とある雪風の座標移動   作:あわきん・すかいうぉーかー

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間違えて別の小説消したつもりがこっちを消していました。読んでくれたり、お気に入りに入れてくれたり、感想くれた方申し訳ありません。

一部完走で頂いたアドバイスや、つけたしたいものを考えて訂正と加筆。読んでいて気付いた範囲で誤字修正。


001目覚め

「…はあ。」

 

することがない。それが結標淡希の現在の感想だった。

 

仲間は取り戻した。

 

裏の仕事の世界は解体されて、仲間も自分も暗部で生きる人間ではなくなった。

 

その前に仕事として請け負わされていた、自身の力を使って行う窓の無いビルの案内人にも戻ることは…無かった。

 

それどころか、ビルは丸ごと空へ飛んでいって星になった。

 

終いには学園都市が機能停止して居られなくなってしまった。

 

どうしてこんなことになったのか。これからどうすればいいのか。学園都市を出る途中に淡希はそんなことを考える。

 

以前、淡希がまだ裏の世界の人間だった頃の話…この都市に反旗を翻して失敗し、身も心も絶望の淵に陥っても何かにすがることも、何処へ行くことも出来ず、頼られることすらも無くなって、自身より大きな相手からも小さな相手からも必要とされなくなったことで、酷く焦燥感に駆られた事が彼女はある。

 

そんな以前とは同じようで違う真逆の状態、焦燥感もな~んにもないのほほんのんびりとした状態で、彼女はすることが無くなっていた。

 

そうなると、これはこれでもどかしいものがある。暗い世界の住人と言えど…いや、暗い世界で常に張りつめ、与えられ続けた任務の遂行と、その解決を繰り返して生き残ってきた彼女としては、なにもない平穏という時間の経験値が圧倒的に足りていないのだ。

 

ただ何も考えずに休んでいていい…それが能力に怯えたつもりで日々を不安に駆られながら過ごし、汚い仕事まみれた暗部に落ちて生きていた人間にとって、なんと新鮮で難しい事だろうか。

 

これならばまだ、居候先だった台所に立って苦手な料理…野菜炒めを成功させる練習でもしてた方がましだと、そんな風に淡希には思えた程に、これから何をしていいかわからなかった。健全な学生の体である彼女としては、あまりあの居候先のタバコ臭い家に居るのは嫌でもあったが…それはそれ、これはこれだ。

 

「これは…厳密には違うわね…やることがないんじゃなくってーー」

 

やりたいことがないのだと、彼女は解に至った。

 

そんな結標へのご褒美か…世界は彼女に応えてくれたようだ。退去することになって、煩雑且つ適当に生活品や衣服などを突っ込んだキャリーケースを、淡希がマナー悪く後ろに引きずるように持ちながら歩いていると、どういう仕組みか突然、地面が光ったのだ。

 

「えっ!?」

 

尤もーー

 

「な、何よこれ…11次元を演算する時に感じるモノと似ているようで、違う!?」

 

世界が応えてくれたそれは、必ずしも幸せなものとは限らない。この世界の偶然というものは、とある原因で起きるものばかりであり、それは不幸を大抵含むのだ。

 

「相互干渉できないはずの空間移動能力者を、どうやっ…きゃあああぁっ!?」

 

結標淡希は、この日地面から沸いた不思議な鏡のようなモノに右足が触れて、世界から消えた。

 

 

 

 

「………。」

 

少女は絶望ではないが、驚きと悲嘆にくれていた。普段から周りに言われている氷のような無表情からも、珍しく驚きの感情が見てとれた。

 

「人間?」

 

そう、目の前にいるのはどう見ても人間だったが、それが問題なのだ。

 

「雪風のタバサが人間を召喚したぞ!?」

 

「信じられないわ! まさか失敗したの!?」

 

今この場で行われているのは、サモン・サーヴァントという魔法を用いた召喚の儀式。自身の相棒で一生の支えとなるパートナーの使い魔を召喚して契約を行うもので、本来は人間以外の何かが召喚される儀式なのである。

