数日後、俺はある男に付きまとわれていた
「なぁ潤!野球やろうぜ!」
「だからやらねぇって!」
声をかけて来たのは 沢村栄純 この前ピッチングをしていた少年だ。どうやら、ご近所さん情報で俺が野球をやっていたことを知ったらしい。それから毎日、このように声をかけてくる
「なんでだよ!野球やってたんだろー」
「だから、俺は野球やめたの!やる気はねーの」
「もう、栄純やめなって」
「若菜…だってよう」
そう言って沢村を止めたのは蒼月 若菜さん。この前道を教えてくれた子だ。どうやら双葉さんの娘さんだそうだ。
最近、俺に突っかかってくる沢村を止めてくれている。まだ転校して来て数日だけど、なんとなく関係性が理解できるほどこのクラスはわかりやすかった。俺もすぐクラスに馴染むことができ、楽しい生活が送れるはずだった。この男に付きまとわらなければ…
「う〜、絶対野球部に入ってもらうからな 潤!あ、そうだ!」
そう言って沢村は教室を出て行った。忙しい奴だなぁ
たく、俺はもう野球はやらねぇって言ってんのに…
俺は母さんを困らせないように勉強して、学費免除の高校に行くんだ。だからもう野球は・・・
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「さぁ潤!勝負だ!俺が勝ったら野球部に入ってもらうぞ!」
と沢村がマウンドで吠えている。
どうしてこうなった…
どうやら沢村が体育の先生に掛け合って、種目を野球にしたそうだ。このクラスは男女合わせて18人なので、ちょうど試合ができるようになったらしい。しかも、俺のこと関係なしに勝負に持ち込ませようとしてくるし…
「はぁ、やだって言ってんだろ…」
そう言って俺は打席に立つ。後ろを見てみると先生が本格的な格好で審判をしていた。先生たのしそうだな…
よく見てみるとキャッチャーは蒼月さんがやっていた。
「へぇ、蒼月さんキャッチャーできるの?」
「だって、栄純がやれって言うし…」
ぶつくさ文句言いながら蒼月さんは構える。ていうか、体育の授業でキャッチャー防具するってなんでだよ…
マウンドをみると沢村が「ガハハハハ」と笑っていた。本当にあいつは俺を打ち取って野球部に入部させる気のようだ。
はぁ…とため息を吐きながら俺も構える。
体育といえど、打席に立つのは久しぶりな感じがする。野球をやってた頃は毎日のように立っていたからな…
少し懐かしい気持ちになりながらマウンドの沢村を見る
「いくぞ潤!」
沢村が振りかぶってボールを全力で投げる。
1球目は見送る。球のスピードは110km前後。中学2年にしては遅くはないかな…というぐらいのスピードだろうか。蒼月さんもポロっとこぼしているがミットには当てれている。しかし、何か違和感を感じたため、もう少し球筋を見ることをした
「ボールフォア」
「がーー!紙一重か〜」
「どこがだ!全部ボールじゃねえーか!」
結局、沢村のボールは一球も入らず俺はフォアボールで塁に出た。しかしあいつの球には驚いた。天然のナチュラルムービング。フォームも安定してなくて、おそらく球の握りもバラバラだろう。なのに球速は一定。すごい原石だと思った。サウスポーのナチュラルムービング。メジャーが欲しがる素材だろう。まぁ成長すればだが…
そんなことで試合は進み、10対2で勝ち越している。いや、なんでこんな点差がついてるかって?そりゃ、沢村は野球部以外には本気で投げることを禁止され、バットに当てられ守備のエラーが続き気づいたら大量失点。しかも俺には全部四球…勝負にすらなってない。
しかし、ここまでエラーが続いてるのに、体育の遊びとはいえ文句が一言も言わないのには驚いた。普通は少しぐらい文句が出るもんだが…
「この回でラストなー」
先生の一言で、時計をみると授業が終わる15分前だった。
意外と楽しくて、時間を忘れていた。
あ、沢村との試合がおもしろかったじゃないぞ〜みんなと話しながらワイワイやってるのが楽しかった。
そんな感じで最後のバッターになった。ていうか俺だった。
なんか沢村は「最後の勝負だ 潤!」とか言って1人で盛り上がってるし…
俺が打席に立ち構える。今のところ1球もストライクが入ってないのでどうせ今回もフォアボールだろうと思って振る気もなかった。しかし…
マウンドの沢村は違った。ここ1番の集中力と言えるほどの気迫を感じる。それを見て俺は 笑った。
全力で俺をねじ伏せに来ようとしてくるピッチャー。久しぶりの感覚。沢村の挑戦に乗る気は無かったが、一打席ぐらいいいだろうと自分を納得させ構える。
そして沢村が投げた
1球目…今までとは違い低めに決まりストライク。
2球目…外に外れボール
3球目…三塁線ファール
4球目…高めに外れボール
カウントは2ー2。3球目は軟式と硬式の違いで打ち損じだがもう感覚はだいたいわかった。沢村も俺が本気で来てくれてるのがわかったのか笑顔になる。周りのクラスメイトもこの勝負に見惚れていた。
そして5球目。この1球で決まる。対決していた2人はなんとなくだがそう感じていた。
○○○○○○○○○
(やべ〜、楽しい!)
母ちゃんから、すげ〜野球がうまいやつが転校してくると聞いて、楽しみにしていたのに、そいつは野球をやらないと言った。
でも俺は一緒にやりたくて、何度も何度も野球部に誘った。若菜に怒られる時もあったけど、諦めなければ潤は絶対に野球をやる。そう思っていた。先生にお願いして、体育の授業を野球にしてもらい、潤と勝負しようとした。全然ストライクが入らなくて勝負にはならなかったけどな…
でも今は全力で勝負して来てくれている。それが栄純には嬉しかった。マウンドからわかる雰囲気。どこを投げても撃たれそうな感じがする。授業なのにいつもとは違う雰囲気。これが野球!
(投げるとこがわかんねぇなら、全力で向かうだけだ!)
そして振りかぶる。今までとは違う感じ。体が軽い!
流れるような動作で足から腕へ、力を移動させる。
そして投じた1球。リリースも完璧。
栄純は自分でも今までで投げた最高の球だと確信した。
この球なら勝てる!そう思った瞬間…
【カキ〜ン】
ボールがレフトのネットに突き刺さっていた
なんとなく、栄純が中学時代に投げ、れいちゃんを惚れさせたあの一球がストライクゾーンにきて、それを潤が打ち砕いたと思っといてください