クロスオーバー世界の破壊者 NEO-DECADE 作:サルミアッキ
とりあえずどうぞ!
レンズの中の記憶・前篇
白い空間を揺蕩っているような、不気味で心地が良い感覚だった。周囲をまとわりつく気配はしっとりと冷たい。そこにいた男は、それ以外の事を認知できなかった。
―……………し、…………もし……ーい?…………―
永遠に近い一瞬によって、あっという間に現実に引き戻される。今まで一度として届かなかった他人の声が鼓膜を揺らした。
「…………、ここは?」
窓の外の風景は酷い雨。目覚めた彼は周囲を睥睨する。そこは、間違いようもない廃墟であった。崩れかけている壁には額に入れられた写真が並んでいる。陰鬱、鬱蒼の言葉こそが似あう、廃屋となった写真館の様だ。
「あ、起きましたか?」
「うぉっ?」
不意に背後から投げかけられる。鈴を転がすような声には心配と安堵、それと少しの喜びが混ざっていた。
「お寝坊さんなんですね、お兄さん。あ、これ軽食なんですけど、食べます?」
そう言って出されたのは湯気を立てるクラムチャウダーとカリッと焼かれたフランスパン。料理を見た途端、彼に空腹が襲ってきた。
「………すまん、貰う」
「どーぞどーぞ」
少女の手から盆をもぎ取ると、彼は火傷の心配など気に留めず、一心不乱にパンと液体を口へ放り込む。………が。
「………ッッッ!?」
舌の上を拷問と爆発が駆け抜ける。無論熱さもあったのだが、それを上回る程致命的な欠陥だった。どうにもこうにも不味いのだ。致命的に味覚のボタンを押し間違えていると言うか、掛け違えていると言うか。何と言うかもう酷かった。
「…やっぱりおいしくないですよね、私の料理って……」
どうやら自覚はあるようだ。彼の前でしょぼんと首を垂れる女子高生。涙目で落ち込みながら、病み上がりの身体に無理をさせないためその手を伸ばそうとする。が。
「………、ごちそうさん」
「え、あはい?」
すっかりお盆の上は空。先程まで寝ていた男はすたすたと立ち上がり、ボロボロのキッチンで皿を手際よく洗い始めた。
「……ってそうじゃなくって!体は大丈夫なんですか?」
「あぁ、すきっ腹に刺激の強いもの入れても大丈夫だったんだ、結構身体は頑丈みたいだな」
「遠回しに言うくらいならはっきり言ってくださいよ…って勝手に弄らないで!ここ私の秘密基地なのに!」
男は好き勝手キッチンをあさりまわり、片手に茶葉を、片手にヤカンを持った。キャンキャン騒ぐ少女をいなしながらカップを温め、午後3時のお茶会準備を始める。
「秘密基地ときたか。お前…見たところ女子高生か?良い歳して何してんだ」
「なっ…そういうあなたはどうなんですか!平日10時からこの路地裏にぶっ倒れていて、良い歳して恥ずかしくないんですか!」
「あー…それのことなんだがな」
埃が積もったテーブルに息を吹きかけ、2人前の紅茶を用意すると、彼女に座るように促した。そしてクールな印象を与える顔のまま、彼は淡々と次の言葉を宣った。
「………どうやら俺は、記憶喪失って奴らしい」
「…へぁ?」
少な目ですみません。すぐに次を用意します!