 

しかしこのハルケギニア大陸、泉の国トリステインの魔法学院の授業の一つ。春の使い魔召喚の儀式で彼女が呼び出したのは、見たことのない鉄の鞄をもって不思議な格好をした人間…結標淡希だった。

 

淡希の格好からその少女、タバサは彼女が何者であるかは理解できなかった。無理もない、ハルケギニアの常識から結標淡希の格好はかなり逸脱しているのだから。

 

淡希の今の容姿は、学園都市から抜け出て避難する時のモノということもあり、一番緊張感を保っていられる服装、つまりは裏の仕事時によく着ていたスタイルだ。そしてこれは恐らく、地球の人間でも見かければ首を捻る外見である。制服のブレザーと思わしき上着を袖を通さず羽織り、その中の裸体に桃色のサラシを胸をつぶさない程度のきつさで、谷間は見えるように南半球より少し上まで、大切なところは見せない程度で巻いているだけ。下半身は灰色なブレザーの色と一致こそしているが、制服のスカートではなく酷く短いもので、見栄を張った男子の学生服ならともかく、女子の学生服ではつけないだろう金属彩飾の多い、白のファッションベルトをつけて、足は生足に靴という姿だ。はっきり言って異様である。非行少女でも中々にこんな格好は見かけないだろう。しかし、それはどこか彼女を魅力的に写す絶妙なファッションでもあった。惜しげもなく自身の体で曲線を描く部分を見せつけている。めりはりのある体と不思議な笑みを浮かべられる彼女だから似合うという、そんな感じのものである。

 

「…娼婦?」

 

だがら、そんな彼女と面識もなく、自信のもつ知識、いかなる正装とも民族衣装とも合致しないタバサには、そんな感想しか出てこなかった。

 

「誰が娼婦よ、失礼しちゃうわね。」

 

その娼婦呼ばわりされた人間の淡希は、飛ばされた勢いで胸に垂れかかった赤いツインテールの長い髪を、背中側に戻しながら立ち上がった。呼びだした少女のタバサが140とすると彼女は160くらいだろうか、かなりの身長差である。

 

「貴女の格好こそ何なのよ…そんなコスプレの典型みたいな杖持って魔法使いみたいな格好して。」

 

「こす…ぷれ? 良くわからないけど、私はみたいじゃなくて…魔法使い。」

 

「は? なに言ってーー」

 

そこまで言って淡希は少し思い出した。外部の能力者にそういう者、そんな名称で呼ばれる人間もいるという話を。まだ暗い世界の中では比較的まともな仕事、案内人と呼ばれて入り口と窓のないビルの送迎役をしていた頃。そんな良くも悪くも半端に生きていたころに聞いた話だった。そこへ送り届けてた人間で後の仕事の同僚の金髪も、直接見せてもらったことは無かったがどうやらそうであったらしい。

 

「ふうん…直接目で見たのは初めてだったけれど、格好もホントにそんな感じなのね。」

 

そんなタバサを上から見て淡希は何か琴線に触れたような表情を浮かべ、次第にすぐにがっかりしたような表情をとった。

 

別に外部の能力者を馬鹿にしたのではない。タバサの顔と、細くて少し引き締まっていながらも幼い体躯までを見て、ちょっとした勘違いした淡希は性癖をこじらせた。そして目線を下までやるとスカートが視界に入ってきてがっかりしただけである。

 

早い話が彼女はショタコンで、タバサは女性ながらその目にかなってしまっただけなのだ、顏と上半身だけ。

 

でも、こんな男の子だったならスカートも悪くもないとか考えて、ならばいっそスカートや短パンの中は別に…そう、たとえ女でもありなものは、あり…心に来るもので、今私はこうなったのではないのかと、現状の把握そっちのけになって暴走しかけたところで漸く意識を現実へと引き戻した。

 

「はっ…!」

 

「…………。」

 

不審なものを見る目でタバサが淡希を今度は見つめ返していた。

 

