駆逐艦『響』として戦う者   作:緒兎

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初めての人は初めまして。そうでない方はお久し振りです。マリオンです。前の作品が完結していないのですが、暫く期間が空いてしまった為に自分でも記憶が残っておらず、続けるならばどうせなら新しく書こうと思って書くことにしました。
軍事系とかあまり詳しくないんで、拙い文章となってしまうかもですが、どうぞ優しい目で見てくれたのなら幸いです。

では、どうぞ。


親友

 1930年(昭和5年)2月21日、舞鶴工作部にて一隻の船が起工された。その船は決して一般の客船などの一般人が乗るような船ではなく、全体的に灰色一色。目立つ色など一切使われない無骨な見た目になっており、そして居住スペースを極限まで減らしたのであろう細長い船体をしている。さらに甲板上には寛げるようなそんなスペースなどを設けておらず、落下防止のための申し訳程度の柵があった。艦上構造物としては艦橋が前部に取り付けられ、その後ろに二基の煙突が備えられていた。そしてまだ付けられていないようだが何かを設置するためのスペースが所々にあった。

 

 「いよいよこの船も完成したな」

 

 「はい。何度作っても完成した瞬間は感慨深いものです。きっとどんな嵐だろうと沈まず、突き進みますよこの船は」

 

 「ふむ、だといいな」

 

 その艦のそばで完成したばかりの船を眺めながら会話する二人の影。舞鶴工作部に所属する二人は感慨深そうに船を見つめていた。

 

 「駆逐艦『響』きっと彼女は立派に戦い、素晴らしい戦果を挙げることだろう」

 

 響と名付けられた艦は別で作られた大砲等の戦う為の装備を艤装し、1932年(昭和7年)6月16日に駆逐艦響として進水。その翌年1933年(昭和8年)3月31日に大日本帝国海軍に就役した。

 

 

 

 

 時は戻り1930年2月21日。駆逐艦響は完成と同時に目を覚ました。目を覚ましたと表現するのは些か人っぽい等と思われるが、艦にも魂が宿ると信じられているこの時代では強ち間違ってもいない例えでもある。というのも、信じられているなどと不確定なものではなく、確かに彼女は目を覚ましたのだからその事に気づいたものがいれば同じような例えをするだろうと思われるからだ。まぁ、実際のところその事に気づくことも感じることも、人間には出来ないのだけれど。

 

 ──ここ・・・は・・・?

 

 目が覚めた彼女が最初に思ったことは回りにいる人たちは誰かでもなく、自分がどんな存在かなどでもなく、ここが何処であるかだった。人間ならば恐らく皆がそうであるように、艦の魂である彼女もまた同じ事を最初に思ったのである。

 

 (いな)

 

 彼女は確かに艦の魂である。が、純粋な艦の魂というわけでもなかった。微かにであるが、確かに人の魂が彼女の魂に入り込んでしまっていた。それは幸か不幸か彼女に人間らしさというものを与えてしまっていた。

 

 (俺は、確か・・・)

 

 入り込んだ魂である彼は、自らに何があってここにいるのかを思い出そうとしていた───。

 

 

 

 

 彼の名は天原響(あまのはらひびき)、奇しくも駆逐艦響と同じ名を持って2018年の平成日本を生きていた。年は18、大人への階段を突き進む高校三年生の彼は今日もこの日高校へ通っていた。

 

 「響ー、ここ教えてくれよー」

 

 「またかよ。ちょっとは自分で勉強したらどうなんだ」

 

 「いいじゃん別に、減るもじゃないし」

 

 「減るわ!俺の貴重な時間がな!」

 

 「とか言いつつも響は俺に勉強を教えるのであった」

 

 うっせぇ!と怒鳴りながらも響は親友である渡辺守(わたなべまもる)に教えるのだった。守には貴重な時間がと言っていた響も実は大した用もなければ彼女がいるわけでもないので、絶賛暇の大安売りをしていたところなので丁度いい暇潰しが出来たと若干嬉しい気持ちがあるのは、守には内緒だ。

 放課後の教室は人が少なく静かであるため二人の勉強会はぐんぐん捗り、教えてあげた範囲を通り越して先の、これから授業で出てくる範囲にまで手を出していた。

 しかし、集中力が続くのも時間の問題。一時間もすれば親友の守はバテてしまい、勉学が捗らなくなってしまう。

 

 「なぁ響~、お前も艦これやろうぜー」

 

 集中力の切れた人は何かとうるさくなると言うが、当の守もその質であるようで響に対してしつこく話しかけていた。

 

 「うるさい!俺はお前と違ってミリオタじゃないんだ!そんなものに興味もなければ割く時間もない!」

 

 「いやいや、ミリオタじゃなくても艦これは楽しめるよ!それにお前どうせ暇しかしてないだろ」

 

