俺とケインズは名誉ある任務に就いたことに少し喜びを感じながらお互いの肩を叩いていた。それを微笑ましそうに店主スミカが見ているのにハッと気づいた。ケインズも俺と同じく気づいたらしく頭を掻きながら苦笑いしていた。
「すまない。少し舞い上がってしまった」
「......子供みたいだった」
「「う......」」
ずっと黙って座っていたサーシャがぽつりと呟いた言葉がグサリと俺達に突き刺さった。
「そ、それにしても店主スミカ殿は一体何者なのですか?」
「おい! ケインズ、失礼だろ!」
「団長だって気になるでしょう? 一国の王が直々に依頼する方ですよ?」
確かに気にならないと言えば嘘になる。普通は騎士団を総動員して行うような任務なのに王は俺達二人と店主スミカだけで十分だと判断している。
「あーそのことですか、実は私―――」
店主スミカが苦笑いしながら語ろうとしたその時、ドバンッ!と言う音が部屋の外、恐らく受付の方から聞こえて来た。
「スミカ姉さん! いるか-!? 緊急だー!」
野太い男の声が宿に響き渡りそれと同時に店主スミカが立ち上がった。
「すみません、少し行ってきます」
「......私も行く」
店主スミカがそう言い小走りで応接室を出て行くのと同時にサーシャが出て行った。ぽつんと残された俺とケインズは顔を見合わせてから頷き、部屋を出た。そして受付がある入り口に近づくほどある臭いが漂ってきた。
「団長、この臭いって」
「あぁ......血の匂いだ」
ダンジョンでの間引き任務で嫌と言うほど嗅ぐ匂いだ。
「あぁあああああああ!! いでぇええええよぉおおおお!」
「何してるんですか! ボーッと見てないでそこの机に寝かせて抑えてて下さい!」
「あ、ああ! おい、手伝え!」
男の悲鳴と店主スミカの怒号が聞こえ俺達は受付があるホールに小走りで駆け込むとそこには十人くらいの人の輪が出来ていて、机の上に寝かされた左腕が無くなり左足もズタズタになっていて腹部の傷から少し内蔵がチラ見している男が三人の男女に押さえつけられていた。
「うっ......ひどいですね」
「あぁ、アレは助からんぞ......」
ケインズが手で口を覆いながら言い、俺も眉間に皺を寄せた。
「サーシャ! 赤ポーション!」
「ん!」
店主スミカが痛みで暴れる男の返り血で服が汚れるのも構わずにサーシャから渡された赤色のポーションが入った小瓶を空けそれを瀕死の男に振りかけた。
「いであああああああああ!?」
「うっさい! 痛いのは生きてる証拠! 左腕は?!」
「ここにありますぜ姉さん!」
ドワーフ族だろうか、小柄の男が氷魔法で氷らせたのであろう腕を店主スミカに渡し、店主スミカはそれを受け取り血だらけの男の左肩に押しつけた。
「よし、『ヒール』『再生』『活性化』」
「なッ!?」
俺は驚き、声を出してしまった。理由は簡単だ、店主スミカが無詠唱でしかも宮廷魔術師三人程で発動するはずの難易度が高い魔法を使ったからだ。淡い光が男を包むと血だらけで痛みにもがいていた男は今では疲れたような寝息を立てているだけだった。
「ふぅ......終わりっと」
店主スミカが額に浮かんでいた汗を拭うとドッと周りから歓声が上がった。
「うおおおお! 流石スミカ姉さんだ!」
「普通はくたばっちまう奴を直しちまったぜ!」
「おいおい! あの、スミカさんだぜ?」
「ははは! この馬鹿野郎は幸せだぜ?! あのスミカさんの治癒魔法を掛けて貰えたんだ」
店主スミカはその光景に苦笑いしながらサーシャから受け取ったタオルで返り血を吹いていた。俺はそれを横目に騒いでいる一団の端にいた男に話しかけた。
「すまん、さっきから『あの』スミカ殿と聞くのだが。『あの』とはなんだ?」
「ん? 何だアンタらしらねぇのか? いいか?よく聞けよ。 スミカさんはな、この世界に三人しか存在しないと言われているSS級冒険者の一人なんだよ! どうだ? すげぇだろ!?」
興奮気味に男が言ってきたが俺とケインズはお互いの肩を掴んで向かい合った。
「なぁケインズ......俺はもう驚き疲れて幻聴がしたんだが」
「奇遇ですね団長、私もですよ」
「「SS級冒険者って実在したのかよ!」」
俺とケインズの悲鳴は歓声の中に消えていったがただ一人だけ猫耳を抑えたサーシャが俺達の方に眠たそうな目を向けてきていた。
「......うるさい」