「ん…う…」
夜風の音と冷たさでカナタは目を覚ました。目に見える景色はとめどなく流れていく。どうやら飛んでいるようだ、とカナタは把握する。
「起きたか、少年。」
上からしわがれた声がした。視線を声のした方へ向けるの、鋭い目をした老人がカナタを抱えていた。
「突然のことで困惑しておるかもしれぬが、落ち着いて聞いて欲しい。」
と、老人…ゴエモンは一呼吸おいて、
「ここはお主のいた国ではない。」
「ここ…クロウ帝国…ですか?」
「!もう見抜いたのか…?」
カナタの指摘にゴエモンは目を見張る。
「この和風な建物はクロウ帝国特有ですから。…でもなんで僕がここに…?」
ゴエモンはその問いには答えず、自分の住む庵に降り立つ。
「ここは儂の家だ。しばらくはここで暮らしてもらう。」
「暮らしてもらうって…僕は貴方を知らないんですよ?質問にも答えてもらってないし…」
「その辺りも含めて中で話そう。」
カナタは少しばかりの警戒心と共に、ゴエモンの家に入って行った。
──ゴエモンの家──
ゴエモンの家の中は質素な造りとなっていた。モノが少なく、いつここを離れても大丈夫なくらいに。
「座れ。」
「あ、はい…」
ゴエモンに催促され、座布団に二人、向かい合うように座る。
「自己紹介が遅れたな。儂は鴉神ゴエモン。」
「!"神,,…?」
「ああ。やはり賢いな。名字で儂がどういった存在か、ある程度察するか。それに、違和感にも気づくとは。」
ゴエモンは感嘆の声を漏らす。
「だって、今のクロウ帝国の王様って…」
「左様。今のクロウ帝国の当主は鴉神サクヤ殿である。」
「ですよね。じゃあ…?」
「儂は特別に、鴉神を名乗ることを許されておる。」
ゴエモンは翼を一度バサリとはためかせ、
「儂の翼がお主同様、特別だからだ。」
「…?僕と、同じ…?」
カナタはふと、自分の枯れ木のような、はためきもしない翼を見る。ゴエモンの立派な烏の翼に比べると、月とスッポンだと思い、不思議がるカナタ。それを見たゴエモンは、
「…まさか、お主、自分の翼が何なのか、理解しておらぬのか…?」
ゴエモンはまさかと思いつつ問う。するとカナタは、
「は、はい…」
と、躊躇いがちに頷いた。ゴエモンは一つため息をつく。
「…鷹神め。甘いにも程があろう…」
と小さく呟き、
「落ち着いて聞くがいい、少年。」
「あ、カナタです。」
「…む?」
ゴエモンは一瞬、何のことか分からなかったが、すぐにカナタが自己紹介したのだと思い至り、笑った。
「カナタか、佳い名だな。」
本当はゴエモンはカナタのことを知っていた。だが、それでもゴエモンはカナタのことを"少年,,と呼ぶつもりだった。
「はい。父さんと母さんがつけてくれた名前です。今は、外国のどちらかで仕事中ですけど、いつか帰ってくるって信じてます。」
「…!カナタよ、お主の名字は…」
「あ…飛ぶに崎で、飛崎って言うんですけど、本来は鳶地って名字だったらしいんですけど…」
カナタがそこまで言うと、
「!鳶地とな!?まさか、お主の父は…」
「僕の父さんですか?父さんの名前は…シロウ!鳶地シロウって言います。」
瞬間、ゴエモンの目が見開いた。
「鳶地シロウ…やはりあの時の…」
その言葉に、今度はカナタが反応した。
「父さんを知ってるんですか!?今、どこに!?母さんは!?」
「お、落ち着け!儂も今気付いたばかりなのだ!それに、儂とあの男は先の戦乱の折に手合わせしただけなのだ!」
「!そ、そうですか…」
ゴエモンの言葉に、手がかりを期待していたカナタはしゅんとする。
「…僕、生まれた時から1度も父さんと母さんの顔を見た事がないんです。」
「!な…それは、真か?」
「はい。あ、写真で顔は分かってますけど、会ったことがないお金はあ幸いお金は送られてくるので、生活に困ることはないんですけど、手紙も何もないんです。周りの人は、死んだとか、
ゴエモンは絶句した。この子は、親を知らないのだと。ゴエモンにもその昔、親がいた。もちろん今はもう墓の中で永遠の眠りについているが、愛してもらった記憶は確かにゴエモンの中で息づいている。しかし、カナタにはそれがない。カナタの身の上を聞いて、ゴエモンの心は決まった。
「…カナタよ。…空を飛びたいとは、思わぬか?」
その日、カナタは運命に攫われた。