「悪かったわね、ちょっと珍しいものを見てぼーっとしてしまっただけよ。」

 

「そう…。」

 

「それで、その外部の能力者さんが私に何の用事かしら。」

 

「外部…?」

 

スカートのベルトから吊り下げている警棒なもなる軍用懐中電灯にそっと手をかけると、その場で静止した。

 

良く見ると囲まれているのだ、目の前の少女と同じ格好をした人間がたくさん、少し離れたところからこちらを見ていた。下手に敵対をして全員から襲いかかられたのでは、彼女のもっている力でも負けてしまうかもしれない。それでも逃亡を可能に出来る体制までは維持をして、目の前の少女へ淡希は質問を投げかけた。

 

「私は、あなたを使い魔として呼び出した。」

 

「ちょっと待って、言ったでしょう? 私は魔法使いを見たのは初めてなのよ。専門的な言葉で言われてもわからないわ。そうね、子供…弟とかそういうのに教えるつもりで話してくれないかしら。」

 

「……解った。」

 

「…宜しければ私からも説明いたしましょうか。」

 

少女が頷き、横に居た禿頭の教師と思われる男が何か警戒した冷たい目でこちらを見ていた。

 

この男…少女と共に寄ってきた禿に淡希の背中が嫌にひりつく。少なくともこの男は用心が必要だ、与えられる情報もこちらに有利なことは離さないかもしれないし、真実とも限らない。

 

「結構よ。私とこの子の問題みたいだし、その子にお願いするわ。」

 

それに好みの顏でもないし体型でもない男の話に等興味もない。それ以降動きの無い禿男は無視して淡希はタバサと話し始めた。

 

そう言われて話をし始めたタバサの内容は、淡希の常識を覆した。思わず天を仰いで更に目眩を覚える。

 

一言でたとえるのなら、ここは能力者が世界中に居る世界。

 

この世界は能力を魔法と呼び、能力者をメイジと呼び、貴族として崇められる。月が二つある地球ではない人類がいる惑星、もしくは男の学生が良く読む物語の様な、異世界にある星だった。

 

少なくとも、学園都市の見つけられる範囲の惑星系や銀河系にそんなものは見つかっていない。そんなとてつもない程にもと居た場所、地球から離れた場所に自分は呼び出されたのだと、淡希は理解した。

 

「使い魔は、メイジを守る存在でその人間に合うはずの属性とか特徴や、願いにそった生き物が現れるはず。なのに…人間が来るなんて思ってもみなかった。」

 

そういってごめんなさいと頭を下げてから、そのまま上目使いのタバサを見た淡希に、何かのスイッチが入りかけたがそれよりも先に彼女の心には、別のものが響いていた。

 

自分の属性と彼女は言った。ならば名乗った少女のタバサは淡希と同じ空間移動能力者なのだろうか。しかし召喚の呪文だというサモン・サーヴァントは、誰もが行えるものらしい。タバサも淡希を見て自身の属性と共通点を見いだせて居なさそうな申し訳ない表情からも、属性のせいで召喚された線は無いだろう。人間という概念では属性をくくれるとも思えない。

 

であれば特徴だろうか? 周りを見渡してみれば確かに似ているものが多い。まるっとした小太りにまるっとしたフクロウ、炎の様な髪をした赤い女性に火蜥蜴…なんとまぁUMAがいっぱいなバリエーション豊かさで流石魔法の世界と驚かされたりもしたが、確かに特徴が何かしら存在してそれぞれのパートナーにも似た箇所が見られる。しかし淡希とタバサを特徴付けられるものは何なのだろうかと考えると、体型は全く違うし髪の色は反対色に近いわでせいぜい人間だとか、その程度である。属性の天で人間と言うだけではくくれない様子である以上、これも違うのであろう。

 

であれば…願い。目の前の少女が何を願っていたのかはわからないが、少なくとも自分は大能力者(レベル4)。トラウマをある程度克服できた今では、空間使いとしての戦いでならばもう誰にも後れを取るつもりは無い。力を求めたという願いで淡希は自分が呼ばれたということだろうか…。

