異世界転生(?)した一般男子の勘違い録   作:スウィート・ソベルフィッシュ

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勢いで書いた。
原作知識がないとキツイかもしれないです、ごめんなさい。


第一話

 「……帰ってきたか」

 

 ノックもせずに入室してきた男に対し、始終不機嫌そうに眉を寄せている部屋の主は更に顔を顰めさせた。椅子に腰かけながら部屋の主、ロード・エルメロイⅡ世は愛用の葉巻を口に咥え、何の小道具を用いずに火をつける。

 

 「それで、君の後ろにいる彼女は戦利品か?」

 

 「まぁそんなところです」

 

 エルメロイⅡ世の問いかけに来訪者の男は肯定する。表情に変化は見られず、エルメロイⅡ世にもその心情は測りかねる。だがそれでエルメロイⅡ世は確信した。

 

 「なるほど、ではやはり勝ち抜いてきたか」

 

 来訪者、菁崎大輔(かぶざきだいすけ)は三週間ほど前に中東にて非公式に開催された亜種聖杯戦争に参戦するため行方をくらましていた。

 

 聖杯戦争。それは魔術師によるバトルロワイヤルだ。彼らは過去の偉人を召喚し、従え、聖杯を求め殺しあう。最後に生き残った魔術師は聖杯が持つ膨大な魔力をリソースに願いを一つ叶えることが出来る。そして亜種聖杯戦争とは簡単に言ってしまえば聖杯戦争を大幅に劣化させた紛いものである。

 

 しかしこの亜種聖杯戦争、亜種というには些か規模の大きい聖杯を扱った聖杯戦争であった。聖杯の完成度だけで言えばあの冬木の聖杯にも迫るほどであったという。模造品故にどうしても魔力の絶対量で劣っていたが、極東の地で行われた冬木の聖杯戦争と同じく七騎のサーヴァントの召喚が可能な程度の容量はあったのだ。

 

 それゆえに魔術協会は静観を決め込む訳にはいかず、聖堂教会も監督役として名乗り出た。しかし多すぎる過去のいざこざから話は上手い具合に纏まらず、またそれに乗じて様々な思惑を持った魔術師が暗躍し、聖杯戦争が開始される前から熾烈な争いが繰り広げられていた。

 

 その結果、監督役は不在に等しく魔術協会からは執行者を送り付け、名の知れたフリーランスの魔術師が時計塔には所属していない貴族に雇われ、挙句の果てには封印指定の魔術師や元魔術師の吸血鬼までもが聖杯戦争に参加したという。錚々たる面子の中、唯一無名の魔術師がいた。それがロードエルメロイⅡ世の前に立つ男、菁崎庵だったのだ。

 

 そして、そこから生還し、自らの足で戦利品(サーヴァント)を携えてこの場に訪れたのならば、結果は多くを聞かずとも察せられた。

 

 「結果的にはそうなりました」

 

 やはりというべきか、菁崎は色のない顔で応える。それはまるで勝って当然(・・・・・)の戦いだったと言わんばかりの態度だった。それが、ほんの少しだけ癪に障った。

 

 「……そうか、しかしなぜ今更になって報告を? 聖杯戦争に参加する旨を伝えず、まるで旅行に行くかのようにトルコに赴いた君の事だ。大方面倒な手合いに目をつけられたと見たが」

 

 「面倒で済めばいいんですけどね。相手は蒼崎の姉の方です」

 

 菁崎が告白した人物はさしものエルメロイⅡ世でも予想できなかった。彼女は魔術協会の厄ネタの一つである。幾人もの執行者を返り討ちにし封印指定にも登録されていたこともある魔術師、といえば伝わるだろうか。エルメロイ二世は不快そうに顔を顰めた。

 

 「でもそれはいいんです。それよりもお願いしたい事があるんですよ、先生」

 

