異世界転生で現地住民が理解力が高い話 作:ぱっぱらぱ
一週間後。俺は王から呼び出しを受けた。父は何事かと大慌てである。
俺は良い影響にせよ悪い影響にせよ、呼び出されるのは確実だろうと思っていたので気構え十分である。まあ悪けりゃ逃げればいい。防犯グッズを装備して登城だ。
一週間ぶりに見た王城は何というか雰囲気が違っていた。外見が大きく変化したというわけではない。だが、城から上がる声というか活気というか、巡回する兵士の気質や廊下を歩く文官の顔つきが大きく変わっている。やる気に満ちた、鬼気迫るような表情を浮かべながらも満足感もうかがえるそんな様子である。前回来たときは規律ゆるゆるで居眠りしてるやつまでいたのになんだこの変化。
なんだなんだと父と顔を見合わせながら玉座の間まで到着し、キビキビと動く兵士がノミー子爵、ご入来! とこれまた気合の入った様子で扉を開く。この兵士もこの間は「ごにゅぅらぃ~」とかそんな気の抜けた掛け声だったはずなのにえらい変わりようである。まあ声くらいは気の持ちようかもしれないが、それにしてもなんでそうなったのか、あるいはたかだか一週間でここまで変われたその理由が知りたいものである。
「……来たか」
果たして俺を迎え入れたのは威厳たっぷりの壮年の男性だった。ええ? 誰?
「へ、陛下……! ついに、ついにあの時の陛下が返ってきた!」
あのだるんだるんのゆるゆるおっさん王がこれ? 別人じゃん。異世界ってこういうことあり得るの? この一週間で何があったの? 君主論の影響にしたって即効性ありすぎじゃない? もうなんていうかこの推定人類ども怖いんだけど。
いやそれよりも父は何言ってんの? あの時の陛下って何? 昔の王様は今の感じで、一週間前の王様こそが異端だったの? どうなっちゃってんだよわけわからないよ。
今の王は威圧感があり、カリスマも威厳も何もかもあるまさに人を率いる存在そのものだ。髪型もバッハみたいだった髪を頭頂部でひとまとめにしてある疑似オールバックみたいな感じで目も吊り上がってて怖い。サンタクロースみたいだった髭はふわふわもさもさとした質感から一転して、ビシッと整った武将のような髭に変わっていた。声も低くて響くまさに王って感じ。
前回の時は絵本の中に出てくる王様って感じだったのに。なんだか王のゆるさがなくなった分俺がちょっとゆるい感じになってない? でもなんかこのカリスマある人がちょっと前まで絵本の王様みたいな雰囲気だったって考えるとギャップでどうしてもまともに見れないんだけど。
「うむ、そなたの息子のエコのおかげよ」
勢いよく振り返る父は形容しがたい表情を浮かべている。褒めるべきか叱るべきか悩んでいるようだ。いやまあ俺もこの王の雰囲気が良いことなのか悪いことなのか判別つかないけど王の前でその態度はまずいんじゃないの?
「お褒めにあずかり恐悦至極でございます」
俺は父を無視して礼をすると王はフハハと笑った。その笑いはまるで正面で大太鼓でも叩かれているのではと思うような大きく、腹に響く笑い声だった。本読んだだけで体まで変化するはずないよなあ。何があったの?
「よい、よい。貴公にそのような真似はさせられん。我が蒙が啓けたのは貴公のおかげよ。その恩人にさような真似はさせられぬ。
ところで、『君主論』のような本はほかにもあるのであろう? 内容から推測するに、貴公が話していた科学に関する書物があるはずだ。それを私に預けてくれないか?」
王は笑みを浮かべながら
ちょうど王から俺を求める展開になってくれたのは都合がいい。現状は通販のスキルのおかげで俺が市場を独占している状態だ。圧倒的に供給側が強い状態で需要が発生しているのだから条件は吊り上げ放題である。さらに言えばば相手は適正価格を把握していない。
限度はあるだろうがうまくいけば一足飛びに望む展開にもっていけるかもしれない。
「承りました。そこで、申し訳ないのですが王の願いをかなえるためにいくつか必要なものがございます」
「うむ、申してみよ」
金です。と短く答えた。王はふむと頷くだけで続きを促してくる。
「“通販のスキル”は物を買うスキルです。物の売買には金銭が必要になります。本を買う資金である金貨十枚が必要です」
「金貨十枚で本が買えるのか」
王は驚いた様子だった。それもそのはず。この世界では本は高いのだ。人が手ずから一冊一冊丹念に文字を紙に書いたものを綴じているので高くなる。識字率も高くないので人件費がかさむ。そもそも紙の値段がかなり高い。そんな数々の理由もあり、金貨十枚では一冊買えるかどうかというところである。ちなみに金貨の換金価格は20000円前後で、この世界ではもっと高い価格で取引されている。早く多くの金を得る手段を実行したいものである。
そんな金貨を十枚受け取りサクサクと画面を操作する。正直、王がここまで『君主論』の影響を受けるとは思わなかった。だが、読んだだけでこれほどまでに変化する王のさらに先を見たいと思うのは好奇心が発端なのか、それとも俺の感じていた絶望を打ち砕くことへの期待からかはわからない。
どちらにせよ、意識の変革はいずれ起こしてもらうつもりだった。“通販のスキル”を活用するためには古代的な思考では無理だ。どこかでパラダイムシフトが必須だった。それが早まっただけだと考える事は高慢だろうが、時間の余裕ができたと喜ぶことは当然の権利であると思う。
