とある雪風の座標移動   作:あわきん・すかいうぉーかー

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おまたせしましま(`・ω・´)

あわきんはⅡと比べて可愛さが少し減ったように思えますが、その分Ⅲは綺麗ですね。てかえらいしぐさこまかわいいなあ。


004 虚無の曜日Take.1

「今日は虚無の曜日。街まで行く。」

 

あれから数日後。才人の回復を、彼とルイズの騒ぎ声が上の階から目覚まし代わりに聞こえて確認した朝。タバサは淡希にそんなことを言い出した。虚無の曜日、それは8日あるハルケギニアの中で地球の日曜日にあたるものだ。

 

「街まで? 化粧品も日常品も、魔法の薬もまだあったと思うけれど、どうしたの?」

 

そんな感じでどうしてという顔で、手鏡でいまいち直りきらない寝癖のついた前髪を整えていた淡希が振り返る。

 

キュルケやタバサ達と楽しく話をしたりするようになっても、理由なく遊びに行くという考えにならない辺りに、いまだに淡希がどこか年相応ではない人間らしさの欠如が見てとれた。

 

もっとも、携帯の着信音すら設定していなかった彼女は、もとから遊びごとに関してはそこまで興味がないだけかもしれない。しかし淡希は、単にそういう静穏な世界が好きな人間というわけでもない。それならば彼女はここまで人と関わりを持たないだろうし、からかった言葉をかけてわいわいと話す時間を作ったりはしない。

 

そしてむしろどちらかといえば、そんな静かな世界を欲する人間に該当するのは、淡希の主であるタバサの方だ。そんな彼女から日用品もまだストックがあって、彼女から聞かされたカレンダーにつけてある丸印の日、本の新作がまとめて納入される日でもないというのに外出をするというのは、はっきりいって意外なことだった。

 

そう考えて何か予定を見落としがないか、カレンダーを確認した淡希にタバサが寄ると、特に印のつけていない日付を指差す。

 

「使い魔の品評会。」

 

「使い魔の品評会?」

 

また聞きなれない単語が出てきたなと思いつつ、淡希が納得した。タバサは口数が少ない子だが、ある程度前後で発した単語や動作だけでも繋げれば、言いたいことはわかるように、数日をタバサと過ごした淡希はなっていた。

 

「それと明日の街へ行くことに、何か繋がりがあるってことね。」

 

「そう。貴女に必要なものを買いに行く。」

 

「必要なものって、何のこと?」

 

それでも、隙あらばまだ寝付けないとタバサを前から後ろからと抱き枕にしたり…鞄の中には手回し式しかなかったが、充電器を用いてこっそりスマホで撮った彼女の顔を黒ランドセルを背負う子の写真にコラージュしたりして、なんだか色々とタイヘンでヘンタイなことをしている淡希。彼女はもっと話をしていたいのか、解っていても敢えて話さなければならないように色々わざと回り道に話をして、タバサの声を聞いたりしているようだ。

「品評会では、使い魔が何を出来るかを披露する。」

 

「なるほど…。」

 

となれば必然的に、淡希は能力を使わざるを得ない。

 

「でも、貴女の力を私も知られたくない。」

 

「別にそんな事をしなくたって、タバサが出なくても良いのなら私は出ないわよ。」

 

なにも情報を隠すだけならば方法はいくらでもある。無理してお金を使いに行く必要もないだろうと、そう考えてタバサの財布を気遣い淡希は言ったが、主は首を横に軽く振った。

 

「駄目。それではアワキが軽んじられるし、怪しまれる。」

 

「まあ…それはあるかもしれないわね。」

 

淡希が出ないことで自信がない、逃げ出したといった低評価がつけばまた、ヴィリエのような面倒な人間が増える。あの一件以降寝ていた才人をどうにかしようとしたりする者が現れないようにしたり、あまりに異質な決着に淡希への畏怖をしっかり植え付けることに成功したというのに、せっかく築いたものが無くなってしまうのは面倒だ。

 

また逆に隠しきってしまうことで、オスマン達のような人間からの警戒や、怪しまれる可能性も生まれる。面倒ごとや負担が淡希に増えるならばいっそ、誤魔化せるような…間違った知識を与えてしまおうということらしい。

 

「だから、街で何か似たような結果を…誤魔化せるものを探す。」

 

「そう。わかったわ…私もこの星の街って気になってたところだし、案内を頼めるかしら。」

 

そういって部屋を出ると、ふたりはお腹がなりそうで…それでもなんとなく相手に聞かれたくないために、何か実体のないものを我慢しつつ朝食へ向かって行った。

 

(品評…か。ま、大事なご主人様の品位を下げることはできないわね。)

 

タバサがアルヴィースの食堂へ入るのを見送った後、淡希は強度(レべル)の測定けのようなものかと品評会を考え、ならば少なくともタバサのクラスであるトライアングルメイジの使い魔らしさは必要かと思いを馳せる。さっそくこの世界のサンプルはないものかと記憶を探してみると、真っ先に思い浮かぶのは先に食堂前に居たキュルケ…というか、タバサを除いた淡希の知る学院のトライアングルメイジは、教師を除くと彼女しかいなかった。

 

(駄目ね。未知の生物過ぎて目安が解らないわ。)

 

そんな淡希の知るもう一人のトライアングルメイジの使い魔は火蜥蜴(サラマンダー)。淡希の世界でどの位置づけあたりの生き物なのか全くわからない生き物だ。同じファンタジーの格付けの範囲なら流石に龍より上とい言うことは無いと思うけれど、熊よりはじゃあどうなのかしらとか、虎とならどうなのよ? と、考えるほど疑問が尽きない生命体である。むしろいっそ龍でも呼んでくれていた方が見当がつきやすかったわと、淡希はひとりごちた。

