ドSの銀髪美少女が姉になった 作:睡眠欲求者
先生の話していた通り、この時間は体育館で他学年との顔合わせだ。この学校は生徒の数が固定されており、1クラス40人の一学年4クラス。全校生徒は総勢480人となっているらしい。数人の退学者はいるだろうが、教職員も合わさったこの体育館にはおよそ500人がもの人数が集まっていた。
Aクラスは一見クラスでまとまって座っているようで、葛城派と坂柳派が綺麗に分かれている。だが、数の差は圧倒的だった。現時点で坂柳派に属す生徒がクラスの大半を占め、葛城派には数人の男女がいるだけだ。
座って待機していると、上級生とみられる生徒数名が前に出てきた。
「俺は3年Aクラスの藤巻だ。今回、赤組の総指揮を執ることとなった。まず始めに、1年生に1つアドバイスをしておく。一部の連中は余計な世話だと思っているかもしれないが、この体育祭は非常に重要なことだということだ肝に銘じておけ。この経験は必ず次につながる。これからの試験は一見遊びのように思えるものもあるかもしれないが、それら全てが、例外なくこの学校での生き残りをかけた戦いとなる」
随分とあいまいであやふやなアドバイスだな?
「全学年が関わっての種目は1200メートルのリレーだけだ。リレーを除き、競技は学年別のものばかりだ。残りの時間は学年に別れた話し合いを好きにやってくれ」
そう言って、藤巻先輩はAクラスの集団へと引っ込んでいった。指示通り、学年ごとに分かれた集団が形成される。
「奇妙な形で協力することになったが、仲間同士、滞りなく協力関係を築いていきたいと思っている。よろしく頼む」
「こちらこそだよ葛城くん。一緒に頑張ろう」
積極的協力関係、というわけではないだろう。同じ組になった以上は足の引っ張り合いだけはしないようにしようという感じだろう。
しかし、こういった場所にいると疲れる。耳に入ってくる雑音がうるさいし、向けられる視線もうざい。
「話し合いをするつもりはないってことかな?」
雑音の中から一瞬、一之瀬のそんな声が響いた。多くの人間がその様子を見てざわついている。理由は簡単。Cクラスが体育館から出ようとしていたからだ。龍園君を先頭に出入り口付近に固まっているCクラス。
「俺はお前らのことを考えてやってんだぜ?俺が協力しようと言ったところで、お前らが素直に受け取るとは思えない。なら、初めからやらねえ方がいいってことさ」
「なるほどー。時間の無駄を省くためなんだねー?」
「そういうことだ。感謝するんだな」
「協力なしで、今回の試験に勝てる自信があるの?」
「クク、さあな」
不敵に笑い、そのまま体育館を後にしていった。
「早くも動き出した、ということでしょうか」
有栖のそんなつぶやきに吸い寄せられるように視線がこちらに集まる。
確かに有栖は可愛い。それは認める。端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、吸い込まれてしまいそうな蒼色の大きな瞳。まさに絶世の美少女であった。落ち着いた雰囲気なのに、どこか強い意志を感じさせる目。だが、何より注目を集めたのは多くの生徒があぐらをかいたり、体育座りで過ごしている中、その少女は杖を持ち、椅子に腰掛けてることだろう。そして、その傍に立っている俺もひたすら目立つ。殺してくれ。
「残念ですが、この体育祭、私は戦力としてお役に立てません。全ての競技で不戦敗となります。ご迷惑をお掛けすることになるでしょう。その点についてまずは謝らせてください」
「謝ることはないと思うよ。そのことについて追求することはないから」
平田の言葉通り、そんなことをする人間は1人もいない。どうしようもないことを責めても仕方がない。それぐらいはわかるらしい。
