時間は大きく遡り、沢風が猫屋敷を呼び、連れていく場面に戻る。
砂糖達と別れて沢風は猫屋敷を連れて本館と別館を繋ぐ渡り廊下で止まる。
「ね~沢風君さ~俺に用があるんだろ~?」
「ああそうだよ」
「なら~何で中庭に~入ってってるのさ~?」
猫屋敷の疑問の通り、沢風は猫屋敷を連れて渡り廊下の横にある草木が生い茂っている中庭の奥に進んでいく。
流石に黙ってられずに猫屋敷は沢風に聞く。
「……それはすぐに訳が分かるさ」
「ん~?何やら訳ありだね~」
「ごめん…だけど目的の場所まで着いたら話すから」
「それなら良いけど~」
そこから沢風と猫屋敷は奥に進んでいく。そして辿り着いた沢風の言う目的の場所には、見た事のない扉が壁に取り付けられていた。
これには猫屋敷も目を丸くする。
「おんや~こんな所に扉が~あったんだね~」
「俺も全然気が付かなかったんだけどね…」
「なら~沢風君は~どうやって見付けたの~?」
猫屋敷から問い掛けられた質問にやや険しい顔を浮かべて言いにくそうに口をもごつかせる。だが気合いを入れて猫屋敷の顔を見て言う。
「モノクマから…言われたんだ」
「モノクマから~?どういう事~?」
「渡り廊下を通ってたらモノクマがいきなり出てきてさ」
沢風が言うにはモノクマは…
『やあ!オマエラのプリティーアイドルな校長だよ!ここを通り掛かった沢風クンだけに、特別教えてあげるね!渡り廊下のボクが指差す中庭の先に扉があるんだけど、その先には実は新たな開放された場所があるんだ!だけど入る時はキミ一人で行かないでね?そうだなぁ…猫屋敷クンを連れて入ってね?沢風クンと猫屋敷クンの二人でしか入れないからね?ちなみに、入るも入らないも沢風クンの自由だけど、扉の先にはオマエラの二年半の記憶やら学園の謎とかに関する重要な情報とかあるかもだから行った方が良いかも?かもかも!?』
と、こちらが何か言う隙間も与えぬ程、矢継早に話したい事を話して消えてしまう。
残された沢風はポカンとした顔をして、暫くその場で立ち尽くし考えた。罠だろうとも思ったがこの学園に関する重要な情報とやらと言われたら興味が引かれる。気になる事もあるし、もしかしたらその事が判明するかもしれない。
なら行ってみるか?しかしモノクマは猫屋敷を連れてではないと入れないと言われた。何故、猫屋敷でないといけないのだろう?
誰かに相談をした方が良いか…だが言った所でその場所に入れるのは自分と猫屋敷だけ。なら一旦猫屋敷を誘って扉の前まで行ってみよう。
そう思い沢風は猫屋敷を誘ってここまで来たのだ。猫屋敷に説明を終えると沢風は苦い顔をして言う。
「モノクマの事だから嘘かもしれないし、罠かもしれない……でも、このまま何もしないままでは居られないんだ!」
次々と死んでいく同級生達。仲良くなったと思えば別れが訪れて死んでいく姿をただ黙って見届けていく。自分達はあまりにもこの状況の原因を知らなさすぎる。
自分達が失っている希望ヶ峰学園に通っていた二年半の記憶には黒幕に繋がるものがきっとある。その情報がもしかしたらこの先にあるのかもしれない。そう思ったらもう沢風の心はその事で一杯になってしまう。
「……焦ってるの~?」
「…っ!?」
「沢風君が~何を焦ってるのかは~僕は知らないけど~沢風君は~それで良いんだよね~?」
「……お、れは…」
「俺は~自分の身は~守れるし~良いけど~沢風君は~何が起こっても~後悔せずに~進んでいけるかな~」
いつも通り穏やかな顔を浮かべて言う猫屋敷だが、その瞳は真剣だ。逸らすことが出来ない眼差しに沢風は言葉を詰まらせる…が力を込めて見つめ返し、沢風は言う。
「…俺はここで立ち止まっていたら絶対に後悔する。それに開放された場所はここだけらしいし、入れるのが俺達二人なら…猫屋敷を巻き込んでしまって申し訳ないけど、俺はこの先に進みたい」
「ん~」
「それに罠だとして…あいつらが直接俺達に何かしてきて殺されるとかはしないだろうし…まだ動機も配られてないんだ。配られてない今の内に脱出に繋がる手掛かりでも見つけようよ」
沢風は希望を持って言う。確かに、モノクマからは動機に関してはまだ何も聞いていない。だが沢風は知らない…この先に進む事こそが今回の動機になるのだと。まさかモノクマ達がこんな動機を用意していようとは。
…沢風は己のプライドを打ち砕かれ、嘆き、苦しむ事になるとはこの時の沢風は微塵も思わず甘い蜜に誘われ希望に隠された絶望を見落としていく。
「ふむ~沢風君が~そう言うんなら~俺も手伝うよ~あの~熊と虎に~ギャフンと~言わせてやるんだ~」
「ありがとう猫屋敷、それじゃあ夜ご飯には戻る様にしようか」
「そうだね~あまり熱中し過ぎて~夜ご飯の時間が~過ぎちゃったら~皆に心配掛けちゃうし~」
沢風と扉のドアノブを掴み、扉を開ける。もしかして鍵でも掛かっているかもと思っていたが、存外簡単に開いてホッとする。
それから沢風と猫屋敷は扉を潜り入っていく。そこは明かりはあるがほの暗い小さなトンネルになっていた。トンネルはちゃんと鋪装されていた。鋪装されたトンネルを進んでいくと100メートル程でまた扉にぶつかる。
「…また扉だね」
「ん~危険だし~今度は俺が開けるよ~」
「え、そんな猫屋敷が危なくないか?」
言われた猫屋敷はフンスと鼻息を荒くして両腰にサイズの合ってないダボッとした服の袖の中にある手を当てて得意気な様子で言う。