 

「考えても仕方がない…か。」

 

「んぁ? 何をだよ?」

 

結局力量の度合いに関してもタバサの知恵があった方が良いだろうと、考えるのを後回しにして賄いの貰える厨房へ入ると、才人が既にスープを飲んでいた。もう体は本当に万全の様で、正直学園都市でもないのにすごいものだと才人の元気っぷりに、淡希は素直に感心した。

 

「ちょっとした力の使い方とか、そんなところよ。」

 

そう言ってからシエスタに賄いを淡希はお願いすると、席に着いてから才人の向かいに座った。

 

「大したものね、水の秘薬だったかしら?」

 

「そうそう、たった3日くらいで骨折まで治っちまうなんて…改めてここが地球じゃないって実感したよ。まあ、そのおかげで目が覚めたら速攻で下働きに逆戻りだけどな。」

 

何日も寝てた後なのにいきなり起きた途端下着洗って来いだの掃除しろだの、できるかよと愚痴る才人は洗濯物を洗う前に、まずは腹ごしらえに来たらしい。そんな感じで主も主で無茶ぶりをしているが、その主のルイズに全く恩を感じてなさそうな才人を見て淡希は、こいつは何も変わってないなとため息をついた。

 

「女の子の大切なベッドを何日も占有していたのだから、そのツケとでも考えなさい。」

 

「女の子ねえ。俺の顔面に履いてたぱんつぶん投げてきたり、そのパンツを洗わされたりしてるけど正直全っ然嬉しくねえぞ、むしろ現実なんてこんなものかって感じだよ。」

 

そんな日本の現実とは少し違うが、ハルケギニアの女の子に才人が絶望しかけてるところに、彼が知り合ったもう一人の女の子のシエスタが淡希の料理を持ってきた。

 

「はい、アワキさん。どうぞ~。」

 

「ん、ありがとうねシエスタ。」

 

可愛い笑顔をしながら料理を持ってくる良妻の様なその姿に、自分の料理の時を彼は思いだして、女の子をひとまとめに括るのは良くないな等と思い直していると、淡希がその料理を受け取る。

 

「はむ…自分で喧嘩吹っかけて死にかけたのを助けてくれたのよ? その所くらいは感謝してもいいと思うわ。」

 

「そりゃそうだけど。だったらそもそもルイズに喚ばれてなければ…って、あ!」

 

こんな目に逢ったのも貴族の魔法の力、助けられたのも貴族の魔法の力。言われた才人はルイズに対して複雑な想いを抱いていたが、それは淡希の口元に運ばれるスプーンの上の物によって止まる。

 

彼女の薄く、それでも弾力がありそうなピンクの唇に運ばれた者は、肉。良く見ると才人が食べていたポタージュではなく、淡希が食べているものは野菜や肉の入ったスープである。

 

「何だよそれ、ずりいぞ結標。何で俺はスープなのにお前はそんなの食ってるんだよ! 俺にも寄越せっ。」

 

「バカね、三日も胃が空っぽだったのにすぐにこんなの食べたらもう一本、秘薬が必要になるわよ。味の薄くされたおかゆじゃないだけマシと思っておきなさい。」

 

おかゆがこっちにあるかしらないけれど、と言いながら皿を近くに寄せて今度はパンを浸して食べる淡希を、才人は羨ましそうに見続けるしかなかった。

 

そうしているうちに、暗に今の才人は手術後の体と一緒だと言われたことに気付いてようやく納得したのか、それでも目の前で食べられる肉や野菜が辛くて、腕を組んでムスッと目を閉じる。彼のお腹を気遣ったシエスタと、目を閉じるとよりはっきりと思い出せる彼女の笑顔だけが癒しとなっていた。

 

「ふふふ…平賀も早く食べられるといいわね。」

 

くすくすと笑う、少しタバサにもなかなか見せない顔をした淡希に気付くこともなく、そう言いながら食べる音を避けるためにより一層シエスタを妄想する才人。なんだか動機が不純な上に、外へ向かう意識を遮断しようとしてあまりに妄想しすぎて、顔の下の体にある丸い二つのものまではっきり思い出している。

 

「まぁそんな風に我らの剣をいじめてやるな、我らの盾よ。」

 

「別にいじめてるつもりなんてないわ、マルトー。」

 

そんなふうに目を閉じていると、なんだかサイトには聞き覚えの無い言葉を言う、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。目を開けてみればいかついコックが近くまできて、才人の前に追加のポタージュの皿を置いてくれている。淡希が言った名前がこの男の事なのだろうと、才人は思った。

 

「我らの剣って、俺の事か?」

 

「おうよ、お前さんは平民の癖に剣一本で貴族のガキをのしちまったんだ。だから、俺たちは我らの剣と呼ばせてもらってるぜ。」

 

なるほどと思い、同時に才人はルイズの言葉を思い出す。彼女はこの世界では絶対に平民はメイジに勝てないと言っていた。マルトーやシエスタ、それに周りの料理人達が才人を見つめているのを見る限りそれは本当の事だったのだろうと実感が沸くと同時に、結構無謀なことをしてしまっていたのだという恐怖が少しと、そんなことが出来た自分に対する尊敬のまなざしにくすぐったさを感じた。

 

「あれ、じゃあ我らの盾ってのは淡希の事なのか?」

 

「ああ、お前さんが気を失った後殺されかけたところを助けてくれたのが、その姉ちゃんよ!」

 

「殺されかけた!? なんだそりゃ、聞いてないぞ。」

 

驚くサイトにシエスタが忘れてましたと言いながら、淡希とヴィリエの口論や決闘の話を始めた。

 

