本編に入れると助長になるなぁ、と思ったものの
書いてしまったので供養代わりに、幕間の物語的に読んでもらえればうれしいです
ダイジェストで倒されてしまった蛇型バーテックスと衛宮士郎の戦闘です
――――それは、刹那にも満たない攻防だった。
飛沫が上がり、海が割れる。
吊り橋に飛び上がった士郎は、まさしく満身創痍だった。
「はぁ――――、はぁ――――、」
荒れる息を抑える。
赤く染まった左腕から、バーテックスに噛み砕かれた弓の残骸が零れ落ちた。
痛みは、ない。神経を損傷したのか、あるいは別に原因があるのか。
――――問題にもならない。バーテックスは結界内に未だ存在するものの、傷を負った腕一本以外は問題なく動かすことができる。
まだ、剣を握ることはできる。
戦うことができる。
「冬木に、こいつが出なかったのは幸運だったな……」
眼下の海上、その大渦の中から――――九頭竜が顔を覗かせている。
いや、蛇の集合体であるそれは、ギリシャ神話のヒュドラの方が近いだろうか。
実際、それは蛇型バーテックスが九体、絡み合っているだけのものだ。化け物たちは互いに締め付け、海中の何かを圧しながら、まるで伝説に出てくる魔物のように無能な狙撃手を嘲笑う。
斬撃に対抗策を持つ進化体――――それが、蛇型バーテックスの正体だ。
海中に引きずり込んだ士郎に九分割された後、その切れ端全てが一個体として復活を遂げていた。
「……分割されると増えるのか。確かに、俺の剣でお前を殺しきるのは、難題なんだろうが、」
取れる手段は、極めて限定的だ。
左手を潰され、狙撃はおろか使い慣れた夫婦剣すら今や片手落ち。魔力も十全とはいえず、敵は健在かつ下手な損傷はいたずらに戦力を増やしてしまう。
彼の王の聖剣であれば、跡形もなく焼き払えるだろう。あるいは、クランの猛犬の投擲でも殲滅できるかもしれない。
士郎の手札には、
「――――
追い込まれた状況の中で、士郎の思考は冴えていた。
絶殺の手段は既に組み上がっている。
必要な武装を選択し、投影する。魔力の出し惜しみはない、三十を超える刀剣が背後の空間に滲み出た。
その光景に、バーテックスは嘲り笑う。
出現した剣は、どれも確かに神秘を宿してはいた。だが、無銘の武装に宿る神秘などたかが知れている。
傷は負うだろうが、己を倒すことなど叶うはずがない。
怪物の判断は真っ当であり、その狙いは既に撃ち出されるだろうガラクタの対処ではなく、愚かで不遜なこの人間を殺す方へと移行している。
そして、
「武装を奪って使わないのなら、すぐにでも捨てるべきだったんだ、お前は。後生大事に抱え込んでいるそれは、俺にとっては使い捨てのきく剣の一振りに過ぎない」
仕込みは、既に終えている。
勝ち誇るバーテックスが包み隠していた岩塊へ、士郎は最後の役割を与える。
「――――贋作だからこそ、こういう使い方もある」
魔力爆弾と化した岩塊は、その爆発で密着していたバーテックスをバラバラに吹き飛ばした。
欠片のほとんどは爆発の熱で焼き尽くされ、難を逃れた細かな破片も投影宝具の掃射によってことごとく撃ち落とされた。立ち込める爆炎が晴れた後、蛇型バーテックスは跡形もなく焼失していた。
箸休め的な、本編では蛇足になる部分でした
岩塊が何だったのか、察しのいい人であればなんとなくわかったことと思います
本編は次回で四国移住編が終わります
乞うご期待
追記
感想ありがとうございます
とてもとても嬉しいです、もう少しリアル事情が落ち着いたところで返信いたします。