午前中にひと仕事を終えた。三日に一回は依頼される簡単な仕事だ。隣の村まで食材や衣類、雑貨を届けるだけの女子供でもできる仕事。
運搬車を人力で引く方が重労働と言われるが、回数をこなしていけば意外になんとかなる。体が慣れればどうということはない。
力自慢しか取り柄のない武骨な人間が淡々と働いていると給料泥棒だと陰口を叩く奴は当然のように存在する。やっかみだ。だいたいそんな嫉妬を口にする奴に限って、職業に貴賤を抱いているんだ。楽に稼げるなら誰だって稼ぎたいと思うはず。
「こ、こんにちは!」
すっかり忘れていた。エルドがいたことを。『グラスマン先生』と似た名前だからオレは心の中でエルドと呼んでいる。
「サンガさん、何かお手伝いできることはありますか?」
ひねくれもののアランと違って素直で礼儀正しい少年だ。まだまだ子供だが、『グラスマン先生』の息子とあって真面目で純粋な心を持っている。
「昨日の夜、父上にサンガさんを訪ねなさいと言われて……じゃない、お、仰られて……合ってますよね?」
緊張しているようだが、オレの表情に問題があるような気がしなくもない。エルドの顔も強張っている。父の背中を見ているからか背伸びをしているんだ。
よし、少しからかってやろう!
「はい?何ですか?『ういおああ、おいえうえ』?……え~と……」
クックッ、悩んでる悩んでる。オレが口だけを動かして何を伝えようとしたのか真剣に考えている。オレの為に読唇術を勉強していると耳にしていたが、お手並み拝見といこう。
「わ、わかりました!『後ろから、押してくれ』です!運搬車を押せってことですね?」
うんうん。
「初めてサンガさんとお話できた気がします。これからももっと頑張って勉強します」
確かに口を動かして会話をしたのはエルドが初めてかもしれない。心を読む村長を除けばローザとアランとも筆談や身振り手振り以外ではまともに話すこともままならない。うーん、なんとも新鮮な気持ちだ。
「――あっ!」
うん?ポケットをまさぐり出した。リング状の機械みたいだ。
「父上から日頃の感謝の気持ちにこれを渡してくれと頼まれました」
なるほど。律儀な人だ。だけど、これは一体何に使うんだ?そういえばどこかで似たようなモノを見たような……。
「サンガさんの仕事を手助けする機器だと父上は仰っていたんですが……僕にも何のことかわからなくて」
円の大きさはオレの首の太さと同じくらいか?スイッチみたいなものがついてるな――おっ、開いた!これを首に巻けば傷口を隠せるし、ファッションの一部にもなるぞ。
「首輪みたいですね」
犬みたいに言われてしまった。まあいい。
それにしても「オレの仕事の手助け」に役立つみたいだけど、どうすればいいんだ?この大量の荷物を一瞬に運べるとか?まさかな……。
「サ、サンガさん!?」
どうした?そんな顔を真っ青にして。なんだ?エルドがどんどん縮んでいくような……違う!オレが浮いてる!?
「あわわわ!?」
ぬわぁぁぁっ!?どうなってるんだぁぁぁっ!?!?
「だ、誰か呼ばなくちゃ……ああっ!!」
運搬車ごと宙を浮いてるのか?あれ?村ってこんなちっぽけなのか。
と思ったら今度は地面が近づいてくる。なんか落ちてるような……。
「サンガさーん!!」
エルドの声が小さくなる。
激突する。
もうダメだ……オレは……死ぬ?
……。
…………。
………………。
「大丈夫?荷物がメチャクチャだけど、何があったの?」
この声はローザ……か?体のふしぶしが痛む。頭も打ったみたいだ。目がチカチカする。そこにいるのは……女?男?誰だ?
オレはどうなっているんだ?まだ仕事が残っているんだ。こんなとこでへばるわけには……。
「君怪我してるんでしょ?今、お医者さん呼んでくるからそこで座ってて」
そうか。オレは怪我をしてるのか。しょうがない。荷物も台無しにしてしまった。いっそのこと眠っていた方がいいかもしれない。どうせ後でこっぴどく怒られんだ。目を瞑って時間を経つのを待てば客の怒りも収まっているはず。なかなかオレも悪どいことを考えるもんだな。
ということでオレは眠ることにする。