ドSの銀髪美少女が姉になった 作:睡眠欲求者
この章は、ホントに有栖が出てこないのでご了承ください
無人島
俺は今、船の上にいる。
船、と言っても、俺らがすぐに思い浮かべるレベルのものではないいうなれば豪華客船。そりゃもうやりすぎだろってくらいの。
高級レストラン、プール、シアタールーム、高級スパなんてものまで………しかもそれらが全て無料で使え、かなり快適だ、普通はテンション上がらずにはいられないだろう。
夏休みのバカンス………という建前だが、十中八九何かあるだろう。それは、有栖も言っていた。
もちろん、それでもバカンスは大変喜ばしいことだ。朝の出発時にも、みんな一様に浮かれた表情を見せていた。
しかし………少し憂鬱になる生徒がいることもご理解いただきたい。俺の今の最大の敵、それは………「酔い」。幸い出港前に服用した酔い止めが効いているのか、まだ船酔いはしてないが………あんまり油断はできない。酔ったが最後、ここは逃げ場のない船の上だ。地獄の船旅が続くだろう。顔色も悪くなる。そのため船に乗り込んでからほとんどの時間、俺は船内の部屋を出ていない。
今も何もすることなく、部屋のベッドでゴロゴロしてぼーっとしている。これなら、有栖とチェスをしているほうが楽しい。
本なんて読もうものなら、一瞬でリバースの未来が見えるので様子見だ。英単語帳(有栖作)も一応持ってきはしたが………………………まあ、使うことはないんじゃないだろうか。多分。
酔わないだけならプールにでも入っていればいい。あそこはある程度揺れるのが当たり前だし、船の揺れを感じないので酔うリスクは少ない。ただ、今プールでは沢山の生徒が賑やかに遊んでいるはずで、友達の少ない状況で行く気にはならない。
思考を巡らせども、暇つぶしの方法は見つからない。考えるのを諦めて再びベッドに寝ころがろうとしていたその時、ピンポンパンポーンというありがちな機械音が部屋内に響いた。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、デッキにお集まりください。まもなく島が見えてまいります。数分間の間、非常に意義ある景色をご覧にいただくことができるでしょう』
そんな、違和感しかない内容のアナウンスが耳に入り、聞こえてきた方に目を向けた。酔うのを恐れて、これまでこの無駄に豪華すぎる客船内をまともに歩いたことがなかった俺だが、さすがに今の放送は気になって、指示の通りデッキに行くことにした。部屋を出て歩いてみると、俺が想像していたより揺れは酷くなかった。ふーん、これならしっかり注意してれば、部屋から出ても大丈夫だったかもな。少し歩き、曲がり角に差し掛かった時だ。コツン、と誰かにぶつかってしまう。
「いって」
「あ、ごめん………えっと、坂柳君だよね?」
そこに居たのは、確かBクラスのリーダーを務める女子で、一ノ瀬、という名前だったかな。ロングヘアでスタイルの良い美少女だ。しかし、何か有栖を見ているせいだろうか。美少女に対する耐性みたいなものがついてしまっている気がしてならない。
「そっちは、一ノ瀬さんだよね?ごめん、よそ見してて」
「こっちこそ、よそ見しててごめんね」
お互い立ち上がって、目を合わせる。
「一ノ瀬さんも、外の景色を見に?」
「そうそう、坂柳君も?」
「ああ、とても意義のある景色らしいから」
「だったらさ、一緒に見に行かない?」
何というコミュ力………俺にはまねできないな。
「いいよ」
しかし、断る理由もなく一緒に行くことにした。
意義のある景色ね………恐らく、この後にやるであろう試験に関係しているのかもね。
そう思って、デッキに出た時。
「おい邪魔だ、退けよ不良品共。」
「てめぇ何しやがる!」
見覚えのある生徒、もとい同じAクラスの生徒数名が他クラスの生徒と数名少し揉めていた。
「お前らもこの学校の仕組みは理解してるだろ。ここは実力主義だ。Dクラスに人権なんて無い。不良品は不良品らしく大人しくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ。」
先程威嚇をしていた赤髪の男子が悔しそうに引き下がる。あいつは確か須藤だったか。聞いてた情報より大分おとなしい気がした。流石に言い返せないのか、それとも成長しているのかは分からないが、この人目に付く場所でこれ以上は不味いだろう。Dクラス側は追い出されるように船首から離れていく。
「一ノ瀬さんさ、先に行ってていいよ」
「え?」
