結果に納得できない領主は閻魔大王に直訴。
領主の生前の行いを見てから再判決をするのだが……?
*これは作者が「小説家になろう」で投稿していた作品を加筆修正したものです。
「あなたは地獄行き決定です」
「な、なぜだ!?」
現在、『ああああ領』の領主であるわしは非業の死を遂げ、『大王』と書かれた
周りは溶岩に囲まれた裁判所のような場所だ。真ん中の一番大きな机で小娘が変な形をした棒を振り下ろしている。
わしに下された判決は地獄行き。
とんでもない。わしが一体何をしたというのだ。
「
「むむむ、認めんぞ小娘!! さっきから何様だ貴様は! わしは領主様だぞ!!」
「私は大王様です。王は領主より立場は上。あなたたち、彼を地獄へ連れて行きなさい」
閻魔大王と名乗る小娘がわしを連行するよう、角が生えた裸悪魔に命じる。鬼というらしいが。
いや、今はそんなことはどうっでもいい。ていうか机の上でゲームを始めるな小娘。
「ふざけるなチンチクリン!! 今すぐわしを天国に連れていけ!」
力づくで鬼どもを押しのけ、小娘の赤髪のアホ毛を掴む。こいつめ、上下に揺らしてやる。
「痛い! 無礼にも程がありますよ、あなた! 閻魔様知らないんですか!? 地獄で一番偉いんですよ!?」
「知らん! わしの国にお前の存在を知っているものなどおらんわ!!」
「……? マジですか。ちょっと確認したいことができました」
「おいしょっと」と言って閻魔はわしの手からすり抜ける。近くにあった受話器を取り出し、どこかへ電話をかける。
「あ、もしもし異世界担当の部署ですか? 私、日本担当の閻魔です。間違ってこっちの部署の方に来たかもしれない人がいるんですけど……はい……はい……わかりました。ではそういうことで」
こいつ、仕事で大王様やっとたのか!? 仕事中にゲームやるなよ!!
「どうやら手違いみたいですね。……異世界の住人の処罰を私一人の判断で決めるのはちょっと」
「ふっ、ならばわしを転生か天国に連れ行くかしてくれ」
勝った。ミスって地獄行きにした責任は取りたくはあるまい。
「なので、あなたの人生VTRを見てからここにいる方々全員で判決を出します」
鬼たちは閻魔の提案に頷く。
そんなバカな。
閻魔はポケットからリモコンを取り出し、ポチポチとボタンを押す。
そして出てきたスクリーンにわしの人生が映し出された。
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「おぎゃあ、おぎゃあ」
赤ん坊のわしが泣いて--
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--ブチッ
「……ここまで戻さなくていいんですよ。
「だってぇ、こんな汚いおっさんの半生見るより、赤ん坊の彼を見る方が有意義じゃなぁい」
鬼子さんと呼ばれたオカマチックな鬼が閻魔に抗議する。
貴様、わしをおもいっきり馬鹿にしたな。
わしは鬼子さんをにらんでやった。そしたら情熱的な視線が飛んできた。
……こっち見るな。わしにそんな趣味はない。
「……早く新しいテープに替えてください」
閻魔はあきれながら、鬼に最新っぽいテープに差し替えさせた。
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「見ろ、人がゴミのようだ」
今日も朝の処刑は気持ちがいい。わしに逆らうものが次々と粛清されてゆく。
いい気味だ。
「……悪趣味にもほどがあります」
「ふん、今日の小言はなんだ? 秘書よ」
黒髪のショートヘアに眼鏡の女。こいつがわしの秘書だ。
美人で優秀なのだが……わしに対する態度が気に入らん。領主ならこうすべきと小言ばかり。
優秀でなければすぐにでも適当な罪をかぶせ、処刑してやるものを。
「領主様、あまりに酷くありませんか? 領民から苦情の嵐ですよ。中には『くたばれ領主』なんて露骨なコメントが返っているのですが」
「無視だ。奴らにはこの厳重な警備を突破できる者も、わしに暗殺者を送るだけの金もない」
わしの城は塀に囲まれ、城内には千もの百戦錬磨の傭兵どもがおる。ドラゴンでも襲ってこない限り、わしを殺すことはできん。わし自身も戦争を経験した武闘家。トロール程度なら素手でも殺せるわ。暗殺者など言うまでもない。
「……領主様、私と一つゲームでもしませんか?」
「ゲームだとぉ? 貴様が勝ってもわしの命はやらんぞ? それに勝つのはわしだ」
「言いましたね……? 受ける気満々で安心しました。私が勝ったら一つ願いを叶えてもらいます」
ふん、チェスでも何でも来い。今までわしは勝負に負けたことはないぞ?