「ちょっと~僕があの~巷で有名な~殺人鬼だって事は知ってるでしょ~殺意的な~気配は人一倍~いや更に倍に~感じ取れるんだよ~」
それもそうだ。警察の捜査網を掻い潜り、場所や時間は毎度気分でテキトーには決めて殺人を犯しているが、今まで危ない状況には何度も陥り、回避してきた。
時には恨まれて、殺し屋に狙われた事もあったりしたが殺意を敏感に感じ取れるので逆に殺してきた。その経験により猫屋敷は扉の先に何か殺意があるものが出てきても対処出来る自信があるのだ。
猫屋敷はのほほんといつも通りに見えながらも、警戒心を極限に高めて進んでいく。
「……ん~?」
猫屋敷は扉の先を見て、首を傾げて中に入っていく。沢風も慌てて中を覗く。
「……え?」
沢風も首を傾げ、ポカンとした顔をして中に入る。
「……ここって…え?」
「こんな所も~あったんだね~」
二人の目の前に広がる光景は、広大なグラウンド。周りには建物もあったり遊具があり、先には畑が見えて、真っ直ぐ視界の先にはまた大きい校舎が見える。
「…何だここは?」
「何って校庭だよ」
「校庭……っても、モノクマ!?」
「わ~お~驚いたな~」
「猫屋敷クンは全く驚いてる様には見えないけどね」
「それが~俺だからね~」
いつの間にか沢風のすぐ隣に居たモノクマに驚く二人。驚かせて楽しいのかいつものうぷぷと人を腹立たせる笑い声をあげて、この場所を説明し始める。
「ここは旧館に繋がる道の途中、校庭だよ。校庭にも色々な設備があるし、研究教室もあるからね」
「君の言っていた学園の謎と俺達の失った記憶に関する情報があるのはそこの旧館の事なんだね?」
「うんそうだよ!」
「ならここを調べるのは後にして先に旧館の方を調べに行こう」
沢風は猫屋敷を連れて旧館に向かおうとする。
「あ、旧館は開放されてないよ」
「……なんだって~?」
「だから旧館には入れないよ」
「何でさ~」
「いやだから校庭が開放されただけであって旧館は別に開放されてないから」
「…何だよ……そんなの、話が違うじゃないかっ!」
モノクマに向かって激昂する。沢風はこれで何か事態が好転するかもしれないと意気込んで来たが、結局はモノクマの嘘だったのかと。
「ちょっとちょっと沢風クンはちゃんとボクの話を聞いたのかな?扉の先には新たに開放された場所があるとは言ったけど別に旧館が開放されたとは言ってないし扉の先に重要な情報があるかもとは言ったけどかもって言ってるしさ」
「そんなの…そんな幼稚な言い訳で…俺を、弄んだって言うのか」
「べっつにー旧館に入りたいなら今までの流れ的にある事が起これば開くけど」
モノクマの言う先の言葉はすぐに分かった。単純な事だ。コロシアイが起こり、学級裁判でクロに勝てば開放されると言う意味なのだろうが、そんな事許容出来る訳がないと沢風は声を大にしてモノクマに反論をする。
そんな沢風を見たモノクマは滑稽そうに嗤う。
「オマエラが起こしたくないなら強制はしないよ!新しく開放されたこの場所で過ごしていれば良いじゃない!」
どこまでも馬鹿にして言ってくるモノクマに感情が爆発しそうになり、沢風はここから出ようとする。
「猫屋敷、今日はもう戻ろう」
「そだね~ムカつくし~お腹空いたしね~」
「あれ?戻るの?大丈夫?ちゃんと戻れるの?」
「…っ!どこまで馬鹿にすればっ!」
「まあ~まあ~こんな奴放っておいて~…………」
「…?……どうしたんだい猫屋敷?」
モノクマに煽られて怒る沢風を宥めながら猫屋敷は渡り廊下に戻る扉を開けようとしていたが、動きをピタッと止める。
突然の停止に沢風は言い知れぬ不安が押し寄せながら猫屋敷に問い掛けると、猫屋敷は静かに呟く。
「開かないんだ~」
「え……?」
「ドアが~開かない~」
そう言いながらも猫屋敷はドアノブをガチャガチャ動かすが扉が開く様子はない。
「そんな…入る時は簡単に開いたのに……おいモノクマ!!」
後ろで自分達をニヤニヤと馬鹿にした様に笑いながらモノクマはおどけてくる。
「なにさどうしたの?ボクが何かしたって言いたいのかな?」
「当たり前だろ!何の嫌がらせだ?早く開けろよ!」
「は~?開ける訳ないじゃーんこれが今回の動機なんだから」
「動機だって…?」
この場所で一番不吉で不安を煽ってくる最悪の言葉に沢風の血の気が引いていく。
「うぷぷ、何か動機と開放された場所を分けて出すのめんどくさいからさ、二つに纏めてみようかなって思って今回は纏めちゃいました!」
「つまり~新しく開放された~ここに閉じ込めるって~動機な訳~?」
「そう!猫屋敷クン大正解!なのでここから出るにはある事をしなくちゃいけ」
「どうせ~コロシアイでしょ~お決り展開~」
「な……いって所まで言わせてくれないかな?」
モノクマの言おうとする事を先回りして言った猫屋敷の言葉に沢風も気付いていた。
「何だよ…こんな場所に閉じ込められたって……」
「言っておくけど扉の前でスタンバるとか止めてよね。それで出ようとかしたら強制的に扉を閉めちゃうから挟まるかもよ」
「なら~大人しくここで~過ごせば~」
「それも無理だね。ここには食料がないからさ」
「え~?一個も~?」
「うん。あるとしたらトイレの水だけ。ちなみに畑には何にも植えられてないから」
「畑の意味が~ないじゃん~」
モノクマの言う事を信じるなら、今現在沢風と猫屋敷の二人は完全に校庭に閉じ込められ、食料が一切無い状況で助かるには誰かを殺さないといけないらしい。
