あーあ、空を飛べたらこんなイライラすることもないんだ。鳥を見るといつも目で追ってしまう。だって空さえ飛べれば駆け足で勝敗を決することなんてないから。オレだって考えるだけ無駄だってわかってる。
オレの顔を見てはアランに「足が遅いのは筋肉をつけすぎてるからだ」とか言われる。
ムカつくが間違ってるわけでも正しいとも思わない。ただあの片腕の男だけには言われたくない。筋肉がないよりもあった方がいいに決まってる。体を動かすのが好きだっていうのもあるけど、この村ってやることが村の人たちの手伝いぐらいしかないから、とにかく暇で暇でしょうがない。そんな静かで穏やかな集落にオレたちは住んでいる。
オレはアランと世話好きな女の子のローザと三人で暮らしている。隙間風が吹き抜ける小屋で三人で暮らすには狭く感じるが、湿気嫌いなオレにとっては好都合だ。
ローザはこの村の儀式で左目を失明している。アランも同じ理由で右腕を失った。ローザは明るい女の子で白い眼帯がトレードマーク。いつも気丈に振る舞っているが、面倒くさがりなアランとよく口喧嘩している。当然オレはローザの味方だ。晩飯を抜きにされたくないからね!
「サンちゃん、またアランがサボってる」
いつものことだ。ローザは畑仕事を手伝おうとしないアランの手を引っ張っている。細い腕、小さな体ではいくら片腕といってもアスパラみたいな貧弱な体型のアランを引き摺り倒すのは無理だ。
「畑仕事は畑違いだっつうの!俺には俺に合った仕事があるんだよ!」
アランは木箱の上で仰向けになって右肘を撫でる。古傷が痛む、じゃないけど気になるみたいだ。
オレは声が出せないから身振り手振りで気持ちを伝える。
鍬を担いで空いてる手を腰に当てる。目に力を込める。
これで、
『さぼるな!』
を表現する。
「全然伝わってないよ……サンちゃんもふざけないで」
ローザの声が高い音から低い音になった。これは警告だ。実力行使でしかこの状況を変える手段はないようだ。
とりあえずアランに向かって頭の大きさぐらいの石を投げる。木箱に当てれば跳び跳ねて起きるはず。
「――うわぁ!?な、なんだぁ!?」
アランが木箱から落ちた。オレは作業を続けてローザの機嫌を取る。
「サンガ、てめぇだろ!俺の日光浴を邪魔したのは!」
何が日光浴だ。お前は植物よりも役に立ってもない、ただの置物だろ。
「文句ばかり言ってないで早く手伝ってよ!これじゃまた村長さんに怒られて、お金減らされちゃうよ?アランがそれでもいいって言うならアタシもう知らない」
「あーはいはい。ジジイたちにこき使われて幸せだっつうなら勝手にやってれば」
アランはローザの忠告を無視して逃げた。馬鹿な奴。村長たちの言いつけさえ守れば生活に困ることなんてないのに。
「サンちゃんはもっとアランに厳しくしてもいいんだよ。アタシのことなんて子供だとしか思ってないから……」
オレはまだ甘かったようだ。あの男は未だ反抗期の中にいるらしい。力づくでアランを連れ戻すこともできる。でも片腕の男を黙らせるのは気が引けるし、それになぜオレがお目付け役に徹しなければならないのか。あんな不良人間、言うだけ無駄だと思う。
「わかってる。でもサンちゃんにしか頼めないの」
オレがため息をついたのを見て気持ちが伝わったようだ。
村長にバレれば怒られるのはアランだけじゃない。オレたちも巻き添えを食らうはめになる。オレはいくら怒られても口答えできないから、村長の説教も長くはならない。けどその分怒りの矛先がローザに向かってしまう。気の毒だが、こればかりはどうしようもない。
オレが今やるべきことは仕事を終わらせることだ。日が暮れる前にこの地味で面白味の欠片もない農作業を完了させよう。
「そうだよね。アランがいなくてもアタシたちがやれば村長さんも許してくれる。うん、きっと大丈夫」
単なる独り言だと思う。けどアランの為に労力を消費するなんて正直納得いかない。誰だって生きる為に働いているんだ。
オレよりローザの方がアランに対して甘いような気がする。
「――はぁ、やっと終わった」
二人でやるにはかなり根気のいる作業だった。地主は特殊な機械で耕作を行うが、オレたちは手作業だ。相当な労力を求められる。それなのにあの男はヘソをまげてふらふらと出歩いていってしまった。いつものことだけど、時には体罰も必要なのかもしれない。
「それじゃあ、村長さんに報告に行こ?」
ローザはタオルを手渡してきた。感謝の言葉を言いたいが、声が出せないので親指と人差し指をくっつけて『6』をつくる。そして逆さにする。これで――
「サンちゃんと『9』でサンキューだね!」
わかりやすいだろ?