 ところが菁崎はそれを特に問題としていないのか話題を切り替えた。その反応こそ最も驚愕に値するのだが、持ち前の顔の厚さでエルメロイⅡ世は表情だけでも平静を保った。問題児の扱いに慣れている彼だからこそできた対応ともいえる。

 

 「聞くだけ聞こう」

 

 「ご存知の通り、俺はあの戦争から生き残りました。そんでもって彼女は元サーヴァントで受肉しています」

 

 説明しながら菁崎は後ろに控えていた和服の女に前に出るように言った。女は素早く、しかし体を全く揺らすことなくエルメロイⅡ世のデスクの前に立つ。

 

 腰に日本刀を差した女は主人と同じで感情の起伏に乏しい顔つきをしており、儚い印象を受ける。また頭髪の色以外はおよそ日本人といえるような風貌だった。

 

 「受肉した英霊ともなれば魔術的価値は莫大なものになるでしょう。そして俺は極力面倒は避けたい。だからロードのお墨付きをもらいたいなと」

 

 「お墨付きだと?」

 

 「はい。例えば彼女は俺の所有物である、とかそんな緩い感じの事を公式に発表するだけで良いんで」

 

 「……ほう?」

 

 ロード・エルメロイⅡ世による公的な発表。立場上、彼の発言力は決して低いものではない。しかしエルメロイⅡ世を快く思わない由緒正しき貴族やそもそも話を聞かない魔術師等に対しては何の効力も持たないことも事実だ。

 

 故に菁崎の思惑は彼の言外にあるとエルメロイⅡ世は推察した。つまり『菁崎庵はロード・エルメロイⅡ世の配下にある』という事を彼は時計塔内に知らしめたいのではないか、と。エルメロイⅡ世自身はそれほど優れた魔術師ではない。だが彼の持つコネクション(というか教え子達)が集まれば時計塔内のパワーバランスに影響を及ぼすという。そこに聖杯戦争の勝者である菁崎とそのサーヴァントが加われば単純に戦力がかさ増しされる。もっともエルメロイⅡ世は時計塔内の権力ないし勢力争いにしのぎを削るきはさらさらなく、特段興味もなかったりするのだが。

 

 しかし彼の内情を知らぬ者たちからすれば、やはりエルメロイⅡ世の庇護下に入った菁崎あるいは彼のサーヴァントに手を出すことのリスクが如何程であるか計り知れない。何も起こらないかもしれないし、手痛いしっぺ返しを食らうかもしれない。まして、エルメロイⅡ世の観察眼、洞察力は正真正銘の本物であり一時期は魔術的な事件の探偵役を務めていたという話もある。仮に報復があるとするならば、それは確実な物になる可能性が非常に高い。12人いるロードの中、エルメロイⅡ世にわざわざ頼み込む理由といえばこれくらいのものだ。

 

 「……しかし、何かあったとして私からできることはないぞ」

 

 繰り返すが凡才とはいえ、エルメロイⅡ世は魔術師だ。そして魔術師とは基本的に冷酷で、無慈悲である。己の目的のために手段を選ばない人種だ。エルメロイⅡ世もその例にもれず、他人のために貴重な時間も労力も使う気はない。

 

 「その時は何とかします」

 

 つまらそうに菁崎は言う。実際、エルメロイⅡ世の助けを借りずとも菁崎は自分の力だけで敵対者に対処できるのだろう。ただ面倒を減らせるならそれに越したことはない。そういった意図で自分に話を持ち込んでいるのだと、エルメロイⅡ世は判断した。

 

 「ふむ。では魔術師らしく、等価交換の話をしようか」

 

 「わかりました。しかしあまり時間がないのでとりあえずこれを」

 

 言いながら、菁崎はポケットから紙片を取り出す。エルメロイⅡ世がそれを受け取り、読んでみると紙片には数字が書かれてあった。おそらくは携帯の電話番号だろう。

 

 「なんだこれは?」

 

 エルメロイⅡ世はあえて聞いてみた。

 

 「俺の電話番号ですよ。それで連絡をください。先生ならできますよね」

 

