駆逐艦『響』として戦う者   作:緒兎

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 何これよくわかんない言葉だらけで分かりやすいのをちょっとだけ小説に入れたりするんですけど、自分で何を書いてるのかわからなくなってくる。

 あっ、台風大丈夫でしたか?今年は強い勢力を持った台風が多いのでまだまだ油断なりませんが、無事に乗り越えられるよう頑張りましょう。

 暇潰しに1時間で描いた響
 
【挿絵表示】



進水式

 はい、というわけで軍艦になってしまった天原響。彼は自ら何も出来ない体になってしまった為、どうやって親友を探すんだと試行錯誤していた。取り敢えず自分に乗る人を手当たり次第調べるかと考えれば一億分のほんの少しだけの人員の中に果たして居るのだろうかとこの案は保留にされたり、自分から探せないなら誰かに頼んで探してもらうかと考えるも、そもそも言葉を発せないじゃないかとこれも断念。というかこんな状況誰がどう頑張ろうと無理の一言につきる。

 

 ということで響も今は思い付かないと考えるのをやめた。

 

 (くそーっ!神様はどうして俺をこんな体にしたんだぁああああああ!!)

 

 嘆いても仕方ない。わかっていてもつい心の声を漏らす。人間誰しも悲痛なことがあれば無意識に言葉にして吐き出してしまうものなのだ。まぁ、船だから言葉なんて出ないんだけど。

 と、そんなことをやっていると辺りが騒がしくなってきた。みると、沢山の軍人さんが響を見送るかのように舞鶴工作部へと集まっていた。響の船体には人生で一度見るか見ないかぐらいの装飾が施され、支綱を船首に結びつけられる。そして船台の上に組み立てられた響は、海へと進水するのを待つばかりであった。

 

 暫くすると軍人さん達も準備を終えたのか、なにやら話していた人たちも皆、海の方、いや響の方を見て真剣な表情になった。ここで響も気づく。確か進水式というのがこんな感じだった気がすると。

 お偉いさんが前に出てきて艦の命名を行う。

 

 「この艦は、響と名付ける。」

 

 予め決まっていたのだろう名前を口にすると、次はなにやら斧のような物を取り出していた。進水斧と呼ばれるそれを手にするお偉いさん。何をするつもりなのかと疑問に思うのも束の間、木の棒のようなものにその斧を叩きつけた。

 すると船首に繋がれた支綱が切れた。しかしまだ船体は陸の上。海に滑り落ちることはなく、滑り止めが船台に施されているのがわかった。

 

 (思ったより進水式って面倒くさいんだな)

 

 船にとって初めて水に触れる儀式であり、国を守るべく造られた軍艦の門出を祝う儀式でもある進水式をあろうことか響は面倒くさいと言った。船にとって最も幸せな瞬間であるこの儀式、しかし人間の心を持つ響にはどうやら響くものがなかったらしい。響だけに。

 

 滑り止めも外され海へと滑り出した響はこの体になって初めて海水へと触れた。

 

 『冷た!?』

 

 ──初めて海へ触れた感想はそう、冷たいだった。駆逐艦である響は勿論のこと無機物であり、決して触覚等、温度を感じることはなかった。なのに海水に触れた瞬間確かに感じた冷たいという感触、そして下半身が水に浸かっているようななんとも言えない感覚。つまり響は水に触れたことによって、触覚を得たということだった。

 そして変化はもうひとつあった。艦魂たる響は決して体などを持たず、ただ駆逐艦であるという視界もくそも無いような状態だった。視野は三百六十度、遮るもののない視界は、海水に触れた瞬間人と同じように狭く、小さいものになった。

 そして体も変化し駆逐艦の全面積が体だという感じから小さい子供ぐらいまで縮み、人の形を象ったかのように手足が生え、自由に動かせるようになった。

 

 『なに、これ!?どゆこと!?』

 

 そんな訳のわからない状況に当の本人は大混乱。大きな声でギャーギャーと声を艦内に響かせていた。

 

 

 

 

 

 

 暫く騒ぐと響も落ち着きを取り戻し、この謎の状況を考え始めるまでになっていた。

 

 『何がどうなってるんだ?海に入ったと思った瞬間いきなり冷たい感触が来た。今まで外の温度も感じること無かったのに。それになんだか下半身が濡れて気持ち悪い。これはあれだ、おしっこ行きたくなるやつだ。』

 

 トイレに行きたいという気はないが股を押さえてモジモジしてしまう響。まるで人のように象った体は、勿論服も着ているようで腰に装備されたスカートが股を押さえる手によって肌に押し付けられる。

 

 ───ん?

