街かど宿屋のドラゴンさん   作:抹茶さめ

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15泊目

 

「ダイメルさん」

「はい!? 何か御用でしょうか?!」

 

 動かなくなった二人を掴んだままスミカ殿が此方を向いた。冷えた猛獣のような視線だ。

 

「この馬鹿王子を連れて帰ってください」

「し、死んではいないでしょうね?」

「大丈夫ですよ、気絶してるだけですから」

 

 スミカ殿がスッと王子を差し出すとダイメルは王子の腕を首に回すともう一人の近衛兵がその反対側で王子を支える。チラッと見えた王子は白目を剥いていた。

 

「あ、息はありますね、では我々はこれで。カルロス、任務頑張れよ」

「ああ、お前も元気でな」

 

 ドカドカと床を鳴らしながら近衛兵の集団が出ていくとスミカ殿が左手で持ったままのサテラを見て溜め息を吐いた。

 

「はぁ、ちょっと本気出そうか?」

 

 ビクッとサテラが震えた。

 

「な、なんじゃ......バレておったのか」

「サテラがこんなので気絶するわけないじゃん、後二段階あげていい?」

「やめてたもう! それこそ本気で頭が弾けるのじゃ!」

「......チッ」

「おい、サーシャよお主最近妾に風当たりが強くないかのう?」

「......おやつ泥棒は死ね、なの」

「いや、それはあやま―――はきゅ!」

 

 スミカ殿がパッと手を離すとサテラは尻餅を着いた。

 

「いたたた.....急に離すでない! ビックリするじゃろうが! ん? どうしたんじゃスミカよ?」

 

 スミカ殿が西側の壁をジーっと見ていた。何か居るのかと俺も見てみたが何もいない、ただの壁に見えた。

 

「カルロスさんすみません出発を早めます。サーシャ準備して」

「......もうしてある、入り口に置いてくる」

 

 そう言ってサーシャは酒場の出入り口から出て行った。

 

「ありがとう。サテラ、宿の管理お願いできる?」

「なんじゃいきなり? ん?」

 

 壁を指差すスミカ殿にサテラは首を傾げていたが段々と険しい顔つきになり、最終的には殺気を放っていた。

 

「スミカよ妾も行かせろ」

「いってどうするの? あそこに何がいるか知ってるでしょう?」

「知っているのじゃ、誰よりものう......奴は死ぬまで殺す、四肢をちぎり、内臓を引きずり出し、心臓に杭を打ち込み、火で焼いてやる」

 

 サテラの紅い瞳がどす黒く光っているように見え、俺とケインズは後ずさった。物凄い殺気だ、息苦しくなる。

 

 だが、次の瞬間に息苦しい殺気が消えた。

 

「......と思ったがスミカに任せた方が確実じゃな。妾はまだ本調子ではないからのう」

 

 サテラは肩をすくめると俺たちの方を向いた。

 

「死者の祭壇に行くのじゃろう? あこでの『死』は死ではないぞ、永遠の苦痛じゃそれを肝に命じておくのじゃな」

「わ、分かった」

「はい!」

 

 返事をするとサテラは満足そうに頷くとスミカ殿に向き合った。

 

「明日の早朝から行くのかえ?」

「カルロスさん達には悪いけど今から行くよ、ちょっと不味い感じだし」

「その方がいいのう......」

 

 三日三晩寝ずに行動するのは慣れているしそれぐらいで倒れるような鍛え方を俺とケインズはしていない、勿論エスルーアン聖王国騎士団は皆鍛錬をしている。

 

「大丈夫ですぞスミカ殿、我らはそれなりの鍛錬を積んできている」

「そうですね、後一日は寝なくても行動出来ます」

「そうですか、でもダンジョンに入ったら一度仮眠を取って下さい。寝不足で油断する可能性があるので、では1時間後に受付前に集合でお願いします」

「承知した」

 

 スミカ殿は俺の返事を聞いて長い焦げ茶色の髪を翻しながら厨房の方に歩いて行き俺とケインズ、サテラだけが残された。しかし、不味いな明後日だと聞いていたから何も準備していないぞ。

 

「不味いですね団長、行けるとは言いましたが回復ポーションの予備ってありましたっけ?」

「ああ、それは俺も思った。確か青色が八本と解毒薬が三個、保存食が半日分ぐらいだったはずだ」

「今から調達は......無理そうですね」

 

 壁に掛かっていた時計をみると既に日付が変わっていた。流石にこの時間帯にやっている雑貨屋があるわけがない。

 

「......消耗品は準備済み、心配する必要は無い」

「「どわぁああ!?」」

 

 いきなり後ろから声を掛けられ俺とケインズは驚き声を上げてしまった。振り返ると少し大きい袋を持ったサーシャが立っていた。

 

「サーシャよ、気配を断って客人に近づくなとスミカに言われておるじゃろうが」

「......つい癖で、これ」

 

 癖で完璧に気配が消せるものなのか? そう思っているとサーシャが俺に手に持っていた袋を差し出してきたので俺はそれを受け取るとガラスが擦れる音がした。む、結構重いな。

 

「これは?」

「......回復ポーション、マナポーションも入ってる。二人で分けて」

「こんなにか?」

「......それでも不安、少し多めに持っていくけど。足りなかったら言って」

「わかった、恩に着る。よし、準備するぞケインズ」

「了解、団長」

 

 俺達は酒場を出て借りた部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 ―――――酒場

 

「......サテラは行かないの?」

「まだ完全じゃ無いからのう」

「......お師匠からのダメージ?」

「そっちは回復しておる、『聖絶』の後遺症じゃよ。ククク」

「......悪役っぽい」

「悪役じゃったしな、何あと十年もすれば完璧に直るわ」

「......回復したら戻るの? 悪役」

「やらんやらん、妾はスミカに惚れたからのう。世界なんぞいらんし、同族の将来なんぞ知ったことでは無いわ。じゃが、もし国が世界がスミカを、この宿を傷付ける様なことがあったら......妾が潰す」

「......それが例え神だろうと」

「今のお主の顔、魔王みたいじゃぞ?」

「......サテラに言われたくない」

「ククク......」

「......ふふ」

 

 


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