 なるほど、とエルメロイⅡ世は考える。菁崎の意図が理解できたからだ。

 

 魔術師は一部の例外を除いて現代に蔓延る科学を嫌う。しかしエルメロイⅡ世はその一部の例外に辛うじて属する者である。であるならば、魔術を用いるよりもこの文明の利器を用いた連絡の方が遥かに安全であると菁崎は考えたのだろう。因みにこの場で言う安全とは、盗聴の恐れがない、ということである。

 

 そして『連絡をしろ』とはエルメロイⅡ世の要望を電話で受ける、という事なのだろう。しかも極秘裏に受けるのだから後ろめたいことでも構わないという意思の表れでもある。随分と羽振りのいいことだ。

 

 「わかった。それで手を打とう」

 

 「はい。それではよろしくお願いします」

 

 頭を下げて菁崎とその従者は退出していった。そして彼らと入れ替わるようにして一人の少女が入室する。

 

 「ご機嫌麗しゅう兄上よ。先ほどの男は今話題の菁崎大輔だな?」

 

 彼女はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。エルメロイⅡ世の義妹にあたる女性である。彼女は嫌味ったらしい顔でエルメロイⅡ世の前に立つ。

 

 「ああ、そうだ」

 

 「何か思うところはないのか?」

 

 「どういう意味だ、レディ」

 

 「分かっている癖に白々しい。奴は聖杯戦争で勝ち残ったのだろう? しかも共に戦ったサーヴァントを受肉させて、貴方の前で堂々と勝利宣言していたそうじゃないか」

 

 嬉しそうに言葉を紡ぐ義妹。対してエルメロイⅡ世は特に感情を表すことなく、

 

 「ないな」

 

 きっぱりと断言した。それにはさすがのライネスも驚いたらしく、僅かに目が見開いた。

 

 「しかしあの大輔とかという男、冬木の聖杯に参加した時の君と経歴は似たようなものだろう?」

 

 「魔術師として歴史が浅い家系なのは事実だが、その事実を差し引いても菁崎大輔という魔術師は優秀だ。それはレディ、お前にも分かっているだろう」

 

 エルメロイⅡ世はかつて冬木という極東の地で開催された聖杯戦争に参戦した経歴を持つ。そこで彼は敗退したものの辛くも生き残り、こうして時計塔で教鞭を振っている。彼が人として成熟できたのは、彼を戦場に引っ張り出し、ともに戦場を駆け回った()の存在が大きかったのである。

 

 「思い出すのも苦痛になるほど未熟だった私と、己の力を知り能力を最大限に行使できる彼とでは比べるのもおこがましい。ああそうだとも、あの頃の私は最高に愚かだった」

 

 エルメロイⅡ世はそう吐き捨てる。それほどまでにかつての自分は認めたくないのだろう。その様子を見て、義妹であるライネスはくすくすと愉快そうに笑う。

 

 「やっぱり思う所があるみたいじゃないか」

 

 「うるさいぞ」

 

 

 

 

 ★

 

 

 俺こと菁崎大輔は転生者で魔術師である。

 

 自分が転生者であると気づいたのは物心がついたあたり。気づいたらなんか体が小さくなってて驚いていたことを覚えている。ただ前世の記憶はあまりない。だからまぁ第二の人生はすんなりと受け入れることは出来た。

 

 またこの世界には魔術というファンタジーには欠かせない学問があるが、世界観は中世ヨーロッパ風ではない。一応現代社会だ。そのため異世界転生と定義していいのかは謎である。なんせ前世に魔術があったかどうかなんて確かめようもないからな。

 

 さて、前述のとおり俺は魔術師である。しかしこの世界の魔術は結構シビアで、割とあっさり人が死ぬ。そもそも魔術を行使するための回路づくりからして命がけである。それを俺の両親は強要してくるのだから魔術師のやばさが伝わると思う。しかも俺の家族はまだマシな方らしい。世の中には戦場の死体を喜々として集める魔術師もいれば、「人生とはいかにして死ぬのかである」とか言って死を蒐集してるとかいう魔術師もいるのだという。