「受けてやる。だが、貴様が負けた場合は……わしのやることに口を出すのをやめてもらおう」
「……わかりました。内容を説明します」
ルールは単純、この一週間でわしの処刑
なんてわしに有利すぎるゲームだ。怪しむべきルールだが案ずることはない。この秘書は勝負事でわしに勝ったことが一度もない。弱いのだから。
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勝負を開始した朝、わしは散歩に出かけた。
すると愚かな領民のガキがわしの方を見てきた。
「あわわ……」
ほう、わしを見ただけで畏怖するとは。なかなか見ていて気持ちがいい。
「小僧、何を怯えておる」
「りょ、領主様ごめんなさい……ボクみたいな庶民が目を合わせてしまって」
……いくらわしでもそこまで鬼ではないぞ。にらみつけてきた愚民を朝に処刑したばかりだが。
反応が面白いので少しからかってやることにした。
「ほう、いい心構えだ……どれ貴様への税は……」
「金貨5枚です……でもお父さんがいなくて……」
とても払えない、と言いたげだな小僧。
「貴様にはいいものをやろう」
わしはポケットから金の時計を取り出し、くれてやった。
「これは……!? 金!? 本物!?」
「プラチナのものがあるからいらん。これで払えるな」
まぁ来月はこれを口実に、今までの三倍は税を払ってもらうがな。
「あぁ……ありがとうございます! 領主様!! 大事に使います!!」
「うむ」
せいぜい束の間の幸福を楽しめ小僧。
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次の日の朝、誰かがわしを訪ねてきた。
「なんだ? 税率の引き下げの件なら聞かんぞ」
やってきたのは一人の老婆だった。
「昨日は孫がお世話になりました」
「……そうか。あのガキか」
わしのお古をくれてやった小僧か。こいつはその祖母というわけか。
「お礼にこれを。昨日採れた野菜で、すごくおいしいんですよ」
「ほう……いい心がけだ。いただこう」
なーんて、すぐにわしが食べると思っているのか? あっさり毒殺されてたまるか。
雇った魔術師達に野菜をチェックさせ、念のため何人かに毒見をさせる。
……特に何もないようだな。
その日の夕食に蒸し野菜にして食したが、かなり美味かった。あの婆さんを野菜ババァと心の中で呼ぶとしよう。
……気まぐれにガキにやさしくしてやるのも一興か……
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それから五日後、わしの領主としての評価は上がった。
外からわしをたたえる歓声が聞こえる。
少し愚民に優しくしてやったらこれだ。これで前より
--さて、またあの家族から野菜を受け取るとしよう。
「失礼するぜ旦那」
「傭兵A、ここで何をしている? 貴様の持ち場はどうした?」
「それより反逆者ですぜ。お楽しみのなぁ。げへへへ」
相変わらずの下品な笑いだ。反逆者をとらえたものにはボーナスをやるといったが……
「どんな罪状だ?」
「それが……間違って旦那の石像に足をぶつけた老婆がいるんでさぁ」
高い金を払って作ったわしの像を傷つけただと……!
--ほう、それは許せんな。処刑だ。
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「旦那、ボーナスはキチンともらえるんでしょうね?」
「もちろんだ。処刑が終わった後でキッチリ払ってやる」
「さて、罪人の顔を
「よいしょ」と罪人の顔を見るため、城壁から身を乗り出す。
ぶっちゃけ、罪人の処刑の様子よりも「昼食を何にしようか」を考えていた。
--蒸し野菜にしようかな。
そして、わしは罪人の顔を見る。
「やめて!! おばぁちゃんを殺さないで!」
罪人は野菜ババァだった。ガキを助けた日以降、毎日あの美味い野菜を持ってくるあの老婆だ。
--しまった!! 今このババァを殺してはマズイ!! わしの野菜は誰が育てるのだ!?