才人は今度こそ恐怖に震える。貴族がギーシュのように決闘で()()()()()()()人間ばかりではないことに。そして、この世界ではヴィリエのような行動に罪が無い、もしくは軽い罪で済んでしまうことに。あまりの扱いに苛々が募って売った、たったひとつ喧嘩からそんなことになるとまでは流石に思わなかったらしく、顔が青ざめている。

 

「ま、平民では無くルイズの使い魔…貴族の所有物や領民の立場として見るよう釘を刺したから、早々変なことは言われないだろうし、戦いを吹っ掛けるなんてことは無いと思うけれど。」

 

「わ、悪い…なんだかお前にも借りを作っちまったみたいだな。」

 

「気にしてないわ。まあ、そっちももう少し大人になる事ね。ここは日本じゃないのよ平賀。」

 

そう、ある程度自由に動けるせいで忘れがちだが、サイトと淡希は連れてこられたというよりは、攫われたという立場に近い。また使い魔と言う立場を知らない人が見てしまえば、こちらの世界の常識のせいで命の価値もとても軽いのだ。

 

(アイツが使い魔だから助けてくれたってのは…そういう方向から見たせいもあるのか。)

 

この会話によりそう考えることが出来たからか、帰るまではこの世界で過ごす事になった原因ではあれど、同時に自身の大切なものであるともルイズに言われた気がした才人。先ほどの複雑な気持ちが、また再び沸き上がってうんうんと彼が唸っている内に、淡希は食事を終えていた。

 

(どうやら…もうこいつは大丈夫そうね。)

 

学院内にいるうちは貴族からも、平民からも下手な扱いをされる事は無いだろうし、決闘で勝ってしまったことで変に自信を付けてしまったかもしれないが、それでも法的に殺されかねないとなれば才人自身もヘタな真似はしないだろうと、飲み途中の木のコップの中の水をくるくると揺らすように回しながら淡希は結論付けると、ごちそうさまとシエスタとマルトーに礼を告げて食堂の外へと出て行った。

 

「ふう…自分のことを考える暇が無かったわ。」

 

とりあえず午後からは街に行くのよねと考えると、また色々な疑問が浮かんできた。

 

街に何に乗って行くのか、どのくらいの距離にあって、そもそも何が売っていて、相場はどの程度なものなのか、タバサの資金はどのくらいあるのか。などなど考えごとが尽きない。

 

(そうだわ、折角だから潰せる不安を潰しておきましょう。)

 

タバサは食事量が多いことと、淡希から受けたレクチャーのせいで急いでない時はしっかりと、よく噛んで食べるようになったせいで、食事が終わるのが時間ぎりぎりに変化してしまっていた。いまだ半分も食べ終わっていない頃だろうと考えた淡希は、品評会とは別の事を思案し始めたようだ。

 

(もしうまくいったらタバサ…喜んでくれるかしら?)

 

その思い付きが自分でも楽しみで仕方がないのか、健康やら何かと小煩いこともある淡希が食休みをすることもなく警棒を軽く振ると、彼女は自身をどこかへと空間転移(テレポート)させていく。

 

(思えば…器具を外してから限界に挑んだことは、無かったわね?)

 

 

 

 

「なんていうか…限界を出すまでもなかったわ。」

 

現在、淡希は午後の目標とする街、タバサとのちょっとしたデートスポットになる予定のトリスタニアに来ている。方法は言うまでもなく座標移動の連発による空間移動を用いた高速移動で、それを馬やら人やらが踏み鳴らして出来たであろう、草の生えていない地面を目印に使いながら、ここまで来たのだ。

 

その時間、なんとたったの10分未満。

 

精密に行うには1秒程度のタイムラグこそあれど、淡希の座標移動の力は一回の移動で800メイル以上進む。限界まで遠くに飛ばすと着地点の指定があいまいになって誤差とは言えない形でブレが現れて、地面に埋まったり骨折しそうな角度で出現しかねないので、試行する距離は700メイル程度にとどめていたが、それでも時速で換算すればその速度は1300キロ弱。目安で言えば直線で始めと終わりを結んだ日本の本州を渡れる距離であまりに凄まじい数値だ。そんな淡希に馬で3時間の距離など一瞬のものでしかなく、結果としてどこまでの時間淡希が能力を連続で行使し続けられるかは、結局この試みではわからなかった。

 

「とりあえず、来てみたけれど随分狭い道なのね。」

 

それが淡希のトリスタニアの第一の感想。街は人ごみが出来るほどに活気づいてはいるものの、その人の数に対して道は些か狭い。経済的問題なのか、固定化や6000年も続くと言われている歴史のせいで人口が増えた後も昔のままなのか、それとも城下町ゆえの攻城時に対しての工夫なのか、淡希に理由は解らないがとにかく動きにくく狭い。空間移動を使って思わず進みたいが、これでは誰かの体内に出現して新たなトラウマを生み出しかねない。

 

「ああ、もう面倒ね。」

 

自身がまたトラウマを抱えて能力を使えなくなるのは勘弁なので、とりあえず淡希は腕にもったままだった警棒で少し高めの屋根を指すと、そこに自身を転移させる。

 

「ここなら何屋が何処かくらい解るでしょ。」

 

辺りを見回すと見えてくるのはRPGで見かけそうな看板を掲げるお店の数々。そんな中、ある意味一番見かけそうな剣の看板だけがない。

 

「武器屋みたいのがないのは…ああ、ここは魔法の国だったわ。」

 