 

 まぁ何が言いたいのかと言うとだ、こんな世界で魔術師やってると心が荒んじゃうのである。両親は妙に俺に期待をかけるし、なんとかしてその期待に応えようと毎日魔術の勉強やら研究やらばっかりで頭が爆発しそうになったし(比喩ではない)、時計塔という魔術の総本山に親の勧めで来てみたら余計に覚えること増えるし、もう正直やってられんのですよ。

 

 だから心を癒すため、学校と両親には無断で旅行したのです。因みに行先はトルコな。名物のケバブとかトルココーヒーを味わってみたいなと何となく思ったんだ。

 

 そしたらびっくり、いつの間にか魔術師同士の殺し合いに巻き込まれていましたとさ。内心ふざけんなよと叫んだが、転生してからこのかた危険な目にばっかり遭ってるものだからそういう事(・・・・・)にも慣れて割と冷静な自分もいた。それでも今回の聖杯戦争とやらは今までのハプニングよりも頭三つくらい飛びぬけて危険で、何度も死に目にあった。今回生き残れたのも、本当に、滅茶苦茶運が良かったからであり、ステータスにすると『幸運:EX』くらいのミラクルが連発したからだ。

 

 そして聖杯戦争に自分が生き残ること重視で動きまくったら、いつの間にか優勝していた。

 

 何を言ってるか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分かんなかった。そりゃあ死にたくないから反撃したこともあったが、ほとんどずっと逃げていた。だから恥ずかしい話だが、監督役の神父さんに言われるまで自分が最後の一人だってことも気づかなかったくらいだ。

 

 まぁ他にも色々言いたいことはあるが、それは置いておくとして。今、俺は時計塔の権力者の一人であるロード・エルメロイⅡ世の部屋の前に居る。彼は12ある学部のうちの一つ、『現代魔術論』の学部長である。俺もこの学部に属しているので、俺からしてみればもう滅茶苦茶偉い人である。因みに俺は先生と呼んでる。

 

 だからノックもせずに入室してしまったのは緊張のせいだ。

 

 (やっべぇぇ!)

 

 やっちまった。顔面蒼白になっていくのが自分でもわかる。よく見なくとも先生は不機嫌そうに眉を寄せていた。いつも不機嫌そうにしてるけど、今日はなんか振り切れてる気がする。

 

 「……帰ってきたか」

 

 しかし流石は大人というべきか。俺がめっちゃ緊張してることを酌んでくれたのか、俺の失態については追及せずに話を進めてくれた。いやホントイケメン。プロフェッサー・カリスマって言われるだけあるわ。

 

 「それで、君の後ろにいる彼女は戦利品か?」

 

 先生は俺の背後を一瞥しながら言った。戦利品という言い方はなんか物扱いしてるみたいで好きじゃないが、実際サーヴァントを使い魔と同列視してる魔術師もいるくらいだからな。ちょっと返答に困るが、俺が聖杯に望んだ願いも彼女の受肉だったわけだし。

 

 「まぁそんなところです」

 

 だなんてぼかして返事してみる。

 

 「なるほど、ではやはり勝ち抜いてきたか」

 

 勝ち抜いてきたかといわれると、ちょっと違う気がする。正確には気づいたら勝ってたわけだし。俺、どこの陣営も倒してないしね。たぶん自分を除いた最後の二組が同士討ちでもしたのだろう。

 

 「結果的にはそうなりました」

 

 ただ事実をそのまま言うと少し情けないのでこれもちょっとぼかす感じに言う。

 

 「……そうか、しかしなぜ今更になって報告を? 聖杯戦争に参加する旨を伝えず、まるで旅行に行くかのようにトルコに赴いた君の事だ。大方面倒な手合いに目をつけられたと見たが」

 

