時刻はすでに深夜、賑わっていた酒場には客はおらず臨時休業と書かれた紙が貼られており酒場の中には横二列に重装歩兵達が座り、その前に赤いマントの金髪、ゲンシュ王子が座っていた。
「で? 一番のかき入れ時にお客さんを返してまで私に聞きたいことは?」
王子の目の前で椅子に座り足を組み、腕を組み、冷たい視線をぶつけているのかスミカ殿だ。一国の王子を地面に座らせて見下ろすなんて死刑は確実、だが誰一人としてそれを指摘する物は居なかった。
「し、質問があるのです。叔母上」
「それって明日の朝とかじゃダメだったの? 手紙送ったんだからわかるでしょ? ノエちゃんに説明してもらったんじゃないの、んん?」
「その......叔母上から三番の手紙が来たと妹......あ、女王殿下が会議を開いたのですが各大臣は三番の手紙だけでは納得がいかなかったらしくもっと詳しい説明をと詰め寄ったのです、ですが女王陛下も『詳しい事情は知らない』と仰られて......」
「あー説明用の手紙送ったのついさっきだからすれ違いになっちゃったか、ごめんね」
失敗失敗と頬を書きながらスミカ殿は笑っていた。すると近衛兵の一人が片膝を付いて頭を下げた。
「失礼ながら発言をお許しいただけますか?」
兜を被っているせいか声が聞き取りずらいが何処かで聞いたことがある声だな。
「ん? いいよ」
「はっ! 王子の愚行を阻止できなかった我々にも非があります。 あなた様が謝る必要はありませんですからどうか王子への罰は我々が引き受けます」
「兵長!? 貴方が罰を受ける必要は無い! 私が事を急いだせいだ。罰は私が受ける!」
「なりません王子! 我々が―――」
何か言い争いが始まってしまった。それを俺とケインズがぼけっと見ていると魔族の少女が飲んでいた紅い液体の入ったグラスを机に置いた。
「何を飲んでいるのだ?」
「トマトジュースじゃが? お主も飲むか?」
「遠慮しておこう、私はトマトが苦手でな」
「クハハ! トマト嫌いも父親譲りとは、面白い奴よのう」
笑いながら魔族の少女はグラスを口につけ中身を飲むと溜め息を吐いた。
「はぁ、鬱陶しいのう。両方共に罰を受ければ良いでは無いか」
「「そ、それはちょっと......」」
「腑抜けか貴様ら!?」
声をそろえて言う二人に魔族の少女がずっこけた。というかさっきから気になっていたのだが。
「俺達はこの場に居ても良いのか?」
「私に聞かないで下さいよ」
「一国の王子がお忍びか......」
「近衛兵を連れてきてる時点で忍んでないですよ」
「はっはっは! 面白いなケインズ」
「最近、団長の神経が太いのか。場慣れしているのかわからなくなりました」
大声で笑い、ケインズの背中を叩いていると兵長と呼ばれていた一人が此方を向いた。
「ん? その声と笑いかた、もしかしてカルロスか!」
そう言いながら兵士は兜を脱ぐと俺より少し年上ぐらいで顔に大きな傷が入った男が。
「おぉ! ダイメル! ダイメルじゃないか! 五年前の模擬戦以来だな!」
「おうよ、お前も元気そうで何よりだ。成るほどな、お前がここにいると言うことは聖王国絡みだな?」
相変わらず察しがいい男だ。すると王子が首をかしげていた。
「おい、ダイメル。その二人を知っているのか?」
「はっ! この男はエスルーアン聖王国騎士団、騎士団長であるカルロスという男です。隣の方は存じ上げませんが、副団長かと」
「聖王国......騎士団......ふん、そう言うことか。分かりました叔母上」
「昔っから頭はキレるんだからあんたが王様やればよかったのに」
「頭の回転がいいだけで内政や外交は私にはとても出来ませんよ、妹が知らなくてもいい裏方で十分です」
肩をすくめる王子にスミカ殿は微笑んでいた。触れてはいけないと思って黙っているのだがスミカ殿が叔母上ってどう言うことだ!? 今更だがとんでもない場所に居る気がするぞ。
叔母という事はスミカ殿はアインス王国の王族に属する、いや直系に当たるのか、あの美貌で叔母とは信じられないな。
その時足の脛をこつかれた。何だと思って見ると魔族の少女が椅子に座りながら手招きしていた。
「(なんですか?)」
「(変な事を考えているようじゃがスミカは王族ではないぞ)」
「(え、そうなのですか?)」
いつの間に現れたのだケインズよ。あぁ、隣にいたな。