「寂しくない様に随時人はボクが送るから安心してね!」
つまり沢風の様にモノクマが唆して誘導するという事だろう。
「テキトーに渡り廊下歩いてる奴に気まぐれに話し掛けて案内するから!」
どうせ自分の時の様に限られた条件でしか入れないよと言うつもりなんだろう。そうなれば自身の様に重要な情報に釣られてやって来るだろう。
「……そ、そんな…俺のせいで」
「ん?どうしたのさ沢風クン。まあ確かにキミのせいではあるんだけどね。猫屋敷クンを巻き込んだ沢風クンはどう思ってるの?あれだよね、沢風クンって頭良いのに詰めが甘いよね今まで自分の思い通りに甘い人生生きてきたからそうなってんじゃないの?良かったねこれで一つまた勉強になったじゃん」
「う……ぅぅ」
「あいつの~言う事なんて~気にしないで良いよ~」
猫屋敷が励ますも沢風は自身の思慮の浅さに嫌悪する。どうしてもっと疑わなかったんだ。罠だと思っていたのに自分の悩んでいた事、この学園の情報があると言われたらこれで上手くここから出られるかもと甘い考えをしてしまい、挙げ句猫屋敷まで巻き込んでしまった。
「それじゃあボクは退散するね!次は誰が来るか…お楽しみに!あ、ここでならどこで寝ても校則違反にならないから好きな場所で寝て良いよ!」
そう言い残しモノクマは嬉しそうに消えていった。残された沢風は意気消沈している。猫屋敷は状況が分かっているのかいないのかのんびりした様子で沢風に話し掛ける。
「とりあえず~ここを調べてみようか~」
「……え?」
「いや~だってさ~ここで何もせずに居るよりは~ここに何があるか~見て行った方が良くない~?」
「猫屋敷は…怒ってないのかい?俺が巻き込んだのに…」
「別にだよ~それに~どうせモノクマは~沢風君じゃなくても~渡り廊下を通った人に~ここを入らせるだろうし~」
「でも、結局は俺のせいで」
「んも~うじうじしてても~仕方ないって~ほら~とりあえず近い所から調べに行こ~」
猫屋敷に背中を押されて沢風は困惑しながらも足を進める。
「ほら~見てよ沢風君~モノフォンのマップに~校庭の地図が出てるよ~」
「え、あ…本当だ」
自分達が校庭に来たからだろう校庭の全体図が見れる様になっていた。広さはそれなりにある様で研究教室は六つもある。
まずは近くにある所からと向かった先、眼前に広がるのはすべり台、ジャングルジム、シーソー等々の小さい子が遊ぶ遊具に、中々豪華なアスレチックもある。木々に張り巡らせた網があり、自由自在に上に乗って遊べそうである。
モノフォンのマップを見ればここは遊具広場となっている。遊具広場の横にはこの校庭唯一ある公衆トイレがある。
「へ~懐かしいね~」
「確かにこの年になったらすべり台とかしないしね」
「それに見てよ~あの網~」
「こんなアスレテレビで見たことあるね」
「うわっほ~い~」
「え?ちょ、ちょっと猫屋敷!?」
猫屋敷は我慢できないと張り巡らせられている網の上に登り、思う存分に楽しんでいく。
「沢風君も~登っておいでよ~」
「ええ…」
「良いから~良いから~沢風君さ~落ち込んでるじゃ~ないか~」
「…うっ……」
「今は~体を動かしてさ~イライラな~鬱憤を吹き飛ばそ~ぜ~」
「猫屋敷……」
網の上ではしゃぎ跳び跳ねながら沢風に向かってウインクを飛ばす。
「……はぁ…そんな単純な事じゃないと思うんだけどな」
「え~?」
「今俺達の状況は食料がなく助けも来ない絶望的何だ。何とか打破する術を考えないと」
「む~」
未だ渋い顔で俯く沢風を見て不機嫌そうに網から降りて猫屋敷は駆け寄ると沢風の手を掴む。そして網の方に無理矢理連れていく。
「え…あ、あのちょっと、猫屋敷?な、どうしたんだい!?ちょっと猫屋敷!!?」
「にゃはは~わは~ん~」
「ちょ、うおおぉぉぉぉ!!?」
猫屋敷が自身の手を引っ張ってまた網に登り始めるので沢風も焦りながら持ち前の運動神経で登っていく。そして登りきると沢風は不満そうに猫屋敷をジトーッとした目で見つめる。
「猫屋敷…君って奴は…」
「ん~?まあ~まあ~それよりも~登っちゃったんだし~ほら行こ~」
「うわっと!?だから急に止めてくれよ!」
またもや引っ張られて沢風は足をもたつかせながら、猫屋敷の後を着いていく。流石の運動神経と反射神経で転ぶ事はなく、貼り巡っている網に弾みながらも猫屋敷と共に進んでいく。
「うわっにゃは~ほらほら~どう沢風君~楽しいでしょ~」
「うわ、おっとっと……ぅぅぅ…確かに楽しいけどぉ」
何だかんだと言いながら沢風も元気な男の子。しかも体育会系のリア充だ。アウトドアの面白そうなアスレチックに気分も自然と上がっていき、少年の様な笑みを浮かべてしまう。
「うん~良い笑顔だよ~ほら~もっと跳ねようぜ~」
「うおおおっ!!あ、ね、こ、猫屋敷、跳ねすぎぃぃぃぃぃぃ!!!?」
「そう言いながら~沢風君~笑ってるじゃ~ん~」
「いや…だってさ、楽しいんだから仕方ないじゃないかぁぁぁ!!!」
「わはは~ならもっと楽しも~」
そこから沢風と猫屋敷は時間を忘れて思う存分アスレチックを楽しんだ。しかし傍から見たら超高校級の運動神経を持つ二人のアスレの遊びに度肝を抜かれる事だろう。
まだ余裕そうな二人だがそろそろ他の場所も見てみるかと遊具広場を離れて近くにある公衆トイレに足を進める。その最中猫屋敷は沢風に話し掛ける。
