ドSの銀髪美少女が姉になった 作:睡眠欲求者
次は綱引きだった。
「綱引きは直接の接触がないから、向こうも単純な力で勝負するしかない。さっきみたいなことにはならないはずだよ」
「まあな……だからこそ負けらんねえ」
彼らの言う通り、互いの距離が離れているため不正をすればその事実を隠すことはできない。
「打ち合わせ通りに一気に叩く。いいな?」
「うん、わかってるよ」
平田と葛城が作戦の最終確認を行う。まあ作戦といっても複雑ではない。単に身長順に並ぶことだ。だが、事前に打ち合わせていなければできない作戦でもある。相手がこちらの手の内を今知っても真似はできないだろう。
「葛城くんさー、いつまでも偉そうに仕切らないでもらいたいねー」
「……どう言う意味だ橋本」
橋本が葛城に対しては馬鹿にしたような目を向けていた。有栖の指示だろうか?それとも独断だろうか?おそらく前者であり後者でもあるのだろう。葛城君を潰せという指示があり、その手段は橋本の自由ということなのだろう。
「どういうって、そのまんまだよ。あんたのせいで今Aクラスが失速してるんじゃないか?さっき勝てたのだって、流都のおかげだろ?本当にこの作戦で勝てるって言い切れるの?」
ばっちり飛び火したんだけど。しかし、これは想定していたことでもある。こういうヘイトの集め方は好都合だった。これがなければ、こちらで行動するところだった。
「いい加減しろよ!毎回、葛城さんに突っかかりやがって!」
弥彦がすかさず割って入るが、今回はそれだけではなかった。
「そうだそうだ!じゃあ、お前らが作戦立ててみろよ!」
「ちょっと活躍したぐらいで調子乗ってんじゃねえぞ!」
「どうせ狡いて使ったんだろ!!!!!!」
「そうよ!調子乗ってんじゃないわよ!」
「偉そうにしちゃってさ!」
「姉弟揃って性格歪んでるんじゃないの!?」
橋本にだけ向けた罵倒ではなくなってきたし、普段は介入してこないメンバーが介入してきた。
「同じAクラスとは思えない品位のなさだな」
「何言ってもいいと思ってんじゃないかしら」
「実際こっちは結果出してんだろうが」
ヒートアップした空気を冷やすべく慌てて葛城君が口をはさむ。
「Dクラスも動揺している。冷静に進めるべきだ」
「答えになってないなー」
なおも煽る橋本。
「俺の決定を疑う気持ちは理解するが、これ以上場を乱すようなことがあれば坂柳の責任が生まれるだろう。それでも構わないか?」
「何も見えてないねー葛城くんは」
橋本はクスリと笑う。真面目に受け答えしている様子はない。ただ、いったんは引き揚げていった。というより、綱引きの時間だ。
綺麗に身長順になっている。そのため、俺はかなり前の方だ。他方で、1年白組は連携を取っていないためにクラス単位で前方後方の縄の担当が綺麗に分かれていた。縄の前方を握るBクラスは俺たちと真逆で、身長が高い順に前から並んでいる。縄を引く位置を高くすることが狙いか。Cクラスは特に何も決めていないのかバラバラだった。
「こっちが有利だぜ!行くぞお前ら!」
試合開始の合図とともに、思いっきり縄を引く。
「オーエス!オーエス!」
掛け声を上げることはアスリートもよくやっていることだ。俺のやっている脳のリミッターの制御に近い。掛け声を上げることでわずかに筋力が増す。
「オラオラオラ!余裕余裕!!」
初めこそ均衡が保たれていたが、連携を取っているこちら側が優勢。20秒ほどで決着がつき、赤組の勝利となった。
「しゃー!見たかオラ!」
縄の一番後ろを担当する須藤が吠える。
正直Bクラスが憐れだ。一之瀬がいたら同情していたところだ。
「なー、やっぱ協力した方がいいぜ?相手強いしさー」