 

 ここで響は気づいた。股に長年付き添ってきた相棒とも言える盛り上がりがないことに。そして男なのに何故か履いているスカートという異色の装備に。

 

 『うぇっ!?な、ななな、何ですとぉおおおおお』

 

 生まれ変わってもう何度目かと分からない驚きの声をあげる響。それもそのはず、不思議に思った響が自分の体をペタペタと触ると、無いはずのものがあり、あるはずのものが無くなっていた。つまり胸が膨らんで、股間がへっこんでいた。もっと簡単に言うなら、響は長年連れ添った相棒を捨てて晴れて女の子になっていた。ということだ。

 

 そしてもっとショックなことが響を襲う。

 

 『これ、女になったら彼女出来なくね?』

 

 である。

 

 年齢=彼女いない歴な響にとって彼女ができるという可能性が限りなくゼロになってしまったこの状況に思わず、響は茫然自失になってしまった。

 元々お前駆逐艦とかいう無機物なんだから彼女もくそも無いだろう。という突っ込みは皆さんの心の中にしまっておいてほしい。

 

 さてさて、そんな響をほっといてこの謎現象について説明しようと思う。

 まず、どうして響が人の形を成したかについて話していこうと思うのだけれど、まずは進水式について語っていこうと思う。

 

 進水式とは謂わばもう一つの誕生日。船が造られ、正真正銘新たな船として生まれた誕生日と、初めて水に触れ海に浮かぶ船となる誕生日。そして進水式では船の命名も行われる。

 ただ船を海に浮かべればいいってものじゃない。造られた船が初めて水に触れ、立派に海上に浮かぶ。この立派な門出を祝ってやるのが進水式というものだ。例え設計上浮かぶとわかっていても、それでも祝ってやらねばならぬ。まるで赤ちゃんが初めて立った瞬間のように。

 名前だってそうだ。この世に名前の無い人など存在しないだろう?例えどんなに貧乏でも富豪でも悪者でも善人でも、誰にだって名前はついている。それはつまり名前の無い状態の物は死んでいるものと同然。ということ。だから名付けられた響はようやくここで命を得たことになる。

 

 進水式というのは生み出した側の人にとっても、船にとっても大事な儀式である。そして、その儀式が人の魂を持つ艦魂に影響を与えたと考えられる。

 

 で、なぜ人形になったのかというと、まぁ中の魂が人だったから。といういたって普通な理由な訳だ。別に変に凝ったような設定などなく、ただシンプルに魂がそうさせたというだけのこと。だから響以外の艦が進水式を終えても人形をとらず、艦として意識を持つし、体も船の形をしている。勿論自由に動かすことはできない。

 他の謎現象、感触等もそのような理由がある。

 

 『っは!自由に動けるようになったんなら守を探しに行けるんじゃね!?』

 

 艦である以上体を動かせなかった響は、落ち込むのもほどほどに今しがた起こった奇跡とも言える現象で人形になった体を、もしかしたらという気持ちで岸の方へと走り出した。行ける、行けると艦上を駆け抜ける響。艦橋に立っていた響は艦首まで一直線に駆け抜ける。そして、今しがた自分がいた岸へと飛び出した。

 

 が、しかし──

 

 ゴンッという音ともに響は艦尾ギリギリに倒れ伏す。

 

 『うぐっ!?······な、なにがあったんだ?』

 

 響は自らの身に何があったのかと頭のなかを探る。確か自分は艦尾方向にある岸へと飛び降りようとして、とここまで思い出して何か壁のような物にぶつかったことを思い出した。

 軽く脳震盪ぎみな響はそう結論付けるともう一度試してみようと一歩下がり、再び飛び込んだ。

 

 しかして結果は同じ。響は見えない壁のような物に阻まれて艦から出ることは叶わなかった。

 

 『バリア?』

 

 見えない壁に軽く手を触れると、確かに何か障壁のような物があり、響が船から出ることを拒んでいた。

 

 『マジかよ······』

 

 結局自由に動かせる肉体を手にいれたところで艦に縛られていることは変わりなく、期待していた分結局何も出来ないという事実に響はかなり落ち込んでいた。

 

 

 

 

 

