街かど宿屋のドラゴンさん   作:抹茶さめ

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三番の手紙

いつものように私は書類の山と羽ペン一つで戦っていた。書類仕事中はお茶の時間以外は滅多に顔を見せない初老の男性が今日は少し慌てた様子で扉をノックして入ってきた。

 

「あの方から『三番の手紙』ですって?」

「はい、先ほどサーシャ様が届けてくださいました。こちらが手紙でございます」

 

  普段は表情一つ変えないような初老の男性が珍しく汗をかいていた。男性、クリスが手紙を差し出して来たので私はそれを手に取る。表には小さく『三番』と書かれていて裏返すと左端にあの方の名前が書かれていた。

 

「確かに、あの方の手紙ですね......久しぶりの手紙かと思えばよりにもよって三番って」

「最近はとても忙しかったですからな、あの方も邪魔をしては悪いと思ったのでしょう、ほほ、ノエ様はあの方が大好きですからな」

「う、うるさいわね! 誰があんな規格外をす、すすすす好きになるのよ!」

 

  顔が熱くなるのを感じてつい手に力が入り持っていた手紙がクシャリと音をたてた。ハッとして手元を見るとまだ開けてもいない封筒ごと手紙を潰していた。

 

「あああああ!」

 

  シワを伸ばそうと机に手紙を置こうとした時、書類にサインをするために置いてあった羽ペンが刺さったインク壺に肘が当たり盛大にこぼれた。

 

「あー!! 予算案の書類がぁあああああ!」

 

  私は安全な場所に手紙を置いて真っ黒になった書類の端をつまみ上げた。

 

「あーあ......また財務大臣に怒られる......」

「何、大丈夫でしょう。三番ともなれば予算がどうのとは言っておられんでしょうし」

「確かにそうだけど、もうそろそろ自分に落ち着きが欲しいです」

 

  つまみ上げた書類だったものをゴミ箱に捨てるとクリスがいつの間にか机の上に広がっていたインクを綺麗に片付けていた。昔から思うけど、凄い早業よね。

 

「今年で十四歳、最年少で王座に付き国をまとめる若き女王。配下の者や城下の民、他国の人々からは大変落ち着いてるように見えるようですが? ノエ・ヴィッシュ・アインスヴェルグ女王殿下」

「......ふん、表向きは、でしょ?」

 

  ドサッと自分より大きめの椅子に座り、背もたれに頭を着けるように深く座った。

 

「行儀が悪うございますよ。ノエ様」

「いいじゃない、今は私達二人しかいないんだから。あの人だって今の私を見れば笑って許してくれるわよ」

 

  私が王位を継いだのが約二年前、本当は十八歳からお父様の側について学び二十歳で王位を継承するのが通常なのだ。しかし、お父様が病に倒れて......いるわけもなく、母上と共に一通の書き置きを残して旅に出た。城の者達になんの相談も無くだ、それは私やお兄様達も例外ではない。

 

  もちろん城は大混乱、翌日には捜索隊を編成したが時すでに遅く足取りはつかめなかった。そのため表沙汰には『王が病に倒れた』と言うことにしてその子供の誰かが王様にならなければいけなかったのだが、王位継承権第一の一番上の兄になるはずだった。

 

 しかし一番上の兄は王位を何故か拒否、二番目の兄は病弱でとてもじゃないけど王様は無理と拒否、三番目の兄はいきなり冒険者になると言って出て行く始末。

 

 そして白羽の矢が立ったのが当時十二歳だった私だった。

 

「あのクソ親父様は何処に居るのかしらね」

「さぁ......とても気分屋ですから、お父上様は」

「はぁ、クリス、午後の会議は議題を変更します。各大臣に通達をそれとゲン兄上にも」

「それはよろしいですが来るでしょうか?」

「あの人の名前を出せば絶対来る」

「わかりました、では失礼します」

 

 クリスは一礼すると執務室から出て行った。私はそれを見送ってからシワシワになった封筒を開ける、中から出て来たのは綺麗な模様で手のひらサイズの魔方陣が書かれた紙、それを机の上に置いて魔方陣に触れながら少し魔力を送るとあの人の声が聞こえてきた。

 

『これを聞いてるって事はアインス王国の王族さんですね。この手紙は『三番』となります。『一番』は『警戒するほどのことじゃないけど注意して』、『二番』は『ダンジョンの動きが怪しいので警備を増やし国内への通行を規制せよ』、そして『三番』は『国内保有のダンジョンに災害級の動きあり、国民の安全を第一に』です。この手紙を出していると言う事は私が動くので手出し無用です、では王族さんよろしくお願いします』

 

 災害級の動きというとダンジョン内の増えすぎた魔物があふれ出す『魔物沸き』かボス級モンスターの突然変異。

 

「魔物沸きなら二番の手紙で討伐隊を編成せよと追記があるはずだけど.....今回は『三番』つまりあの人でないと対処不可能と言う事、か」

 

 私は椅子から立ち上がり後ろにあった窓を開けると心地いい風が私の青い髪を揺らした。

 

「ご武運を、スミカ様」

 

 


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