勇者たちの歴史   作:サークル・草刈や

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だいぶご無沙汰していました、、、3年以上ぶりの執筆になります。

入院やら仕事に忙殺されたりと生きることに精一杯になっていまして、ようやく筆をとることができるようになった次第です。

冬コミにも参加いたします、続編──と呼べるかはまだあれですが、続きを出せる予定が何とか立ちましたので、ここにも投稿していこうと思います。

本当に、お待たせし続けてしまい申し訳ありませんでした。

どうかこれからも、よろしくお願いいたします。
 


第十二話 諏訪と四国①

 

 

 

         ┌────┐

【勇者御記】   │検閲済み│

         └────┘

 

 今日、私たち勇者に戦い方を教える人との対面がありました。

 衛宮士郎さん。

 目つきが少し怖いけれど、物腰がとても柔らかくて、優しい人なんだなと分かりました。

 勇者ではないけれど、私たちよりも実戦経験が豊富で、武器の扱いに長けた人。

 この前の戦いで私たちは勝つことができましたが、足りないものも多く感じました。

 咄嗟の状況に対応することのできる判断の速さ。機転に繋げられる知識と、それを実行することができる技術。そして、友奈さんや若葉さんが使用した『切り札』──この力が■■■■■■■■であるのか。

 今考える目標をどうすれば達成できるのか、今の私には全然分からないけれど。

まだまだ、私たちは力をつけなければいけないと思います。

 

 

第4話 諏訪と四国 Ⅰ

 

 二〇一八年一月二十八日。

 年明けの神事に関連する行事も終わり、先の作戦で負った怪我も癒えてきた頃。

 勇者たちの学び舎である丸亀城の敷地内では、金属同士が衝突する高い音が響いていた。

 

「──郡、また動きが一辺倒になっているぞ」

「くッ……、はァ……ッ!!」

 

 四国の勇者の一人、郡千景は気合いと共に袈裟斬りに鎌を振り下ろす。

 続けて胴を払う横薙ぎの一閃、その回転を殺さず下から逆袈裟に斬り上げる。

 鋭く振るわれたそれは、しかし相手を捉えきれずに空を斬る。

 彼女の間合いを把握されている動き。散々指摘されている『課題』を解決する糸口を探る間に、無機質なタイマー音が鳴った。タイムアップだ。

 

「そこまで! ……動きはだいぶ良くなったな」

「……はッ……はッ……ありがとう、ございます……」

 

 差し出されたタオルで汗を拭いつつ、疲れた素振りもない目の前の男を千景はまじまじと見つめた。

 白の混ざった髪。よく日焼けした、それとは別に不自然に褐色が点在する肌。

 長身の男は、衛宮士郎。冬木市で少し前まで勇者の代わりに守護者をしていた、らしい。

 

「後は、そうだな……鎌という武器の長所と短所を更に理解できると、もっと引き出しが広がるはずだ。こういう時に、試せるだけ色々やってみるといい」

「……はい、分かりました」

「よし、じゃあ少し休憩を挟んでおいてくれ。次は────伊予島、今の射撃についてだが、」

 

 射撃練習に励んでいた同じ勇者の伊予島杏へと向かっていく士郎。

 彼について、千景はまだあまり知らない。

 ほんの数日前、大社から勇者専属の「教導員」として、彼が紹介された。

 勇者の力もなく、バーテックスと戦っていたという経歴。俄に信じがたい話で、実際士郎を初めて見る杏や土居球子は冗談か事実か判断に困っているような表情を浮かべていた。

 千景は既に士郎を、彼の戦う姿を見ていたこともあり、その実力を疑うこともなかった。

 ただ、同時に困惑もした。

 ただの人間がバーテックスを相手取れるのなら、勇者が──自分たちだけが戦わなければならない意味は、なんなのだろう、と。

 

「……人間も、ゲームみたいに……案外鍛えれば勇者と同じくらい強くなるものなの……?」

 