それなら華やかなメインストリートは基本的に貴族の嗜むものばかりで、平民の武器という、戦いはメイジの本領なのにそれをつつくような店は、人通りを外れた端っこか路地裏辺りで、きっと肩身の狭い思いをしているのだろうと淡希は視界に見える大通りにある杖の看板や、何だか不思議な色の薬の入った瓶の看板から推測する。

 

比率をみる限り普通の兵隊も多そうなものなのに、ないがしろにして発展させないのは何処かもったいないように淡希は思えたが、まあそれが良くも悪くもこの国らしさなのだろうと、別に伝統を重んじる精神まで馬鹿にするつもりはないが、これまで出会った凝り固まっているトリステイン貴族の面々…淡希には理解し難い人たちを思い出すと一人で納得して、目当てのものを探しに行動をとりはじめた。

 

「なら、路地裏辺りから探しましょうか。」

 

淡希のここに来た目的、それは武器屋の下見だ。

 

最初の目的は単にトリスタニア全体の下見と、先程試したタバサの足となる自信の使い魔としての性能調査だったのだが、ここに来る道中で彼女はとりあえず自身が一番良く解っている座標移動、それの誤魔化し方…結果としての部分だけを考え、数日前の夜のタバサの言葉をヒントにその草案を思い付いていた。

 

その案とは、タバサの誤解した超高速移動である。魔法より早くそれを放った人間を盾にするように持ってきたり、人間が知覚できないほどの速度で部屋から出ていったり、物を投げ飛ばしたりしているとすれば、今まで見せてしまった情報と合わせても良い隠れ蓑になるのではないかと彼女は考え、考えきれなかった点のトライアングルメイジの使い魔としての力量の具合やらは、持続力という形で表そうと決めた。これならいくらでも加減が出来るので、タバサの話を参考にその辺りを調節しようとするつもりなのだ。

 

高速移動。本来それができる相手は自身が一番苦手としている上に、そんな力を持つ才人の身体強化を考えると、彼が披露しようとするであろう品評会でのそれ…お株を全部奪うようなことをする事になるのが申し訳ない気持ちにもなったが、こっちも背に腹は代えられない。

 

なにせ、淡希の狙いは他にもあるのだ。

 

(どうせ出るのなら、タバサに一番をプレゼントしてみせるわ。)

 

むしろどちらかというと、淡希の心の中ではこちらの割合の方が今では大きくなりつつあるだろう。この強い思いの前では、才人が悲しい思いをする羽目になることなどは、もはや彼女の中では他人に変えられるまで手をつけなかった携帯の着メロ程度、日常のなかで意識していない物事と同じくらいに、どうしようもなくどうでも良いことへと落ちてしまう。

 

(平賀に言ったことじゃないけれど…私を気にかけてくれるぶんのお返しぐらいはご主人様にしなきゃ、使い魔失格でしょう?)

 

タバサは言ってくれたのだ、淡希の力は私 も 知られたくないと。

 

タバサは言ってくれたのだ、淡希と 一緒に 街に行く、策も考えると。

 

そんな風に使い魔を、友達を大切にしようとしてくれるタバサの思いをただ受けとって、誤魔化すために必要なものを買って貰うだけなんてことは、彼女を好きになってしまった淡希が出来るはずがなかった。

 

(ああもう本当にーー)

 

どうしてこう自分の主は優しいのかと淡希は思う。

 

タバサは品評会の成績に興味はなさそうなのに、それでもサボらないのは淡希の評価を下げないためだと彼女は言ってくれた。自身だけなら最下位だろうと構わないかもしれないのに、そうやって淡希をわざわざ庇い、お金を工面して街へ行こうと言い、考えることにも協力をしようとしてくれている。

 

だからこそ、ならばその間違った知識ですら一番というインパクトを与えてみせようと、淡希は誓いを立てた。

 

別にタバサの望んでいない栄誉を送りたいわけではない。大切な人が思って行動してくれた結果を、最高の形にしてみせたいのだ。タバサから受け取った物を、気持ちを、一番素敵な形にしたいのが淡希の願いとなっていた。

 

(最近白井さんの気持ちがどんどん解ってしまうわね。)

 

この人の力になりたい、優しさに報いたい。タバサへのその想いがあるだけで、日々はこんなに色付く事が淡希にはびっくりで、それをくれたタバサがまたいっそうに愛おしくて…たまらない。そんな思いがどこまでも自身の気持ちを昂らせ、学業のようなもので一番を取りに行くなどという、人生で試みたことの無い行動を起こす力をくれているのだ。

 

そんなわけで、初日に思った変態面とは違う、もっとピュアな気持ちでもタバサに何かをしてあげたくなった淡希。

 

彼女は、高速移動中にくりだす対象への攻撃や、投擲などで使えそうな短剣や投げナイフを欲し、武器屋を探そうとしていたのだがふと見下ろした視界に…あるものが彼女の目にとまった。

 

「何かしら、アレ。」

 

一見すると農夫のもつ馬車。上には大量の干し草を、下には日や外気や埃にあてたくないような物、ジャガイモやのような壺や木箱に入れて運ぶようなものを入れるような2段重ねの馬車だが、あまりにおかしい。

 

なぜならその馬車の周りにいる人間は馬車に対してかなり多くの人数が居る上に、無精髭を生やしていたり、頬に傷があったり、手が汚い上に短剣まで帯刀し、さらに二人ほどは杖を帯に刺している。とても品物を納入する商売人達の体を成していない。貴族の学び舎とはいえ学院に来る物品を持ってくる商人と比べても、かなり怪しい。あれが平民同士でやり取りする時の普通の姿と言うことは無いだろう。護衛かとも考えたが、一人そこに居るまともな格好をした女性にもメイジの杖が見える。

 

