ドSの銀髪美少女が姉になった   作:睡眠欲求者

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坂柳有栖の独白

その日連れてこられた男の子は銀色の髪と深紅の眼、整った容姿をした同年代の子でした。内包した独特の雰囲気から普通とは何かが決定的にズレていると直感しました。ですがそれらの印象と感想を飛び越えて義弟に最初に抱いた印象は生意気そうだ、でした。

『………私のほうが()なので『お姉ちゃん』と呼んでくれてもかまいませんよ』という挑発を思わずしてしまう程には生意気で屈服させたくなる男の子でした。

 

 

 

 

 

お父様から弟になる子だから仲良くしてくれと言われてどんな子かと聞いた時にすごく困った顔をしたのをよく覚えています。

 

「昔、連れて行った白い部屋のことを覚えているかい?」

 

「ええ、片時も忘れたことはありません」

 

「詳しくは言えないが、彼はあの施設の前身である研究所にいたんだ。綾小路先生が別プランとして進めていたんだけど、最近プロジェクトを凍結して残っていた彼の使い方を検討していたところを保護した形なんだ」

 

思い出すのはあの場所にいた綾小路君です。あの場所のことと彼のことは昨日のことのように思い出せます。忘れられるはずがありません。そして、その前身の組織で育ったというのであれば、お世辞にも素晴らしい環境で育ったとは言い難いのでしょう。

 

「彼は生まれた瞬間から施設にいたというわけではないんだがね………正直、その方がよかったのではないかと今では思ってしまうよ。彼は親に半ば売られる形であの研究所に入ったんだ」

 

それは、愛情を知らないことよりも残酷なことではないでしょうか?愛情を知らないものと知っているが与えられなかったものでは味わう痛みの強度が違う。なんて、冷たくて痛くて、寂しい人生なのでしょうか。

 

人肌に触れて得られるものは多くあるというのに。

 

「何故、彼は親に売られたのでしょうか?」

 

「………詳しいことは聞いていないけど優秀ではなかったからとだけ聞いているよ。結果、彼は才能と力に飢え研究所の人間に協力的だったらしい。狂ったように危険な実験やプログラムをこなし、最高傑作と言われるようになったんだが………あまりにも非効率で成功したのが彼だけだったことを受けてプロジェクトは凍結になったんだ。そのことについては僕はよかったと思っているよ」

 

どのような実験をしていたのかお父様は話しませんでしたが、表情を見る限り惨い実験だったのでしょう。

 

「わかりました。私が彼に人肌の暖かさというものを教えて妄執から救い出してあげましょう」

 

そういうとお父様は嬉しそうに笑った。この時の私の誓いは嘘偽りなく後悔もしていないし、今も諦めてはいません。ルツは可愛い弟ですし家族として親愛の情も持っていると断言できます。

 

ただ、唯一の誤算は私を歪ませるほど加虐心をあおる素質のある弟だったということです。

 


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