「どう~?気分晴れやか~?」
「……うん、多少はね」
「そこは~全快だ~って言ってほしかったな~」
「あははは、ごめんごめん…全快だよありがとう」
「にゃはっは~」
そして公衆トイレに着いたが、普通のどこにでもある公園と同じ見た目だ。中を覗けばピカピカで清潔にされている様だ。
「へえ、清潔に保たれてるね」
「これは良かったね~」
「使う上では…特に問題もないね。だけど一つしかないのは不便でしかないね…」
たった一つしかない洋式トイレが使えるか確認もしてみるが特に問題なく使えた。だが調べてみたが他に特出する事もなく、二人は公衆トイレを後にして次に向かった。
沢風はマップを見ながら目の前の目的地を見る。
「ええっと…ここは、交通委員……泊の研究教室か……」
「これって~教室なのかな~?」
猫屋敷の疑問も最もだ。超高校級の交通委員の研究教室は教室と言いながらも屋外に設置された運面免許の教習所の様になっている。
「流石に車はないか」
「あったら~乗り回して~ドア破壊とかしてやるのにね~」
「い、いやそれは校則違反になるんじゃないかな…」
まず運転する事、それ事態がいけない事なのだが。二人は一通り見て回ってみる。
「泊はここを見たら喜びそうだな…多分俺達に交通ルールを教えてくれてくれたり……」
ここで一番最初に仲良くなった泊の事を思い出し、染々と喋る沢風に猫屋敷は気を遣い…。
「でも~泊君は~死んじゃったもんね~使う人が居ない~研究教室程さ~寂しい事はないよね~」
……気を遣うなんて事はせずに一切の遠慮なく地雷を全力疾走していった。普段ののほほんとした態度で忘れられがちではあるが、猫屋敷は歴とした超高校級の殺戮者だ。空気を読まず、自分の都合で他人を拷問的に殺して弄ぶ、狂った思考を持っている猫屋敷に気を遣う等という事は出来ないに決まったいた。
これには沢風も驚き、ムッと顔をしかめるが猫屋敷に何を言っても無駄であろう事は今までの付き合いで分かっているので、特に何も言わずに交通委員の研究教室を後にする。
次にやって来た研究教室は寺院だ。と言う事はここの研究教室は瀬戸内のだろう。
二人は超高校級の僧の研究教室に足を踏み入れた。
「うわあ~仏様だ~」
寺院に入ると中には仏像が祀られていた。他に仏具も揃えられていてどこか神聖な雰囲気を感じる。
「ここが瀬戸内の…研究教室…」
「え~あの瀬戸内君が~?」
二人ともこんな神聖な寺院が瀬戸内の研究教室とはあまり思えなかった。普段の彼の言動を見れば分かる通りだし、彼が僧らしい事をした事がないので確かに超高校級の僧としてスカウトはされているが、疑ってしまう。
「瀬戸内君のって~何か間違ってな~い~?」
「ほら、猫屋敷。入るなら靴を脱いでからだよ」
「おやおや~」
靴のまま入ろうとする猫屋敷を注意して靴を脱いでから入ってみる。
「こんな場所にお寺があるって不思議だね…」
「そうだね~」
厳かな空気が漂う寺院を歩いていく中…二人はある仏像の前で足を止める。その仏像が明らかにモノクマだったからだ。寺院にも祀られている仏像にもミスマッチなモノクマの仏像に渋い顔を浮かべるが、反応したくなかったので無視をして先に進んだ。
「……」
「……」
寺院の雰囲気に自然と無言で歩いていく二人は早々に調べ終わり、外に出た。すると猫屋敷は伸びをして息を吐き疲れた様子で呟く。
「ふう~僕あの空気苦手だね~」
「そうなの?」
「うん~息苦しくなっちゃう~」
ほんわかしていてゆるい猫屋敷には厳かな雰囲気は得意じゃない様だ。
「おお~お次は~畑だね~」
「結構広いんだね」
二人の目の前には広大な畑が広がっていた。しかし見てみると特に何も植えられている訳ではない。モノクマの言う通りで食べる物は一つも植えられていない様だ。
「こんなに~広いんだから~もしかしたらさ~植えられてたりしないかな~」
「モノクマの事だからそれはないと思うな」
「まあ~だよね~」
用はないなと早々に畑を後にして、次に反対側にある研究教室に向かう。辿り着くとそこは中々に大きな建物だ。
「ここが超高校級のゲーマーの研究教室…」
「なら~ここはゲームセンターって事かな~?」
「多分そうだろうね。じゃあ入ってみようか」
「れっつらご~」
自動ドアを潜るとそこは思いっきりゲームセンターであった。鳴り響くゲーム機の音に今までの閉鎖的な空間に居た沢風は少々困惑する。
「あ~ねえ~沢風君あっち見てみてよ~」
「え?」
マイペースな猫屋敷が向かう後ろを着いていくとそこはゲームセンターの中の端に位置する一角で、ちゃぶ台に座布団が敷かれていて昔懐かしのテレビゲームとテレビがあった。
どうやら家庭用ゲーム機もきちんと用意されている様だ。こういう所は変に揃えられているのが腹が立つ。
「テレビは~……何も映らないや~」
電源をポチポチ押すもテレビがつく様子はない。しかし家庭用ゲーム機を起動すると、しっかりとゲーム画面は映ったので壊れて使えないという訳ではない様だ。
外部の情報を見られたくないモノクマならそうするのは当たり前か。仕方ないとその場を離れてゲームセンター内を調べていく。
対戦ゲームやUFOキャッチャー、クイズゲームやカードゲーム等々ゲーム好きにはたまらないだろう。だがここにはカラオケもあれば、ゲームセンターもあるとなったら電気消費量がえげつないと思うが、そんなに沢山の電気を消費して大丈夫なのだろうか?