 

力。

 

かつて自分が忌まわしいと思い…こんなモノさえなければと思っていたもの。そしてそれは悲劇のヒロインぶっているだけだと、同系統の空間使いに指摘されて間違いだと打ちのめされたもの。そして諭されはしたが、既に時は遅く…結局は裏の世界で生臭い形でしか振るうことが出来なかったもの。せいぜい空間使いに言われたように使えたのは、仲間が人質にとらわれるのを止められた時くらいとしか、彼女が胸をはって言えるものは無かった。

 

もしも…淡希はそんなことを考えてしまった。

 

もしも自分の歴史が一切ないこの世界ならば。

 

もしも今からまた始められるのならば。

 

あの空間使いが自分に言ったように…正しいことの為に力を振るうことが出来るのではないだろうか。

 

例えば目の前の、自分を必要だから呼び出したかもしれない少女を守る事とか。

 

それはとてもとても淡希には魅力的で…それでももうあの世界では手に入らないし、夢見る少女ではいられない歳のせいで諦めかけていたものだった。

 

「そんなことないわ、むしろ感謝しているくらいよ。」

 

やりたいことを与えてくれたタバサに淡希は微笑む。

 

「え…?」

 

誰も傷つけないで救うなど、英雄の様な高望みをするつもりは無い。最悪人を殺めることも無いなんて言いきれない。それでも、これはきっと自分のやりたいことになり得ると彼女は結論付けた。

 

だから、結標淡希はタバサの手を取る。辺鄙な世界に連れてこられたことに恨みは無いし、彼女を助けることに後悔は無かった。

 

「貴女さえ宜しければ、この学園都市の大能力者(レベル4)座標移動(ムーブポイント)結標淡希(むすじめあわき)が使い魔を引き受けるわ。」

 

話の流れや、やりたい事を手に入れた喜び…この世界の舞台劇の様な雰囲気に魅かれて浮かれていたのかもしれない。ちょっともういい歳なのに何を格好つけているのよと、言ってから少しだけ恥ずかしい思いをして、彼女はタバサの使い魔となることを承諾したのだった。

 

「4…? あなたはスクウェアメイジ、なの?」

 

「あー…ごめんなさい、こっちの常識とそっちの常識は違うって今言ったばかりなのに…気にしないで、後で話すから。」

 

相手に力量が理解されていない上、何かおまけに盛大に滑った感が否めない。淡希はその場で本気で恥ずかしくなり頬が赤くなったが、彼女はこの後さらに赤面、顔どころか耳まで真っ赤に染め上げる事になった。

 

まさか使い魔契約の仕方がキスだなんて…上半身だけ、少しだが淡希をときめかせた存在のタバサからのキスは、淡希の頭をゆでだこにした。来年受験生の高校生といえど、恋愛の経験や唇同士のキスなどを体験したことが無ければ、そうなるのも無理はなかった。

 

そしておまけにルーンがお腹に…へその下に浮かぶなど予想もしていなかった。すごく、すごく遊んだ人間に地球の人のセンスだと見えなくもなかった。肌を強く晒している格好をすることのある淡希だが、別に彼女は露出趣味の女や脱ぎ女や淫乱女ではないのである。

 

 

 

 

「ガクエントシ…チキュウ。」

 

「そう、そこが私の居た場所。私の世界…星で知らない人はいなかった場所だから、知らないのならばここは本当に別の星か異世界なのね。」

 

案内されたタバサの部屋で、手放さずにいたおかげで一緒に持ってこれたキャリーケースの上に淡希は座りながら、今度はタバサに彼女の居た場所での常識や、知識を話していた。

 

タバサにとってそれは何もかもが新しく、今まで読んでいた本からは欠片たりとも聞いたことのないものばかりだった。

 

世界は丸くて星というものの存在である、異なる世界がある、超能力とそれの強度(レベル)、何より魔法の力無しで拡がり発展していく技術の世界に、タバサは驚かされた。

 