 それから暫くして艤装作業が始まり、響に12.7糎連装砲三基六門、61糎三連装魚雷発射管三基という強力な武装が積み込まれた。

 

 『······かっこいい』

 

 軍艦など大して興味の無い響ですら思う。砲を積んだ駆逐艦は、例え戦艦や巡洋艦には劣るもののそれでも軍艦として力強いオーラを放っており、素人目に見てもかなりかっこよかった。

 軍艦と言えば大和や武蔵、そして長門などの有名な戦艦しか見たことのなかった響は、その始めてみる駆逐艦という小さくも勇ましい見た目を目に焼き付けていた。

 キラキラと光を反射する砲身は真っ直ぐ艦首を向き、その様相から紛れもない攻撃するための兵器だと見るものを魅了していた。巨大な発射管は魚雷という駆逐艦にとって最大の武器を放つために存在しており、小さくも頼もしい主砲よりも遥かに頼もしかった。

 

 駆逐艦(自分)に見とれていた響は暫くその姿を眺めていたが、やがて人が乗り込むと意識を強制的にそちらに向かわされることになった。コツコツと鉄を踏みしめる音が艦に響き、一人ではなく沢山の人が乗艦したのだと容易に想像できた。

 しかし人が乗り込んできたことに響は目もくれようとしない。なぜなら──

 

 『あははっ!くすぐったい』

 

 まるで自分の体を虫が這い回っているかのようなくすぐったさに襲われていたからだ。

 

 人というのは軽いものだ。1680tもある駆逐艦にとって人とはまるでアリのように軽く、そして小さきものだった。それ故に人が虫が這い回っているとくすぐったく感じるように響も感じていたというわけだ。

 

 『く、くそっ······こんなに、くすぐったいなんて······』

 

 我慢できないと言いたげに響は苦悶の表情を浮かべる。少なくとも耐えようとはしているみたいだった。

 

 

 

 

 

 次の日になると響にまた乗り込んでくる人がいた。艦長や副艦長、そして響を動かす乗組員たちだ。進水式直後に乗り込んだ人たちは浸水など起きてないかとチェックするために乗り込んだ人たちであったため、今回は更に増員して乗り込んできた。

 勿論例によって響はくすぐったいのを我慢していたが、結局我慢もすぐ限界が来て一人誰にも見られることなく艦橋で笑い転げるのだった。

 

 『し、しかし昨日の今日で乗り込んできて一体何のつもりだ?』

 

 海軍のことなど一ミリも知らない響は、進水式を終えた翌日に一体何をするのかと疑問に思っていた。

 

 大日本帝国海軍は、昭和2年の艦艇補充計画により響を造り出したのだが、その名の通り艦艇が著しく不足していた。そのため、建造されたばかりの響を一日でも早く就役させて第一線で活躍させようと早くも演習航海へと出ようとしていた。

 

 『全く忙しい奴らだな』

 

 そんなことなど露知らずの響は忙しなく動き回る乗員をそう評価した。

 

 暫くすると体の奥の方から何か熱いものが込み上げてくる感覚を響は感じ取った。

 

 『な、なんだ!?熱い!?』

 

 エンジンである。主機に艦本式タービンを2機を搭載した響は、それを動かすために艦本式ボイラーを動かし始めていた。

 主機である艦本式タービンは蒸気機関であり、機関を動かすためには蒸気が必要である。そのため艦本式ボイラーを燃焼させて蒸気を生み出す必要があり、必然的にボイラーが暖まってきていたのだ。

 そのため暖まり出したボイラーが響に体の内から来る謎の熱を与えていたのだ。

 

 タービンを燃焼させるとすぐに燃料である重油から上がっあ黒煙が煙突からモクモクと噴き出してくる。すぐにはボイラー室が暖まるわけではなくゆっくりと熱をもってきて、そしてやがて蒸気が生まれる。その蒸気の持つエネルギーをタービンと軸を介して回転運動に変え、艦を動かすのだ。

 

 「抜錨!」

 

 錨が上げられ、主機が動き始める。そこで生まれた回転運動はスクリューに伝わり艦をゆっくりと動かし始める。桟橋へと移動させられ停泊されていた響が出航し始めた。

 

 「前進微速!」

 

 艦長の号令が艦の速度を上げる。その速度凡そ6kt。時速に換算すると凡そ11kmだ。決して早くはない速度で離岸する響は、やがて半速、原速と速度を上げ日本海へと姿を消した。




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