メイジの農家など聞いたことが無いし、メイジならばもっと良い馬車に乗ろうとするだろう。ならば金の無い貧乏メイジかと考えれば今度はあんな大勢の護衛を付ける余裕などないはずだという考えに至る。

 

不相応な格の人間が居るガラの悪い者達。そんな人間たちに淡希はすごく心当たりがあった。

 

(…少し前の私達みたいな奴らってことは、あれはロクなことをする者達ではないでしょうね。)

 

単なるチンピラ止まりか、それともこの国にも暗部のようなものがあるのか、そのどちらにしても見てしまった以上は見過ごせるはずがなく、空間転移で音もなく地面に降りた淡希は、店の壁から覗くように馬車の小窓を見た。

 

この時淡希は調査を始めつつも、知ったところでどう行動するか攻めあぐねていた。なぜなら国の暗部だった場合、相手にする者がとてつもなく大きな存在になってしまうからだ。タバサの立場を悪くするようなことだけは、出来ない。

 

しかしそんな問題は杞憂に終わるというか、淡希の頭から青空の彼方へ消し飛んだ。

 

だって、彼女は馬車が動き始めた瞬間に小窓の奥を見てしまったのだ。

 

ーー縛られて動けないままに涙を流している少年(と少女)達を。

 

「ふ、ふふ…ふふふふふ。」

 

そんな悲しい光景を見て頭に血が昇ってしまった淡希は、何故かひどく冷静だった。瞬時に子供たちを助け、人攫いと思われる罪人を必要以上に、もとい徹底的に打ちのめすべく計画(プラン)を組み立てていく。

 

狂気の混じる笑みを浮かべながら、淡希はどこかへと消えて行く。自身の前で最もしてはならないことをしでかしてしまった者達へ、地獄の苦しみを与えるために。

 

「…積荷はなんだ?」

 

「なあに、単なる荷物さ。そうだろ?」

 

迫りくるショタコンの怒りなど露知らず、そう言って人攫いの男が金貨の袋を関所の衛兵に渡す。賄賂を渡して関所から出ようとしている辺りから察するに、人攫いたちは国の暗部という事ではないようだ。

 

「どれどれ。お、おう? 確かに荷物だな…なのにどうしてお前ら賄賂を()()()()()()()渡すんだ?」

 

「…何だと?」

 

中身を確認する為に馬車の扉を開けて不思議がる衛兵に人攫いたちが中身を覗く。そこに子供の姿は無く、あるのは壺や煤けている木箱、岩などといったものがゴミ箱のように乱雑につめられていた。

 

「おい、どういうことだこれは!?」

 

「知るかよ! あの後は誰もこの扉を開けてなんざなかっただろうが!!」

 

まるで狐につままれたような表情をしてあたふたと人攫いたちがどよめいていると、鮮血が飛んだ。

 

「ぐああぁっ!?」

 

見ると金貨袋の中にあったはずの金貨が、己の職務を忘れた国の裏切り者の体や、顔のいたるところにめり込むように突き刺さっている。

 

「ひ、ひいぃ…何だよコレ!? 魔法なのか…?」

 

「ふ、袋は縛られたままなのに金貨がどうやって出てきたんだ! まさか、ガキたちもこうやって…!?」

 

あまりに異質で無残なその光景に思わず人攫いの男たちが身を震わせていると、カツン、カンカンとなにか棒のような物を街の建物の壁に擦りあてるような音が後ろから聞こえてた。その音を聴いた者たちは日差しのさす昼前なのに、どこか闇夜の森に投げ込まれたような更なる冷たい、背筋が凍りつく錯覚に堕とされていく。

 

「なん…だよ、なんなんだよぉ!?」

 

恐怖の中がむしゃらに一人の男が振り返ると、そこには誰もいない。男の視界にあるのは壺だけだった。

 

「がっ…!」

 

「…っ、敵襲か!?」

 

振り返った男の顔面に壺が叩き付けられて、破片が舞う。はっとそのことで硬直がとれた他の男たちも振り返ると、そこには一人の女が立っていた。その目は皿のように見開かれ、唇は半開きのまま笑っていると、その唇が動いて呪詛を紡ぐかのような声で問いかける。

 

「いつものように?」

 

振り返り臨戦態勢を取る人攫いを見ながら淡希は呟く。

 

「いつものように貴方達はああやって、罪のない子供たちを攫っていたっていうの? ねえ…!!」

 

「ひっ…ぐへぇっ!」

 

その顔表情のまま男の懐へ淡希が空間移動をして飛び込むと、警棒で全力殴打された男は歯を飛ばしながら意識も飛ばされる。淡希はそのまま止まらずに1発、2発、3発と眼前に移動しては顎にクリーンヒットさせてひとり、ふたりと倒していく。

 

「感謝するわ…品評会の練習がこんな所でできるなんて、ねえっ!」

 

「こ、こいつ・・いつの間にいぎぃっ!?」

 

その姿はまさに淡希の誤魔化そうとした、高速で戦う人間の戦闘スタイルそのもの。右へ左へ、上へ下へと()()()()()()()()()動かれて気が付けば殴られている盗賊たちには、そうとしか見えなかった。

 

「は、早い! か、風のメイジか!? 蜘蛛の糸だ、面でとらえろ!!」

 

刃を抜いて応戦していたメイジ以外の人攫いを淡希が倒し終えた頃に、メイジ二人は共に詠唱を完成させると、蜘蛛の糸と呼ばれる魔法を撃ち放った。それはひどく粘つく縄のような物を放つ、相手を捉える魔法だ。

 

十字砲火のように放たれた何本もの魔法が格子状の網を作って淡希を捉えようと試みるが、それでも淡希の余裕は崩れない。

 