俺は、もめている一団に近づく。
「随分な言いようだね………こんな人目につく場所でさ。君は一体何様なのかな?」
「ウッ………坂柳………」
俺を見た瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をするクラスメイト。
「森重君、竹本君………君の行き過ぎた発言は、Aクラスの品位を落とす行為だ。プライドを持つ行為は良いことだけど、行き過ぎた発言には感心しない………謝罪したほうがいい」
少し、有栖を意識した笑いながらでも、目で威嚇するというのをしてみる。効果はてきめんで、顔を青くした森重君たちは立ち去ろうとしていたDクラスのほうを向く。
「………………悪かったな」
そう一言言い残して、逃げるように去っていく森重君達。あれであれだけビビるとは、どうやら有栖のことがよっぽど怖いらしい。困惑と驚愕の感情が混ぜこぜになっているDクラスの面々に改めて挨拶しておく………。
「初めまして、俺はAクラスの坂柳流都だ。クラスメイトが失礼をした。すまなかったよ」
「お、おう。別にいいんだ」
「意外だな、お前みたいなやつもいるんだな」
「まあね、みんながみんなあんな愚か者だったら今頃Aクラスではなくなっているって」
「お、おう」
何故か少し距離を取られたが、気にしない。このまましゃべっていようと思ったが、一ノ瀬を待たせているのを思い出し、退散することにする。
「あ、ごめん、人を待たせているんだ」
「そ、そうか。じゃ、じゃあな」
そう言って、去っていくDクラスの面々。あれ、なんかしたかな?
「やっときた、どこに行ってたの?」
「少し、クラスメイトを見かけてね、それよりどうかな?意義のある景色とやらは?」
「うーん。さっきから、島を回ってばっかりなんだよね」
「へー、島をねー。………でもさっきの放送から推察するに景色をただ見せるだけではない。しかし他に考えられそうな理由はないな。となると………ただ観光のためではない、何かしらの試験がこれから行われるといったところかな」
「おおー、この学校ならあり得なくもないね!と言うことはこの景色はその試験を優位に進めるためのものってことかな?」
「恐らくだけど………。この景色はしっかりと記憶しておく方がいいだろうな」
これが本当なのかはまだ分からない。しかし、この学校の今までのことを考えればあり得なくはない話だ。とりあえずこの景色を覚えておこう。
「でも、凄いな~。私、全然気が付かなかったよ!!!」
「たまたまだよ」
「え~、そうかな~」
そんなことを言いながら、しばらくの間二人で船から見える景色を眺めていると、船内にアナウンスが鳴った。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』
アナウンスが鳴り終わると、周りにいた生徒たちも、各々の部屋へ戻るために移動をし始めた。
俺もそこで一ノ瀬と別れて、いったん部屋に戻る。
道中で姉さんに遭遇した。
「ルツ」
「………姉さん」
「ついてきなさい」
有無を言わさずに、言われて仕方なくついていく。
たどり着いたのは、有栖の部屋の中だった。
「ルツ、さっきの放送の意味気づきましたか?」
有栖は授業をしている教師のように質問をしてくる。その様子から有栖はすでに気づいていたのだろう。
俺はさっき一ノ瀬に言ったことを説明する。
「正解です♪」
有栖はいつものように不敵に笑い始めた。この笑い方をするときには大抵いいことは起きない。
「楽しそうだな」
「そうですね。ルツには今回してほしいことがあります。もちろんやってくれますよね?」
「………拒否権は?」
「姉の命令は絶対です♪」
最高に可愛い笑顔で、即答で否定された。
「ルツ、他の皆さんにはもう伝えてあるのですが、私は今回無人島での生活には参加しません。」
これは予想していた為、それ程驚かなかった。だが、もちろん話はこれで終わりではないらしい。
「ですが逆にこれは好都合です」
「好都合、ね」
「今回の試験で、葛城くんの勢力を削ろうかと思います。恐らく彼は、私の派閥の者を警戒して思うように動けないでしょうから、そこを利用します」
「………………」
全力で、葛城君に逃げろと叫びたい。
「彼が自滅するようなら、それでいいのですが、そうでないならあなたが彼を潰してください」
「………………」
「随分いやそうですね」
「彼が自滅すれば、いいんだよな?」
「ええ」
「分かった善処はする………」
葛城君・・・逃げろ~