ドSの銀髪美少女が姉になった   作:睡眠欲求者

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姉弟喧嘩

自陣に戻った後、龍園に殴られたと思っているクラスメイトは俺に心配の声と龍園に対する怒りの声をかけてくる。鼻血はすぐに止まったがフラフラとして歩く演技をしていると昼休憩のうちに保健室に行くことを勧められる。

 

「そうだね。200mを走り終えたら保健室に行ってくるよ」

 

そういって心配されながらも200m走に参加。再度、神崎とレーンが同じになった。ふらついている演技は続けておきたいため、神崎に1位を譲る形で走った。周りが遅かったおかげで2位で通過した。

 

「大丈夫か?ふらついているようだが」

 

「ちょっとした接触事故だから大丈夫だよ」

 

神崎に心配されたので適当に受け流す。演技に騙されてくれて助かった。少し意味深な目を向けられたものの納得したのか神崎は自陣に帰っていった。

 

お昼休憩の時間になり、先ほどの宣言通り保健室に向かうことにした。

 

神室さんに目配せをして俺は保健室に向かう。その際、わざと人通りと監視カメラが少ない道を選んだ。

 

俺が龍園に殴られたと見せた理由は2つ。一つは単純にハチマキを取られるのは癪だったから。もう一つはCクラスが坂柳流都を潰したがっているということを演出させたかったからだ。実際は、この体育祭ではDクラス以外を標的にするつもりはなかったのだろう。

 

だが、そんなことは他の人間にはわからない。無人島での俺の行動と噂。有栖への嫉妬。この二つをきっかけに葛城派に所属する過激派と有栖が嫌いな中立派閥の人間の不満が高まっていく。葛城派をバカにする坂柳派閥の人間たち。綱引きでの俺の行動。クラスに貢献し葛城の活躍をかすませる俺の存在。予想外ではあったが橋本の挑発なども重なり、俺は彼らにとって目の上のたんこぶになったはずだ。だから、スケープゴースト先と弱っている姿を見せれば釣れると考えていた。

 

「おい!」

 

それは当たっていた。来ない可能性も考えてはいた。だが、その現場を押さえている彼らは必ず何かしらのアクションを起こすと考えていた。

殺気立ちながらも余裕の表情を浮かべる5人の姿。全員が葛城派閥ではないが共通して有栖に対する暴言や陰口を叩いていた連中だ。

 

「なにかな?俺は保健室に行きたいんだけどな?」

 

「安心しろよ。その怪我で保健室行くのは男としてなんだろ?もっと男前にしてやるよ!」

 

リーダー格の男子生徒が一歩前に出る。それをなだめる様に隣にいた女子生徒が止めに入る。

 

「流石に暴力はまずいって」

 

「問題ねえよ!準備は万端だ」

 

自信満々に吠えるリーダー格の男子生徒。名前は何だっけな………笹村だったかな?

 

「何のことかな?」

 

「ハッ、知ってんだぜ?お前が葛城さんが立てた計画をBクラスに売ってたこと」

 

「証拠ならあるんだ!」

 

そう言って、一番端にいた生徒が端末を起動する。音は拾いずらいが一之瀬と俺の密会が映し出されていた。

 

顔の血流を操作して青ざめた風に見せる。それに気を良くした女子生徒を除く生徒たちがにじり寄ってくる。

 

「何とか言えよ!弥彦の怪我だってお前がやったことなんだろ!?」

 

ここまで手の平で転がってくれるのはありがたい。さて、どう調理しようかな。

 

「勘違いだ。証拠もないのにガタガタ騒ぐなよ」

 

「んだと!?」

「状況わかってんのか?」

「こっちはお前が裏切った証拠を押さえてるんだぞ!いっつも余裕ぶりやがって」

 

本当に面白いぐらい転がってくれて助かる。普通はここまで激昂しないだろうが神室さんや橋本にそれとなく坂柳流都が葛城派と中立派をバカにしているという噂を流しておいてもらった。この様子だとかなり誇張されているらしい。

 

「君たちの戯言が正しいとしてどうしたいのかな?」

 

その一言でリーダーの堪忍袋の緒が切れた。右から飛んでくる拳をあえて躱さずに受ける。流石にもろに喰らいたくはないので後ろに下がりながらだが。それでもいいのが入る。

 

「グッ………」

 

一番端にいたやつは武道経験者らしい。鋭い蹴りが脇腹より少し上に直撃した。今回はまじめに受けたら悶絶しそうだったので、蹴られた瞬間に横に飛んだ。ゴロゴロと床に転がる。脇腹を押さえ、目をきつく瞑っていれば興奮状態の男子生徒は自身の蹴り感触の違和感に気が付かない。

 

「ちょろくて助かるよ」

 

「何ぼそぼそ言ってんだよ!!!!」

 