多くの人は、どこか前評判と違う印象を坂柳に受けたんじゃないだろうか。攻撃的な性格とは思えない。口調も穏やかで、礼儀正しい。だが、そんな外面に騙されないでくれ。この女はもっと恐ろしい何かだ。嗜虐心と才能と愉悦と可愛さと攻撃性でできている。
「痛いです、姉さん」
「ルツが失礼なことを考えたような気がしまして」
杖で足をぐりぐりしないでください。もう慣れたけど。
「申し上げた通り、私は今回参加は叶いませんが、Dクラスの皆さんのことも影ながら応援させていただきますね」
「うん。よろしく頼むよ!」
イケメンスマイルで場を和ませる平田。うーん、こういったタイプのイケメンは周りには少ないな。
「あ、忘れていました。私の横に立っているのは私の義弟です。かなり運動ができますので皆さんに貢献できるかと思います」
「馬鹿野郎!?」
「何か言いましたか?」
ここで喧嘩をするわけにもいかずスルーする。
「いえ、なんでも」
「じゃあ、よろしくね!坂柳君」
「あ、はい。よろしくお願います」
「ごめんね~待った?」
葛城にメールを打ち終わり、顔を上げるとちょうど一之瀬が向こうの方から歩いてきていた。艶のあるピンク色の髪。ロングヘアによって映えるスタイルの良さ。有栖にも匹敵する美少女。マジで癒しだな。性格もいいし。
「ごめんね。一之瀬さん。こんなところに呼び出しちゃって」
校舎裏の端の方で俺は一之瀬と密会していた。今日も笑顔が素敵だ。
「これAクラスの参加表。そろそろ葛城君には退場してもらわないといけないからね」
「本当にいいの?」
「問題ないよ。こっちにもそっちにも利益のある取引だ」
不安そうな顔をする一之瀬にフォローを入れる。それにしても一之瀬はよく応じてくれたものだ。感謝しなければならない。やっぱり、一之瀬が俺オアシスなんだよな~。神室さんは相変わらず冷たいし。
「じゃあ、体育祭で会おうね!」
「ああ」
夕暮れ時、怪しげな密会は数分で終わりを告げた。校舎の陰に人影がいたことを気づかないふりでやり過ごし、そのまま校舎裏を後にした。
「後は神室さんと葛城君にメールだな」
5時の鐘の音を聞きながら俺は部屋へと帰っていった。
本格的な練習が始まり、各々練習に励んでいる。
「ほんとに速いんだな!」
「11秒38ってやばいな!陸上部より早いじゃん!」
100Mを走り終えクラスメイト達に囲まれる。目を閉じて外していたリミッターをゆっくりと元に戻し、体の調子を確かめる。少しずつ慣らしていけば使い物になるだろうと確信し、適当にクラスメイトの会話を捌いていく。
休憩時間まで時間はあるものの、練習する競技は終わったので端っこで休むことにした。すると、杖を突きながら有栖がやってきた。
「お疲れですか?」
「別に」
いつもの有栖らしくない。そんな違和感は的中した。
「面白がって皆さんにはああ言いましたが、別に無理をする必要はありませんよ」
有栖が突然優しい言葉をかけてきた。え?怖いんだけど、有栖が優しい言葉をかけてくるなんて。
「忠告はありがたく受け取っておく。もちろん無理をする気はない。だけど、そうだな。突出した天才を打ち砕き地に落とすのが俺の役目だから、敵の才能次第だな」
そうだ。別に有栖に対するヘイトをこっちで受けてなおかつ相手の動きを封じ込めるという作戦を実行するためだけなら、高い順位を取り続ける必要はない。
なら、なぜ今回は俺はこんなやる気を出しているのか?もちろん、有栖に物理的な脅威が及ぶのは防ぐ必要性があると思う。ただ、それは目的の一つに過ぎない。俺の目的は天才たちを這いつくばらせること。凡才が後天的な影響のみで天才を打ち砕けるようにするのがあそこの理念だ。そのために作られた。そのために、俺は望んであそこに入った。犠牲になった人間たちの死体の上に俺は立っているから。俺は証明しなければならない。
「………」
「何か言いたげだな」
「いえ、何でもありません」
なんとなく釈然としない感情だけが燻ぶっていた。