流石に勝てないと思ったのか柴田がそう言うが、龍園は全く相手にしていない様子だ。
「よしお前ら配置変えるぞ。チビから順に並べ」
指示というより命令という感じだ。龍園の指示通りに小さい順から並んでいく。完成した白組の並び方は、ちょうど弓なりになっていた。
「へっ、楽勝だな。あんなんで勝てるわけないぜ」
「いやそうとも言い切れん。全員気を抜くな」
「でもさっきも余裕だったじゃん?俺らみたいに小さい順に並んでるわけでもないしさ」
「そうじゃな……いや、今は時間がない。とにかく全力で引け」
インターバルが終わったため、葛城は説明を諦めざるを得なかったようだ。
「オーエス!オーエス!」
試合開始とともに掛け声が響く。だが、異変を感じたのはここからだった。明らかにさっきと重さが違う。
「おら粘れよお前ら。簡単に負けたら死刑だぜ」
龍園の呑気な号令が飛ぶ。さらに重くなる。綱引きのようなものでは全力を出さないことにしている。個人の力ではどうしようもないからだ。
「ぐああ、痛い痛い!!」
値を上げだす生徒が出始めて、1回目よりもさらに長引いた勝負はわずかな差で白組が勝利を収めた。
「なんでさっきと違うんだよ!?誰か手抜いたんじゃねえだろうな!?」
「落ち着け須藤。相手が正しい陣形の一つを取ったこと、そしてこちらの油断が主な敗因だ。だがこれで分かっただろう。相手は連携がなくても戦う力がある。次は油断せず、気を引き締めて縄を引くことだ。それから縄を引くときは斜め上に向かって引くようにするといい」
流石葛城君。荒ぶる須藤を止め、且つ的確なアドバイスをする。今打てる最善の手だ。涙が出るよ。まったく。
「よーしお前らにしちゃよくやった。次も同じようにやりゃいい。勝てると思ってるカスどもに思い知らせてやれ」
龍園がクラスを支配しているからこその鼓舞の仕方だ。そして、最終戦が始まった。
「オーエス!オーエス!」
掛け声とともに綱に力を込める。さっきと同様、なかなか決着はつかない。だが、試合開始時の足の位置より後ろにいるところを見ると、わずかではあるがこちらに引かれているようだ。
「ぜってえ勝つぞ!もう一息だ!引けええええ!!」
須藤の叫び声に合わせ、気持ちさらに力を入れて引く。チラリと龍園の顔を見ると邪悪な笑みを浮かべていた。反射的にこれから起こることを考え体の重心を戻す。
「「「うわああ!!?」」」
その瞬間、やはりというべきか綱の重みが一気に解消され、ほとんどの生徒が体重を後ろに行ったまま倒れてしまった。前を見て状況が分かる。白組、それもCクラスが、急に縄から手を離したことが原因だろう。Bクラスとしてもこれは予想外だったらしく、数人倒れている生徒がいた。
先に予見して正解であり失敗でもあった。なぜなら赤組で立っているのは俺一人だからである。
龍園と視線が交錯する。満面の笑みで返してあげる。
「チッ!」
舌打ちで打ち返された。
「ふざけてんのか!?」
突然、須藤が怒鳴り声を上げる。耳が痛い。良いじゃん、勝ったんだから。相手がくれたにしろ勝利は勝利だぞ?まあ、むかつくけど。
「勝てないと思ったから手を休めたんだよ。よかったなお前ら、ゴミみたいな勝ちを拾えて。這い蹲る様は面白かったぜ」
「テメエ!」
棒倒しの件もあり、頭に血が上った須藤が走り出そうとする。しかし、葛城君は腕を掴んでそれを止めた。
「やめろ須藤。こうやって怒らせるのもあいつの作戦の一部だ。体力を消耗させる、それから暴力行為で反則勝ちを狙っているかもしれない」
「けどよ!」
「落ち着け。龍園のやったことは褒められたことじゃないが、ルール違反ではない」
「だったら、あいつも許せってか!?あいつ立ってるってことは手を抜いてたってことだろ?ふざけんなよ!」