地面に転がる俺に対して追い打ちをかける様に蹴りが飛んでくる。5人のうち女子生徒を除く彼らは興奮状態で、俺に攻撃していることに征服感を覚えているようだった。

 

「大体気に入らねんだよ!あの女の弟だかなんか知らねえが、デカい顔しやがってよ!」

 

「ガッ!」

 

「散々俺らのことバカにしやがって!」

 

「グッ………」

 

「次はあの女だ!ひーひー言わせてやるよ!」

 

「ッ!」

 

口の中が少しだけ切れる。鉄の味がする。匂いも味も慣れ親しんでしまったものだ。こうやって殴られるのは久しぶりだな。散々失敗作だの生んだのが失敗だっただの言われた記憶がよみがえる。あれに比べれば、ぬるいな。

 

だけどそろそろ、物理的に痛くなってきた。これ以上は午後の競技に支障をきたす。

 

「さ、流石にやり過ぎだって!」

 

「あん?大丈夫だろ?Cクラスにやられたことになるんだからよ!」

 

案の定そういうことらしい。

 

「フッ、そううまくいくかな?俺が、証言すればCクラスとの証言と重なって通用しなくなるよ?」

 

「出来ねえよ。お前が俺たちの言うことを聞かずにしゃべったら裏切っているこの動画を流してやる!」

 

そろそろいいだろう。

 

「わかったかよ!」

 

追撃の蹴りを右腕で受け止める。そのまま勢いよく立ち上がり、足を俺の顔以上の高さまで上げバランスを崩したところに蹴りを入れる。

 

「ガッ!!!?」

 

受け身なしで地面に転がった彼は痛そうに悶えている。それを見て残りの人間が目の色を変える。自分たちが暴力を振っているくせに振られると怒るのは頭が終わっている証拠だ。

 

「ああ、わかったよ。君たちが価値のない塵だということがね」

 

「ああ?」

 

「その映像写っている一之瀬との密会。それはBクラスを嵌めるための罠だ」

 

「は?」

 

「何言ってやがる?苦しまぐれにしては—————」

 

困惑の表情と焦りの表情を浮かべる彼らの顔がたまらなく好きだ。圧倒的に優位な立場に立っていた人間が見下していた人間に状況をひっくり返され右往左往する表情は最高だ。

 

早く天才共のそういう表情も見てみたいなあ………。

 

「君たちはバカではないだろ?信じられないなら葛城君に連絡してみると良い。これが作戦であることがわかると思うよ」

 

徐々に彼らの顔が青くなっていくのを見ながら数日前のことを思い出す。一之瀬には、有栖が理不尽な暴力に晒されそうになっていて止めたいから協力してくれと素直に頼みこんで一芝居売ってもらった。彼女の善性に付け込んだようで申し訳ないが、結果は御覧の通りだ。その後、葛城君にBクラスを嵌める情報戦を仕掛けたと連絡をした。当然、葛城君は慎重な人間だから事前に言ったら止められるだろう。だから、一之瀬との密会の直前と密会の後にメールを送っておいた。やってしまったものは仕方がないがもうやめろとお叱りと疑念を抱かれたが、必要経費。

 

そして極めつけは神室さんに俺がここで暴力を振るわれている現場の録画と橋本達にここに来てもらうよう連絡をお願いしておいたこと。あと数分もすれば到着するだろう。

 

「は、ハッタリだ!」

「そ、そうだ。そんなバカなことが!」

 

「なら、早く連絡してみなよ」

 

そんな問答を続けているうちに橋本達が到着する。坂柳派のメンバーを数人と中立派の人間を数人連れてきてもらった。

 

「お前ら何してんだ!」

 

「は、橋本」

「こ、これは」

「違うんだ。俺らは嵌められて!」

 

傷は浅いとはいえボロボロの男子生徒一人とそれを囲むように点在している生徒5人。この構図は誰がどう見ても5人が悪者に見えてしまうだろう。

 

俺がふらふらになった演技をしていたのはボロボロにされても怪しまれないためだ。効果的に働いたようで誰も怪しんではいない。中立派の人間は少し状況を整理しているようだが、大丈夫だろう。

 

最後の仕上げをするとしよう。といっても、こっちは演技ではなく。割と本気できついんだが。

 

脳のリミッターの制御は身体への負担が大きい。俺の身体は、施設によって最適なものに調節されているが限界を超えたものを発揮するということは通常よりもはるかに疲労がたまる。

 

唯一の誤算は予想外にダメージの蓄積があったこと。適当に倒れたふりをして短時間で起きてギリギリ競技に参加する予定だったのだが、視界が揺れだした。

 