 レベリング。バーテックスを数百体倒せば、筋力がいくつ上がるとか。

 そんなとりとめのないことを考えている間に、杏の指導を終えた士郎が球子の方へと向かっていく。

 球子はだいぶ変わった武装を使うが、彼の指導に淀みはない。誰かの練習を見ながらも、常に視界に他の勇者を収めているという。鳥みたいな視界だなと、その時思ったのを覚えている。

 見られているという感覚はないが、彼の指摘する言葉の正確さが、実感できるレベルで向上しつつあるパフォーマンスの結果が、それを事実だと証明していた。

ここまで『見てくれる』大人は、千景の知る限り初めてだった。

 

「…………信頼、できるのかしら…………」

 

 その結論は、まだ出ない。

 衛宮士郎は、彼女の常識からあまりに外れた存在で。

 僅か数日で安易に覆せるほど、郡千景の人生も軽くはないのだから。

 

 

 

 

 

「……あら、お帰りなさい、乃木さん。お疲れ様」

「ありがとう、千景。今日はまた……一段と大変だったみたいだな」

 

 見ての通りよ、と呆れた調子の千景に苦笑を返す。

 乃木若葉が丸亀城に戻ってきたのは実戦練習──刃引きした模造武器を用いた演習が終わった所だった。

 足の負傷が長引いている若葉はまだ運動が制限されている。だから、その時間を活用して通院をしているのだが、毎度広がるこの光景も流石に見慣れてきた頃だ。

 これから座学の予定だが、球子と杏は机に崩れ落ちている。元気の塊である高嶋友奈も、今日は千景の机に腕枕をして潰れている異常事態だ。

唯一、姿勢をキープしている千景もいつも通りを装っているものの、反応にいつものキレがない。

 この光景を見る度にハードワークではないのかと思わなくもないが、いつも通りなら後数分もすれば復活するだろう。若葉も荷物を片付けると、自分の席に着くことにした。

 

「……しかし、普通の座学なんて久しぶりだな」

「あ~……そ~だねぇ……」

「……年末以来だから、三週間ぶりくらいじゃない? 冬休みが挟まったみたいなものね」

 

 蕩けたような友奈の相づちに力が抜けそうになる。まだ復活は遠いようだ。

 

「教科は何か聞いているか?」

「あなたが聞いてないなら、誰も分かってないわよ。用具は全部置いてあるから問題はないでしょう?」

「まあ、そうだが」

 

 適当な雑談を交わしていると、扉が開いた。

 入ってきたのは大社の職員──座学の全てを担当している『教員』だった。

 

「先日は、お勤めご苦労様でした。本日から、少しずつ平常のカリキュラムに戻していこうと思います。各自、国語の用意を準備してください」

「──あ、はい。みんな、準備をするぞ。球子頑張れ、起きるんだ!」

 

 用具を準備しながら、若葉は僅かな違和感を覚えた。

 千景も怪訝な表情を浮かべたが、授業が始まれば話しかけて確認する訳にもいかない。

 そして根が真面目な若葉は、授業を受ける中ですっかり違和感のことを忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 違和感の原因──若葉と同時に戻ったはずの上里ひなたは、授業を受けていなかった。

 勇者専属の巫女である彼女は大社の職員に呼び出され、増設された応接室で『来客』を待っていた。

 本人としては、若葉と引き離されて不機嫌にもなっていたのだが、大社からの通達では聞かない訳にはいかない。何より危急の要件であった場合、自分の感情を優先させては若葉の不利益にもなりかねないのだから、不承不承指示通りに『誰か』を待たされていた。

 

「……お待たせしました。すみません、別件に対応していたら遅れてしまって」

 

 十五分ほど経ったところで、ようやく一人の職員が入ってきた。

 伝えられた到着時刻より数分『早い』。かなり急いだらしく、「失礼」と球のような汗をハンカチで拭っている。

 上下共に白一色の格好。顔立ちは若いものの、相当上位の職員であることは間違いない。

 

「いえ、お役目があるのはお互い様ですから」

「上里様に貴重な時間を作っていただいたのに、申し訳ありません。その分、要件は簡潔に済ませますのでご容赦いただきたい」

 

