右を見れば爆発や雷、突風が起こりギブリンが減っていく、左を見れば血走った目のケインズがギブリンを切り捨てている。後ろを振り替えると。
「~♪~~♪」
鼻歌を歌いながらスミカ殿がサーシャとケインズが倒したギブリンから魔石を回収していた。魔物は倒せば魔石が回収出来るのは常識だしそれを回収して売るのは何も間違ってはいない、間違ってはいないのだが......
「......ふぅ、五百匹は倒した」
「すげぇや! 流石姉さんのお弟子さんだぜぇ!」
「......別人?」
「コレが本来の俺ですぜ? 姉さんが俺の中に眠っていた闘争心を解き放ってくれたんですぜぇ? もう虫なんて怖くねぇ! 野郎ブッコロッシャアアアアアアア!!」
緑色の体液が体に掛かっても何とも思わないのかケインズはギブリンを剣で突き刺し、切り裂き、その傷口に右手を突っ込み魔石を引きずり出していた。うっぷ......いかん吐き気が。
気分を変えようと辺りを見回すが未だにギブリンの数は多い、俺も数十匹は倒したが減っている気がしない、むしろ増えている気がする。目の前に飛び出してきたギブリンを叩き切って剣に付いた液体を振り払った。
「んーこれ無限に出てきそうですね」
「一匹は一匹は大したことがないが、二匹同時に来られると正直キツイぞ......」
「ですね、サーシャ! ケインズさん! 倒しながらでいいのでここまで後退してください!」
「......わかったー」
「了解です姉さん!」
前に出て狩っていた二人は襲いかかってくるギブリンを倒しながら徐々に後退してきた。二人と合流する頃には丁度『大広間』の中心まで進んでいたのだがいつの間にか、おびただしい数のギブリンに囲まれていた。
―――シシシシシ! ―――ギギギ!
ギブリン共が鳴きながらジリジリと迫ってきた。
「ま、不味いぞ!? このまま押し込まれたらあっという間だ!?」
「......範囲系魔法が今は使えない」
「ッチ! さすがにこの量は想定外だぜぇ......」
冷や汗が頬を伝うのがわかった。すると、スミカ殿が黒い手袋をはめ直しながら前に出た。
「皆が働いてて私が働いてないのはさすがにねぇ......よっと!」
バッと両手をスミカ殿が振るうと何かがキラキラと光を反射していた。目を細めてそれを凝視する......だがよく見えない。
―――キシャァアアア!!
その瞬間を待っていたかのように何百匹ものギブリンが飛び上がり降り注いで来た。
―――キシシシシイ!?
だが、ギブリンは降ってこない。空中で止まっていた。まるで蜘蛛の巣に引っ掛かった虫のようになっていた。それを見ながらスミカ殿は右手を突き出し手のひらを返すとキュッと拳を作る。
―――ギャブアアアアアア!?
一瞬にしてギブリンがバラバラに切り裂かれた。緑色の体液が真下にいた同族に降り注ぎ、緑色に染め上げる。
「どんどん行くよー」
スミカ殿がそう言ってまた手を振るい握ると数百匹のギブリンが粉々になった。
舞うように手を振るい握る、その度にギブリンがバラバラに成り『大広間』の地面を汚し天井を汚し、緑色の血溜まりがそこかしこに作られた。
何だ、一体何が起こっているんだ?! 魔法か!? いや、違う。固有名称を一切聞かない、魔方陣の姿形もない。
こうしている間にもギブリンが減っていく、俺はその光景に驚愕していた。これがSSランク級冒険者の力なのか?
「スゲーぜ! 姉さん! 俺も負けちゃいられねぇ!」
ケインズがまた一匹仕留めた。
「ケ、ケインズ? 大丈夫か?」
「俺はいつだって絶好調ですぜ団長! 次の獲物を寄越して下さいよぉ! 死んだギブリンだけが良いギブリンだ! 本当にダンジョンは地獄だぜぇええええ! フハハハハハハ!」
ギラギラと輝く瞳には数時間前まで正義感で溢れいていたケインズの面影は一切無く、今ここにいるのは手練れの冒険者か傭兵の様だった。
「......何か、ごめんなさい」
武器を構えながらサーシャがぽつりと言った。
「そのうち治まるだろう......治まるんだよな?」
スッとサーシャ視線をそらした、ちょっと待ってくれ、まさか一生このままなのか!? そう思っているとギブリンが二匹飛びかかってきたが俺はまったく反応できずに立ち尽くしていた。気づいた時にはサーシャが二匹を屠っていた。
「......おい、ボーッとするな」
「ッハ! すまない!」
ヒュン! キリリリという音が聞こえ視線を動かすとまた一瞬にして三百匹近いギブリンがバラバラになった。
「最高だぜぇえええええ!」
それを見てケインズが叫び声を上げていた。
「......手遅れ、ごめん」
「いや、いいのだ変わりすぎて私がついていけない」
「......お師匠のオハナシは人格を歪める。左からギブリン三匹」
「何なのだそれは? まあ今は良い! はぁあああああ!!」
俺は剣を振るった。