フレッジリングス ~閃空のサンガ~   作:公私混同侍

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辺境の長老

村長の家はオレたちが住んでいる小屋と外観は同じだ。というか村には木材の家しかない。外から見たら村長の家だと思う人間はいないだろう。村長が贅沢な暮らしを嫌っているというのもあるが、建て替えるのが面倒臭いというのが本音だ。

建て替えるということは仮住まいに移るということだし、引っ越しだってそう簡単にできるものじゃないし、年老いた体にムチを打つようなもの。こう言えば何となくわかるだろ?

 

「村長さん、こんばんは。本日のお勤めご苦労様です」

 

「よしてくれ。ノスロの片田舎の村長などただの飾りに過ぎんよ」

 

毎回同じようなやり取りをしている。よく飽きないものだ。声を出せないオレには関係のない話だが――村長はこのノスロ王国の君主と親戚関係にある。どのような経緯でこんな辺境な土地の村長に成り下がったのか、本人が話したがらないから村人たちも無関心を装っているんだ。

ノスロ王国は島国であり、オレたちもまたこの国で生まれた。両親の記憶はないが、オレたちが頼れるのは村長夫婦だけだ。

 

「お仕事の報告に参りました……えっと、作業は滞りなく無事に終了しました」

 

オレとローザのお陰でな。

 

「はあ、全くワシの孫は相変わらず遊び呆けておるようじゃの」

 

ああ。あんたの孫の頭の中はお花畑だ。爺さんの脳裏に焼きつけるぐらい強く念じてやる!

 

「サンちゃん!頷いちゃダメだよ!アランは急な用事ができたって言ってたんだよね!?」

 

「ワシの前では嘘はつけん。ローザがアランを庇いたくなる気持ちは痛いほど理解しておる。一方サンガの心は憤懣やるかたなしといったところか」

 

やっぱり嘘を見抜いた。この爺さんは人の心を読む力がある。根拠はたぶんオレにしかわからない。

 

「ムッホッホ、サンガよ。鬱憤を溜め込んでおけば体に毒じゃ。ワシの前で吐き出してしまえば楽になる」

 

それじゃお言葉に甘えて、

 

『依頼された作業はオレとローザがこなしたぞ。アランは協力することなくその場を立ち去り、地主の信頼を裏切った。アランの行いをこれ以上見過ごすことはオレにはできない。村長からガツンと言えばアイツの為にもなると思う』

 

「表裏のない表情とは裏腹に長舌じゃのう。おっと、感心している場合ではなかった。サンガの不満は深刻じゃ。ローザ以上かもしれん」

 

『それと賃金の支払いは折半で』

 

「ムッホッホ、サンガはお金に関しては抜け目がないのう」

 

「また二人だけで会話してるんですか?アタシにも教えて下さい!」

 

「まあまあ、それよりアランに会ったら連れてきてもらえんか?ワシからも伝えねばならんことがあるのじゃ」

 

『それは力づくでも連れてこいという意味なのか?』

 

「受け取り方はサンガに任せる」

 

「んーもう!少し教えてくれたっていいじゃないですか!」

 

「あとでサンガに聞くのじゃな。ムッホッホ」

 

よし、実力行使の許可は得た。あとはヤツを見つけてひっぱたいてやる。殴るとローザが泣くから、平手打ちで勘弁してやるぞ。待ってろよ、アラン!

 

「サンちゃん、恐いよ……」

 

外はもう夜か。なら小屋に帰ってるかもしれないな。

 

「ご飯の用意しないと。アランもお腹空かせてるかもしれないね」

 

村長の家からオレたちの住む小屋までは徒歩でだいたい三十分ぐらい。ここでローザを歩かせてしまうと晩御飯のランクが下がる。カレーがかかっている米が普通の白米から無洗米に変わるほどだ。だからオレがおんぶするのが日課になっている。

アランがおぶればいいんじゃないかって?忘れたのか?あの男は片腕しかない。荷が重すぎる。いや、体重の話じゃない。

 

「サンちゃん、嫌ならいつでも下ろしていいからね」

 

この隻眼の姫様は暗闇からオレの表情を読み取ったらしい。嫌なことは表に出さないように意識していたつもりだが、やはり女という生き物は地球上で一番危険な生き物なのかもしれない……と、たまに考える。

 

「ヨレヨレの服の上からだとわかんなかったけど、サンちゃんの体って凄いゴツゴツしてる。フフッ、脱いだらもっと凄いんだね!」

 

何がそんな嬉しくて声の音色が変わるんだ?そんな簡単に態度が変わるのか?数秒前とは大違いだ。

当然、オレだって好きでこうなったわけじゃない。ただ暇潰しに体を動かしていたら、腹筋が割れ始めていたというだけだ。

 

「アランなんかサンちゃんと同じ身長なのに、木の枝みたいにヒョロヒョロなのは何でかな?」

 

仕事をサボるからだろ。片腕しかないからって手作業を敬遠するなんて、きっとあの男の心の中でくだらないプライドが邪魔をしているのだろう。

オレだってアランの気持ちは少しぐらいなら理解できる。片腕を出して仕事をすれば、やる気がないと思われたり、周りに余計な気を使わせたりするのが耐えられないんだ。

 

「晩ご飯はアランの好きなビーフシチューとアタシの好きなポトフ、どっちにしようかな。サンちゃん、ビーフシチューがいいなら首を縦に振って――」

 

今日はオレの日じゃないようだ。

選択肢がある場合、手を上げて選べばすむ。けど今はローザをおぶっているから両手が塞がっている。こんな時、首を縦か横に振ることで意志の疎通を図るのがこの村の約束になっている。もちろん三人だけの決まりもある。

オレの様な存在が生まれる前からあったルールだ。耳が聞こえない人間の為に予め作られていたと村長から聞いた覚えがある。

と、他愛のない話をしていたら我が家についてしまった。見慣れた道ばっかり歩いていたから、多少うんざりしていた。

皮肉なことに、今宵はアランがいなかったお陰でストレスがいつになく減っていたんだ。

 

……ついでに腹も減った。

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