飛べない少年と飛べる世界   作:紡ぎ手@異人

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第八話「飛べない少年の望み」

「カナタよ…空を飛びたいとは思わぬか?」

それは、カナタの生まれてからずっと持っていた願い、望みであった。

「…勿論です。…でも…」

カナタは自分の翼を見る。どんなに空を飛びたいと、この世界の人間ならば誰しもが出来ることを願っても、ピクリとも動くことの無い枯れ木のような翼を。

「お主の翼は本来は鳶で間違いなかろう。しかし恐らく、その翼は焼け落ちてしまったのであろう。」

ゴエモンの言葉に、首を傾げるカナタ。

「焼け落ちる…?斬られたのでは無く…?」

「ああ。儂はお主の中にいる鳥が何なのか知っておる。」

「僕の、中に…?」

カナタは胸に手を当て、その手をにぎりしめる。

「左様。三厄鳥という言葉に聞き覚えは?」

ゴエモンの問いに、カナタは戸惑うことなく、

「はい。三つ足の八咫烏(ヤタガラス)に、隼速のホルス、そして、炎翼の不死鳥(フェニックス)…ですよね?」

「うむ。その三厄鳥が宿主を乗っ取った時、災いが起きるという。」

カナタは何故今厄鳥の話が出てくるのか分からなかった。

「お主の父、鳶地シロウが伝えなかったのであろうな…しかし、お主が飛びたいと真に望むのならば、知っておかねばなるまい。…覚悟はよいか?」

ゴエモンの射抜くような視線に晒されるカナタ。恐怖で一瞬たじろぐも、すぐに立ち直り、

「…はい。たとえ僕の中にどんな鳥が宿っていても、僕は飛ぶことを望みます。」

真っ直ぐ、ゴエモンを見つめ返した。

「…ふ。お主ならばそう言うと思っていた。では、心して聞くが良い。お主の中にいる鳥は────」

カナタは息を呑む。

不死鳥(フェニックス)だ。」

「っ…!不死鳥(フェニックス)…」

ある程度ヒントはあった。燃え尽きた翼。ネスト王国の皆が不死鳥(フェニックス)を憎んでいたこと。そして────

「ああ…だから大人は僕を…」

ネスト王国の大人達がカナタに向けていた態度。

「カナタよ、大丈夫か?」

「─ええ。はい。大丈夫です。でも、僕の中にいるのが不死鳥(フェニックス)だとわかった所で…」

カナタの言葉をゴエモンは遮り、

「分かっておる。飛ぶ為の修行はつけてやる。」

「…!」

ゴエモンの苦笑にカナタは目を輝かせる。

「ただし、かなり危険だ。」

「構いません。飛ぶ為なら!」

そこからは早かった。二人がやってきたのは、かなりの標高を誇る山。その頂上。

「…あの、ゴエモンさん…」

「なんだ?怖いか?」

「…そりゃ怖いですよ!いきなり────」

「ほっと。」

ゴエモンはカナタの話も聞かず、ドン、と押した。

「たっ!?にぃぃぃぃぃっ!」

「上がってこい。不死鳥(フェニックス)。」

吹き荒ぶ風。あまり想定していなかったこともあり、薄着だったのが不味かった。手足の感覚が失せていく。

「死ぬ!このまま地面に激突でもしたら…!」

もう、寸前まで死が近づいてきていた。もう終わりだと思って、目を閉じた。その瞬間、地に足がついた。

「…え…?」

驚いたカナタは目を開け、さらに驚愕する。見渡す限り何も無い空間。晴れた空に、自分と空を写す水面。我々の世界で言う、ウユニ塩湖のような世界。その中心に、カナタは立っていた。

「ここは…」

カナタがあたりを探ろうと一歩を踏み出したその瞬間、ガシャンッ!と音がした。それも、頭上から。

「…?アレは…」

空の真ん中で揺れる、ひとつの鳥籠。そこから時折炎が出たり、鳥のくちばしが見えた。

「!アレが…でも、空じゃ…」

籠の中を見たいと思ったカナタだが、彼は飛べない。しかし。

「…!?浮いてる…!」

カナタの体はふわりと浮いた。そして、蜘蛛の糸に引っ張りあげられるカンダタのように、カナタは鳥籠の元へたどり着く。

「…貴方が…不死鳥(フェニックス)…?」

カナタが声をかけると、ガツン!とくちばしで籠をつついていた動きが止まり、

「…よぉ、誰かと思えば宿主じゃねぇか。こんなつまんねぇ精神世界(アンダーワールド)抱えてる奴が何の用だ?」

熱の厄鳥はフランクに、カナタを嘲笑った。




さぁ、ここから2人の物語は始まる。
少年は彼方へ羽ばたく為。
厄鳥は誓いを果たす為。
死なない命をかける。
その日、少年は運命と出会う。
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