 言葉を交わして、対面に座る。深々と頭を下げる男の冠を見ながら、ひなたの警戒心は数段上げられていた。

 大社の職員は、現在の四国の運営に携わっている。

 言わば自治組織であり、操舵手である。彼らにとって巫女という存在は不可欠だが、尊重はされていない。

 四国の要である神樹様の神託を受けられるのは巫女だけであり、大社の大人たちでは意向を伺うことも叶わない。

 だからこそ、巫女の資質を持つ者を集め、些細な神託をも逃さぬように囲っているのだが、彼女たちの意思や意向が汲まれることはほとんどない。巫女はあくまで神託を受信するスピーカーであり、それを除けばただの中学生、四国の運営に関わらせる気など全くないのだろう。

 それは、正しいとひなたも思う。

 中学生の要望を指針にしては、いずれとんでもない方向に迷走しかねない。大人の方が正しい判断をすることができるはずだ。

だから、横柄な職員の態度は見慣れていたが──ここまでへりくだった態度を見せる職員は見たことがなかった。

 一介の巫女でしかない自分に、大社の上位の職員がそこまでして何の話をしに来たのか。あまり良い予感はしないながらも、ひなたは話を促した。

 

「それではつかぬ事を伺いますが、上里様は他地方の状況について、どの程度把握していますでしょうか?」

「他の地方……諏訪の事でしょうか?」

 

 職員は頷くと、言葉を続ける。

 

「乃木若葉様は諏訪地方との交信を今も続けていらっしゃると思います。今の諏訪の状況など、把握している限りで構いませんから共有をしていただきたいのですが」

「状況といっても、特に何も……強いて言えば、年末に一度連絡が取れないタイミングがあったみたいですが」

 

 勇者たちに関係する話だと思っていたひなたは多少面食らったが、そもそもひなた自身もよく知らない話だ。特に隠し立てをすることもなく、質問に対して正直に答えた。

 

「勇者様同士の会話で、諏訪や他の地方が話題に取り上げられることはありますか?」

「そこまで多いわけではないですが、時々乃木さんが諏訪の話をすることはあります。主に、四国の勇者の方の話が中心です」

「なるほど…………他の勇者様の方から他地方の話題が出ることはありますか?」

 

 ……どういう意図の質問でしょう?

 さぁ、と言葉を濁しながら、相手の出方を窺う。

 他地方、特に諏訪の動向を大社は知りたがっているのは明らかだ。

 もしや、冬木市の一件から他地方の勢力との合流を検討し始めたのだろうか? 大社の方針は保守的が過ぎるが、あの作戦の成功で合流に意義があると考えるようになったのなら大きな前進だろう。

 諏訪のことを常々気にしている若葉に、良い知らせができるかもしれない。

 前向きな気持ちになりかけていたひなただったが、しかし大社の方針は斜め下をいった。

 

「上里様、もし今後諏訪から救援の申し出があったとしても、それを他の勇者様に共有しないように若葉様へお伝えいただけますでしょうか?」

「…………それは、諏訪を見殺しにする、ということでしょうか」

「今の状況で遠征を行うのは、大きなリスクが有ると判断がされたからです」

 

 聡明な上里様なら理解していただけるはずです、と恭しく上体を伏して言葉を重ねる。

 

「冬木の一件は向こうからの遠征であり、それでも若葉様の負傷という事態に繋がりました。もし諏訪に勇者様を派遣し、道中、もしくは遠征先で重傷を負うことがあれば、勇者様が諏訪に封殺され、両地方の共倒れも起こりえ得ます」

「……しかし、年始の神託で半年は大きな襲撃がないと判明したはずです。今こそ、他地域との合流を図り、勢力拡充を急ぐべきでは?」

「上里様、これは大社の決定事項になります。諏訪の状況に関して、大社は静観を貫く、と」

 

 私一人の尽力で覆るものではありませんので、と本当に申し訳なさそうな声音で締めて、職員は退室した。

 本心から覆す気など欠片もありはしないであろうことは、ひなたには嫌というほど伝わっていた。

 




 
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