つまるところ、何が起こるかというと————俺の意識が暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はーい、悲劇のヒロインこと坂柳流都だよ!目を覚ましたら保健室のベッドでした。日の傾き具合から言って最低でも2時間ぐらいたっていそうだ。大誤算だ。

 

「………有栖、今何時かわかる?」

 

ベットの横で椅子に腰かけている有栖の方を見て問いかけると、平手打ちが飛んできた。

 

「ッ!?!?!?????」

 

クリティカルヒット。ケガ人に酷くないだろうか………。有栖の方を見ると形容しがたい表情をしていた。始めて見る顔だった。

 

「貴方は誰ですか?」

 

「え?」

 

「答えなさい」

 

有栖の雰囲気に気圧されて背筋が伸びる。

 

「坂柳流都だけど………?」

 

「はい、その通り。貴方は坂柳流都、私の義弟です。そして、私の家族です」

 

「………………」

 

言葉に詰まるという経験を初めてしたかもしれない。有栖の表情は怒っているようにも泣いているようにも呆れているようにも見えた。

 

「いいですか?ルツ。貴方は私のものです。私の許可もなく無茶することは許されていません」

 

酷い暴論だった。だけど、口ははさめなかった。

 

「私に勝つのでしょう?であるならこんなことにソレ(・・)を使うべきではないでしょう?」

 

有栖はスカートのポケットから大量の錠剤を取り出した。正確には錠剤の束だけど。

 

「何でそれを………」

 

「部屋に入って漁らせていただきました」

 

とんでもない。俺のプライバシーは?

 

「まったく呆れました。調節剤を使わないといけないレベルでそれを行使していただなんて貴方はどうしようもない愚か者のようですね。もっと心を圧し折っておくべきでした」

 

錠剤の握る手に力がこもっている。錠剤の入っている銀箔がぐしゃりと歪む。

 

「貴方の身体は特殊です。確かに優れた体なのでしょう。ですが不安定な体です。ソレを酷使しすぎれば限界が来る。使っていなくとも調整薬(これ)を必要とします。わかっているのでしょうか?」

 

有栖の目は数年前にマジギレされた時並みに真剣だったがこっちだって同じことだ。切れる手札を切って何が悪い?天才を打ち砕くためにこの身を削るのは本望だ。

 

「俺がコレ(・・)を否定できるわけないだろ!?だって俺は生き残ったんだ!果たさなければならない!犠牲(データ)になった子供たちのためにも!俺自身の妄執(願い)のためにも!俺が始めたことだ!研究者が殺したのだとしても、望んで協力したのは俺だ!」

 

久しぶりに大きな声を出したと思う。作っていた口調もいつの間にかはがれている。それでも止まらなかった。感情が言葉となり滝のようにあふれ出してくる。

 

「私が怒っている理由を理解できていないようですね?私はその力自体を否定しているわけではありません。自分の体の限界を知っていながら綱渡りのような行使の仕方をしたことに怒っているのです。長期間の行使を連日続ければどうなるかは想像に難くないでしょう?」

 

有栖は止まらない。たぶん、今までで一番饒舌な気がする。らしくない。いつもの冷静さは何処に行ったのだろうか?静かな怒りではなく激しい怒りを感じる。会話はどんどんヒートアップしていく。

 

「貴方が手を下さなくとも問題ありませんでした。無能な弟(不完全な天才)は大人しく引っ込んで居なさい」

 

頭に血が上る。久しぶりの本気で腹が立った。ここで黙るという選択肢は俺にはなかった。

 

「やり方がヘタクソだったのは認めてもいいが、今回のことは必要なことだった!有栖を倒すのは俺だ!他のやつのくだらない妨害で有栖が傷付けられるのは見過ごせない!だから、やった!それだけだ!心配しているのが自分だけだなって思うな!」

 

「…………話は以上です。今後一切の無茶は禁じます。それと今から戻ればリレーには間に合うでしょう」

 

話を打ち切って有栖は部屋を出ていった。保健室に静寂が戻ってくる。そういえば、星野宮先生はいないのだろうか?いたらいたで大問題だが。

 

辺りを見回すが今はいないようだ。

 

興奮はしているものの急激な脱力感に襲われ再び横になりそうになるが、ここで寝ているわけにはいかない。呼吸を整え少し頭を冷やしてから、上半身を起こす。

 

そういえば、有栖呼びをしたけど怒ってこなかったな。そんなどうでもいいことを考えながら起き上がる。

 

保健室から出てしばらくすると、様子を見に来た神室さんに出会った。

 

「なんだ。元気そうじゃない」

 

「え~もっと心配してくれてもいいんじゃない?」

 

「心配ならあんたの姉がしてたでしょ」

 

「………」

 

「耳赤かったけど何言ったの?あんた」

 

いぶかし気な目を向けられ釈然としない気持ちを抱えつつグラウンドで最後の競技の観戦をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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