バカとテストと優等生Another   作:鳳小鳥

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第7話

再び雄二を追いかけ始めた霧島さんを見送った僕達はFクラスの教室内で円陣を組んで座っていた。

僕らの中心にはさっき霧島さんが置いてった如月ハイランドで行われる簡易召喚獣トーナメント大会のポスターがある。

僕は腕組をしながら重たい声色で言った。

 

「これ……ひょっとしたらチャンスじゃないかな」

「優勝商品のことじゃな」

 

秀吉の台詞に僕は頷いた。

 

「結局お姉さんの欲しい物は聞き出せなかったけど、これでもプレゼントとしては悪くないと思うんだ」

「まあ確かにあの遊園地のフリーパスなら姉上も満足するじゃろうが」

「…………確実に手に入るとは限らない」

「そうなんだよね」

 

概要がトーナメントとある以上、当然それに勝ち残り優勝しなければならない。

 

「大会のルールとかってどうなってるのかな?」

「…………少し待て」

 

ムッツリーニがノートパソコンに向き直りページをスクロールさせる。

やがて該当する項目を見つけたのか、モニターに記載させれている一文を読み上げた。

 

「…………年齢制限は特になし。試合形式は二対二のタッグマッチで行われる。一人での参加も可能だが、仕様上参加は二人一組であることが望ましい。とある」

「ふむ、前の清涼祭のルールに似ているの」

「二人か、霧島さんが雄二を追いかけてたのってこれが理由なのかな」

「恐らくそうじゃろうな。まあ人数に関してはワシかムッツリーニが明久の相方として入れば問題ないじゃろう」

「…………召喚獣の扱いに関しても俺達に分がある」

「ていうことは、問題は」

「対戦相手じゃな」

「うん」

 

確実に難敵になるのは間違いなく霧島さんと雄二だ。

雄二自身やる気はないだろうけど、学年主席の霧島さんのことだ。どんな手を使って雄二をその気にさせるかわかったもんじゃない。

唯一の救いがあるとすれば、今回は点数によるパワーバランスが存在しないことだ。

その点でいえば、観察処分者の雑用で召喚獣を使っていて扱いに慣れている僕が少し有利なはず。この大会、決して勝てない勝負じゃないはずだ。

 

「でももし霧島さんが優勝したらどうなるんだろう」

「前回のウェディング体験の焼き増しになるのではないか」

「ははは、そうなったら今度はさすがの雄二でも逃げられないよね」

 

あの雄二の野性味に溢れた顔に苦汁に浮かばせながら霧島さんに許しを請う姿を想像する。

 

「…………」

 

見たい。それはすごく見てみたい。

木下さんへのお詫びと命乞いも大事だけど、雄二の無様な有様も捨てがたい! ああどうしようかなっ。

ここに来て僕の心の天秤がぐらぐらと揺れ始めていた。

 

「何をニヤニヤしておるのじゃお主は……」

「な、なんでもないよ! 大会頑張らないとね!」

「そ、そうじゃな」

 

この大会。勝っても負けても絶対面白くなる!

 

「…………あんまり悩んでる時間はないぞ」

「え、何で?」

「…………エントリーの締め切りは今日までだ」

「今日って……今日!? シンキングタイムなし!」

「唐突じゃな。WEB上でエントリーできるのかムッツリーニ」

「…………(こくん)。だが登録には名前を書く必要があるから明久の他に俺か秀吉が出るのかをここで決めなければいけない」

「ふむ、そういうことならワシが出よう。姉上の問題はワシの問題でもあるからの」

「ほんと! 嬉しいよ秀吉」

「……そんなに喜ばれるとなんだか照れくさいぞ」

 

その照れた顔が最高に可愛いことに秀吉は早く気づくべきだと思う。

ともあれお姉さんへのプレゼントはこれで決定だ。

大会は明後日。協力してくれた秀吉とムッツリーニ、それに木下さんの為に頑張らないと。

 

「じゃあムッツリーニ。エントリーよろしく」

「…………了解。三十秒で終わらせる」

 

カタカタカタッ。と目にも留まらぬ速さでキーボードに指を走らせるムッツリーニ。

これでエントリーは完了だろう。

しかし、何故か途中で一時停止したようにムッツリーニの手の動きがピタッと止まった。

 

「…………??」

 

何かあったのか、何度も画面を見直しては眉を八の字に歪め始めた。

 

「どうしたのムッツリーニ?」

「…………エラーが出て登録できない」

「なんじゃと」

 

モニターを見ると、確かに『登録エラー 入力内容を再度確認してください』というメッセージが出ている。

 

「ほんとだ」

「どこかに入力ミスがあるのではないのか?」

「…………おかしい。入力ミスはないはず」

 

登録フォームへ戻りエントリーシートの内容をチェックしてみると、ムッツリーニの言うとおり特に記入ミスらしい箇所は見つからなかった。

?? どういうことだろう?

