「カナタよ…空を飛びたいとは思わぬか?」
それは、カナタの生まれてからずっと持っていた願い、望みであった。
「…勿論です。…でも…」
カナタは自分の翼を見る。どんなに空を飛びたいと、この世界の人間ならば誰しもが出来ることを願っても、ピクリとも動くことの無い枯れ木のような翼を。
「お主の翼は本来は鳶で間違いなかろう。しかし恐らく、その翼は焼け落ちてしまったのであろう。」
ゴエモンの言葉に、首を傾げるカナタ。
「焼け落ちる…?斬られたのでは無く…?」
「ああ。儂はお主の中にいる鳥が何なのか知っておる。」
「僕の、中に…?」
カナタは胸に手を当て、その手をにぎりしめる。
「左様。三厄鳥という言葉に聞き覚えは?」
ゴエモンの問いに、カナタは戸惑うことなく、
「はい。三つ足の
「うむ。その三厄鳥が宿主を乗っ取った時、災いが起きるという。」
カナタは何故今厄鳥の話が出てくるのか分からなかった。
「お主の父、鳶地シロウが伝えなかったのであろうな…しかし、お主が飛びたいと真に望むのならば、知っておかねばなるまい。…覚悟はよいか?」
ゴエモンの射抜くような視線に晒されるカナタ。恐怖で一瞬たじろぐも、すぐに立ち直り、
「…はい。たとえ僕の中にどんな鳥が宿っていても、僕は飛ぶことを望みます。」
真っ直ぐ、ゴエモンを見つめ返した。
「…ふ。お主ならばそう言うと思っていた。では、心して聞くが良い。お主の中にいる鳥は────」
カナタは息を呑む。
「
「っ…!
ある程度ヒントはあった。燃え尽きた翼。ネスト王国の皆が
「ああ…だから大人は僕を…」
ネスト王国の大人達がカナタに向けていた態度。
「カナタよ、大丈夫か?」
「─ええ。はい。大丈夫です。でも、僕の中にいるのが
カナタの言葉をゴエモンは遮り、
「分かっておる。飛ぶ為の修行はつけてやる。」
「…!」
ゴエモンの苦笑にカナタは目を輝かせる。
「ただし、かなり危険だ。」
「構いません。飛ぶ為なら!」
そこからは早かった。二人がやってきたのは、かなりの標高を誇る山。その頂上。
「…あの、ゴエモンさん…」
「なんだ?怖いか?」
「…そりゃ怖いですよ!いきなり────」
「ほっと。」
ゴエモンはカナタの話も聞かず、ドン、と押した。
「たっ!?にぃぃぃぃぃっ!」
「上がってこい。
吹き荒ぶ風。あまり想定していなかったこともあり、薄着だったのが不味かった。手足の感覚が失せていく。
「死ぬ!このまま地面に激突でもしたら…!」
もう、寸前まで死が近づいてきていた。もう終わりだと思って、目を閉じた。その瞬間、地に足がついた。
「…え…?」
驚いたカナタは目を開け、さらに驚愕する。見渡す限り何も無い空間。晴れた空に、自分と空を写す水面。我々の世界で言う、ウユニ塩湖のような世界。その中心に、カナタは立っていた。
「ここは…」
カナタがあたりを探ろうと一歩を踏み出したその瞬間、ガシャンッ!と音がした。それも、頭上から。
「…?アレは…」
空の真ん中で揺れる、ひとつの鳥籠。そこから時折炎が出たり、鳥のくちばしが見えた。
「!アレが…でも、空じゃ…」
籠の中を見たいと思ったカナタだが、彼は飛べない。しかし。
「…!?浮いてる…!」
カナタの体はふわりと浮いた。そして、蜘蛛の糸に引っ張りあげられるカンダタのように、カナタは鳥籠の元へたどり着く。
「…貴方が…
カナタが声をかけると、ガツン!とくちばしで籠をつついていた動きが止まり、
「…よぉ、誰かと思えば宿主じゃねぇか。こんなつまんねぇ
熱の厄鳥はフランクに、カナタを嘲笑った。
さぁ、ここから2人の物語は始まる。
少年は彼方へ羽ばたく為。
厄鳥は誓いを果たす為。
死なない命をかける。
その日、少年は運命と出会う。