「貴方たちは…学院のラインメイジって子以下ね!」

 

淡希が逃げようともせずに警棒を振るうと、人攫い達の世界が歪む。やったと思った次の瞬間に、男たちの目の前には杖を抱えた仲間の姿。そして、一瞬後に自身に覆いかぶさる、ひどくねばつき地面に縫い付ける蜘蛛の糸の魔法が男たちを覆っていた。

 

「な、なんだこりゃあ…!どうして俺たちが、蜘蛛の糸に!?」

 

「お、おい…早く錬金の魔法でこいつを外してーー」

 

メイジ二人は最後まで言葉いう事はできなかった。へばりついて動けない次の瞬間、影がふたりの頭上にさすと、すり替えられた積荷の中にあった一番大きな岩が蜘蛛の糸で動けない二人の背中へと落ちてきていたからだ。

 

嫌な音と共にふたりのメイジが漬物のように潰されると、彼らが死ぬ前に淡希はその岩を自身の真後ろに飛ばして、椅子代わりにして足を開いたままだらしなく座る。怒りの中でも彼女はタバサの願いを忘れていなかったようだ。

 

「ふーっ…ふーっ…。あと、ひとりね。」

 

あれから空間移動で馬車に乗り込んだ淡希は、表通りにある馬車が裏路地の中でも広い道の近くを通り過ぎる瞬間、座標移動で子供たち全員をそこへと送り飛ばすと同時に、そこにあらかじめ空間転移でまとめておいた裏路地のごみや近くに見えた岩など、武器や防具になりそうなものを馬車の荷台の中へとまとめて送り込んだ。

 

そうしてからまっとうな兵隊の居る詰所へと子供たちを連れて行き、事情を話して子供たちをそこへ預けると警備の兵たちが人攫いの検挙に動くのを待つことなく、一人でまた空間移動で馬車を追って行き、関所の裏切り者の声を聞いてしまい、再び怒りにとらわれて…ということである。今度は冷静で居られなかった彼女は、そのままに蹂躙してしまったのだ。

 

「門の外で待っててもいつまでたっても来ないと思ったら…なんだいこりゃあ。」

 

淡希がクールダウンしていると、その蹴散らした者達の中に居なかった最後の一人の女メイジが姿を現した。

 

「見ての通りよ、人攫いさん。」

 

「見ての通り…か。随分派手にやってくれたじゃないか、お陰で商売あがったりだよ全く。」

 

「なら明日からはそこの馬車に似合う鋤でも持って、全うに生きるのね。」

 

「あんた、アタシをナメてんのかい。」

 

二人の間に緊張した空気が走る。銀髪の鋭い目をした人攫いの頭と思われる女メイジは、殺気だけなら淡希にも負けず劣らずのようだった。

 

「不思議な杖と不思議な魔法だ、どうだいアンタ。アタシと騎士試合をしてみないかい。久しぶりの強敵だ…サシで正々堂々と勝負がしたい。」

 

突然の提案に、淡希は肩を竦めて返す。

 

「生憎ね。この大陸の試合の作法なんて解らないのよ、私。」

 

「はっ、そんなもの…アタシを真似りゃいいのさ。」

 

「真似ねぇ。良いけれど、その前に聞きたいことが私にもあるわ。」

 

そう言って岩から尻を浮かせて立ち上がると、淡希は女メイジの正面に向き合った。

 

「なんだい? こっちはアンタを倒してとっととトンズラこかなきゃいけないから、出来るなら早くしてほしいんだけどね。」

 

杖を持ち、女メイジが猫足のようにつま先立ちになって素早く動ける姿勢をとる。一見自然にたっているように見えるが完全に戦闘体制に入っている。淡希は変わらずいつものように警棒を手で遊びながら、相手を照準のような目で捉えているだけだ。

 

「こそこそ動く人攫いが強敵を求めたり、試合形式を挑もうとしてきたくせに急ぐなんて、おかしな話ばかりね。ま…良いわ、それなら終わってからにしましょう。」

 

「ふん、余裕だね。」

 

距離をとってから女メイジが騎士試合にそった礼をとる。その形は会話をしながらとはいえ人攫いと呼ぶにはあまりに優雅で整っており、一度見た淡希にも覚えられるものだった。

 

覚えた淡希もメイジ同様に喋りながら礼の作法を真似ていく。

 

「そんなのじゃあないのよ。ただーー」

 

その時、女メイジが動いた。

 

「馬鹿ね! ラナ・デル・ウィンデ、エア・ハンマー!!」

 

見様見真似で淡希が礼をしている最中、淡希のもとへ踏み込みながら素早く詠唱を完成させると、彼女へ風の鉄槌を解き放つ。

 

「っ!」

 

礼の最中動けなかった淡希は、上半身に魔法を受けて岩をのけ反るように飛び越えて吹っ飛んでいく。ヴィリエとは比べ物にならない早さの洗練された動きが、淡希に空間転移をする暇を与えなかった。

 

「あははは、馬鹿だね。誰が騎士試合なんざするもんか。ほらほらどうしたのさ、試合なら終わっちまったよ? アタシに何か言いたいことがあったんじゃなかったのかい!?」

 

勝利に笑う女メイジに、岩の向こう側から声が帰ってくることはなかった。

 

何故ならば、既に彼女はそこにはいないから。

 

「そうね…まだ試合は終わってないけれど。」

 

響いていた笑い声が止まる。耳もと近くで後ろからかけられた声に、女メイジが部下の盗賊たち同様震え上がった。

 

「な…!?」

 

振り替えるとそこにいたのは、頭を打ったのか、額から一筋血を流しても笑みを浮かべたままの鬼が立っている。吹き飛ばしたはずなのに痛そうなそぶりは何もなく、ただただ眼を鋭くして、口に笑みを携えたままの鬼だ。

