『グゥウウ......ご、ご勘弁をッ! 最早勝負は着い―――がッ!』
一匹のドラゴンの首を自分の背丈より大きな大剣で斬り飛ばした。弱い、弱すぎる。
クシャリと自分の前髪を掴む。
弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い‼
『そこまでだ、カスミ』
「......」
ドラゴンの血で汚れたまま掴んだ前髪は赤色の髪が少しだけ濃い色に変わっただけだった。そんなことも気にせず私は野太い声のした方を向いた。
黒く、大きなドラゴン。体には無数の傷が付いていて右目にも大きな傷があった。身体中のどの傷より新しい右目の傷痕。
「父上......」
『カスミよここら辺に居た馬鹿共の始末は終わった。帰るぞ』
「......」
私は父上から視線を外しある方角を見つめた。
『やめておけ、今行ったところで奴が許すはずもない。今のお前では数秒も持つまいよ』
「ッツ!!」
ギリっと噛み締めた奥歯が鳴り、私はお父様を睨んだ。
「『龍帝』である私があの腰抜けより弱いと仰るのですか!? 使命から逃げ、一族を見捨て、人間共とごっこ遊びをしているアイツより?!」
ドガンっと持っていた大剣を地面に突き刺して父上に向かって叫んだ。
『弱いとは言っておらん、五百年前よりお前は強く、賢くなった。だがまだ『龍人化』が出来るようになって二百年だ。先を急ぎすぎ彼奴に殺されるだけだ』
「くっ......」
『それに......』
父上は首を飛ばされたドラゴンだった死骸に目を向けていた。
『......強さとは何であろうな、カスミよ』
「ッツ!!......」
その言葉を聞いて私は右肩を押さえた。痛い、疼く、そして目を閉じれば鮮明にあの人の言葉が頭の中を焦がす。血の繋がった姉の姿が浮かび上がる。
『ねぇカスミ、強さって何だろうね? 腕っ節の強さ? スキルや魔法の強さ? それともドラゴンの圧倒的な存在? そんな物は強さじゃない。『龍帝』になりたければなればいい、僕はもう父上を父と呼ばない、君も――』
バゴンッと拳を地面に叩きつけると蜘蛛の巣状にひび割れが起こりヘコんだ。私を一瞬視界に納めた父上はゆっくりと背を向けた。
『やはり早すぎたか......禁忌を犯したと言え同族は同族、それを忘れるなカスミよ。『龍帝』となり、私から一族の長を継いだお前ならなおさらな』
そう言い残し父上は翼を広げ舞い上がると土埃が私を包んだ。
「......『同族殺しは許されない』」
呟きは父上の退却の咆哮に消えていき同調するように仲間達も咆哮を上げながらぽつりぽつりと舞い上がっていった。
「姉様......私はどうしたらいいのですか」
見上げた空はひどく紅く、とても暗く見えた。