手放しでは信用してくれないらしいのかお姉さんはさらに問い詰めてくる。

が、秀吉は臆することなく答えた。

 

「意見は数は多い事に越した事はないじゃろう。それに姉上の言葉ならワシも信用できるのじゃ」

『欲しい物……ねえ』

 

うーん、と携帯の向こうで悩む声が聞こえてくる。

どうやら秀吉の偽情報を信じてくれたらしい。

僕は正面に立つに秀吉に無言でガッツポーズをし賞賛を送った。

 

「ようやく一歩前進だね」

「…………(こくん)」

 

これで秀吉のお姉さんの欲しがるものを聞き出す事に成功し僕がそれを用意してお姉さんに送れば完璧だ。

僕の中に息づいた不安や緊張感が潮が引く様に薄まっていく。

いや寧ろ女子に贈り物をするという事に対しての高揚感が湧き上がっていた。

一体木下さんは何が欲しいんだろう。

 

『アタシが欲しいのは────』

「うおおおおおお!! 明久どけぇーーーー!!!」

「っ!?」

 

いきなり現れた雄二が突風もかくやというスピードで僕たちの傍を通り過ぎていった。

な、何だ!?

驚きのあまり言葉をなくした僕たちを置いてけぼりにして、今度は廊下から霧島さんが現れた。

 

「……雄二。逃がさない」

「くそっ!? もう追いついてきやがった。もうここしか逃げ場がねえ」

 

言って、雄二はさっき僕が開けておいた窓枠に手を掛けて外に飛び出した。

ていうか、ここ三階だよね?

 

「ちょっ!? 雄二何してんの!」

「説明してる暇はねえ!?」

 

突き飛ばすような言葉と共に、一瞬で雄二の姿が掻き消える。

慌てて僕は窓へ駆け寄り顔を出すと遥か下の地面に雄二の死体はなかった。

どうやら外から隣の教室へ移ったようだ。

 

「……逃げられた」

 

僕と同じく窓から顔を出していた霧島さんは平坦な声で言った。

この二人、今度は何したんだろう。

 

『ちょっと、何の騒ぎ? 今代表と吉井君の声が────』

 

しまった! まだ通話が続いてるんだった!?

 

「すまぬ姉上! また掛け直すのじゃ!」

『ちょっ! ひでよ──』

 

ピッ

 

木下さんが何かを言う前に秀吉は強制的に通話を切った。

ええいもうちょっとだったのにぃ!?

 

「……今の優子?」

「あ、うん。ちょっと用事があって、霧島さんこそどうして雄二を追いかけてるの?」

 

霧島さんが雄二を追い回すなんて今更だけど、なんとなく問いかけていた。

僕の問に、霧島さんはスカートのポケットから何か4つ折にしたポスターらしきものを取り出した。

 

「……これを雄二と一緒に参加したくて」

「チラシかの、えーと、何々」

 

秀吉が霧島さんからポスターを受け取って広げる。

どこかで見た事あるような愛らしいマスコットが描かれたそれには、大きな文字でこう書かれていた。

 

「わくわく召喚獣体験in如月ハイランド……。召喚獣じゃと?」

「…………如月ハイランド。あの遊園地か」

「……そう。そこで明後日に試験召喚システムを使ったイベントがある」

「へぇ、そんなのあるんだ」

 

気になってさらに文字を追っていくとどうやら格闘ゲームという名目で召喚獣を使ったトーナメント大会を開くらしい。

使うのは普段僕たちに馴染みのある点数を武器に戦うものとは少し違って、その場で必要なデータを打ち込んでその場限りの簡易召喚獣を作って戦うシステムのようだ。

その仕様上、参加は誰でも自由であり貴方だけの召喚獣と出会うチャンスなんてキャッチコピーが大きく飾ってある。

 

「……大事なのは、その先」

 

霧島さんが指差す先には、優勝賞品の欄があった。

代表として僕が読み上げる。

 

「『なお、今大会に優勝されました方には我が如月ハイランドの全アトラクションを無料で遊べる団体様一日フリーパスを進呈します』だって」

「なんだか前のプレミアムチケットを思い出すフレーズじゃのう」

「あー、確かにそうだね」

 

如月グループの陰謀により来場したカップルを強制的に結婚させるという横暴極まりないイベントを思い出す。

そういえばあれに参加したのも雄二と霧島さんだっけ。

 

「まさかこれも……」

「…………いや、ウェディング体験は任意参加になったらしい」

 

いつのまにかノートパソコンを立ち上げたムッツリーニは如月ハイランドのHPを開いていてイベントページの項目を読み上げた。

任意でも参加できる辺りまだ如月グループは懲りていないらしい。

前回失敗に終わった霧島さんがこれを逃す手はない。確かにこれなら雄二も裸足で逃げ出すだろう。

 

「……今度こそ、私は雄二と添い遂げてみせる」

 

いつもと変わらない声質だが、瞳の奥には決して譲らないと言わんばかりの闘志の炎が燃え上がっていた。

 

 

 

 


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