「ストーップ!! ストーップゥ!! 処刑をやめろ!!!」
とりあえずあの老婆の家族やあの美味い野菜の製法について調べよう。処刑はその後でもいい。
「言いましたね」
秘書がわしの目の前に歩いてくる。何を笑っている?
「言いましたね。『処刑をやめろ』って」
「ん!? あっ!!」
しまったぁぁぁあああああああっぁ!! 勝負の事すっかり忘れておったぁあああああ!!
「いや、これは……」
「言いましたね」
「グッ……」
「私の勝ちです」
ガッツポーズをし、秘書は勝利を宣言した。
「では景品をもらいます」
「グッ……しかしわしの命はやらんぞ?」
当然だ。
人の命をかけるゲームなど、わしが乗っかるわけがない。前もって秘書には言っておいたはずだ。
「はい、なので私に一日だけ領主をやらせてください」
「ほう……だが、わしに命令を出し自害させる手段はなしだぞ……?」
「当然です。そんな命令を出すはずがないじゃないですか」
……信用できんな。念のため傭兵どもには金を渡し、何かあったら秘書を殺すように命じた。
いくら優秀でも毒蛇は飼いたくないからな。
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秘書が一日秘書をやった日はあっという間に過ぎ去った。
驚くぐらい何もなかった。領民は泣くぐらい喜んでおったがな。
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再びわしが領主に戻る日、クーデターが発生した。
なんと秘書はわしの権力と財力を丸ごと利用し、人民どもの反乱の準備を万全にさせたのだ。
「旦那、すまねぇ。これも仕事なんでさぁ、グヒヒ」
傭兵Aをはじめ、城内の傭兵は全員敵に回った。わしの倍以上の金を出して寝返らせたようだ。
さらにあのガキと老婆も秘書の回し者だったらしい。ガキの方にわしの機嫌を取らせ、老婆の野菜を餌にする。揃ってグルか。見事につられてしまった。
「父さんの仇だ!!」
ガキと会った前の日の朝に処刑したのはこいつの父親だったらしい。子供の復讐は恐ろしい。
そして、秘書は新たな領主となり、わしは火あぶりにされてしまった。
秘書が燃えるわしをじっと見つめている。ゴミを見るような冷たい目で。
わしが最後に秘書から聞いた言葉は確か--
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--ぶつん
「最後まで見なくてもいいですね」
「……閻魔様」
「はい」
「ま、まて。ガキを助けたのは善意で……!!」
「心の声も全部VTRで流れてましたよ? なんならもう一回聞きます?」
閻魔がスッとテープレコーダーを取り出す。
「満場一致であなたは地獄行きです」
鬼は閻魔の言葉に黙ってうなずく。異議なしの意か……!!
閻魔が指を鳴らすと、周りにいる鬼よりも巨大で強そうな鬼が出てきた。
この強そうな鬼は周りの鬼よりも知性がないらしい。
「おで、おなか、へった。肉、喰う。お前、にく」と片言に喋りながらわしの方に近づいてくる。
このまま食われて死ぬのはまっぴらごめんだ。最後の救いを求めるべくわしは閻魔の方を向くと、
閻魔の少女は無言で片手の親指を下に向ける。
ーー「Go to hell(地獄に落ちろ)」のサインだ。
「う、うわああああああああああぁああぁああっ!! 嫌だ! 放してくれ! ああああああああ!」
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「はぁ……あそこまで救いようないクズは久しぶりに見ました……」
閻魔は再び領主のテープを再生する。
あの秘書の最後に言った言葉の確認をするためだ。
ぶぅん、と音がなり映像が動き出す。
『--------------』
燃えていく領主の遺体を見た秘書の言葉だ。
「……そうですか。やはり、この人とは気が合うかもしれませんね」
閻魔は自分の赤い髪をいじりこう言った。秘書と閻魔があの領主に対して思ったことが一致したのだ。その言葉はというと、
『「領主様がゴミのようだ」』
それが秘書と閻魔のクズ領主への感想だった。
勢いで書いていた短編第2弾。
*これは作者が「小説家になろう」で投稿していた作品を加筆修正したものです。
よかったら感想をくれると非常にうれしいです。嬉しすぎてベッドから跳ね落ちます(作者が)。