 やらないという響に尚も守は食いついた。

 

 艦これ、艦隊これくしょんと呼ばれる所謂(いわゆる)ソシャゲのこのゲームは、日本に置いて大人気を博しており、可愛い女の子を模した軍艦を育成したり作ったり戦わせたりするシミュレーションゲームである。その人気は止まることを知らず、ソシャゲ界一と呼ばれるまでになっていた。

 そんなゲームに守は嵌まっており、ことあるごとに響を艦これに誘っているのだった。

 

 「大体軍艦を女の子にするって考えが頭おかしいだろ」

 

 響は尤もなことを言う。軍艦を女の子にだとか海外から見れば日本は随分と頭おかしいことをしているのだ。まぁ最もその海外でも艦これは人気なのだが。結局は可愛ければ何でも良いということなのかもしれない。

 

 「頭おかしいところは認めるよ。でもお前がやらないのと頭おかしいのは関係ないだろ!?」

 

 「あほか!関係大ありだ!」

 

 「なにが!」

 

 「考えても見ろ!艦これなんてほぼ18禁なゲーム、いや実際に18禁のゲーム、やってたら気持ち悪がられて彼女できねーだろ!」

 

 彼女いない歴=年齢の響は、艦これをやって彼女が出来る可能性を下げるより、やらずに出来るかもしれないというわずかな可能性の方を選んだようだ。多少ではあるが艦これも18禁要素が含まれるため、やっている人は皆オタクだと思われることも少なくはなく、基本女性はオタクを嫌う気質があるために全国の艦これ男児は彼女が居なかったりする。そもそも彼女が居れば時間を食うシミュレーションゲームなどやっていないのである。

 しかし守も守。そんなこと百も承知と、尚も食い下がる。

 

 「どーせ彼女出来ないなら今のうちにゲームでもして楽しんだ方が得だって!」

 

 「どーせ出来ないとかそんな悲しいこと言うな!俺だっていつか・・・出来るさ、きっと・・・うん」

 

 親友に心を抉られた響は落ち込み、反抗する気力もなく机に倒れこんだ。やってしまったと守は気づくも、時すでに遅し、ぶつぶつとなにやら独り言を呟く親友を見てあまり刺激しないようにと、一人帰り支度を始めるのであった。因みに守に彼女は居たそうだ。別れたけど。

 

 そんなこんな30分ほど時間を潰して6時になった頃、ようやく二人は校舎を出た。

 季節は春、まだ冬の名残で6時と言えども薄暗い。少しの肌寒さとうっすら暗い帰り道を男二人並んで歩く。端から見ても、自分達から見ても寂しい光景である。

 

 「なあ、将来の夢とかあるか?」

 

 「なんだよ急に」

 

 薄暗い道を注意しつつ歩く二人は軽い会話を始めた。いきなりの守の質問に響は驚きつつも考える。子供の時とは違う、未来を見据えての回答というのは存外難しいものである。何気なしに言ったところで叶う確率などまぁ目に見えている。自分で出来る範囲、やれそうな範囲などしっかり自分を見つめ直しながら深くじっくりと考える。

 

 「・・・お前はどうなんだ?」

 

 しかしやはりというかそう簡単には答えなど出てくるはずもなく、響は考える時間無言になるのも嫌なので参考資料にと守にもその質問を投げ掛ける。

 守も当然自分に来るだろうと踏んでいた為、軽く考えてから返答した。

 

 「実はさ、俺海上自衛隊に入ろうかなって思ってるんだ」

 

 「へぇ、なんでまた海上自衛隊に?」

 

 意外な答え、そして直ぐに返ってきた答えに驚きつつも響は理由を聞く。

 

 「まぁそんな難しいことじゃないけどさ、艦これやってると海を守るっていうのが誇り高く思えてさ、俺もそんな誇り高い人になれたらなって思うんだ」

 

 「そっか、守はもう決めてるんだな」

 

 「ああ」

 

 守の覚悟を読み取る響。お互い親友同士、その覚悟がひしひしと伝わってきた。艦これは良くも悪くも守に多大な影響を与えたようだ。

 何かを守りたい、自分の命を犠牲にしようとも守りたいものがあるから彼は自衛隊に入ろうと、そういう覚悟が響には眩しく見えた。親友の思わぬ一面に自分を重ねてしまい、自分はどうするのか、何を成したいのか等と考えがめぐる。何かを犠牲にとか考えたこともなかった響は親友の思いに当てられ、暫し考え込んでいた。

 決して人通りが無いとも言えない帰路、下を向いて考えに耽る親友をぶつからないようにサポートする守。また一人こちらに歩いてくる人がいる。若干千鳥足が見受けられるその人はフラフラしていて進路が予測できない。考えに耽っている響には悪いがぶつからないため声をかけて前を向かせる。そしてすれ違う。