「これ~お金要るのかな~?」
猫屋敷がそう呟いてからUFOキャッチャーのボタンを押してみると、普通に動いたので驚く。どうやらここのゲーム機はタダで出来る様だ。
「見て回ったし、次に行こうよ」
「そだね~」
ここに百澤が居たならば喜んでいただろう。また気分を落として沢風は次に向かった。日に日に死んでいった仲間達を想い、その度に自己嫌悪に陥る。
「ここは~何だろね~」
猫屋敷の声を聞いてハッとする。いつの間にか次の場所に着いていた。先程のゲームセンターより大分狭いが…果たしてここはとマップを確認する。
「柔道場らしいね」
確かに自分達の中で柔道場に長けた人は居ないし、そこまで広さは要らないかと思いながら入る。
「普通の柔道場…だね」
沢風の言った通り、目の前には畳が敷かれており一応狭いながら更衣室もあるし、柔道場の端には空気を入れ換える換気の為に小さい小窓も付いている。
だが見れば見るほどに普通の柔道場だ。先程までの様々な場所を見たばかりに、ここまで普通な柔道場に不安を覚えてしまう。
「あ~沢風君~これを見てよ~」
「え?……ここって防音されてるんだね」
張り紙が貼っていて、そこにはこの柔道場は防音がされているという張り紙だった。
「別にこんな所に防音を付けなくても良いんじゃないかな?」
「いや~意味はあると~思うよ~」
「意味って、猫屋敷はわかるの?」
「あったり前さ~ズバリ~ここで殺人をしろ~な部屋何だよ~」
「え!?……あ、なるほど。さっきのゲームセンターもそういう事って訳だね」
校庭は広い。だが見通しが良すぎるから殺人をした所を見られる可能性は高い。だから防音の柔道場、ゲーム機の音で煩いゲームセンターが用意されたのだ。
「ん~これは~あんまりここに~来ない方が良さそうな~感じだね~殺されるかもだし~僕は殺人鬼だから~疑われるし~」
「……そ、うだね」
本当は『大丈夫さ殺人なんて起こる訳ない』等と否定をしたかったが、そんな根拠もなく追い込まれている現状では言えなくなっていた。
「ん~防音部屋っての以外は~何もないし~お次にゴ~だね~」
「あ、ああそうだね」
沢風は揺れる心を抑えつけながら猫屋敷と次に向かう。
「楽しみ~楽しみ~楽しみだな~」
スキップしながら楽しそうにしている猫屋敷。何故かと言われれば次の場所が猫屋敷の研究教室だからだ。沢風も猫屋敷の研究教室が気になって仕方がなかった。
「えっと~俺の研究~教室は~」
「……ここだね」
「ん~?え~?どういう事~?」
「……」
二人の目の前には地面に突き刺さった鉤爪が二個。マップには今居る場所は超高校級の殺戮者の研究教室と表示されているが…。
「あれあれ~これって~俺のやつじゃ~ん~」
「え…これって猫屋敷の?」
「うん~これで~人を~ぶしゃあ~ってしてた~」
平然と言う猫屋敷に寒気が走る。鉤爪を見れば禍々しい嫌な感じがしてきて、気持ち悪くなってくる。これで、この鉤爪で沢山の人の命を刈ってきたんだ。これを猫屋敷に取らせるのは危険だと沢風は思う。
「そ~んなに警戒しなくても~俺はこいつを~取らないよ~」
「え……」
「約束だからね~」
それは砂糖との約束。果たしてその約束を守れるのか、ゆらゆら揺れて本心が見えない猫屋敷には、どんなに殺人しないと言われても信じきる事は一生出来ないと思ってしまう。
「それにしても~僕の研究教室が~地面に愛用の鉤爪だけって~手抜きじゃな~い~?」
それは確かに今までのどの研究教室より簡素だ。だが沢風としては殺戮者の研究教室としては教室と言えないが、ピッタリではと思った。
膨れっ面をして自身の研究教室の不満をブツブツ言いながら猫屋敷はさっさと次に向かう。今までの全員の研究教室がどれも豪華であったりしていたので、自分の研究教室について楽しみにしていただけにショックが大きかった様だが、沢風にとっては殺人に有利な物が沢山あるかもと思っていたので少しだけ安心した。
「えっと~次は~誰のかは丸分かりだね~」
丸分かりのこの場所は超高校級の野球選手である湯上の研究教室。目の前には広がるのは野球場。無駄に広い校庭をふんだんに使っている。これで校庭にあるものは全てになる。
「何で俺の研究教室は室内で…」
自身の研究教室は広くはあるが室内で野球選手の研究教室は校庭の広い場所。この違いに沢風は不満に思う。自分が超高校級のサッカー選手としてだったら校庭を使われていたのだろうか…リア充としてだから室内になったのか……納得がいかない沢風であった。
「あれ~どうしたのさ~」
「あ、いや…何でもないさ」
「ん~そっか~それにしても~設備は~潤沢だよね~」
本当に無駄に設備は揃っていて自身の研究教室も居心地は良い。しかし猫屋敷はブスーッと不満顔で自分の研究教室の方を睨む。それには沢風も複雑そうな顔を浮かべる。
