父上に稽古を付けてもらっている時だった。全身を何かが押しつぶすような圧が襲った。
『ん? ほぉ、彼奴の怒りを感じたのは数百年ぶりだ。フフフ、右目が疼くのが心地よい。』
「ッ......かは」
私は持っていた剣を落とし膝をついた。
『この程度の圧で押されるか、それでも龍帝か? 立て、立って感じろ、アレがお前が超えなければならぬ存在だ、アレがお前の姉だ、いやもはや身内では無いがな』
右腕が痛い、切り飛ばしたいほど痛い、こんな圧を放つのが姉? 血が繋がっている身内? 私が超えなければいけない存在?
ふざけないで! あんな化け物をどうやって超えればいいのよ!? 力を入れて立ち上がるが怒気が来る方角を見ることすら出来ない。
『我々同族にしか伝わらない『怒気』、他の種族には感じ取れない殺気。『龍圧』、だがしかし、なるほど。ここ三百年でまた格を上げたか』
「はぁ......はぁ......ッ! あれは! あれは本当に同族なのですか!? あんなものが私の姉なのですが?!」
私は岩に手をつきながら何とか圧が来る方角を見ることが出来た。すると一族が暮らしている空間に続く門から一匹のドラゴンが現れた。全身が白銀のドラゴン、だがその翼は片方が欠損していた。
『......あの子は羽化した時から『―――』状態で、逆に元の姿に戻るのに苦労していたわ』
『ランコか戻っていろ、身体に悪いぞ』
『いいのよ、あの子の傷を見逃した私の責任もあるもの。翼一つで許されるはずがないのよ』
ランコ、白銀のドラゴンの名前、私の母上。
『あの子が......じゃなかったわね、あのドラゴンがここまで怒るのなんて珍しいわね』
『あぁ、余程のことだろうな』
父上と母上は目を細めていた。そんな二人に私は向き直った。
「姉は......あの人は生まれた時から『―――』していたのですか?」
『......ふん、そうだ。だから我々一族は奴を天才と祭り上げた。数千年に一匹の天才、だから勢力を拡大しようと周辺諸国を襲い、焼き払った』
『だけどそれはあの子が望んでいなかったの、良かれと思ってやったことがあの子の怒りに触れたのよ』
『彼奴の怒りは半端ではなかった。お前が伝え聞いているより倍は苛烈だと思え』
ゴクリと喉が鳴った。
『引き金は何かは知らぬ、突如として暴走した奴は我の目を穿ち、ランコの翼を奪い、同族を半分殺した』
『まだ小さかった貴方は覚えていないでしょうけど』
「は、はい」
聞いてはいた。しかし、両親の口から聞いたのは初めてだ。
『そして姿を消したのだ。だがお前も覚えていると思うが突如として戻ってきた』
「はい......」
右腕が痛い。
『術を使えるようになってそこかしこでやんちゃしていたお前を、ククク。一発で黙らせたのは滑稽だったがな』
きゅっと右腕を握る、すると一匹のドラゴンが門から飛び出してきて父上と私の前で首を下げた。
『龍帝様、先代様、至急でございます』
『何事か?』
『一部の同族がまたも『禁忌』に手を出しました』
『またか!? 場所は?』
『オーツ平原にいる我らの同族でございます』
『ッチ、あそこは問題を起こさぬと思っていたのだが。行くぞカスミ、トレッドよ腕に自信がある者を率いてこい我とカスミは先に行く』
『承知!』
トレッドが飛び上がり門の中に消えていった。
『おいカスミよ、『ゲート』を使え、飛んでいっては間に合わん』
「は、はい父上、『我ここに次元を繋ぎし者なり、数多の次元をつなげ』、『ゲート』!」
身体からごっそりマナが抜ける感覚がする、嫌な感覚だ。目の前に黒くて渦巻く物が出現した。
『ご武運を』
『お前も気をつけろ、ランコ』
「行ってきます。母上」
私と父上はゲートに飛び込んだ。