 

「馬鹿な、どうやって…! デルーー」

 

淡希の存在に怯えつつも女メイジは再び彼女へと魔法を向ける。

 

疑問を口にしているが理由など聞く暇もつもりもなかった。もはや女メイジは直感的に、淡希の不気味さから来る恐ろしさを寒気として肌で感じて、言葉も魔法も反射的に放とうとしたにすぎない。

 

「ウィンーーっ!?」

 

しかし、そんな怯えから来た、今をとにかくどうにかしたいという気持ちで、目の前の不気味なものを吹き飛ばすための魔法を唱えることは、女メイジには出来なかった。

 

既に彼女の杖が、警棒を持っている方とは反対の淡希の手にあるのだから。

 

「やられたわ。不意打ちもありだなんて…本当にふざけた騎士試合ね。」

 

「ば、馬鹿な! アタシの杖が!!」

 

淡希の座標移動の起こす、空間転移を知らない人間にはあまりに理解不能な現象に、思わず女メイジが後ずさる。

 

「ああ、さっきの事なんだけれどね…。」

 

「…くっ!」

 

それでも笑いながら話をやめない淡希に、他に戦う手を持たない様子の女メイジは反撃を恐れて距離を離すと、魔法が放ちにくい人混みの中へと消えてやり過ごしてから逃げるつもりなのか、広場の方へと逃げ出した。

 

「人の話しくらいちゃんと…聞くものよ!」

 

「ひぎ、ぎゃああぁあぁっ!!」

 

しかし、背中を見せての逃亡すらも…淡希の前では叶うことはなかった。

 

彼女の手から放たれた女メイジの杖が、そのまま杖の持ち主のアキレス腱へと突き刺さったからだ。

 

逃げ出そうとして鋭い痛みと熱を足首の腱へ感じ、苦痛に耐えきれずに顔を歪ませながら転ぶ女メイジ。いつの間に? 投げたのか? 魔法か? どうやって? 彼女が訳のわからないままに傷口をみていると、杖が再び消えて今度は反対の腱に激痛が奔った。またも彼女の杖が突き刺さっている。

 

「ひい、ひいいぃっ!?」

 

女メイジにはもう何もかもがわからなかった。それでも、ここに居てはいけない。その一心で足が動かなくても這うように淡希から逃げようとする。

 

また突き刺さっていた足から杖の感覚が消えたとき、彼女は自身に起こり来る未来、先ほど体験したことを想像しようとしたその刹那、手の甲から地面に突き刺さるように杖が手を貫く。

 

「あぎぁ…ぎひ……っ!」

 

もう逃げられない、女メイジは手を杖で地面に縫い付けられていた。もはや痛みに呼吸もままならず、自身の杖が、まるで上からすとんと降ってきたかのようにまっすぐで、固い地面に突き刺さっている理由を考える事すらできない

 

「それで、さっきの話だけれど。」

 

そんな生まれて初めて、今の悪事に後悔を感じた女メイジへ一歩、一歩…ひたりひたりとゆっくり話を続けながら迫る幽鬼がひとり。

 

「別に、試合が終わってから聞くってのは余裕でも何でもないわ、先に聞いても無駄だっただけよ。」

 

「あ…あ……。」

 

地べたに転がされた女メイジの目の前に立つ彼女は、男メイジたちが持っていた二つの杖を片手の指の間で挟むように持ちながら、もう片方の手に持つ警棒型懐中電灯を向けて言うのだった。

 

「だってほら、貴女をこうすることに何も変わりはしないもの。」

 

街外れの検閲所の門の前で、絶叫が鳴り響いた。

 

どうしてそんな酷いことをするのって、その理由なんてものを聞いたところで彼女に…淡希に少年を泣かせた人間を許すなんて事も、懲らしめるだけで済ますことも、出来るはずがなかった。

 

 

 

 

「これは…!?」

 

先程の詰所にいた警備隊の者がようやく淡希たちの居たところへと駆けつけると、既に決着も、執行も終わったあとだった。平民の人攫いは全て顔を腫らしながら倒れ伏し、男のメイジふたりは自身の魔法の網のなかで痙攣するも動くことはなく、頭の女メイジは串刺しにでもされたように、身体中にできた小さな穴から血を流している。

 

「遅かったわね。」

 

「お前…まさか一人で全てやってのけたのか。」

 

「そうよ…。」

 

うなずく事もなく項垂れたままに淡希は、返事だけを帰した。

 

「すまんな、本来は我々がもっと早くこいつらの犯行に気づいて、民を守るために動かねばならんと言うのに。」

 

「そうね、次からはよろしくお願いしたいわ。」

 

ひらひらと手を降って、岩に尻を乗せたままに淡希は顔をあげようとも立とうともしない。

 

「どうした…まさかどこかやられたのか!?」

 

「そういうことじゃないのよ、気にしなくていいわ。」

 

淡希の元気がない理由、それは頭の傷でも座標移動の使いすぎからくる能力者の疲労感でもない。落ち着いた今になって心のそこから這い出て来た、ただひとつのかつての言葉だ。

 

『こんな怪我を負わせたのはどこの馬鹿ですのよ!』

 

(…結局は、私はまだまだ変われてなんていないのね。)

 

串刺の痕まみれの女メイジや、骨や内臓にダメージを負っているだろう人攫いに、金貨を至るところに射し込まれた兵。死んでいないというだけで、かの言葉を淡希にぶつけた人間が見れば、どうみてもやりすぎだと彼女に平手打ちをするだろう。

 