 

 「すまんな守」

 

 「気にすんな」

 

 他愛のないことだけど二人は笑い合う。親しき仲にも礼儀あり。感謝の心は忘れてはならない。だっていつ別れるとも知れないのが、人というものだから。

 

 ─グサッ─

 

 音などないけれど例えるのならばそう、グサッだ。守の背後から突き刺さったそれは用意に腹を裂き中の臓器を傷つける。

 

 「まも・・・る?」

 

 「あがっ・・・くっ・・・うっ」

 

 血を吐き倒れる親友を目に動揺を押さえられない響。そしてその背中に深々と突き刺さる包丁を見て響は悲鳴をあげる。情けない、だが実に人間らしい悲鳴が暗い住宅街に響き渡る。

 そんな悲鳴をよそに守に突き刺さる包丁を抜く一人の男性。響はその男性に目を向けると先ほどすれ違った千鳥足の男だということが伺えた。そして辺りに他の人はいない。つまり、この男こそ親友を突き刺し殺した男なのだと脳が認識する。

 本能的に刃物を見て体が震える。だがそんなものは押さえつけた。そして力の限り叫んだ。よくも親友を、よくも守をと。

 

 男はニタリと笑うと今度はお前だと響に包丁を突き立てた。

 

 またも音はなく静かに切れ味の高い包丁は歪みなくその体に切れ込みを入れる。長さの関係上突き抜けはしないが、それでも奥へと、確実に死に至らしめるために深々と突き刺す。だが、響も黙ってやられるわけではなかった。殺す、そう明確に意思を宿した人間は死ぬに死にきれない。

 自ら包丁を力ずつで抜くと火事場の馬鹿力とばかりにリミッターの外れた体が用意に男から包丁を奪い取る。そして、男の首を一閃。

 

 なんと呆気ない。それだけで男は首から血を流し倒れ付してしまった。

 

 「ひ、ひび・・・き!」

 

 守の声が聞こえた。頭からサーッと血が引くと冷静になった頭は己がやったことを理解する。しかし響は何処までも冷静だった。犯人は殺したけれど自分達は急所を刺されたため、助からないだろう。人であるならば誰もが感じる「あ、これ死んだわ」というなんとも言えない感じ。そう二人はもう助からなかった。

 悲鳴を聞き付けて駆け寄ってくる人を感じながら響は守に話しかける。

 

 「仇は、討ったぞ」

 

 「っふ、馬鹿かお前は」

 

 いつもと逆のやり取り。ことあるごとに守に馬鹿と言い続けてきた響にとって言われる側は新鮮だった。二人してくだらないと笑い合う。

 

 「なあ、響」

 

 「なんだ?」

 

 「俺、夢が叶わなかったみたいだ」

 

 「うん、そうみたいだな」

 

 「でもさ、なんか誇らしい気分にはなれた」

 

 自分を刺した男に怒りその仇を討った親友に、そして一緒に死んでくれる親友に。彼は誇らしくなった。自分にはこんなにも自分を思ってくれる人がいたことに。それは響も同じだ。自分を誇らしく思い、そして死に行く守を誇らしく思う。お互いがお互いを称えあった。まるで戦友のように。

 

 「守、また会えるかな?」

 

 「・・・」

 

 「俺、人を殺しちまったからさ、多分地獄に落ちるよな」

 

 人殺しは犯罪。歴とした罪である。親友を刺した仇とはいえ響は命を一つ奪ってしまったのだ。その代償として自分は地獄に落ちるだろうと響は考える。

 

 「そんなこと、ないとおもうぜ?」

 

 「・・・そっか。お前の勘はよく当たる。俺は信じるよ」

 

 言いはしなかったが二人して信じた。また、きっとどこかで出会うだろうと。そしてまた親友になれる日が来るだろうと。

 そんな中、守はそっと息を引き取った。

 

 気力だけで持ってる自分も時間の問題だと響は親友の側に寝転び目を閉じる。神様どうか、また二人が巡り会えますように。そんな願い事をしながら彼もまた息を引き取った。

 

 通り魔事件、被害者:渡辺守、天原響 犯人:死亡

 

 そんな悲しいニュースが、全国に放送された。

 

 

 

 

 

 

 (そうか、俺は・・・)

 

 思い出した響は辺りを見渡し確信する。生まれ変わってると。そしてどこかにきっと親友が時を同じくして生まれ変わっているだろうということを。

 

 そして──

 

 (で、俺はどうして一歩もいや、体の一部さえ動かせないんだ?)

 

 そんな疑問を胸に響は遥か昔、まだ戦争が続いている日本に駆逐艦響として生まれ変わってしまったのであった。

 

 

                 ───続く




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