 いや全くもってその通りですよ。旅行のつもりでトルコ行ったんですよ俺。しかも面倒臭い人にも目をつけられたってのも当たってるし。ストーキングしたんじゃないのかと疑いたくなるくらい的確に当ててくるんだけども。魔術師としての技量は俺と大差ないらしいけども、やっぱりロードの称号を持つだけあって格の違いを思い知らされる。

 

 「面倒で済めばいいんですけどね。相手は蒼崎の姉の方です」

 

 蒼崎橙子、元々は時計塔に所属していた魔術師で封印指定されてたやばい人。俺が聖杯戦争で逃げ回ってる最中に出会って、色々贔屓にして頂いた。話してみると案外悪い人ではなくて、噂はあてにならないなぁとか思った。でも厄介な人であることは間違いなくて、どうもこれからも厄介事を持ち込んできそうな予感がある。

 

 「でもそれはいいんです。それよりもお願いしたい事があるんですよ、先生」

 

 まだ何か被害を受けたわけでなもないので、彼女については保留。それよりも大切なことがある。

 

 「聞くだけ聞こう」

 

 「ご存知の通り、俺はあの戦争から生き残りました。そんでもって彼女は元サーヴァントで受肉しています」

 

 言いながら、俺は先ほどからずっと後ろに控えさせていた女性を前に出るよう念話した。一応解説すると、サーヴァントとそのマスターは魔力のパスを通じて念話、つまりいつでもどこでも携帯電話みたいに通話することが出来るのだ。この機能がなければ恐らく俺は死んだってくらいお世話になった。

 

 彼女はアサシンのサーヴァント。真名は沖田総司。しかし聞いてほしい、俺の知る沖田総司は男性であったはずなのだが俺が召喚した沖田総司は女性だったのである。確かに女性と見間違うほど容姿端麗の美男子という話はあったが、女性そのものだったからかなりびっくりした。しかし噂に違わぬ剣技を披露し、幾たびも俺の命を救ってくれた彼女の実力は本物である。ただ結構謙遜する人で、助けてもらったから感謝するといつも「こちらこそ」と返答するのである。俺何もしてないんだけどね。ひょっとして日本人の謙遜文化は江戸時代から始まってたのか?

 

 「受肉した英霊ともなれば魔術的価値は莫大なものになるでしょう。そして俺は極力面倒は避けたい。だからロードのお墨付きをもらいたいなと」

 

 彼女には悪いが、沖田総司という英霊自体の魔術的価値は低い。しかし受肉したサーヴァントとなってくると話は違う。根本からして人間とはスペックが違い、また体は元々エーテルで構成されていたのである。そりゃあ神秘の探求をしている魔術師からしてみれば目から鱗が出るくらい欲しがるだろう。特に降霊科の連中とか。

 

 だからまぁどれだけ影響力があるか分からないけども、ロードである先生が公式に発表してくれれば奴らも大っぴらには動けないだろう。それは他のロードでもできることなのだが、一番話安いのが先生だったわけで。俺あんまりコネないのよね。この際少し頑張ってコネづくりしようかな。一応聖杯戦争の優勝者とかいう拾い物の箔もある訳だし。

 

 「お墨付きだと?」

 

 「はい。例えば彼女は俺の所有物である、とかそんな緩い感じの事を公式に発表するだけで良いんで」

 

 「……ほう?」

 

 いや、何でそんなに神妙な顔するんですかね? 別に変なこと言ってないと思うんだが。いや、俺がそう思うだけで実際は違うのかも知れない。迷惑はあまりかけたくないから無理強いはしない。ダメそうなら俺からこの話を無しにしてもいい。

 

 俺がそんなことを考えていると、先生は顎に手をやり考える仕草を見せた後に、

 

 「……しかし、何かあったとして私からできることはないぞ」

 

 と告げた。なるほど、生徒のためにしてやれることを他にも考えてくれたのか。さすが『女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男』である。魔術師で思いやりもあるとかもうかっこよすぎだろ。

 

 「その時は何とかします」

 

