魔剣使いの直感回避《ストライクビジョン》   作:綴るッ!

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亜鐘学園男子寮。

五年ほど前に建設された、近代的な設備を整えた寮である。家具は揃ってるし、ネットワーク環境も当然のように完備。孤児院で育った武としては、何とも夢のような環境である。そもそも個室があるという時点で感動できる。

 

そんな至れり尽くせりな学校に来たのは、何も孤児院から早く出たかったからとかそういうわけではない。前世での魔法も少しは使えたから、別にこの学校に来なくても食うには困らなかっただろう。だが武には、目標があったのだ。自分の大切な人達、即ちくるみと六を見つけるという目標が。そして彼女達が自分と同じように前世の記憶を持っているとするなら、ここに集まるだろう。その考えに至った途端、武はすぐさま入学の話に飛び付いた。

 

 

 

****

 

 

 

二日目にして早速、本格的な授業が始まる。

午前中は座学。《救世主》としての知識の授業だけでなく、普通の高校と同様の科目も履修する。但し英語だけは白騎士機関の公用語であるため、他の学校よりも重視される。その結果、それなりに英語が出来る者であれば一ヶ月程度で日常会話を行えるレベルになる。端的に言うと物凄いスパルタだ。

 

そして昼休憩を挟み、遂に実技の授業となる。

(やっと、永遠(とわ)に会えるな)

認識標(IDタグ)をトワイライトに変化させるには、当然、魔力を注ぎ込まなければならない。だが校則として、それを校外で許可なく使用できないのだ。だから武は、早く呼び出したくてうずうずしていた。

 

「えー、午前の授業で教えた通り……」

 

武道館の結界に少し驚くも、いつか再現してみるかと計画を立てながら田中の話を聞き流し、遂に《白鉄(しろがね)》の実技が始まる。

 

「ほぁぁぁぁぁぁぁ」

 

むしろ滑稽に思える掛け声をかけ、田中は全身に鈍い色の光を纏った。それは鉄を思わせる色をしている。しかしそれを見た武は、興奮より先に違和感を覚える。田中が手加減をしているように見えてならないのだ。

(……まあ、生徒相手に本気は出さないってことか?)

その後も田中の「やり方は知っているはずだ」という発言を受け、「ぐのぉぉぉ」とか「ふのぉぉぉぉ」とか騒ぐ生徒達を横目に、武は一人、()()()()()()()()()()()()()()()()()ソレを展開していた。

 

「『フロート』、『プロテクション』、『リインフォース』、『コンセントレイション』――『ドライブ』!」

 

『フロート』により浮き上がり、両手の手のひらにそれぞれ『ドライブ』を構築。三つの魔法の混合魔法を重ね掛けする。突然《光技》とも《闇術》とも違う《源祖の業(アンセンタスアーツ)》を使い出した武に、武道館の生徒達は暫時は息をするのも忘れていた。規則正しく組まれた魔法陣はまさに芸術。纏う魔力はラベンダー色に美しく照り輝く。

しかし自重を忘れてしまった武は止まらない。

 

IDタグを使うよりも、久しぶりの魔法を優先したせいだろうか。

 

「『アルタレイション:ソード』――《直感回避(ストライクビジョン)》!」

 

基本魔法、『アルタレイション』によって片手剣を作り出し、仮の『化身(アスペクト)』とする。そして自信の系統魔法、《直感回避》によって未来を覗き込み―――

 

「……あっ」

 

自分がやらかした事を悟った。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

武は校長室に呼ばれていた。それもそうだろう。周りの状況を見るに、白鉄でも黒魔でも無い武の魔法(ちから)は貴重な物なのだろうから。

 

「……つまり、君の前世はあなたが使ったと言う源祖の業(アンセンタルアーツ)が一般的なものだったという事ね」

「ええ。全ての人間が使える訳では無く、その存在を知らない人間も多い……いえ、知らない人間の方が多いですけどね」

「……では、その世界であなたはどの程度の力量で、どの程度の地位に居たの?」

「……答える義務はあるのでしょうか?」

「……無いわね。私にその権利は無い」

 

校長─確か四門万里と言っただろうか─はその言葉に諦めたのか、フッと息を吐き空気を弛緩させる。しかしその空気に釣られるような甘さはとうに捨ててしまっていた。相手に警戒させない程度に、或いは気づかせぬように緊張を保つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なら私は校長として、貴方の源祖の業の詳細の開示を求めます。そうしないと先生方もどう教えれば良いのか分からないしね」

「そういうことであれば」

 

そうして武は話を始める。かつて、世界を二つに分かつ原因となったその魔法を。万物を消し去る禁忌の魔法を。或いは未来を覗き見る人ならざるその魔法(ちから)を。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

「俺がいた世界では、約25歳までなら全ての人間が魔法使いになる事が可能です。魔法はある程度系統化され、一部の魔法は魔法使いなら誰でも使用できる物でした。

神速、暗黒、破壊、回避、生物の五系統に、基本魔法と特異魔法を合わせた七種が、俺達の魔法です。そして俺の系統は回避魔法【直感回避(ストライクビジョン)】と暗黒魔法【消滅魔法(レクイエム)】です」

「【直感回避】はともかく、【消滅魔法】とは穏やかじゃないわね」

 

校長が興味と警戒を覗かせて武をまじまじと見る。がっつり目を合わせる形になるが、生憎と武はそれで慌てたり居心地の悪さを感じるような可愛い性格はしていない。結果として、先に目を逸らしたのは校長であった。

 

「【直感回避】は、数秒先の未来を高い精度で予測する魔法です。習熟していく事によって幾つかバリエーションは増えますが、基本的に未来を見るだけだと思って頂ければ結構です。とはいえ未来の事ですから、確定した事象は存在せず、覗いた未来は変更されることもありますがね」

 

【ナイトメア】のことには触れず、隠し事など何も無いといった体で話を進める武。

 

「そして【消滅魔法】ですが、そもそも暗黒魔法というのは空間に作用する魔法です。通常、暗黒魔法使いは、空間と空間を繋ぐ扉を作り出し、それを介して遠くに対象を移動させます。これにも幾つかバリエーションはありますが、今は関係ないので割愛します。

そして俺の【消滅魔法】は、暗黒魔法特有の扉を介さず対象を直接転移させる物です。当てさえすれば、どんな物であろうと瞬時に消し飛ばします」

 

感情が限界まで排された声で、武はそう告げる。その、罪悪の塊である力を。幾重にも重ねて来た禁忌の重さを、今一度考えながら。

 

「……なるほど、分かったわ。思ったよりマシな力のようね」

「マシ、ですか?」

「ええ。対象を燃やし尽くすまで消えない炎とか、大地を呑み込むブラックホールとかじゃ無いのよね。なら何とかなるもの」

「……そんなものを使う奴らがいると?」

「ほとんど居ないけどね」

 

ほとんど居ないなら、少しは居るという事だ。

 

とんでもない世界に来てしまったと、武は憂鬱になった。




英語が優先的に教えられるとかは独自設定です。
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