街かど宿屋のドラゴンさん   作:抹茶さめ

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10泊目

 

 

  おすすめを頼むとサーシャはメニュー表を持って厨房の方に歩いていった。それを見ていたかのように一人の男がジョッキを手に持ちながら近くにあった椅子を掴み少し乱暴に置いて俺達の座っていた席の真横に座るとドンっとジョッキをテーブルに置いた。

 

「よぉお二人さん、飲んでるかい?」

 

 がっしりとした体格にやや薄着で手甲を着けていて頭に二本の角が生えた男性、確か......

 

「出入り禁止の人ではないか」

「出入り禁止の人じゃないですか」

「ちっげぇよぉおおおおおお!?」

「あっはははははははー! 出禁の人は傑作だねー!」

 

 表情が抜け落ちたオーガの男が声を上あげ、いつの間にか隣に居たダークエルフの女性が腹を抱えて笑っていた。確かカーラと言ったか。

 

「そちらは確かカーラ殿......でよいかな?」

「おーすごいねーチラッとしか呼ばれなかったのにー覚えてるなんて―」

「俺は!?」

 

 少し酔っているのかオーガの男が涙目で自分の顔を指差していた。そうだチラッと聞いたぞ......

 

「ジ、ジ......」

「ジ......」

「『ジ』って何だよ?! そこまで言えば思い出すだろうが!」

「「ダメだ(です)思い出せん(ません)」」

「おいぃいいいいいい!?」

「ぷっ、あはははははははは-!」

 

 カーラはバンバンとオーガの男の背中を叩きながら爆笑し、オーガの男は椅子から立ち上がり憤慨していた。

 

「笑ってんじゃねぇぞカーラ! いいか!? 俺はジングだ! オーガ族のジングって覚えておけよ!」

「覚えたぞ、それで出禁殿は私達に何の用が?」

「確か出禁さんは出入り禁止を食らったはずでは?」

「あははははははははー!! もうやめて-! お腹いたいー!」

「クッソぉおおおおお! てめぇらなんぞ知るかぁああああああ! ぐれてやるぅうううう!!」

 

 ジングはジョッキを手に持ちながらカウンター席まで走って行くとスミカ殿を大声を呼びつけていた。

 

「スーミーカーさぁあああああああああああん! 二人が虐めるぅうううう!」

「うるさいわ! 一番忙しい時間帯にスミカを呼ぶでない! これでも食らっておれ!」

 

 お、魔族の少女が顔面に赤い実をぶつけたぞ。

 

「あばああああああああああああ!?」

「だははははは! ざまぁないぜジング!」

「昨日に続いて災難だなー!」

「ナイスだぞー! サテラちゃんー!」

 

 そして顔面を押さえてのたうち回るジングに酒場が盛り上がった。

 

「ぷふっ、あれってー確かレッドアップルとかいう奴じゃないかなー」

「あの『この世で最も辛い』というアレか?」

「多分ねー流石のオーガでもー泣き叫ぶ程ヤバイ奴ー」

 

 それはすでに兵器では無いのか?

 

「それで、何故ジング殿とカーラ殿がここに? 今朝は他で宿を取ると言っていた気がするのだが」

「あー、宿泊は禁止だけどー酒場はいいよーって言われたんだよねースミカちゃんの料理おいしいからー」

「ほぉ......」

「それでージングがー騎士さん二人を見つけてー料理のおすすめをしようとしてたんだよーでもサーシャちゃんにー任せてたみたいだからー少し遅かったみたいだけどー」

「なるほど」

 

 それは悪いことをしてしまったな、そう思いながら転がり回るジングに目を向けた。

 

「ジングのー事は気にしないでーいつものことだからー」

「そ、そうか」

「いつもこんな事してるんですか......」

 

 毎日こんな事をしていたら流石のオーガでも死ぬのではないだろうか? だが実際生きているのだから大丈夫なのだろう、そう思って居るとカーラがジングの持ってきていた椅子に座った。

 

「カーラ殿は何か頼まれたのか?」

「んー? えーとー『ドドリボアの香草焼き』って奴だねー、この時期はー脂がのってておいしいんだよー」

「ほぉ、Bランク魔物か。確か独特の臭みがあって肉が硬いと聞いた事がある」

「あ、私も聞いた事があります。騎士団の遠征していた人達が道中で仕留めたドドリボアを焼いて食べたけど臭いし硬くて食えなかったって言ってました」

 

 ドドリボアは荷馬車ほどの大きな巨体に分厚い毛皮、二本の牙を持つBランク魔獣でその突進力は一般人なら一撃で死んでしまうだろう。だが幸いなことにドドリボアは群れで行動せず単独行動、魔法で大きな落とし穴を作るから複数で囲んでしまえばあっさり倒せてしまうのでC~Bランク冒険者達はドドリボアを狩りその皮や牙などの素材を売って稼いだり、クエスト達成率を上げていると聞く。

 

「確かにー臭くてー硬くてー食べられたもんじゃ無いんだけどースミカちゃんが調理すれば―おいしいんだよー?」

「それは凄いな......」

 

 カーラと話しているとサーシャが器用にトレーを三つとジョッキ三つを持って歩いてきた。

 

「......今日のおすすめは『トロル肉の煮込み』、パンとエールはお代わり出来るから。カーラのはこっち」

「ありがとーサーシャちゃんー」

 

 置かれた皿の中には大きめの肉の塊が湯気を上げており茶色いスープに使っていた。ほぉ、いい匂いだな。

 

「トロルか......」

 

 二足歩行はするが知力が無いトロルは単眼で筋肉が発達している、攻撃方法は力任せに腕を振るう事ぐらいだが騎士の甲冑すらぼろ切れさせる程の腕力は甘く見られない、そんなトロルの肉はとても硬く臭う。ドドリボアと同じで骨などの素材は取られるが肉は捨てられるのが常だ。

 

「......どうかした?」

「いや、何でも無い。いただこう」

「私は初めて食べるのでワクワクしますよ」

 

 トロル肉の情報を知っている俺は少し躊躇ったがケインズは気分が高揚しているのか目を輝かせていた。俺達はフォークを肉に突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 




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