正しいと、そう思った事のために使った力でも、怒りや私情が淡希は全く抜けていない。ここにきて彼女はヴィリエの時もそうだと思い至ってしまった。才人を助けたのは半分、それを口実にして彼女のしたこともまた、彼女にとっては馬鹿げたことを言うヴィリエがムカついたからこそ、挑発して決闘を誘うように言い返して自ら起こした…血の舞う惨劇だったのだと。

 

正義の味方になるつもりはないと、タバサの使い魔になる時に決めている。

 

しかし、それでも、これではただの癇癪持ちだ。

 

淡希はため息をひとつはいて、警棒のスイッチをかりかりと引っ掻いては指で弾いた。

 

(たまたま力を使う方向や理由が、正当性を主張できるモノだったに過ぎないわね…。)

 

それはつまり、行きすぎた制裁。

 

自分は変われていないと、能力を使って人を傷つける人間なままだと、淡希は自身に落ち込み項垂れていたのだ。

 

(だから…橋渡しをすると言った白井さんのように、私もタバサの街までの足になれたらなって、思ってたのだけれどね。)

 

どんなにそう言った行動を始めて取り繕っても、まだまだ忌み嫌う自分のままなのは、当分続きそうな気がして淡希がさらに憂鬱になる。するとやはりどこか悪いのかと気にかけたのか、警備隊の先頭に居た先程の人間が声をまたかけてきた。

 

「とにかく礼を言わせてくれ。ミス…ええと。」

 

そんな自分に礼など勘弁してほしいと思いながらも、淡希は重苦しく顔をあげて警備の女性を、金髪の前髪を揃えておでこの上辺りで切り揃えて、剣を携えた人間を見る。

 

「淡希よ。ええと…?」

 

「アニエスだ。ミス・アワキ。」

 

「ただの使い魔にミスなんて要らないわよ。ミス・アニエス。」

 

「私も貴族だがその呼ばれかたはどうもむず痒くてな…アニエスで構わん。しかし使い魔だと…ってお前、やはり頭を怪我しているではないか!!」

 

そう言って誰か彼女を詰所の医務室へと、金髪の女剣士アニエスが治療を促す。

 

「結構よ、あとは帰るだけだから。」

 

ふらふらと茫然自失の様に立ち上がる淡希をアニエスが肩に手を当て引き止める。

 

「そうもいかん! 報酬もまだなのにそんな体で功労人を帰せば私がどやされる。ええい、良いから来い!」

 

そう言われた淡希は、人に向ける場合にどう力を振るえば良いか悩んだままに、結局詰所につれて行かれて包帯を頭に軽く巻かれると、報酬としての金貨の入った袋を手渡される。ずしりと重みがある量で100枚ほどはある。

 

「金貨なんて、こんなにいいの?」

 

「子供を無傷の救出。常習的に繰り返していた人攫いのメイジ三人も討伐して連中に壊滅的打撃を与え、検閲所の裏切り者の摘発とおまけに雑兵まで片しているんだ、まとめて一人で受けとれば、そのくらいにもなるだろう。」

 

本来はひとりでこなす仕事ではないと、アニエスは言いたいようだ。

 

「そんなものかしら。」

 

「そんなものだ。」

 

なら有難くタバサの為に受け取りましょうと、淡希がこの世界の金貨や銀貨をまじまじとみているとなにやら、もじもじとした気配を感じる。

 

「あら? 貴方達はさっきの…。」

 

扉の隙間から見えるのは、10人ほどの助け出した平民と思われる子供たち。彼らが淡希のほうをじっと見つめている。

 

今この部屋に居るのはアニエスと淡希、それに包帯を巻いた部下が一人だけ。貴族だらけの部屋へ入るのをためらっているのだろう。

 

「どうしたの?」

 

そう言って医務室に入ることができなかった子達の前まで向い、前の列の真ん中に居る少年に目線を合わせるように淡希がしゃがみこんで、近い近い顔近い! 最高!! みたいな気持ちでいると彼らは一斉に笑顔を咲かせて、彼女に向けて口を開いた。

 

「「「メイジのお姉ちゃん、ありがとう!」」」

 

満面の笑みが一人の少女を包み込むと、鮮血が舞った…鼻から。

 

「わあ!? なになに! お姉ちゃんどうしちゃたの!?」

 

「まだ怪我があったのか! 大丈夫かアワキ!!」

 

どうしてそうなったのか解らないアニエスと、子供たちが困惑するなかで…淡希はあまりの嬉しいイベントに頭がのぼせて意識が薄れていく。

 

(何て素晴らしいのかしら、こんなことをされたらお小遣いくらいあげないといけないわねしんぱいしなくてもちゃんとおんなのこにもあげるわよウフフフフ……ぐふぅ。)

 

性癖と変態全開なことを考えながら、淡希は本当の意味で感謝もしていた。

 

それは…答えを見つけられたことへの感謝だ。

 

なんだ、正しく力を振るための基準点はこんな所に、簡単にあるったじゃないと。

 

この子供たちが笑顔になれるような、この子供たちが戦う自分を見て怯えないような、そんな力の振るい方。

 

そうなろうとする考えこそがきっと、人を傷つけるために力を振るう結標淡希が、誰かのために力を振るう結標淡希となる為の一番の近道なのだろうと、彼女は気づく。

 

そして…のけぞったままにバランスを崩して、後頭部を地面に打つと、なんとも間抜けな顔のままに気を失った。




タバサの冒険のストーリーも適当なタイミングでこうしてまぜこぜ出来ればいいなと思います。

サラダ食うあわきんがアニメで見たい人生だった…。

アニエスさんの貴族化のタイミングが解らないけれどこの世界ではもう貴族です。
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