「とりあえず校庭はこれで全部…って所だね」
「む~それで~これからどうしよっか~」
「そうだね……ここではモノフォンしか時間の確認しようがないからあまりモノフォンは使えないし……」
ここには当然いつも部屋にあるモノフォンの充電器等はない。そしていつも使っていたベッドもモノクマから言われた通り食料も何もない、ここに閉じ込められる前はまだ衣食住は整えられていたが、それすらもない本当の密閉された極限の状況だ。
「ご飯がないし~寝れる所と言えば~瀬戸内君の~研究教室か~柔道場かな~?」
「それしか無さそうだね」
「ん~唯一の場所も~寝てたら体が痛くなるだろ~ね~」
「でも今はそこ位しか寝れる場所はないからね…」
話し合った結果、柔道場で寝る事になった。それからはどこかに食料がないか、隠し出口でもないか、何か自分達に有益な情報がないかを探していく。
本来なら食料がない現状、動き回らない方が良いのだろうが沢風はここで何もせずに居てもいずれは動きたくても動けなくなる、ならば今の内に出来る事はしておこうという考えだ。
「ていうか~遊具広場って所が~あるんならさ~普通は水飲み場位置いてても~良いと思うんだよね~」
「確かにここまで設備を揃えられるんだったらそれ位は作れるよね」
「四の五の言ってらんない~ってのは分かってるけど~トイレの水飲むとか~拒否したいよ~」
「そ、それは…俺も同じ気持ちだよ……」
二人してこれから喉が渇いたら、毎回トイレに行って手洗い場の蛇口から、水を飲まなければならないのかと思うと、気が滅入ってしまう。
「で、でもここはプラスに考えよう!水が飲めるならまだ生き延びれる期間が増すからさ」
「そうだね~詳しくは知らないけど~」
「俺もそんなには…何も食べなくて飲まなかったら三日程度…水さえ飲めれば約一ヶ月って所…だったと思うよ」
「へ~なら~一ヶ月は~大丈夫だね~」
「俺の記憶が確かなら…だけどあんまり自信はないな…」
「大丈夫~だぁ~いじょうぶ~何とかなるって~」
今の状況が分かっているのかいないのか…マイペースで楽観的な猫屋敷を見ていたら色々悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。
それから二人は校庭を歩き回り、調べ回った。食料が見つからない中、夜ご飯の時間をとっくに過ぎて、辺りはすでに真っ暗闇に包まれている。
真っ暗だと辺りが見えないのでもう寝ようと決めて、柔道場に寝転がる二人。しかし柔道場からトイレまで、まあまあな距離があるのが不便でならない。それに寝転がった畳は当然ながら柔らかくなく硬い、加えて毛布が無い。
分かってはいたつもりだったが、いつも当然の様に使っていた物が無いとこんなにも精神を磨り減らすものか。
「ん~硬い~お腹減った~ん~ああ~」
「…………今は耐えるしかないよ」
泣き言を吐く猫屋敷に自分の気持ちを我慢して励ます。猫屋敷を巻き込んでしまったのは自分のせいなのだと思っている沢風は胸がズキリと傷んだ。
それから暫く時間が経ち、慣れない環境に簡単に眠れる筈がなく、モヤモヤした気持ちを抱えていると猫屋敷から話し掛けられる。
「ん~ねえ~沢風君~起きてる~?」
「ああ、起きてるよ。猫屋敷も寝られない…よね」
「自室のベッドって~高級感あったよね~」
「確かにそうだね。フカフカで寝心地は良かったよね」
「これさ~黒幕って~性根が腐ってるって~次元じゃないよ~もう性根が闇堕ちして~禍々しくなってるよ~」
「ぷっ、あはは。何だよ性根が闇堕ちって」
「あ~沢風君~やっと笑ったね~」
「え?……あ」
「ふふふ~沢風君は~笑ってた方が~似合ってるよ~」
猫屋敷の緊張感が無い、脱力する言葉に思わず笑ってしまう。だが猫屋敷の言った言葉とこちらを微笑んで見ている顔を見て、自分を元気付ける為に…と気付く。
意外に猫屋敷は気が利く奴の様だ。
「ありがとう、猫屋敷」
「どういたしまして~」
心の何処かにあった不安な気持ちも今だけは少しだけ和らいでくれた。殺人鬼だと分かっていても、猫屋敷だって立派な仲間なんだ。そう思っていると何か思い付いた猫屋敷は体を半分起き上がらせてこちらを見る。
「ねえねえ~どうせ寝れないしさ~ここは~お決まりのアノ流れでは~?」
「え、あ、あの流れってなに?そんなのあったっけ?」
不思議に思いながら猫屋敷の答えを待つ。猫屋敷はむふふふ~と楽しそうにしながら言う。
「そりゃあ~もちのろんの~恋バナって奴をしよ~よ~」
「…それってお決まりなんだね……修学旅行とかなら分かるけど…まあ寝れないししよっか」
「にゃふふ~じゃあ~彼女持ちのリア充の~沢風君から~お願いしますよ~」