やはり俺の方に非難が飛んできた。
「Cクラスが妙な動きをしたから重心を変えたんだよ。変えたタイミングで向こうが縄を離したんだ」
あえて謝罪はしない。そっちの方が都合がいいからだ。
「ふざけんな!結局手を抜いてたってことじゃねえか!!!!」
葛城君が何とか抑えようと必死に立ち回る。彼には後でお礼をしよう。
「くそ、勝ったのになんかスッキリしねえ」
恨み言を漏らす須藤。その様子を見ながら、全員が自陣へと歩いていく。
障害物競争は余裕だった。用意されている障害物は、平均台、網潜り、頭陀袋。難易度は高くないが、どれもスピードダウンを余儀なくされるものだ。だが、障害物のある場所でもペースを落とさずに動く方法や足場の悪い状況でもバランスを保つ方法は知っていた。1位で平均台を渡りきり、網潜りに関してもそのままの順位、頭陀袋で2位のやつが距離を詰めてきたが、最後の直線で距離を離し一位になった。
特にアクシデントもなく無事二人三脚も終えた。危うかったが1位だった。残すは200m走と騎馬戦だ。
騎馬戦は体力の消費が少ないわりに勝ちやすい。土台は鬼頭、澁谷、橋本の三名。比較的ガタイのいいメンバーのため、安定感がある。
Aクラスは1騎失いながらも、柴田や神崎擁するBクラスの大将騎のハチマキを奪った。その他2騎も倒し、もう一騎取りに行こうと動いたところで龍園が立ちふさがった。
「よう、坂柳。てめえはここで終わりだ」
「随分と好戦的じゃないか、龍園君」
好戦的な笑みを浮かべ俺の前に立ちふさがる龍園を見て思う。やはり、テンションが上がらない。こいつは優秀であっても天才側ではないからだ。才能はある。憎むべき対象だが、やはり才能だけでいえば他の天才たちには見劣りする。圧倒的に理不尽である天才たちはもっと潰しておきたいという欲望が湧いてくるものだ。
「けど、叩き潰すことに変わりはない」
龍園が素早く手をハチマキに向けてくる。俺はそれを後ろに反るようにして避けた。再度近づいてきた、今度は腕自体を受け流す。
わざと隙を作り攻撃を誘導し、腕を弾き体勢を崩す。そして、カウンターを叩き込む。これが、基本戦術だったが今回は機能しなかった。
攻撃を弾いた時点で龍園の騎馬が砂を蹴り上げて鬼頭の視界を潰したからだ。騎馬がぐらつくと責めづらいことは俺も同じ。だが、それだけなら対処できた。問題は、ぎりぎりで放ったカウンターが予期せぬ衝撃ではじかれたことだ。
いや正確には気が付いてはいたが騎馬がぐらついたせいで対処が遅れた。それは、Dクラスの騎馬の相手をしているはずのCクラスの騎馬だった。
「てめえ相手にタイマン張るわけねえだろ?」
須藤たちの騎馬はどうやら俺たちがやられた目つぶし作戦で動けないらしい。すぐに追ってくるだろうが10秒は最低でもかかる。
この位置取りで10秒間凌ぐのは骨だ。
龍園の腕が正面から伸びてくる。俺はその腕に頭突きするような形で接触した。当たったと同時に体をぶらし頬を押さえる。横から伸びてきた腕に対しては避ける様な事を直前までせずに接触時のみ位置をずらす。
「なッ!てめえ!!!!」
龍園は気が付いたようだがもう遅い。観客からは俺が二回殴られたように見えるだろう。そのまま、逆サイドに体重をかける。必然的に騎馬はよろめき崩れた。
思わず口角を上げながら囁く。
「盤外戦術も小細工も君の専売特許じゃあない」
ほぼ同時に須藤が追い付き龍園でないほうの騎馬を落とす。正直、正面から戦っても勝率は7割ほどあったが、この後のことを考えるとこっちの方が効果的のためこの作戦を取った。崩れた拍子に粘膜を傷つけ鼻血を出すことも忘れない。
騎馬戦の結果としては龍園がハチマキに何かを仕込んでいたらしく須藤は敗北した。これで午前の競技は終わった。