街かど宿屋のドラゴンさん   作:抹茶さめ

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3泊目

「あー、ちょっと待ってーサーシャちゃんー」

 

 カーラが俺達二人では無くサーシャを呼び止めた。それを見た店主スミカも首をかしげた。

 

「......何?」

「回復ポーションと矢を買いたいんだー」

「......色と矢の種類、数」

「赤色を五個と鉄矢を三十本ー、属性付与矢を十本買いたいー」

 

 カーラがそう言うとサーシャの眉間にすこし皺が寄り視線を店主スミカに向けた。どうやら何か不足している雰囲気だ、と言うかこの宿は消耗品の販売までしているのか? それに赤色の回復ポーションは一端の冒険者からすればかなりの高額品で一個が大体銀貨五枚ほどだったはずだ。それを五個も買えるとは、中々腕の立つ冒険者のようだ。

 

「鉄矢と属性付与矢は直ぐに持ってこれるけど回復ポーションの在庫が無くて、お昼頃なら渡せると思いますけど」

「そうー、急ぎで欲しいって訳じゃ無いんだー。今日はジングの馬鹿が出入り禁止になっちゃったからーここには泊まれないでしょー? だから少し稼ぎに行ってこようかなーと思っただけー。青色の奴はあるんでしょー?」

「ええ、それなら在庫があります」

「じゃーそれを十個ー」

「ありがとうございます。サーシャ、そのお二人を応接室に案内したらカーラさんに商品を渡してあげてね?」

「......ん、わかった。こっち」

 

 そしてまたサーシャに案内されるように奥に向かったのだがその時カーラと店主スミカの会話が少しだけ聞こえた。

 

「装備A-3ってかなりの重武装じゃないー......」

「ええ、少し厄介な相手なので念を入れてですけどね」

「ドラゴンのースミカちゃんがー厄介って言うって事はー相当だねー。やだやだー」

 

 今なんと言ったあのダークエルフは? 店主スミカがドラゴン? あの知性のかけらも無い暴れるだけが生きがいで天災級の化け物のあのドラゴン? 立ち止まった俺にサーシャが気づき振り向いた。

 

「......どうかした?」

「え、あぁ。いや、何でも無い」

「......そう」

 

 不思議そうに首をかしげたサーシャは何事もなかったかのようにまた歩き始め、俺とケインズはその後ろをついて行った。

 

 外見とは裏腹に結構広い宿らしく、応接室は受付から少し距離があった。

 

「......ここで待ってて」

 

 そう言ってサーシャが俺とケインズを部屋に残し出て行った。

 

「この椅子、すっごい高そうなんですけど......」

 

 ケインズが椅子を指差して言ってきた。所々綺麗な装飾を施された長椅子だった。

 

「ふむ、流石に座りにくいな」

「そうですね、ここ三日間は甲冑を洗うどころか水浴びすら出来ませんでしたからね」

「そう考えると女性の前で失礼をしてしまったな」

「仕方ないですよ。まさか店主が女性、しかも蜥蜴族だなんて思いませんでしたから」

「蜥蜴族? 店主スミカの事か?」

「? 違うのですか?」

 

 蜥蜴族は全身を硬い鱗で覆われた種族で頭に角を生やした者もたまにいると聞いたことはあるが羽が生えているとは聞いたことが無いし店主スミカには鱗が見当たらなかった。

 

「まあそう言われる時もありますね」

 

 背を向けていた扉の方から声がして俺とケインズは振り返るとそこにはティーカップとポットを乗せたトレーを持った店主スミカが建っていた。

 

「いや失礼。種族差別の気は無いのだ。許してくれ」

「別に気にしてはいませんよ。それよりどうぞ、座って下さい」

「あ、ああ。失礼する」

 

 俺とケインズが土と埃で汚れたままなのを気にもせずに言われたので少しだけ驚きながらも俺は腰掛けた。するとケインズも俺に続くように腰掛けガントレットを外した。あぁそうかガントレットを付けたままだったな。俺もガントレットを外し床に置いた。

 

「どうぞ、エスルーアン製の茶葉で入れた物です」

「頂こう」

「頂きます」

 

 ティーカップを受け取り口を付けると口の中に爽やかな酸味と独特の風味が広がった。三日前に飲んだエテル茶よりうまい、それに少しばかり塩気を感じる。

 

「塩が入っているな」

「はい、疲れていると思ったので少しばかり塩を入れさせて頂きました。お気に召しませんでしたか?」

「いや、ありがたい。身体に染み渡るようだ」

「それはよかったです」

 

 ふわっと花が咲くように笑った店主スミカを見て俺はティーカップを落としそうになった。視線を外し隣を見るとケインズが鼻にティーカップを押しつけていた。相棒よ、そこは口じゃ無いぞ。

 

 相棒の醜態に顔を覆いそうになったとき部屋の扉が開いた。

 

「......商品の渡し終わった」

「ありがとうサーシャ、受付に札は置いてきた?」

「......ん、置いてきた」

 

 サーシャは店主スミカの隣に腰掛けた。それを確認して店主スミカが俺達に視線を合わせてきた。

 

「では依頼の内容をご説明します。あなた方お二人にも話してもいいとエスルーアン聖王の文面も確認しました」

「と言うと、私達二人もその依頼に従事せねばいけないのですね?」

「はい、そうです」

「なるほど......ではその依頼とは何だったのですか?」

 

 俺が問うと店主スミカは少しばかり溜息を付いてトレーの上に丸められた羊皮紙をテーブルの上に置きながら言った。

 

「この国、アインス王国南東にある『死者の祭壇』というダンジョンの最奥に存在する五百年に一度取れる『純魔結晶』を手に入れて来て欲しいと言う内容です」




なろうで投稿していますのでこっちの方が遅いです

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