「俺からか…でも恋バナって言っても今付き合ってる人とが初めてだからね」
「あれあれ~そうなの~?モテモテで~付き合っては~別れて~付き合っては~別れて~じゃないの~?」
「そ、そんな事してないよ!?確かに嬉しい事に…自分で言うの恥ずかしいけど、も、モテてたよ……」
超高校級のリア充と言われているが、沢風自身はサッカーと生徒会長等に勤しんでいた真面目人間だ。自分の容姿や性格がモテるだろう事や、実際にファンクラブまで出来ていて、プレゼント等も沢山貰ってきた事から確かにモテているとは、自他共に認めているが自身の口から言う事をしなかった沢風は恥ずかしさに苛まれる。
「うわ~お~顔真っ赤~」
「だって…自分からも、モテてるなんて…普通言う事ないし…」
「あは~確かにね~でも羨ましい~ね~。それで~そんなうらやまな~沢風君の初カノさんは~どんな出会いで~どうやって~付き合ったのさ~」
「ううう…言わないといけないかなぁ?」
「あったりまえ~」
有無を言わさない猫屋敷に、仕方なく折れて話す。出会いは小学校の時、転校してきたその子と同じクラスになりそこから仲良くなった。
それから中学はずっと同じクラス、高校も同じ高校に通おうと約束していた。自分が超高校級のリア充に選ばれた時は断ろうかとも思ったが…色々あり、その子からの後押しにより希望ヶ峰学園に通う事にした。
「それで中学の時にその子から告白されてね…付き合う事になったって訳だよ」
「……あま~い~ね~」
「そ、そうかな…」
「デレデレしてたし~それはも~砂糖君の~料理位は~甘かったよ~」
「そんなにかな!?」
ジト目で甘い甘いと言い続ける猫屋敷に、初めて人に自身の恋バナを話した沢風は嬉しさと恥ずかしさでまたもや真っ赤になる。そして次は猫屋敷の番だよ!と言い、話し手を猫屋敷に変えさせた。
「俺のね~初恋は~忘れもしない幼稚園児の時~」
「へえ、そうなんだね」
「えへへ~その子とは~仲良しって訳じゃ~なかったんだけど~なんか好きだったんだ~」
人の恋バナを聞くのも初めての沢風は、いつもは達観していて、皆を引っ張るリーダーだが、今だけは年相応の少年の様な眼差しで猫屋敷を見つめる。
「それでね~ある日~その子が~殺されちゃったんだ~」
「…………え?ころ、された?」
「うん~でも~その子の~死体は~発見されなかったんだ~」
「……発見され…なかった……なら…」
急に猫屋敷の雰囲気が変わり、沢風は唖然とする。そして、ならば何故猫屋敷はその子が殺されたと分かったのか?沢風は嫌な考えを過らせながら猫屋敷の言葉を待つ。
「気になるよね~実はさ~家族が殺したんだ~」
「え……家族がって、猫屋敷がじゃなくて?」
「そうだよ~僕んちは~殺人鬼一家でさ~殺しに関しては~もう幼稚園児から~当たり前だったんだけど~俺の気持ちを知った~お父さんがさ~俺の為に~殺してきたよ~って~」
先程までの楽しい気持ちは完全に霧散して、柔道場を支配する空気は冷たくなった。生唾をごくっと飲み込み、この場の雰囲気に呑まれそうになりながら沢風は待つ。もはや待つ事しか出来ない。
「それに~対して僕はさ~嬉しいって思ったんだ~」
「うれしい、だって?」
言ってほしくない言葉を聞き、震える声で問い掛ける。
「だってさ~好きなあの子が~誰の物にもならずに~俺のになったんだよ~お父さんにも~ありがとう~大好き~って抱き着いたな~」
後半の言葉だけを聞けば家族仲が良い事を知れたが、その前が問題なのだ…猫屋敷が超高校級の殺戮者たる所以。家族が狂っていて、その狂った殺人鬼達の教えを幼い頃から教えられた猫屋敷だから、今の猫屋敷が出来たんだ。憎むべきは…猫屋敷ではなく、殺人鬼としての価値観を教え込んだ猫屋敷の家族。
「そんな訳で~俺の初恋は~叶って終わったんだよ~」
無邪気に、楽しそうに、自身の大切な思い出を話した猫屋敷はキラキラとしていた。反対に沢風は、今初めて猫屋敷の超高校級の殺戮者としての姿を思い知らされた。
猫屋敷は狂ってはいない、これが猫屋敷の普通なんだ。だからこそ猫屋敷は殺人も普段も分け隔てなくいつも同じ雰囲気で喋れるんだ。それが普通、当たり前。
「俺もさ~おかしいって事は~知ってはいるよ~」
「……え…」
「何さその驚いた顔~今時テレビ見たり外の事を知ってけば~殺人は当たり前じゃない事ぐらいは~分かるさ~」
その分別は付いていたのかと知り、意外に思った。
「だけど~それが分かった時には~もう手遅れさ~殺人鬼としての~ノウハウを教えられて~既に何人も殺してた~俺にとっては~」
「……そこから…止めるって事は……しなかったのか」
苦しそうに問う沢風。
