魔物が切り刻まれ宙を舞う、その中心にいる人物が手を振るうと何百匹もの魔物がバラバラになる、飛び散る魔物の血がダンジョンの壁を汚し、床を汚し、水溜まりのように血溜まりを作る。
草を刈り取るように魔物を刈り取っている人物には一滴も魔物の血が着いていなかった。いや、返り血さえ切り裂いているのか?
「......おい、ボーッとするな」
「ッハ! すまない!」
「ヒャッハー! 流石姉さんだぜ! 俺も負けてられねぇ!」
そういながらケインズが襲い掛かってくる魔物を切り伏せる、どうしてこうなったし。
「......手遅れ、ごめん」
「いや、いいのだ変わりすぎて私がついていけない」
「......あの人の教育は人格を歪める。左からギブリン三匹」
「任せよ! はぁあああああ!!」
どうしてこうなったのか、時はさかのぼること一日ほど前。
「なんと!?」
トロル肉にフォークを刺した俺は驚愕して言葉を発していた。
「んー! おいしー! 流石スミカちゃんー」
カーラ殿もドドリボアの肉を一口、食べると満面の笑みになっていた。
俺はもう一度フォークをトロル肉にフォークを刺すとそこから肉汁と共にトロル肉が崩れた。まるで極上の牛肉を煮込んだ料理のように。俺はフォークではなくスプーンを手に取りスープごとトロル肉をすくい口に入れた。
その瞬間、ぶるりと体が震えた。
「......? 口にあわない?」
「ち、違う、これは本当にトロルの肉なのか?」
「......そう、あ、呼ばれた」
サーシャは猫耳をピクピクさせて厨房の方に戻って行った。
「旨い! こんな美味しいの食べたことないですよ! 肉は柔らかくて中まで味が染みてるし、このスープだって肉と一緒に食べてもいいですけどこの少し固めのパンをスープにつけて柔らかくなったところを肉と一緒に食べる!」
ケインズがちぎったパンをスープにつけて肉と一緒に頬張る、それを見て俺も真似してみると確かに旨い! そしてそのままエールの入ったジョッキを煽る。
「くぅー! こいつもよく冷えていて旨いな」
「まさか任務でこんなに美味しいものを食べられるとは......」
「あぁ、王にお出ししても文句はでないだろう」
騎士団長の俺が任務に出るのは少ないがほとんどがダンジョンへの見回り遠征で食事は保存の効く干し肉や水で少しふやかしてから食べる固いパンだけでとても味気ない。
ドドリボアの香草焼きを食べていたカーラがてを止めて珍しそうに俺達を見ていた。
「騎士さんてー結構辛いお仕事だよねー、昔一回だけー傭兵で雇われて付いていったけどーご飯不味いしー寝るのも疲れるような寝袋だったしーでもー騎士さんだからー普段はもっとー美味しいもの食べてるとー思ったんだけどー?」
「騎士だからと言ってそこまでの贅沢はできん。節度と言うものがあるしな。それに遠征が辛いのは当たり前だ、私達がいなければ国民も、王も、国も守れない」
「王城の周辺都市は高い城壁と結界があるのですが、それ以外の農村や耕作地は壁どころか柵があれば上等とかですからね、そのため我々騎士団が出没した魔物を狩ったり、ダンジョンから溢れでないように間引きをしているのです」
「最近は出没する魔物がBランクやAランクと高くなっているらしくてな、被害が絶えん」
「あー知ってるよーギルドにも沢山依頼来ててー忙しいのー」
カーラ殿は肉を切り分けながら言った。アインス王国でも魔物の被害が出ているのか? 俺はチラッと厨房の方を見てカーラ殿に顔を近づけて小声になった。
「(質問をいいか?)」
「(んー? なにかなー?)」
「(ギルドの仕事が忙しいと言ったがスミカ殿はクエストを受けているのか?)」
「(あー)」
カーラ殿が振り返って厨房の方を見てから俺達に向き直った。
「別に小声でー話さなくてもー大丈夫だよースミカちゃんはねーギルドが出すークエストを受けるんじゃなくてーギルドがー直接依頼するのーそれにー依頼無しで動く場合はーギルドに言わないといけないってー言ってたー」
「? 何故ですか?」
ゴクリと最後の一切れだったドドリボア肉を飲み込んだカーラ殿はエールを少し飲んで息を吐いた。
「ふぅーごちそうさまでしたーえーとねースミカちゃんの力がーとても危険だからー」
「危険? SSランク級冒険者だぞ?」
「頼りになるならわかりますが危険ってなんですか?」
ケインズの言うとおりだ、SSランク級冒険者ともなれば災害級魔物であるドラゴンですら屠ると聞いた事がある、初代魔王を封印したのもSSランク級冒険者だとも言われていた気がする。
するとカーラ殿からふんわりした雰囲気が消えた。
「スミカちゃんが本気を出せば国が消えるって事だよ、だからギルドはSランクより上のSSランクなんて物を付けて定期的に依頼を出して監視してるし他国からも監視の目があるんだよ? それに今回みたいに他国からの依頼もある」
ピッと俺達二人を指差すカーラ殿にゴクリと唾を飲んだ。
「スミカちゃんはお人好しで優しいからどんな面倒ごとでも引き受けちゃう、でも超えちゃいけない一線があるって事も覚えておいた方が良いよ人間」
そう言ってカーラ殿は空いた皿を持って席を立った。
「だからー明後日の任務ー? 頑張ってねー」
俺とケインズは綺麗に空になっているさらに視線を落としながら俯いていた。