 発表してもらうだけでも十分だ。それに何かあっても、最悪令呪使えば何とかなる。

 

 「ふむ。では魔術師らしく、等価交換の話をしようか」

 

 ああ、そういえばそうだ。こっちが要求したんだから向こうも何か要求してくるのは当たり前だよな。魔術師同士の交渉は基本ギブアンドテイク、常識である。

 

 でも今日はちょっと時間がない。鉱石科の問題児に呼び出しを受けていて、これをすっぽかしたらひどい目に遭うのは火を見るより明らかだ。時間がない中先生と面談するのは如何なものかと俺でも思うが、空いてる時間が今しかなかったのだから許してほしい。

 

 「わかりました。しかしあまり時間がないのでとりあえずこれを」

 

 ズボンのポケットから紙片を取り出して、それを先生に渡す。

 

 「なんだこれは?」

 

 「俺の電話番号ですよ。それで連絡をください。先生ならできますよね」

 

 いつの日か先生と秋葉原の話をした事がある。その時ゲーム、特に戦略系の話で盛り上がったのを覚えている。先生は魔術師のくせして家庭用ゲーム機で遊ぶことが好きなようで、またそれと同時に機械に対してそれほど悪感情をもっていないことも分かった。

 

 そんでもって俺は礼装で連絡を取るよりも携帯で連絡を取り合う方が好きだ。主にコストパフォーマンス的な意味で。いやだってわざわざ羊皮紙にインク使って文字を書くFAXみたいな連絡の仕方よりも電話の方が安いに決まってんじゃん。あれだぜ? ホッカイロを魔術的に作ろうとすると十倍高くなるくらい魔術ってコスパ悪いんだぜ?

 

 ともあれ、それで連絡してほしい。簡単なことならすぐに請け負いますから。

 

 「わかった。それで手を打とう」

 

 「はい。それではよろしくお願いします」

 

 俺は頭を下げて、先生の部屋から出ようと扉を開けるとそこにはお人形さんみたいに綺麗な少女がいた。一瞬だけ目が合ったが、凝視するのもおかしな話で俺はさっさと退出する。たぶん先生の妹のライネスさんだろう。いつも先生の近くにいる記憶がある。

 

 さて、この後は遠坂のご令嬢に会って、更にその後は査問会の招集に応じないと。気が滅入るなぁ。

 

 




【ちょっとした登場紹介】

・菁崎大輔
この拙作の主人公。勘違いされやすい体質でメチャクソ運がいい。日本出身の魔術師で四代目。魔術師としての能力は魔力量が多少大きいこと以外は平均程度。ただ前世からの性質なのかモノづくりが好きで便利で安価な礼装を作ることが多い。あと桜セイバーならぬ桜アサシンのマスター。

・沖田総司
トルコの聖杯戦争で召喚されたアサシンのサーヴァント。アサシンとして召喚されたせいかセイバーの時に比べておとなしい。でも基本的には同じ。勘違い被害者の一人。

・ロード・エルメロイⅡ世
言わずと知れた型月作品における便利な人その1。本名はウェイバー・ベルベット。とにかくすごい出世頭。勘違い被害者の一人。

・ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ
型月作品を結構知ってる人じゃないと知らないキャラクター。ケイネスの姪とだけ覚えておけばいいと思う。すっごい可愛いけどすっごい腹黒い。でもなんだかんだで良識はある、と思う、たぶん。

・蒼崎橙子
型月作品における便利な人その2。人形師で自分のスペアボディ作ったり絶倫眼鏡の眼鏡を作ったりしてるすごい人。本人よりも作ってるものが強力なものばかりかと思ったら、本人も普通に切れ者なので敵に回したら普通に死ねる。だから■■■■■とは言ってはいけない。トルコの聖杯戦争を気分で観戦してたら主人公と顔を合わせることになり、いろいろあって主人公を気に入る。勘違い被害者の一人。



こんな感じです。感想くれるとうれしいな(チラチラ

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