朝。ルイズはキャンチョメと一緒に食堂を訪れた。
「感謝してよね。アンタみたいな平民がこの『アルヴィーズの食堂』に入れるなんて、ほんとは一生ありえないんだから!」
確かに大した食堂だった。キャンチョメがテーブルの上を見たらものすごいご馳走が置いてある。 当然キャンチョメの感激っぷりは半端じゃあない。
「わー!!美味しそう!」
そう言いながら料理に手をつけ・・・・
「アンタのはこっち。」
キャンチョメは首根っこを掴まれ、厨房のスミに連れてこられる。そこには皿に固いパンと質素なスープがあった。 キャンチョメがあからさまな不満の表情を浮かべる。 それをルイズがニヤニヤしながら続ける。
「どうしたの?使い魔は外で食事をするところを 私が特別に中で食べさせてあげるんだから、もう少し感謝しなさい!」
キャンチョメはしゅんと落ち込む。
「・・・・・・わかったよ。」
塩味のスープをあっという間に飲み干して、硬いパンをかじる。その味に思わず目から涙が出てきた。
「フォルゴレ、どこにいるんだよ。」
昨日は結局フォルゴレを見つけ出す事が出来ず、そのままルイズの部屋で眠ってしまった。 朝から洗濯と部屋の掃除をさせられ、キャンチョメは腹ペコである。
「あら、どうかなさいましたか?」
「えっ?」
後ろから声をかけられたのでキャンチョメは振り向く。そこにはメイド服を着た黒髪の素朴な少女が大きい銀のトレイを持ち、立っていた。
「貴方、もしかしてミス・ヴァリエールが使い魔として召喚したという平民の方ですか?」
「そうだよ、お前は・・・・?」
「貴方と同じ平民のシエスタといいます。貴族の方々をお世話するために、ここで住み込みでご奉公させていただいてるんです。」
「僕、キャンチョメって名前だぜ!」
自己紹介したシエスタにキャンチョメはおとなしく挨拶した。その時
ぐ〜〜〜〜〜っ。
お腹がなった。
「お腹が空いてるのですか?」
「うん・・・・・・。」
「こちらにいらしてください」
シエスタはそう言うと、キャンチョメの手を引いて歩き出した。
「美味しいよ、これ」
「よかった。お代わりもありますから、ごゆっくり」
「ありがとう。」
シエスタがキャンチョメを案内したのは、食堂の裏の厨房だった。料理長のマルトーが豪快な笑い声とともに口を開いた。
「ハッハッハ、貴族の使い魔なんておめえも大変だなぁ!大したもんはないが、食ってけ!」
キャンチョメは今、まかないのシチューをご馳走になっている。
「美味しいや!おかわり!」
「あぁ・・・・スゲェな・・・・。これ一応4杯目なんだけどな。まあ、いっぱいあるから安心してくれよ。」
マルトーはキャンチョメの喰いっぷりには目を見開かざるを得ない。
そうこうしてるうちにようやく食べるのをやめた。
「ふぅー満腹満腹。」
お腹をさすりながら、笑みを浮かべるキャンチョメ。すると
「おい、メイド! 君のせいで二人のレディが傷ついてしまったじゃないか! どう責任を取ってくれるんだ!」
突然大きな声が厨房から聞こえてきた。
「何だろう?」
キャンチョメは急いで厨房に向かうと
「も、申し訳ありません! で、ですが、私は、その、落し物を拾っただけで、なくしてしまってはきっと困る、大切なものだと思ったものですから・・・・・」
シエスタは強張った体を震わせながら、深々と頭を下げて男に謝罪した。しかし、男は矛を収めようとはしなかった。
「そうだとしてもだ、僕が受け取ろうとしないことを見て、それとなく察することぐらいは出来たんじゃないのかい!? 今は僕にとってそうするべきではない時であると! 後で誰もいないときに持って来るぐらいの気遣いも君には出来ないのかい?」
「いえ、その・・・・・私はただ・・・・」
「ふん! 全く迷惑なことだ! これだから教養の欠片も無い平民は・・・・・」
「こら、シエスタを苛めたら、この僕が許さないぞ!!!!!」
文句がとめどなく男の口から溢れだそうというその時、キャンチョメがシエスタを庇うようにその前へと立った。力強く、凛とした声が響く。それほど大きなわけでもないのに、不思議とよく通る声だ。キャンチョメは気迫のこもった視線でギーシュを見据えていた。
「な、なんだ、君は・・・・ルイズの使い魔か。ふん、平民ごときが貴族に楯突こうというのか。メイドを守ってヒーローでも気取ろうって言うのかい?」
「なんだと〜!!!」
二人の間に火花が散る。すると
「おい、おい、どうしたんだ、キャンチョメ?」
振り向くとそこには
「フォルゴレ!!」
顔中キスマークのフォルゴレが立っていた。
「待たせたな、キャンチョメ。」
キャンチョメは急いでフォルゴレに駆け寄る。
「遅いよ、フォルゴレ。」
すると食堂にいた女子生徒たちがフォルゴレに注目する。
「見て、あれ!」
「キャーーーーーーっ!!!!フォルゴレ様よ、フォルゴレ様だわ!!!」
「フォルゴレ様、チチもいで!!」
女子生徒たちがフォルゴレに飛びつく。その中にはギーシュが付き合っていたモンモランシーとケティの姿もあった。その光景にギーシュは唖然とする。『羨ましい』そんな言葉が男子生徒たちの頭を横切る。
「はっはっは、見つかっちゃったね!」
フォルゴレは順番に女子生徒たちの胸を揉んでいく。するとギーシュが無言で薔薇の造花を振り上げたところで近くにいたギーシュの友人がギーシュを押さえ込んだ。
「よせ、ここで魔法を使うのは拙い!」
「離せ、あいつは、僕が・・・・!」
「気持ちはわかるが落ち着け。やるならヴィストリの広場だ!」
必死でギーシュを宥める友人たち。
しばらくして何とか落ち着いたのか荒い息を吐きながら、ギーシュはキャンチョメではなく、何故かフォルゴレに薔薇の造花を突きつけた。
「決闘だっ!いいか、ヴィストリの広場で待ってるから必ずきたまえ!」
そう告げるとギーシュは体を翻した。その後ろをさっきまで宥めていた友人たちがわくわくした表情でついていく。