「そこに戻ることはできない…?」

 

「おそらく難しいわね…でもいきなりどうして?」

 

淡希の考察としては行き先が解らないほど遠くの場所のこの星と地球を結ぶのは無理だと思っていたし、異世界だった場合は理論不明な世界を跨ぐ空間転移が出来なければならないわけで、猶更無理だと考えていた。淡希ですらいまだ1キロメートル弱…この世界で言うのならば1リーグ弱の距離までしか飛ばすことはできない。

 

「私たちの魔法では…治し方の分からない病気を患った人間が知り合いに居る。どうにかして、治してあげたい。」

 

「そういうこと、か…でも今すぐはどうやっても無理ね。けれど絶対に不可能とも言い切れないと思うわ。」

 

「どうして…?」

 

「魔法ではどうなのかは知らないから、何とも言えないことだけど…基本的に不可逆な片道だけのものという事象は、世の中あまり存在しないものよ。かなり損をする上に、元と比べて膨大な力を要求して来たり、難しい環境を求められることはあるけれど…それでもそういったものが用意できれば両方の道を開いたりすることは、きっとこの場合も不可能じゃないわ。」

 

燃やした油は元には戻らない。属に言う一般的な不可逆反応である。だが外部から力をかければ話は変わる。とても極端な話、物質の時間を巻き戻したり、原子と電子単位で好き放題に空間をいじれる神のような存在がいれば、炎となって散ってしまったものを油として元に戻すことも可能だろう。割に合うかと言われれば、そんな程度のことにこんな偉大な能力を使うなと思えることだが。

 

だから、あくまで夢物語に近い話だが、ひょっとしたら学園都市に戻れる方法も、いつかは見つけられるかもしれないわと淡希は言う。

 

「もっとも、今話した通り学園都市は機能停止している最中だから、今すぐ戻れるようになったとしても、何にもなりはしないけれどね。」

 

「そう…解った。」

 

それっきり学園都市の話は終わり、改めて今度はハルケギニアの常識と世界を淡希は学び、ハルケギニアで過ごす使い魔ライフの初めての夜は更けていった。

 

「………。」

 

「…煩っさいわね、何よ一体。」

 

そう、それで終わりのように思われた1日はまだ終わらなかった。二人して夕食を終えて寝ようと着替えはじめたところで、なにやら外が騒がしい。どたばた、どたばたと階段を下りる音が下に下に行くにつれて煩くなっていく。流石にただ事ではない。例えるのならそう、火災などからの非難訓練の様だ。

 

「ねぇ、どんどん降りていく人が増えてったみたいだけど…火事とかじゃないの?」

 

「それはない。余程の事じゃない限りは固定化のかかったこの建物が壊れたり、燃えることは無い。」

 

「ふーん…便利ね、その魔法。」

 

後で自分の物にもかけてもらおう。お金が手に入ったりしたらまずはそれから始めようかなどと、淡希が大きな目標とは違う手ごろな目標を見つけたところで、建物の外から…ちょうど窓の高さ辺りから男の絶叫が響いた。

 

「………。」

 

タバサの眉根が寄る。結標のこめかみに血管が浮き出る。二人とも長い間お互いの世界の話をしたことで、耳と脳が特に疲れているのだ。静寂が恋しかったふたりの沸点は普段と比べて片方は少し、もう片方はかなり低くなっていた。

 

「ああ、もう何なのよ!」

 

サラシを脱いで露わになっていた胸を隠しながら、低くなった沸点の限界を迎えた淡希が窓を開けて確認した時、彼女はなにか見知ったモノを見た気がした。自分の居た世界の国、日本人に多くみられる黒い髪の色と…化学繊維にまみれた衣服であるパーカーをだ。思わず目を擦ってもう一度見る、再びそこに映っているのは今見た通りの物のままだった。

 

その宙に浮いている男は何やら嘘だろ~!? と、叫んでいる。

 