 

「どっかの文字が入力制限に引っかかっちゃたとかかな? エラーの理由とか分からないの?」

「…………(かちっ)」

 

ヘルプのリンクをクリックすると、小さい吹き出しが現れ、中にこんな一文があった。

 

『「木下秀吉」様はすでにエントリーされております』

 

「秀吉がエントリー済み?」

「そ、そんな馬鹿な! ワシは登録した覚えはないぞ!」

 

信じられないといった表情で秀吉は驚いている。

でも確かにエラー文には木下秀吉と書いてあった。

 

「同姓同名の誰かがいるってことなのかな」

「…………かもしれない」

「どうしよう、これじゃ秀吉が出られないよ」

「ムッツリーニならどうなのじゃ」

「…………やってみる」

 

名前の欄に『土屋康太』と入力して確認ボタンを押す。

 

『エラー 「土屋康太」様はすでにエントリーされております』

 

「えぇっ!? ムッツリーニまで!」

「…………明らかにおかしい。俺も登録した覚えはない」

「うむ、もしかすると誰かがワシらの名前を使って勝手に選手登録をしているのではないか?」

「どうしてそんなことするの」

「わからぬ」

「…………誰かが俺達の参加を妨害している」

「もしくは文月学園の生徒は参加できない。とか」

「それじゃと明久の名もエラーになるはずじゃろう」

「…………文月学園の生徒のエントリー資格は特に記載されていなかった。秀吉の言うとおり学園の生徒が出られないというルールはないはず」

「じゃ、じゃあどうすればいいの?」

「ワシらの他に誰か一緒に参加してくれる人間を探すしかないじゃろう」

「…………試しに知り合いの名前を入れてみる」

 

ムッツリーニは再びパソコンに向き直り、名前の項目を消して、そこにまた別に名前を入力する。

が、結果はどれも同じだった。

 

『エラー 「島田美波」様はすでにエントリーされております』

 

『エラー 「姫路瑞希」様はすでにエントリーされております』

 

『エラー 「坂本雄二」様はすでにエントリーされております』

 

「駄目じゃのう」

「雄二はすでに霧島さんがエントリーしちゃったのか、それともみんなと同じで参加できないのかわからないけど、どうしよう、これじゃ出られないよ」

「最悪一人で登録するしかないのう」

 

そういえば二人でなくても個人でもエントリーはできるんだっけ。

でもその場合相方はどうなるんだろう。

 

「一人で参加するともう一人はどうなるの?」

「…………個人参加の場合は誰か別の個人登録をした選手とランダムにタッグを組まされる」

「優勝商品は?」

「…………わからない」

「やはり二人同時登録の方がメリットは大きいというわけじゃな」

「でもどうしよう。……こうなったら最悪葉月ちゃんにお願いして──」

「…………(かたかたかた)、……!? 明久、見ろ」

「どしたの?」

 

ムッツリーニの驚いた声に僕と秀吉はつられてモニターに目をやる。

そこには、これまでに見た事のない画面が表示されていた。

画面には

 

『参加者は「吉井明久」様。「工藤愛子」様でよろしいですか?』

 

という一文と、下部に登録ボタンがある。

 

「あれ? できてる?」

「…………試しに工藤愛子の名前を使ったらエラーを通り抜けた」

「ますます分からん。何故ワシらの名前は駄目で工藤の名前は通るのじゃ」

「久保君はどうなの?」

「…………ふむ」

 

ムッツリーニが工藤さんの名前を消し空欄になった箇所に『久保利光』と打ち込む。

 

『参加者は「吉井明久」様。「久保利光」様でよろしいですか?』

 

「…………いけた」

「つまり、理由はわからんが参加できる者と参加できない者がいるようじゃの」

「一体どうなってるんだ……」

「…………分からない(かたかたかた)」

 

『参加者は「吉井明久」様。「木下優子」様でよろしいですか?』

 

「お、姉上でもいけるのじゃな」

「これで秀吉がお姉さんに変装すれば参加できるんじゃない?」

「最悪それでもしょうがないが、できれば避けたいのう、後でバレたらどんな目に合わされるか……」

「あはは、じゃあ間違ってもこれで登録なんてしないようにしないとね」

 

これでエンターキーを押そうものなら大変なことなる。

気をつけないと。

 

がららっ

 

「吉井! 貴様昨日書庫の整理をしろと言ったのにサボっていたな!」

「うわぁ! 鉄人!?」

 

驚いて立ち上がる僕

 

「…………うっ」

 

その時後ろにいたムッツリーニに軽くぶつかる。

 

かちっ

 

反動で前へ仰け反ったムッツリーニの手が偶然エンターキーをプッシュ。

 

ピローン♪

 

『ありがとうございます。「吉井明久」様。「木下優子」様のご登録完了いたしました』

 

モニターに表示された参加登録完了の告知文。

 

「「「あ」」」

 

…………やっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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