早く国家が強くなればなるほどに近隣諸国や帝国により有利に立ち回ることができる。まずは専門家が必要だ。
世界史の本を一冊と、哲学の古典文書を何冊か。あとは『国富論』などの経済学の本と初歩的な科学の本を何冊か渡す。いきなりたくさんの本が空中から出現した様子に王は驚いた様子だったが特に何か言うことはなかった。
各本についての概要を説明する。
「この世界史の本は、世界の歴史が書かれている本です。もちろん、我々の世界ではありません。この“通販のスキル”によって購入できる物品を生産している世界の歴史です。彼らがどういう経緯で、どのように発展して、あるいはどのように衰退したのか。また当時の人々は何を考えたのか。その理解の手助けになるかと思い、この本を出しました。
続けて哲学の本です。哲学はもちろんこちらにもある学問の一つですが、発展具合が異なります。また、有益な本はこの発展した哲学の思考方法や論理を下敷きに展開することが多いのでこれをまず理解することでより深くほかの本も理解できるかと思います。
これらを読み終えてから、経済学と科学の本をお読みください。用語その他わからないことがあれば読んでいただければ出来るだけ早く登城いたします」
「まるでその知識を熟知しているような物言いであるが、其方は説明できるほどであるのか?」
ぶっちゃけ教員免許持ってるわけでもないし、教育の難しさなんて欠片も知らないけど未開人に軽く教えるくらいならぼろも出ないでしょ。
という本心は押し隠して真摯に発言する。
「私は“通販のスキル”を得てからこの知識が駆け巡るように脳に刻まれたように感じていましたが、そうではなかったのです。
おそらくスキルの影響であるのか、スキルが目覚める前から知識の欠片が頭の中に漏れていたのではないかと思わしき点が多々あるのです。それは思考方法であったり、あるいは知識です」
適当に言っているわけではない。この可能性も考えた。俺という人格は転生した誰かの物なのか? あるいはエコ少年が整合性の為にエピソード記憶をねつ造したのか?
哲学的な話しであれば、我思う、故に我ありとでも結論付ければいいのだろうが、どこに主体があるのかという話はどうしても気になってしまうのである。アイデンティティというものはどうしても必要なのだ。
まあ結局、だいぶ詳細なエピソード記憶を持っているので、おそらく転生で間違いないだろうとは思っているのだが、それはそれで現地人たるエコ少年を塗りつぶしてしまったのか、あるいはもともとエコとして俺が転生する予定だったのか、卵が先か鶏が先かという思考の迷宮にはまってしまう。
ちなみに歴史的には卵が先である。恐竜の子孫である鳥類は鶏になるより前から卵生なのだ。その論理で言えば、鶏であるエコ少年が塗りつぶされるより先に卵である俺がいるわけだから気にすることはないと考えるべきか。国家にとっても通販のスキルの性能を十分に理解して活用できるアドバンテージを持った俺の方が有益だろう。エコ少年が何にもなきゃただの五歳児だしさすがに俺以上ってことはないだろうしな。
「うむ。道理である」
王は幾度か頷いた後に、さっそく本を読み始めるようだった。父と俺は本を渡した後はそのまま退城した。
帰り道で父からどんな本を渡したのかと聞かれたので簡単に答えていく。父には内容が若干難しいようでよく理解できていない様子だったが、あとで本を渡すよというと引き下がった。
「ところで、父上が陛下におっしゃっていたあの時の陛下というのはいったいどういうことなのですか?」
気になっていたことを聞く。王のあの様子は正直言って変だ。推定人類の特徴はスキル以外にもあるのかもしれない。そう思うと今の自分のボディも推定人類である以上気になるところである。
「ああ、そうかお前は知らないのだったな……。かつて陛下はターシャ王国の龍と呼ばれるほどに才気に満ち溢れたお方であったのだ。
だが、帝国へと留学されて帰国なさった時には一週間前の様子になってしまわれた。帝国で如何様な体験をしたのか、それすらも語ってもらえず我らは陛下の様子を忸怩たる思いで見守り続けてきたのだが、ついに、ついにあの時の陛下が! 戻ってきたのだ! 王国の未来は明るい!」
それって帝国と王国の国力を比較したらマジで敵わないくらいだったから無能を演じて矛先をそらしたとかそんな感じなんじゃないの? だいぶありがちな状況だし、有能だったならそういう行動もしそうだ。
というか、王って何歳なの? 最初見たときは初老のおっさんにしか見えなかったけど、うちの父親が王の留学時期の記憶があるってことはだいぶ若いのか?
「あれ、父上と陛下の御年はいくつなのですか?」
「ああ、歳は同じく23だ」
えぇ……。23で領主と国主やってんの? どういうことなの。
家に帰って調べた結果、三年ほど前に当時の王様や領主などが軒並み暗殺されているようだった。それに合わせて帝国の傘下に入ることが決定したらしい。時期的に見て、帝国の仕業に違いないとしか思えない。俺の祖父母見たことないなと思ってたらいないのかよ。あったことないから特に何か感じることもないけど何となく不愉快だ。
中世程度の文明で覇を唱えているなんていうのは井の中の蛙であることを知らしめねばならない。
ともあれ帝国は滅ぶべきであるのだ。
tips
・父親が理解できなかったのは教える側に問題があったのではないか
・王は力をためている……