彼の顔と表情は、こちらからは後頭部でわからない。しかし向かって見えるのは大きな二つの月で絶叫の原因はすぐに分かった。ああなるほど…あれを初めて見てしまったのならば驚くのも無理はない。そう淡希は考えてから、いや待ちなさいよと自分で思考を遮った。

 

何かの違和感、そう。驚いたのは誰? 私は驚いた。周りの人間は他に誰一人として驚いていない。だとすれば、月に影を作り喚いている視界に映る男は…自分と同類ということではないだろうか。

 

学園都市では見ない顔だなと淡希は思った。全員の顔など把握しているわけではないが、大抵の力の強い能力者は把握しているつもりだ。ならば低能力者(レベル1)無能力者(レベル0)か…はたまた外の人間か。どちらにしても意外な巡り合わせだと彼女は思った。

 

「まさか、私以外にも地球から呼ばれた人間がいるなんてね。」

 

「あの平民の子が…?」

 

「平民かどうかは知らないけれど、この世界であの2つの月を見て驚く人間なんて、見たことない人だけじゃないかしら。ああ、地球から来たとは限らなかったわね。」

 

考えを狭めるのは良くない、能力も発想も常に広く考えてこそ。

 

「どちらにしてもさっさと黙ってくれないかしら…喧しいったらありゃしないわ。」

 

「話。」

 

「ん?」

 

「同じ故郷の人間かもしれない。話をしなくても…いいの?」

 

「いいわよそんなの、明日にでも出来る事じゃない。今はとにかく…ふぁ、もうぐっすり眠りたいわ。」

 

そう思って着替え途中だった事に気づき、窓を閉じて替えの下着と…寝具は無いのでYシャツに着替えてから淡希は気づいた。

 

寝る場所がない。いや、ある…あるがそこはタバサのベッドのはずだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや…どうしたって…ぶふっ!?」

 

淡希が振り返ると、タバサは既にパジャマ姿となっていた。ぶかぶかのシャツにズボンを履いて、ナイトキャップをつけてメガネをはずした彼女は、まさに子供らしい姿そのものだ。外で未だ喚き続けている黒髪の男性ならば、それでもこのタバサを女の子と認識するだろう。しかし絶妙な琴線に触れた、簡単に言えば淡希自身も知らなかった彼女の好みドストライクな顔をして、スカートという女性らしいパーツを外したタバサを見て、淡希が平静でいられるかとか、彼女をショタなおとこのこに錯覚しないかとか…つまりはそういうわけである。

 

「……?」

 

タバサは彼女の変化に気付くことはなかったが、その子首かしげた幼い仕草と月光に映るという艶美なシチュエーションが作る効果が、ことさらに淡希を常人に理解しがたい領域へと運ぶ。ロリコンでもショタコンでも、そういう嗜好のある人にこのシチュエーションは反則過ぎた。ましてや彼女にはこれと言える一人の思い人が、ロリコンと淡希が言ってやった人たちのように存在していない。思いの固まらないリビドーは思春期の男性よろしく、とってもふわふわとしていて移り気で…好みの形であればだれでもよいと節操がなくなっている様だ。今淡希は窓を背にしていなければ、とんでもない顔をタバサに見られていただろう。

 

せっかく出来た目標の守りたい相手にいきなり黒い何かをぶちまけてしまったような気がして、淡希はがぶりを振った。

 

「な、何でもないわ…ただほら、ね? 寝る場所がひとつしかないから…どうしようかなって思ってただけなのよ。」

 

「問題ない、十分広い。」

 

そんなことは淡希も解っている。しかし、今のままでそれは彼女にとって非常にまずいのだ。彼女は少し前にぶかぶかなものを着る男の子も悪くない…いや良いものだと新しい花を開いたばかりだったのだから。

 

今再び上半身とはいえ気に入った者…しかも女性らしいくびれすら服装のせいで消え失せた、そんなタバサと同じベッドで寝るなど容易なことではない。現にほら、淡希は今もちらちらとタバサを見てしまう。暴走寸前なのである。