「それがさ~もう中毒になってたんだ~一定期間殺しを~しなかったら落ち着かなくって~眠れなくて~興奮して~我慢出来なくて~殺しに行っちゃうんだ~」
沢風とは反対に楽しそうに喋る猫屋敷。以前砂糖に喋った時に言っていたが猫屋敷は既に殺人を犯す事は食事と一緒なのだ。ある一定期間は我慢できるが、それを超えると駄目なのだ。それが猫屋敷の常識であり、当たり前の世界になっている。
「だからさ~沢風君~」
「……あ、な…なんだい?」
「僕が~我慢出来なくなったらさ~近付かないでね~」
「………」
「安心してよ~沢風君を~殺すなんてしないから~約束してるしね~」
「……でも…」
そんな事をしてもここには猫屋敷が使っていた武器もあり、我慢出来なくなった猫屋敷はそれを使って自分を殺しに来るのではと思った。
だが先程までの冷たい雰囲気は消えて、猫屋敷は穏やかな顔を浮かべて言う。
「沢風君を~殺さないには~自分を殺すしかないよね~」
「え、ちょ、猫屋敷!?」
「君を殺したりは~しないし~少なくとも~無事に皆の所には帰すよ~」
「……そ、そんな…」
「自殺なら~オシオキもないし~安心して~友達との約束は~守るって~決めてるんだ~」
猫屋敷の言葉通りなら、自分は何もしなくても追い込まれれば猫屋敷は自殺を選ぶと言う事だ。それなら殺人が起きたとみなされてここから出れるだろう。
沢風は猫屋敷が自殺をする事を止めてほしい…だが、今この現状ではここから出れる術がない、それに今の話を聞いたらもはや猫屋敷の殺人衝動は抗いようがないものだ。
タイムリミットを過ぎてしまったら猫屋敷は躊躇いなく命を断つだろう。止めたい心と、止めたくない心でぶつかり合い…何も言えなくなる。
……そして何も言えぬままいつの間にか次の日の朝を迎え、空腹と硬い畳で寝たせいで体の痛みが走り、頭痛もする頭でトイレまで行き、水分補給を済ませる。
「ん~トイレの水ってだけで~気分下がるな~」
横には昨日の話などなかったの様な飄々とした猫屋敷の姿。沢風はその姿を見て余計に頭が痛くなる。
そこからは疲れもあり特に何をする事もなく遊具広場の遊具にもたれ掛かりボーッとする。猫屋敷は遊具の上で体を丸めて寝てしまう。
「…………はぁ」
呑気に寝れる猫屋敷を見てため息を吐き、塞ぎ込む。頭の中では猫屋敷の自殺を止めたいが、止めた所でここから出る手段もなければ、今一番危険なのは超高校級の殺戮者と二人きりで居る自分なのだ。
その殺戮者本人が自殺を選んでくれると言っているのだ。短い付き合いではあるが、猫屋敷の子供の様な無邪気な心に触れて、誰も殺さない、自殺をするという言葉は本心だと感じていた。
(だからって…このまま猫屋敷の自殺を止めなかったら俺は一生後悔する…でも)
打開策等思い付かないまま、深い思考の底に沈んでいく。
「……ねえ~沢風君~ねえってば~」
…気が付くと自分は寝ていた様だ。昨日はろくに寝る事は出来ずでずっと考え込んでいたせいもあり、いつの間にやら寝てしまった様だ。
こちらを心配そうに覗き込む猫屋敷。
「あ…ごめん寝ちゃってた…かな」
「良いって~疲れてたんでしょ~」
軽くモノフォンで時間を確認してみると、お昼を過ぎていた。さて、これからどうするかと思っていると自分達が入ってきた扉が開き、そこからはハクが入ってきた。
「しゅんや、こまいもやはりここに居ましたか」
ハクは軽く手を上げながらこちらにやって来た。それに驚く沢風と猫屋敷。
「おやま~だね~」
「は、ハクさん…何で、ここに?モノクマから聞いたの?」
「いえ、学園を隈無く探していましたら中庭に扉を見つけまして、入ってみた所戻る事が出来なくなってしまい仕方なく先に進んだら二人と会ったという訳です」
モノクマからの誘導ではなく、偶然によるものだったらしい。
そしてハクにはこの校庭の事や動機の事を話した。
「やはり動機が関係していたと…申し訳ありませんが食料は何もなくて…」
「あ、良いよ良いよ!ハクさんはロボットだし食料を持つとかしないだろうしさ!」
「……ロボ差別ですよ?」
「酷いね~」
「えええ!?」
いつの間にやら自分がデリカシーのない事を言ったみたいになって猫屋敷とハクからジト目で見られる。だがハクが来てくれた事は今の自分的には助かった。これで何か状況が変わるかもしれないと消えかえた希望の火を灯らせた。
ー続くー
ー登場人物ー
【予備学科生徒】
【超高校級のリア充】
【超高校級のメカニック】
【超高校級の放送部】
【超高校級の殺戮者】
【超高校級の氷彫刻家】
【超高校級の僧】
【超高校級の愉快犯】
【超高校級のネット配信者】
【超高校級の折り紙講師】
【超高校級の保険委員】
【超高校級のロボット】
生存者 12人
長くなるなと思いましたので(非)日常編5に続きます!