 

「そ、そそそ…そうね。じゃ、じゃあお邪魔させてもらうわ!」

 

そういうとこの不審者丸出しとなった顔を見られるわけにはいかないと、淡希は大急ぎでベッドへ潜った。

 

精神的動揺は能力者の大敵で、大抵の敗因は彼女に限らずこの場合である。彼女を諭した能力者は力こそ劣っているが、変態全開だったり滾っている時でも力をフル活用できた辺り、淡希はもう少し精神を鍛えるべきかもしれない…色々な意味で。

 

「…おやすみ。」

 

そうして淡希の突然の動揺の理由も良く解らないままに、タバサも布団に入る。しゅるりと、ぶかぶかでぽわぽわした服でも摩擦の抵抗なく受け入れるきめ細かいシーツの擦れる音が、目を閉じてしまったことで余計に淡希の耳につき…いつまでたっても心臓の鼓動がどくんばくんと止まらなかった。

 

しばらくして外の騒ぎもおさまり、タバサの寝息がすうすうと聞こえてきてもまだ淡希は眠れないでいる。

 

「まさか…いえ、そんなことって。」

 

それは別に、タバサの寝顔を見つめては自分の煩悩が解放されるという、いやらしい無限ループな変態的衝動からではなく、新たに芽生えたもう一つの不思議な想いが彼女を混乱させていた。

 

最初に感じていたのはそれこそショタコンの、性癖からくる性欲の様なあまり褒められたものではない思いだったはずなのだ。

 

ところが、タバサがベッドに入ってきた途端にどうしたことか…今度は興奮のベクトルが変ってきた。下卑た思いからくるものではなく、なんとタバサの寝顔をずっと見続けていると、淡希にはそれが愛らしく見えてきたのだ。

 

いくら体型が理想とはいえ、顏がぴったりと好みと思えてしまったとはいえ、そんなことだけで射抜かれたのかと、自分は女の子に一目ぼれでもしたというのかと…淡希は血走り気味な目でタバサを見ながらそんなことを苦悩していた。

 

「そんなこと…そんなこと、あるわけないわ。」

 

でもなんだか体は自由に動かなくて。

 

むしろ勝手に動いちゃって。

 

気がつけばタバサを抱き寄せていた。

 

「わ、私は何をして…るの……!」

 

何が起きているのか淡希自身にも解らない。これが本当に自分の意思なのか。ノータッチ、どんなに暴走して少年を家に連れていこうとしたりしても、一線だけは越えたことなど無いというのに…どうして。

 

臀部などの嫌らしい位置に手が行かないで、背中と頭を優しくなで続けるまでで済んでいるのは、彼女の最後の良心かもしれなかった。

 

「母さま。」

 

自分から更に身を寄せて、そんなことをいうタバサに完全に淡希は意識ごと持っていかれた。

 

出来ればお姉ちゃんの方かうれしいけれど、そんなことは今の初体験なことに比べたら、些細なものだった。

 

「そ、そうよ…これは確認、確認なのよ。こんなことしても興奮して無ければ…私はノーマルっていう確認よ。」

 

これが知る人や枷が全てなくなってリミッターが外れた、結標淡希の本来の意思なのか。それとも使い魔のルーンが、猛獣などを手懐けるために起こす親愛の刷り込みか。それは淡希にもタバサにも解らないことだった。

 

しかしひとつだけ確かなことがある。それは淡希の今この褒められたものではない行動が、毎夜魘されていたタバサを救っていたことだ。彼女はいつも見ていた悪夢を朝まで見ることはなかった。




テーマ・あわきんかわいい。あわきんもっと活躍してほしい。タバあわ。

隠しテーマ・最初から呼ばれた側がちょろいパターンはどうなのだろう。

本編ではタバサがショタっぽくされていますが、男性から見てタバサは可愛い女の子です。
あわきんもちょろくなっていますが、彼女のショタ眼は本来もっと厳しいものと思っています。
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